最高裁昭和53年2月16日刑集32巻1号47頁・刑訴百選【11版】A17事件(起訴状に記載されていない罰条の適用)

1 はじめに

 本判例は、起訴状に記載されていない罰条の適用が問題となりました。

2 前提となる知識

刑訴法256条
①公訴の提起は、起訴状を提出してこれをしなければならない。
②起訴状には、左の事項を記載しなければならない。
一 被告人の氏名その他被告人を特定するに足りる事項
二 公訴事実
三 罪名
③公訴事実は、訴因を明示してこれを記載しなければならない。 訴因を明示するには、できる限り日時、場所及び方法を以て罪となるべき事実を特定してこれをしなければならない。
④罪名は、適用すべき罰条を示してこれを記載しなければならない。 但し、罰条の記載の誤は、被告人の防禦に実質的な不利益を生ずる虞がない限り、公訴提起の効力に影響を及ぼさない。
⑤数個の訴因及び罰条は、予備的に又は択一的にこれを記載することができる。
⑥起訴状には、裁判官に事件につき予断を生ぜしめる虞のある書類その他の物を添附し、又はその内容を引用してはならない。
刑訴法312条
①裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。
②裁判所は、審理の経過に鑑み適当と認めるときは、訴因又は罰条を追加又は変更すべきことを命ずることができる。
③以下略

3 問題の所在(刑訴百選【11版】A17事件解説)

 「本件では,起訴状に記載されていない罰条を適用する場合について,罰条変更の要否が問題となった。……罰条変更の要否については,起訴状における罰条記載の趣旨やその拘束力をどのように理解するかが問題となる。認定事実に対する罰条の当てはめは,法令適用の問題であり,裁判所の専権に属するから,罰条の記載が,訴因と同じ意味で拘束力を持つことはない。本決定は,罰条の記載を,専ら訴因の特定を助ける補充的なもの」とみることができるか問題となる。

4 判旨

 「(上告趣意に対する判断)
 弁護人山田近之助の上告趣意のうち、憲法31条違反をいう点は、実質は単なる法令違反の主張であり、その余の点は、事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法405条の上告理由にあたらない。
 (職権による判断)
 一 所論にかんがみ、職権により調査すると、第一審判決が認定した第三事実に対応する訴因は、「被告人は、Aらと共謀のうえ、昭和50年2月2日午前1時40分ころ、京都市a区b町c丁目d番地eビルf階スナック「B」において、C(当21才)、D(当23才)、E(当22才)、FことG(当22才)に対し些細なことに立腹し、こもごも同人らに対し、殴る蹴るなどの暴行を加え、よって右Cに対し、加療約2週間を要する左胸部打撲、第八肋骨々折の傷害を、右Dに対し、加療約3日間を要する顔面、後頭部等挫傷の傷害を、右Gに対し、加療約2週間を要する頭部打撲症兼挫傷などの傷害を、それぞれ負わせた」というものであり、その罪名及び罰条は、「傷害、暴行 刑法第204条、第208条、第60条」というものである。
 一審判決は、ほぼ右の訴因に沿った事実を認定し、「被告人は、昭和50年2月2日午前1時40分頃同市同区g町h丁目i番地jビルk階スナック「B」において、飲酒中些細なことに立腹し、前記Aらを呼び集め、ここに右A、H、I、Jと共謀して、C(当時21歳)、D(当時23歳)、E(当時23歳)、FことG(当時22歳)に対してこもごも同人らの身体各所を殴る蹴るなどの暴行を加え、よって右Cに対し加療約2週間を要する左胸部打撲傷等の傷害を、右Dに対し加療約3日間を要する後頭部挫傷等の傷害を、右Gに対し加療約2週間を要する頭部打撲症兼挫傷等の傷害をそれぞれ負わせた」と判示し、刑法60条、204条、罰金等臨時措置法3条1項1号を適用した。
 これに対し被告人から控訴があったところ、原判決は、公訴事実には右Eに対する暴力行為等処罰に関する法律1条(刑法208条)の罪の事実が含まれているから、一審判決がこれに沿う事実を認定した以上右の法令を適用すべきであり、これを遺脱したのは違法であるが、その違法は明らかに判決に影響を及ぼすものではないと判示しつつも、量刑不当を理由に一審判決を破棄し、自判にあたって右法律1条を適用するとともに、この場合には罰条の変更を要しないとの判断を付加した。
 二 本件のように、数人共同して2人以上に対しそれぞれ暴行を加え、一部の者に傷害を負わせた場合には、傷害を受けた者の数だけの傷害罪と暴行を受けるにとどまった者の数だけの暴力行為等処罰に関する法律1条の罪が成立し、以上は併合罪として処断すべきであるから、原判決のこの点の判断は正当である。
 三 次に、起訴状における罰条の記載は、訴因をより一層特定させて被告人の防禦に遺憾のないようにするため法律上要請されているものであり、裁判所による法令の適用をその範囲内に拘束するためのものではないと解すべきである。それ故、裁判所は、訴因により公訴事実が十分に明確にされていて被告人の防禦に実質的な不利益が生じない限りは、罰条変更の手続を経ないで、起訴状に記載されていない罰条であってもこれを適用することができるものというべきである。
 本件の場合、暴力行為等処罰に関する法律一条の罪にあたる事実が訴因によって十分に明示されているから、原審が、起訴状に記載された刑法208条の罰条を変更させる手続を経ないで、右法律1条を適用したからといって、被告人の防禦に実質的な不利益が生じたものとはいえない。したがって、原判決の判断は、この点でも正当である。
 (結論)
 刑訴法414条、386条1項3号により、主文のとおり決定する。
 この決定は、裁判官大塚喜一郎の意見があるほか、裁判官全員一致の意見によるものである。」