最高裁平成19年2月8日刑集61巻1号1頁・刑訴百選【11版】22事件(令状の効力の物的範囲及び令状の効力の時間的範囲)
1 はじめに
本判例は、被疑者方居室に対する捜索差押許可状により同居室を捜索中に被疑者あてに配達され同人が受領した荷物について同許可状に基づき捜索することの可否につき、被疑者方居室に対する捜索差押許可状により同居室を捜索中に被疑者あてに配達され同人が受領した荷物についても,同許可状に基づき捜索することができるとしたものです。
2 前提となる知識
⑴ 刑訴法102条
①裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる。
②被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。
⑵ 刑訴法218条
①検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索、電磁的記録提供命令又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
②以下略
⑶ 刑訴法219条
①前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所、身体若しくは物、提供させるべき電磁的記録、提供させるべき者及び提供の方法、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、捜索若しくは検証に着手し、又は電磁的記録提供命令をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
②以下略
3 問題の所在(刑訴百選【11版】22事件解説1)
「本件では,捜索差押許可状による捜索中に捜索場所に配達され被告人が受領した荷物について当該許可状に基づいて捜索することができるかが問題となった。すなわち,(a)被告人方を捜索場所として発付されている捜索差押許可状の効力が,捜索場所に所在する荷物に及ぶか(令状の効力の物的範囲),(b)捜索差押許可状の効力は,令状呈示の時点では捜索場所に存在せず,捜索実施中に他から搬入された物品にも及ぶか(令状の効力の時間的範囲)が本件の論点である。」
4 判旨
https://www.courts.go.jp/hanrei/34123/detail2/index.html
「弁護人滝谷滉の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であり,被告人本人の上告趣意は,単なる法令違反,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論にかんがみ職権で判断する。原判決の認定によれば,警察官が,被告人に対する覚せい剤取締法違反被疑事件につき,捜索場所を被告人方居室等,差し押さえるべき物を覚せい剤等とする捜索差押許可状に基づき,被告人立会いの下に上記居室を捜索中,宅配便の配達員によって被告人あてに配達され,被告人が受領した荷物について,警察官において,これを開封したところ,中から覚せい剤が発見されたため,被告人を覚せい剤所持罪で現行犯逮捕し,逮捕の現場で上記覚せい剤を差し押さえたというのである。所論は,上記許可状の効力は令状呈示後に搬入された物品には及ばない旨主張するが,警察官は,このような荷物についても上記許可状に基づき捜索できるものと解するのが相当であるから,この点に関する原判断は結論において正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。」
5 解説
ア 本判例の評釈である判例タイムズ1250号85頁
「 1 本件は,被告人が,営利の目的で,自宅において,宅配便で配達された覚せい剤約48gを所持するなどした事案であり,検挙に至る事実関係は,次のとおりである。すなわち,警察官が,被告人に対する別件の覚せい剤取締法違反被疑事件につき,捜索場所を被告人方居室等,差し押さえるべき物を覚せい剤等とする捜索差押許可状に基づき,被告人立会いの下に上記居室を捜索中に,宅配便の配達員によつて被告人あてに荷物が配達された。被告人が配達者から受領した荷物を,警察官において開封したところ,中から覚せい剤が発見されたため,警察官は,被告人を覚せい剤所持罪で現行犯逮捕し,逮捕の現場で上記覚せい剤を差し押さえたというものである。
被告人は,本件覚せい剤の押収手続は,被告人の承諾なくして開封された荷物の中から発見されたという点において違法であり証拠能力がないなどと主張した。
1審判決は,捜索現場での警察官と被告人とのやりとりから,被告人が荷物の開封を承諾したものと認定し,警職法の職務質問に付随して行われる所持品検査として,覚せい剤の押収手続は適法であるとした。これに対し,控訴審判決は,荷物の開封につき,被告人の任意の承諾があったと解するには疑問があるものの,被告人の承諾がなくても,本件捜索差押許可状に基づく捜索の執行として荷物の開封を行うことができるとして,被告人の主張を排斥した。
これに対して,被告人が上告し,捜索差押許可状の効力は,それが立会人に呈示された時点で捜索場所に存在する物に限られ,令状呈示後,他から搬入された本件荷物には及ばないと主張した。争点は,以上に述べたところから明らかなように,捜索差押許可状による捜索中に捜索場所に配達され被告人が受領した荷物について,当該許可状に基づいて捜索することができるか否かという点にあった。本決定は,上告趣意を不適法としつつ,職権で,令状呈示後に捜索場所に配達され被告人が受領した本件荷物についても,本件許可状に基づき捜索ができるとして,控訴審判決の結論を是認し,上告を棄却した。
本件事件以前に,この論点を取り上げて論じた判例や学説は見当たらないが,本件の控訴審判決を評釈した論文として,上冨敏伸・研修702号29頁がある。
2 本決定が,本件許可状に基づき本件荷物を捜索できるとした理由は,決定文の中には明示されていないが,以下のようなところにあると考えられる。まず,第1に,刑訴法219条1項が捜索差押許可状に捜索すベき場所を記載するとしている趣旨は,憲法35条1項の住居の不可侵を保障することにあるが,捜索実施中に他の場所から捜索すべき場所に持ち込まれ,被告人が所持・管理するに至った物について捜索を行ったとしても,新たな住居権・管理権の侵害を生じるものではなく,新たな令状を必要とする理由はないと考えられる点である。第2は,捜索差押許可状の効力に関し,令状呈示の時点において捜索場所にある物に,その効力が限定されるといった規定は存在しないし,そのように解する根拠も見い出し得ないという点である。すなわち,裁判官は,令状発付の段階においては,当該令状の有効期間内に捜索場所に差し押さえるべき物が存在する蓋然性があるか否かを審査するのであって,物がいつ捜索場所に持ち込まれるかという点を問題としていない。実際問題として,捜査機関は,令状の有効期間内であればいつ捜索に着手しても良いから,捜索開始時期がたまたま前後したというだけで,捜索場所にある物を捜索できたりできなくなったりするのは不合理と考えられる。第3に,令状の呈示の趣旨から考えると,令状の呈示は,令状の執行を受ける者に対して,裁判の内容を知らせる機会を与え,手続の明確性と公正を担保するとともに,裁判に対する不服の機会を与えることにある。したがって,令状の呈示という行為自体に,呈示の時点に捜索場所に存在するものに許可状の効力を限定するという機能は存在しない。このことは,処分を受ける者が不在のときは,令状を示さずに執行に着手することができるとされていることからも明らかと思われる。
3 本決定は,捜索差押えに関する最高裁の判断に一事例を付け加えるものとして意義を有すると思われるので,紹介する次第である。」
第1の部分が令状の効力の物的範囲、第2が令状の効力の時間的範囲に関するものです。
イ 本判例の評釈である刑訴百選【11版】22事件
「本件の控訴審判決が、……「(本件令状の)執行の途中で被告人が捜索場所で所持・着理するに至った物について捜索差押えを行ったとしても,新たな居住権・管理権の侵害が生じるわけではない」なととするのも同趣旨であると思われる。なお,控訴審判決は,更に本件荷物には,本件令状で差し抑さえるべき物とされている党醒剤等が入っている蓋然性が十分認められる状況が存したことも認定しているが,当該蓋然性は,被告人方を捜索場所とする本件令状を発付する時点ですでに審査済みであるので,本件令状により本件荷物を捜索したことの適法性の理由付けとしては不要であろう。また,本件荷物を開封する行為は,本件令状に基づく本件荷物の捜索行為そのものであるから,控訴審判決がこれを本件令状の執行についての必要な処分として位置付けている点も妥当でない。」(解説2:令状の効力の物的範囲)
「なお,本決定は,被告人が配逹された本件荷物を自ら受領したという事実関係を前提として判断を示したものであるから,例えば被告人が配達された荷物の受領を拒絶し警察官が代わりに宅配便業者から受領したような場合にまでは本決定の射程は及ばないと解される。このような場合も,警察官による受領後,荷物が捜索場所である被告人方に置かれた以降の状況だけを見ると本決定の事案と異ならないように思われるが(なお緑大輔・本百選<第9版>48頁および大久保隆志・本百選<第10版>44頁は被告人自ら受領したことを重視するが,宅配便業者が被告人方玄関に置いていった場合のように被告人自ら受領したものてなくても客観的に被告人方に所在する状態に至れば被告人以外の第三者の排他的支配に服する特段の事情がない限り被告人の管理権が及ぶと解される),それ以前の,荷物が未だ捜索場所に置かれたとは認められない時点すなわち当該荷物が宅配便業者の管理下にある時点で,警察官がこれを受領し捜索場所に持ち込んだ行為の適法性が別途問題となろう。
また,捜索中に配達された本件荷物が第三者あてではなく,居住者である被告人あてのものであったことも,本件荷物に被告人の管理権が及ふことを碁礎付ける事情の一つとして位置付けられる。」(解説4:本決定の意義と射程)

