最高裁大法廷昭和40年4月28日刑集19巻3号270頁・刑訴百選【11版】A20事件(訴因変更命令に形成力はあるか)
1 はじめに
本判例は、訴因変更命令にはいわゆる形成力が認められるか等について判断をしたものです。
2 前提となる知識
刑訴法312条
①裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。
②裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。
3 問題の所在
刑訴法は当事者主義的訴訟構造(刑訴法256条6項、298条1項、312条1項参照)を採用していることから、訴因の設定変更は検察官の専権であるとされます。そうだとすると、訴因変更命令に形成力、すなわち、検察官の請求を待たずに裁判所が訴因変更命令をすることにより訴因変更ができるという効力を認めることはできないという結論になります。
4 判旨
「弁護人大原信一、同扇正宏の上告趣意第一点は判例違反をいうが、引用の各判例は本件に適切でないから、所論はその前提を欠き、同第二、第三点は憲法三一条違反をいう点もあるが、実質はすべて単なる法令違反の主張であって、いずれも上告適法の理由とならない。同第四点は、憲法15条、98条違反をいうが、公職選挙法252条1項の規定が憲法15条に違反しないことは、当裁判所の判例(昭和……30年2月9日大法廷判決、刑集9巻2号217頁)とするところであり、従って、また、憲法98条に違反しないことも明らかであるから右論旨は理由がなく、その余は量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当らない。
弁護人飯塚信夫、同柏木博、同長谷岳の上告趣意第一点は、憲法31条違反をいう点もあるが、実質は単なる法令違反の主張であり、その余の論旨は、事実誤認、量刑不当の主張であって、いずれも適法な上告理由に当らない。
しかしながら、職権により調査するに、被告人Aに対する関係において、第一審は、衆議院議員総選挙に立候補の決意を有するFに当選を得しめる目的でGが被告人Bほか四名に対し金3000円宛を供与した際、A被告人は、その情を知りながら右Gを案内し、受供与者に紹介し、更に受供与を勧める等その犯行を容易ならしめてこれを幇助したとして、公職選挙法221条1項1号違反の幇助罪としての起訴に対し、検察官の訴因変更がないのに、被告人Aが右Gと共謀の上、被告人Bほか四名に対し前同趣旨で現金30000円宛を供与したという共同正犯の事実を認定し、原審も、右の如き幇助犯としての起訴事実を、第一審判決の如く共同正犯と認定しても、被告人の防禦権の行使に実質的な不利益を与えるものでないから、訴因変更の手続を要しない旨判示して、第一審判決を是認している。しかし右のように共同正犯を認めるためには、幇助の訴因には含まれていない共謀の事実を新たに認定しなければならず、また法定刑も重くなる場合であるから、被告人の防禦権に影響を及ぼすことは明らかであって、当然訴因変更を要するものといわなければならない。この点に関する原審の法律判断は誤まりであるといわざるを得ない。
尤も記録によれば、第一審は、第五回公判期日において共同正犯に訴因を変更すべきことを命じ、検察官から訴因変更の請求がないのに、裁判所の命令により訴因が変更されたものとしてその後の手続を進めたことが認められる。しかし検察官が裁判所の訴因変更命令に従わないのに、裁判所の訴因変更命令により訴因が変更されたものとすることは、裁判所に直接訴因を動かす権限を認めることになり、かくては、訴因の変更を検察官の権限としている刑訴法の基本的構造に反するから、訴因変更命令に右のような効力を認めることは到底できないものといわなければならない。そうすると、裁判所から右命令を受けた検察官は訴因を変更すべきであるけれども、検察官がこれに応じないのに、共同正犯の事実を認定した一審判決は違法であって、同判決および結果に於てこれを是認した原判決はこれを破棄しなければ著しく正義に反するものと認められる。
よって刑訴法411条1号により原判決および第一審判決中被告人Aに関する部分を破棄し、同413条本文に則り本件を下妻簡易裁判所に差し戻し、同被告人を除くその余の被告人4名の上告は、同414条、396条によりこれを棄却すべきものとし、主文のとおり判決する。
この判決は、裁判官石坂修一の反対意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。」

