裁判官弾劾裁判所令和6年4月3日令和3年(訴)第1号・憲法百選Ⅱ【8版】(罷免訴追事件・裁判官の表現の自由等)

 この事件は、岡口基一元裁判官(被訴追者)がSNSに投稿した記事等が裁判官弾劾法2条2号の「その他職務の内外を問わず、裁判官としての威信を著しく失うべき非行があつたとき」にあたるとして、罷免された事件です。

 裁判官訴追委員会が非行事由として挙げた事項は以下の通りです。弾劾裁判所は、ⅰ刑事事件投稿等行為群(①から⑩まで)とⅱ犬事件投稿行為群刑事事件投稿(⑪から⑬まで)に分けて検討しています。

 ①刑事事件投稿(訴追事由第1の1)
 被訴追者は、平成29年12月13日頃、本件ツイッター(現在は「X」)に、被訴追者の実名が付された自己のアカウントにおいて、被訴追者の担当外である刑事事件の特定の刑事事件判決を閲覧することができる裁判所のウェブサイトのアドレスを引用するとともに、「首を絞められて苦しむ女性の姿に性的興奮を覚える性癖を持った男」、「そんな男に、無惨にも殺されてしまった17歳の女性」と記載した文章を投稿して掲載しました(以下「刑事事件投稿」といいます。)。

 ②刑事事件投稿時FB掲載(訴追事由第1の2)
 被訴追者は、平成29年12月30日頃、本件ツイッターに、刑事事件投稿について、「今回問題になったツイートは、フェイスブックでもつぶやいていましたが、こちらは、削除要請がなかったので、そのままになっています。」などと記載した文書を投稿して掲載しました。

 ③東京高裁批判投稿(訴追事由第1の3)
 平成30年3月29日頃、刑事事件投稿についての厳重注意処分を受けてマスコミ各社がこれを報じていたところ、その報道の一部について疑問を持った中井雅人弁護士から「「内規に反して判決文を掲載」ってあってるのか??」というツイートに続き、J-CASTニュースがリンクとして貼られていたので、同人に返信する形で、被訴追者は、「「内規に反して判決文を掲載」したのは、俺ではなく、東京高裁(^_^)」と記載した文章を本件ツイッターに投稿して掲載しました。

 ④訴追者記者会見(訴追事由第1の4)
 被訴追者は、平成30年5月17日、新たに後記⑪犬事件投稿も行いました。被訴追者は、これらに関する東京高裁の事情聴取において、複数回にわたり「軽率だった」、「こういう投稿はもうやめようと思う」などと反省の弁を述べるなどしているが、同年7月29日、分限裁判申立てについて2チャンネルのスレッドのリンクを貼る後記の⑫犬事件URL掲示板投稿を行いました。
 その後、後記の⑪犬事件投稿に関する分限裁判の審問期日が実施された同年9月11日、東京都千代田区霞が関一丁目1番4号東京高等裁判所内に所在する司法記者クラブにおいて、刑事事件の被害者遺族について、「あの方の場合はダイレクトでツイッターで削除してくださいっていう話があったのでその場で削除いたしました。」などと発言しました。

 ⑤因縁投稿(訴追事由第1の5)
 平成30年10月5日頃、被訴追者が開設した不特定多数の者が閲覧可能な「岡口基一の公式ブログです」と題するブログ(以下「本件公式ブログ」といいます。)に、「遺族には申し訳ないが、これでは単に因縁をつけているだけですよ。」との見出しをつけて記載した文書を投稿して掲載しました(以下「因縁投稿」といいます)。なお、因縁投稿はブログごと削除されているため、「因縁をつけている」相手が誰なのかは不明です。

 ⑥週刊現代インタビュー(訴追事由第1の6)
 被訴追者は、平成30年10月下旬頃、後記の⑪犬事件投稿の分限裁判において、同月17日に裁判所から戒告の決定を受けたことについて、週刊現代のインタビューを受け、「被害者の女性の遺族は、もともと判決文を裁判所が公開したことに抗議していた。判決文を公開したのは、私ではなく最高裁です。それがいつの間にか、私のツイートの文言で傷ついたに変わり、それに基づいて私の厳重注意処分がなされました。しかしそれが終わると、再び、判決を裁判所のウェブサイトに載せられたことに傷ついたという主張に戻っている。この事実は、私のブログのコメント欄に遺族の方が自ら投稿しています。そして毎日新聞の報道によれば、更に考えを変えて、私のおちゃらけたツイッターで紹介されたことで傷ついたと、4回も「傷ついた理由」を変えているんです。これって、どういうことなのでしょうか。」などと発言しました。

 ⑦遺族担ぎ出し投稿(訴追事由第1の7(1))
 平成31年3月4日、裁判官訴追委員会が被訴追者に対し、事情聴取を行いました。その際、被訴追者は、「今後、刑事事件の遺族や民事事件の当事者を傷つけるようなことをSNSで投稿するつもりはない、フェイスブックで取り上げない」旨発言しました。同月19日、遺族の申入れに基づいて裁判官訴追委員会から遺族への事情聴取が行われた。これを受け、被訴追者は、同月21日、本件分限裁判のブログに「遺族を担ぎ出した訴追委員会」との見出しの下に、「遺族の意思とは無関係に1年以上も「遺族感情」が用いられ、その審理のために、平穏であるべき遺族自身を担ぎ出したという経緯になっている」などと記載した文章を投稿しました。

 ⑧洗脳投稿(訴追事由第1の7(2))
 被訴追者は、平成31年4月1日、仙台高等裁判所判事兼仙台簡易裁判所判事に補され、令和元年6月下旬頃、仙台高裁長官と面談を行いました。その際、被訴追者は、同高裁長官から、事件に関する投稿はしないようにと自制を促され、事件関係についての投稿は差し控える旨述べていました。
 被訴追者は、令和元年11月12日、本件フェイスブックに「裁判所が判決書をネットにアップする選別基準」で始まる文書を投稿した。そこでは、「その遺族の方々は、東京高裁を非難するのではなく、そのアップのリンクを貼った俺を非難するようにと、東京高裁事務局及び毎日新聞に洗脳されてしまい、いまだに、それを続けられています。東京高裁を非難することは一切せず、「リンクを貼って拡散したこと」を理由として、裁判官訴追委員会に俺の訴追の申立てをされたりしているというわけです。」などと記載されていました。

 ⑨「遺族のみなさまへ」投稿(訴追事由第1の7(3))
 被訴追者は、令和元年11月15日頃、本件フェイスブックに、「遺族のみなさまへ ある方から、遺族のみなさまが、私のフェイスブックを毎日読んでくださっており、「最高裁に告ぐ」もお読みいただいたという話をお聞きしました。ありがとうございます。(中略)「東京高裁のことは一切批判されずに、そのリンクを貼った私を署名運動までして批判される理由がどうしてもわからず、みなさまが、第三者から変なことを吹き込まれているのではないかと思い、「洗脳されている」というような表現をしてしまいました(中略)しかし、上記の私の疑問は残ったままであり、何かのはずみで、また同じ過ちを犯しかねません。ぜひ、一度、その理由をお聞かせいただければ幸いです。」などと記載した文書を投稿して掲載しました。

 ⑩「『洗脳発言』報道について」投稿(訴追事由第1の7(4))
 被訴追者は、令和元年11月18日頃、本件分限裁判のブログに、「『洗脳発言』報道について」との見出しの下に、「内規に違反して性犯罪に関する本件判決書をアップしてしまったのは東京高裁です。」(中略)「私は、遺族の方々の考え方は東京高裁によって大きく変えられたのではないかと疑い、これを「東京高裁による洗脳」と表現したものです。」(中略)、「洗脳」という言葉をあそこで使ってしまったのは、私に対する攻撃の手を緩めない遺族の方々にも早く目を覚ましてもらいたいという思いも込められていたのかもしれません。」などと記載した文章を投稿して掲載しました。

 ⑪犬事件投稿(訴追事由第2の1)
 被訴追者は、平成30年5月17日頃、本件ツイッターに犬事件に関する報道記事(ただし、当事者の個人情報は記載されていない。)を閲覧できるインターネット上のウェブサイトを引用しつつ、「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら、3か月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて、「返して下さい」え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?3か月も放置しておきながら・・裁判の結果は・・」と記載した文章を投稿して掲載した(以下「犬事件投稿」といいます。)。

 ⑫犬事件掲示板URL投稿(訴追事由第2の2)
 被訴追者は、犬事件投稿をして訴訟当事者の感情を傷つけた行為が裁判所法第49条の「品位を辱める行状」に当たるものとして、裁判官分限法第6条に基づき、平成30年7月24日に東京高等裁判所から分限裁判を申し立てられたにもかかわらず、同月29日頃、本件公式ブログに、「東京高裁「うちの白ブリーフ裁判官が犬を捨てた飼い主を冷やかすようなツイートをして飼い主を傷つけたので最高裁に処分してもらいます」との見出しが付され、氏名不詳者らによる民事訴訟の訴訟当事者に対するものと思われる「犬捨てるな」、「クソ飼い主」など複数の投稿が掲載されているインターネット上の掲示板へのリンクを貼り付けるとともに、前記見出しと同一の文言を記載した文書を投稿して掲載しました。

 ⑬犬事件再投稿(訴追事由第2の3)
 被訴追者は、平成31年1月8日頃、本件分限裁判のブログにおいて、犬事件投稿と同様の文言を記載した投稿が掲載されている本件フェイスブックへのリンクを貼り付けるとともに、「本件ツイートが、まだ残っていました」との見出しの下に、「フェイスブック上にはまだ残っていたものです」との記載した文章を投稿して掲載しました。

 本弾劾裁判の判決文は長文のため、一部抜粋して引用します。

 「刑事事件投稿等行為群と犬事件投稿行為群に分けて、それぞれについて弾劾法2条2号の罷免事由に該当するか検討する。検討に当たっては、同号が「裁判官としての威信を失うべき非行」と規定せず、あえて「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」と規定していることからすると、仮に裁判官の特定の行為ないし行為群が「非行」に当たる場合であっても、それが更に「裁判官としての威信を著しく失う」程度に達するものかどうかは慎重に判断しなければならない。そこで、本件の各行為群につき、まずは「非行」に当たるかどうかを検討した上で、当たるとした場合は、それが「裁判官としての威信を著しく失う」程度のものかどうかにつき検討する。
 1 「非行」の意義
 「非行」とは、「一般的には不正な行為又はよくない行為といった意味であるが、法令用語としては、その人の社会的・法律的な地位にふさわしくないものとして社会通念上非難されるべき行為又は不行為をいうものとして用いられ、必ずしも違法な行為であることを必要としない。(中路)具体的な場合に、ある特定の行為が「非行」に該当するかどうかは、その者の地位、その行為を行うに至った経緯、その行為が社会に及ぼす影響等全ての事情を考慮し、健全な常識に基づいて慎重に判断すべきであり、抽象的に概括することはできない」(「法令用語辞典」(令和5)P.653)とされる。
 これを踏まえると、まずは、被訴追者が有する裁判官の地位がいかなるものなのかを考える必要がある。裁判官とは、司法権を行使して裁判を行う官職にある者をいい、裁判とは、対等な私人間の社会関係上の紛争の解決や公権力を有する国家と国民との間の公益と私益との衝突の調整を目的とする国家の権能である。そして、裁判がこのような重要な役割を安定的、継続的に果たす上で、絶対に不可欠なのが一般国民の裁判に対する信頼である。
 このため、裁判権を行使する裁判官は、単に事実認定や法律判断に関する高度な素養だけでなく、人格的にも、一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を兼備しなければならず、裁判官という地位には、もともと裁判官に望まれる品位を辱める行為をしてはならないという倫理規範が内在していると解すべきである。
 したがって、被訴追者の各行為群が「非行」に当たるか否かは、それが裁判官という地位に望まれる、「一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を辱める行為」であるか否かによって決すべきであり、その判断に際しては、前述のとおり、その行為を行うに至った経緯、その行為が社会に及ぼす影響等全ての事情を考慮し、健全な常識に基づいて慎重に行わなければならない。
 この点を踏まえつつ、被訴追者の行為が「非行」に該当するか検討する。
 2 本件各行為群の「非行」該当性
 (1)刑事事件投稿等行為群について
 ア ①刑事事件投稿は、被訴追者としては、最高裁のウェブサイトに掲載されていた刑事事件の判決文へのリンクを貼って投稿したものである。他方、遺族の当時の状況をみると、平成29年12月1日の控訴審の判決宣告から僅か2週間しか経っておらず、心身共に疲弊していたときに被訴追者のプロフィール画像と並べる形で、愛娘の事件をそれと瞬時に分かるような表現で投稿されたものである。これを目にすれば、たとえその表現が当該刑事事件の真相を端的に捉えたものであり、被訴追者が引用していた最高裁のウェブサイトを参照すれば刑事事件判決の全貌を知ることができる状況であったとしても、自分の娘を汚されたように感じるというのは、当然のことである。それは、裕見子氏が、刑事事件投稿から3日後の同月16日、被訴追者に対し、「被害者の母親です。なぜ私達に断りもなく判決文をこのような形であげているのですか?」などとツイッターで直ちに抗議し、さらに、遺族は、東京高等裁判所に対し、同月26日付「要望書」を提出した行動からも明らかである。
 そうすると、たとえ被訴追者が読者の性的好奇心に訴えかけて、興味本位で刑事事件判決を閲読するものを誘引する意図があったものではなく、遺族の心靖を傷つける意図はなかったとしても、結果として遺族やひいては被害者の尊厳を傷つけたことは否定できず、被訴追者の行為は極めて軽率であると言わざるを得ない。また、被訴追者は、従前から本件ツイッター上において、自己の半裸の写真や性関連の記事を投稿するなどしていたものであり、現職裁判官ということもあって司法関係者だけでなく、マスコミにも平成28年頃から「白ブリーフ裁判官」「ツイート裁判官」などと報道され、耳目を集めていたことも勘案すると、遺族からすれば、「性的好奇心に訴えかけて、興味本位で刑事事件判決を閲読するものを誘引」していると受け止めることももっともであり、事情を知らない一般人の中にもそのように受け止める者がいたとしても不思議ではない。
 したがって、刑事事件投稿は、遺族の感情を深く傷つけたと優に認められるというべきである。
 イ ②刑事事件投稿FB掲載は、被訴追者としては自身の刑事事件投稿の動機ないし目的を読者に正しく理解してもらうために投稿したものである。他方、遺族の立場からすれば、刑事事件投稿から3日後に自己のフェイスブックで抗議し、その後も東京高裁を通じて要望書の中で自分たちの気持ちを伝え、今後は本件刑事事件に関する投稿によって不快な思いをすることがないと安心していたところ、その数日後にまた再び心をえぐられるような投稿をされたものである。また、被訴追者が読者に関心を抱かせようとした刑事事件の判決文が、最高裁のウェブサイト上で仮名処理されていたにせよ、刑事事件が実名で報道されていた事実と併せ鑑みると、本件投稿がプライパシーに配慮されているということもできない。
したがって、刑事事件投稿FB掲載は、被訴追者としては自身の刑事事件投稿の動機ないし目的を読者に正しく理解してもらうために自己の心境を素直に述べたものであり、遺族を傷つけるつもりはなかったとしても、結果として本件投稿だけを見た遺族の感情を更に傷つけと認められる。
 ウ ③東京高裁批判投稿は、刑事事件投稿について厳重注意処分がなされ、マスコミ各社が報じていた中、その報道の一部について疑問をもった弁護士からの質問に答えたものである。そして、被訴追者は、投稿のコメントの最後に(^_^)をつけたのは内規に反したのが誰であるかを誤解されるような報道をしたマスコミに対する皮肉であって、その他の人に対する皮肉の意味はなかったと主張する。しかし、東京高裁の厳重注意から約2週間後にこのような投稿をすれば、上記厳重注意を受けて刑事事件に関連する投稿等がなくなるものと信じた遺族の期待を裏切るばかりではく、その感情を挑発するものと受け止められるのは当然である。被訴追者の意図としては、東京高裁を批判することが主眼であって、遺族を傷つけるつもりはなかったとしても、結果としてさらに遺族を傷つけたものと言わざるを得ない。
 エ ⑥被訴追者記者会見については、その当時の被訴追者の意図としては、故意に事実を歪めた虚偽の発言をする意図はなかったにせよ、遺族の立場からすれば、平成29年12月26日以来、東京高裁に対し、要望書や本件各書面を始めとする数度に渡る抗議を申し入れ、その度に東京高裁から被訴追者の反省の弁や刑事事件投稿に関する投稿はしないという言葉を聞いていたのであるから、本件についてもまた遺族の真意とは異なる発言がなされたと捉えられるのもこれまた理解できるところであり、結果として、遺族の感情を更に傷つけたと認められる。
 オ ⑧週間現代インタビューについては、被訴追者において、遺族が当初から一貫して投稿場所や表現ぶりを問題にしていたという客観的事実を知りながら敢えて事実と反する虚偽の発言をしたものではなかったとしても、遺族としては、当初から本件ツイッターでの表現ぶりを問題にしていると再三主張しているにもかかわらず、客観的事実と反する主張を不特定多数の人々が購読する雑誌のインタビューに掲載され、遺族の方が主張を変遷させ、信用できない人物のように読者に捉えられかねないという危惧を抱くことは当然である。よって、先に述べたとおり、被訴追者の心療的特徴がこの発言に影響を及ぼしていることを考慮したとしても、感情を更に傷つけていることは明らかであり、看過できない。
 カ ⑩遺族担ぎ出し投稿は、被訴追者としては、遺族を非難するつもりはなく、訴追委員会に対して抗議をする意図で投稿したものであり、故意に事実を歪め、遺族の訴追行為自体を非難したものとまでは認められない。
 しかし、平成31年3月4日、裁判官訴追委員会が被訴追者に対し、事情聴取を行い、その際、今後、刑事事件の遺族や民事事件の当事者を傷つけるようなことをSNSで投稿するつもりはない、フェイスブックで取り上げないと発言したことから、遺族としては今度こそ遺族に対する投稿がなくなると期待していたにもかかわらず、被訴追者は、訴追委員会で陳述をしたわずか約2週間後の同月21日項、この投稿を行ったのである。さらに、被訴追者が後から誤解を招くような表現を改めたとしても、修正前の投稿があったことに何ら変わりはないし、修正後も「遺族を担ぎ出した訴追委員会」というタイトル自体には何ら修正がされておらず、「「被害者感情」を権力暴走の隠れ蓑に利用」などというその余の文章にも修正はないのであって、当初の「遺族担ぎ出し投稿」の趣旨を適切に修正したものとは到底いえない。
 そうすると、被訴追者としては、遺族を非難するつもりはなく、その背後の国家権力、すなわちここでは訴追委員会に対して抗議をする意図で投稿したものであったとしても、「遺族」「担ぎ出された」という言葉を見た遺族の立場からすれば、自らの意思によって訴追請求をし、事情聴取を希望したのにもかかわらず、全く事実と異なる投稿によって事実を歪曲されたと受け止めるのも当然のことである。
したがって、遺族担ぎ出し投稿も遺族の感情を傷つけた面があることは否定できない。
 キ ⑪洗脳投稿について、ある記述の意味内容が他人の社会的評価を低下させるものであるか否かは、当該記述についての一般の読者の普通の注意と読み方を基準として判断すべきであるところ(最高裁昭和31年7月20日第二小法廷判決・民集10巻8号1059頁参照)、洗脳投稿の意図は、毎日新聞や東京高裁への批判とみることもできないわけではないが、一般の読者の普通の注意と読み方を基準にすれば、遺族が被訴追者に対して訴追の申立てをしたことへの批判と判断せざるを得ない。そして、これを遺族が読めば、自分達の主体性や判断能力や今まで行ってきた行為全てを否定されていると受け止めるおそれもある表現行為であると言える。また「洗脳」という用語に「洗脳」された側を批判する意味は含まれていないとしても、洗脳されたと評される人に対しては、世間の常識に反する思想を教え込まれ、これに盲目的に従うようになって常識的な判断や行動をすることができない状態にあるなどという否定的な評価が下されかねないことは、公知の事実であることなどに鑑みれば、本件投稿は、遺族の社会的評価を低下させ、その名誉を違法に毀損するものというべきであり、洗脳投稿の不法行為該当性が争われた民事訴訟においても同様の判断がなされている。
 したがって、被訴追者が被害者の命日であるとは知らなかったこと、友達限定で送信しようとした洗脳投稿を誤って一般向けに送信してしまったこと、遺族の社会的評価を低下させ、その名誉を違法に毀損する意図はなかったこと、そして先に述べたような被訴追者の心療的特徴による影響など、被訴追者の弁解ないし事情を最大限採用したとしても、結果として社会的評価を低下させ、その名誉を違法に毀損するとともに、その名誉感情を受忍限度を超えて侵害した被訴追者の責任は極めて重いと言わざるを得ない。
 ク ⑫遺族の皆さまへ投稿について、被訴追者は、洗脳投稿が一般公開されていることを知り、かつ洗脳という言葉の使い方が良くないということを知人から指摘され、すぐに謝罪したものであり、遺族に対して揶揄・挑発する意図はなかったとする。他方、遺族の立場からすれば、当該投稿中の「ある方から、遺族のみなさまが、私のフェイスブックを毎日読んでくださっており、「最高裁に告ぐ」もお読みいただいたという話をお聞をしました。ありがとうございます。」「何かのはずみで、また同じ過ちを犯しかねません」という投稿を読めば、遺族は好んで被訴追者の投稿を読んでいるわけではないのに、その気持ちが全く理解されていないどころか、自分たちが揶揄・挑発されている印象を抱くのは自然なことである。
 したがって、洗脳投稿に続き、結果として遺族の感情を傷つけたものと認められる。
 ケ ⑬「『洗脳発言』報道について」投稿は、刑事事件投稿から洗脳投稿に至るまで、被訴追者自身が認識する事実経過をそのまま記したものであるが、遺族の立場からすれば、「洗脳投稿」、「遺族のみなさまへ」報道に続きわずか1週間足らずのうちに次々と長文の投稿がなされ、心身共に辟易し、深く傷ついたというのも至極当然である。
 したがって、本件投稿についても、被訴追者の視点から見ればそれなりに筋の通った行動で遺族を傷つける意図ではなかったとしても、結果として遺族をさちに深く傷つけたものと認められる。
 コ 以上のとおり、刑事事件投稿等行為群を講成する各行為は、個別的に見た場合でも、いずれも遺族の感情を傷つけたものと評価できる上、全体的に見た場合でも、被訴追者としては、積極的に遺族を傷つける意図をもって投稿したわけではないが、結果として何度も執拗に遺族を傷つけることになったと評価できる。
 したがって、刑事事件投稿等行為群は、それら行為を行うに至った経緯、それら行為が社会に及ぼす影響等全ての事情を考慮し、健全な常識に基づいて慎重に判断したとしても、「一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を辱める行為」であると言わざるを得ないから、「非行」に該当する。
 (2)犬事件投稿行為群について
 ア ④犬事件投稿について、被訴追者は、「公園に放置されていた犬を保護し育てていたら、3か月くらい経って、もとの飼い主が名乗り出てきて、「返して下さい」え?あなた?この犬を捨てたんでしょ?3か月も放置しておきながら」とクエスチョンマークを3つ付けるような形で投稿し、その後に「3か月も放置しておきながら」という文言を付加している。これを一般の読者が読めば、「3か月も放置しておきながら、今更、犬を返してくれと言うんですか。それはひどいのではないですか?」という言外の言葉が読み取れないでもない。そうすると、犬事件投稿につき原告の訴訟提起行為が不当であるとの一方的な評価を下していると解し得なくもない。しかしながら、被訴追者が弁明するように、飼い主である原告を傷つけるつもりはなく、単に面白そうな事件を紹介し、裁判というものを読者に考えてもらう契機として親しみやすい表現を用いた可能性も否定できないため犬事件の原告による民事訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示したとまでは認められない。また、犬事件の原告を特定したり推知させたりする投稿でもないため、その社会的評価を不当におとしめたとは言えない。
 イ ⑤犬事件掲示板URL投稿は、甚だ不適切な投稿のリンクを貼っており、スレッドの書き込み内容を客観的に見ても社会的意義がある投稿とも到底言い難いが、先に述べたとおり(第1・3(2)イ)、犬事件の原告による民事訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示すなどしたとまでは認められない。また、上記と同様の理由により、犬事件の原告の社会的評価を不当におとしめたとも言えない。
 ウ ⑨犬事件再投稿については、先に述べたとおり(第1・3(2)ウ)、犬事件の原告による民事訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示したとまでは認められない。また、上記と同様の理由により、当該訴訟当事者本人の社会的評価を不当におとしめたとも言えない。
 エ 次に犬事件投稿行為群を全体的に見ると、その発端が、面白そうな判決や他人のスレッドを見つけたので読者に読んでもらいたいという被訴追者の啓蒙的な発想であったとしても、当事者を傷つけたことは否定できない。
また、被訴追者は、裁判官の職にあることが広く知られている状況の下で、判決が確定した担当外の民事訴訟事件に関し、その内容を十分に検討した形跡を示さず、表面的な情報のみを掲げて、一般の読者の普通の注意と読み方を基準とすれば、犬事件の原告の行動を揶揄し、批判していると受け止められたり、犬事件の原告による民事訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示していると受け止められたりするおそれのある表現行為を行ったと言わざるを得ない。
 さらに、犬事件投稿行為群に含まれる3つの投稿は、他人の投稿のリンクを貼って投稿するものであり、そのリンク先の内容の中には他人の人格を蹂躙するような不適切な表現を用いたものも散見される。被訴追者の意図が犬事件投稿や分限裁判に関する世論の議論状況を紹介したり、注目すべき判決を紹介したりすることにあったとすれば、その方法としては他に選び得る手段があったはずであり、表現手段としての適正さに疑問が残る。
 以上のように、犬事件投稿行為群を構成する行為は、個別的に見れば、犬事件の原告による民事訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示したとまでは認められず、その社会的評価を不当におとしめたとも言えない。他方、全体的に見れば、当事者を傷つけたものと認められることや、被訴追者の意図を実現する表現としては他に選び得る手段もあったことなどの問題があった。
 以上を考慮すれば、犬事件投稿行為群については、行為を行うに至った経緯、行為が社会に及ぼす影響等全ての事情を考慮し、健全な常識に基づいて慎重に判断したとしても、「一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を辱める行為」であることは否定できず、「非行」に該当する。
 3 「裁判官としての威信を著しく失う」の意義
 以上のとおり、本件各行為群がいずれも「非行」に該当するとしても、その「非行」が「裁判官としての威信を著しく失う」程度に達したと評価できなければ、弾劾法2条2号の弾劾由は認められない。
 ここで「裁判官としての威信」とは、「裁判官に寄せられる国民の尊敬や信望」などと言い換えることができ、これを前提とすると「裁判宮としての威信を失う」とは、「裁判官に寄せられる国民の尊敬や信望を失う」ことと同義である。一方、既に述べたとおり、裁判官における「非行」とは「一般国民の尊敬と信頼を集めるに足りる品位を辱める行為」であるから、「裁判官の威信を失う」という要件は、「非行」該当性を検討する際に同時に検討されていると見ることができる。したがって、「非行」が「裁判官としての威信を著しく失う」程度に達したかどうかの評価は、「非行」が「著しい」かどうかの評価に帰着する。
 そして、「非行」が「著しい」かどうかの評価は、それが裁判官の身分に直結するだけでなく、「著しい」という文言が非常に抽象的で幅広い解釈を許すものであるが故に、極めて重く困難な作業となる。そこで、この評価をより的確に行うために、「裁判宮は、裁判により、心身の故障のために職務を執ることができないと決定された場合を除いては、公の弾劾によらなければ罷免されない。」という憲法78条前段の趣旨に立ち返って考えることとする。
 同条は、憲法第6章の「司法」に属するが、この章では76条1、2項において、「すべて司法権は、最高裁判所及び法律の定めるところにより設置する下級裁判所に属する。特別裁判所は、これを設置することができない。行政機関は、終審として裁判を行ふことができない。」と規定して「司法権の独立」を認めると共に、81条において、「最高裁判所は、一切の法律、命令、規則又は処分が憲法に適合するかしないかを決定する権限を有する終審裁判所である。」として裁判所に「憲法の番人」としての役割を与え、「司法権の優位」を認めている。
 このように現行憲法が、「司法権の独立」と「司法権の優位」を認め、裁判所に「憲法の番人」としての役割を与えている以上、司法権の行使を委ねられた裁判官は、裁判をするに当たって、何人の指示にも拘束されず、完全に独立して職権を行使する必要がある。それ故、76条3項において、「すべて裁判官は、その良心に従ひ独立してその職権を行ひ、この憲法及び法律にのみ拘束される。」と規定している。そして、この裁判官の職権行使の独立を実効あらしめるために、裁判官の身分を手厚く保障しようという趣旨が78条前段に込められているのである。と同時に、民主主義国家においては、公務員の選定罷免権は究極的に国民に存するのであるから(憲法15条1項)、裁判官についてもこの理念を具体化する何らかの措置を講じる必要があり、その要請に応えるという趣旨も78条前段には含まれているのである。
 このように裁判官への手厚い身分保障という趣旨と裁判官に対する民主的統制という二つの趣旨を78条前段とそれに含まれる裁判官弾劾制度が有していることに鑑みれば、国民の代表たる国会議員によって構成される弾劾裁判所において、裁判官に対し不信任の意思を表示してこれを弾劾すべき事由とは、憲法によって、国民が裁判官に与えた負託に背反する行為と解すべきであり、かかる「国民の信託に対する背反」が認められる場合に限り、「非行」が「著しい」ものと評価すべきである。
 なお、「国民の信託に対する背反」が認められるどうかは、訴追時点に判明していた事実等によって判断すべきであるから、本件訴追以降に訴追者が再任希望を行わなかったという事情は、罷免事由の存否を判断するにあたって考慮しないこととする。
 以上を前提に、検討する。
 4 被訴追者の「非行」が「著しい」ものか否かの検討
 (1)刑事事件投稿等行為群について
 ア 刑事事件投稿等行為群は、既に述べたとおり、「非行」に当たるが、この「非行」が「国民の信託に対する背反」に達する程度なのかどうかは、「非行」の悪質性に関わる。
 この点、①刑事事件投稿及び②刑事事件投稿FB掲載は、これらを不法行為に当たるとして損害賠償を求めた民事訴訟の高裁判決(弁34)において、「このような重大な刑事事件に関する記事をインターネット上に投稿して紹介する行為は、広く社会一般の関心の対象となる事柄であり、また表現行為としての表現の自由の保障を受けるものである」としつつ、犯罪被害者等基本法の各規定に照らして不法行為法上保護に値する遺族の心情という人格的利益に対し、社会通念上受忍すべき限度を超えた侵害を加えたものであって、不法行為が成立する違法なものであると判示している。
また、その前審である地裁判決においては、不法行為の成立は否定したものの、東京高裁長官から書面による厳重注意を受けるに至った刑事事件投稿について、裁判所法49条を引用しつつ、「裁判官は、公正、中立な審判者として裁判を行うことを職責とする者であるから、職務を遂行するに際してはもとより、職務を離れた私人としての生活においても、その職責と相いれないような行為をしてはならず、また、裁判所及び裁判官に対する国民の信頼を傷つけることのないように、慎重に行動すべき義務」(最高裁平成13年3月30日大法廷決定・裁判集民事201号737頁参照)を負い、これに違反すると判示している。
これらに加え、その後の度重なる投稿等によって刑事事件の遺族に精神的苦痛を与え続けてきたことを考えると、被訴追者の一連の行為は、少数者の基本的人権を保障する「憲法の番人」の役割からはかけ離れたものであり、「国民の信託に背反する」程度に達していると言わざるを得ない。
 イ ただし、現役裁判官が自身の意見や主張はもとより、思っていることや、感じていることを表現することは、憲法の保障する表現の自由によって保障されていることは言うまでもない。本件では主としてSNSを用いた被訴追者の表現行為が問題となっているため、裁判官がSNSを利用して憲法上の基本的人権である表現の自由を行使する場合、それを「国民の信託に背反する」と評価できるかという、前例のない重要な問題に直面していることにも留意しなくてはならない。
これを検討する前提として、SNSの特性に目を向けると、SNSは、「社会的なネットワークを築くためのサービス」であり、インターネットの普及に連れて急速に社会に浸透してた。SNSは、従来の通信手段に比べて情報伝達の速度が飛躍的に高く、時と場所を選ばず、インターネットを介した新しい形の交流を可能としている。SNSの種類も多様であり、利用する目的によって発信の手段や対象を選択することもでき、利便性は極めて高い。
他方、それ故に従来の手紙や電子メールなど特定の者に向けられた通信手段と異なり、不特定多数の人が瞬時に認識し得るという特性があるため、発信者が想定していた趣旨が特定の人には伝わるような内容の投稿であっても、それが不特定多数の人に拡散し、その過程で、発信者が想定していた趣旨とは全く異なる趣旨に受け止められる危うさを孕んでいる。そして、SNSのこうした特性により、発信者の意図に反し、他者を精神的に傷つける投稿が社会に広く拡散するという事態が往にして見られる。
 被訴追者は、平成9年頃からホームページを作成し、法律に携わる人に有益な情報提供をするための媒体にしていったが、一度は中断したものの平成20年頃かち本件ツイッターや本件フェイスブックを始めて長年にわたって多数の発信を続けていたのであるから、このようなSNSの特性は熟知していたはずであり、表現の自由を行使する手段としてSNSを利用する場合には、その危険性を踏まえて他者を精神的に傷つけないよう配慮すべきであった。被訴追者がこの配慮を怠り、結果的に刑事事件の遺族に精神的苦痛を与え続けてきたことは、たとえ被訴追者に悪意がなかったとしても、裁判官による表現の自由の行使手段として甚だ問題があったと言わざるを得ない。
 ウ その上で、裁判官が「憲法の番人」として権力の暴走に歯止めをかける役割も期待されていることを考慮すれば、裁判官が司法府内部や行政府、立法府などの国家権力に対し、批判的見地から物を申すことについて委縮するような状況を招くことのないよう細心の注意を払うべきである。
その見地から、改めて刑事事件投稿等行為群を検討すると、刑事事件投稿等行為群のうち、司法府内部を批判する意図があったと認められる③東京高裁批判投稿と立法府にある裁判官訴追委員会を批判する意図があったと認められる⑩遺族担ぎ出し投稿については、「国民の信託」に完全に背反するとまでは言い切れず、裁判官としての被訴追者の表現の自由を尊重すべきである。
 しかしながら、この点を考慮して③と⑩を除く投稿等だけで被訴追者の行為を評価したとしても、執拗かつ反復して犯罪被害者の遺族の心情を傷つけ、結果として遺族の個人の尊厳やその尊巌にふさわしい処遇を保障される権利及び名誉感情を侵害し、平穏な生活を送ることを妨げたことは否定できない(犯罪被害者等基本法3条、6条参照)。
 しかも、被訴追者は、自身も犯罪被害者の支援のために講演をするなど犯罪被害者支援について非常に重視してきた立場にあると当公判廷でも供述していたのであるから、投稿する際にはその経験を踏まえて、慎重に投稿するべきであった。にもかかわらず、遺族からの抗議等を受けても、真の反省や改善がなく長期に渡って断続的に同様の表現行為を繰り返してきたことは、表現の自由として裁判官に許容される限度を逸脱したものといわざるを得ない。
したがって、被訴追者の「非行」が「国民の信託に背反する」程度に達しているという当裁判所の判断を変更する余地はない。以上により、刑事事件投稿等行為群(③と⑩を除く。)は、「非行」が「著しい」ものと評価できる。
 (2)犬事件投稿行為群について
 上記のとおり、刑事事件投稿等行為群について「裁判官としての威信を著しく失うべき非行」に該当するとの結論に達したが、弾劾裁判では罷免の事由とされているすべてについて判断すべきとの見解もあるため、念のため、犬事件投稿行為群についても検討する。
犬事件投稿行為群の悪質性については、被訴追者の意図としては、原告の飼い主を傷つけるつもりはなく、単に面白そうな事件や他人の投稿を紹介し、裁判の内容や犬事件投稿等に対して分限裁判の申し立てられたという自分の状況を風刺的に捉え、読者に考えてもらう契機として親しみやすい表現を用いたものに過ぎなかったとしても、当事者を傷つけたものと認められる。この点においては刑事事件投稿と類似している。
 しかし、先に述べたとおり、犬事件の原告の民事訴訟提起行為を一方的に不当とする認識ないし評価を示したことや、原告の社会的評価を不当におとしめたことまでは認められないことに加え、犬事件の原告は犬事件投稿については、東京高裁に抗議しているものの、犬事件掲示板URL投稿、犬事件再投稿については抗議等をした形跡はないことからすると、犬事件投稿行為群に関しては、刑事事件投稿に端を発する刑事事件投稿等行為群と比較して悪質性は低く、被訴追者の「非行」が「国民の信託に背反する」程度に達しているとまでは認められない。
 以上により、犬事件投稿行為群については、被訴追者に保障される表現の自由との関係を論じるまでもなく、「非行」が「著しい」とまで評価でをない。
 第6 弁護人らのその余の主張に対する判断
 これに対し、弁護人は被訴追者の罷免を否定すべき事情として、既に取り上げた点のほかに、以下の主張をするので、当裁判所の判断を示す。
 1 比例原則に基づく謙抑性が求められること
 弾劾裁判も、法律上の争訟を判断する裁判の一種であるから、比例原則に則した判断によって法的正義を実現する場に他ならない。弾劾裁判は、罷免か不罷免の二者択一の判決しかなし得ず、しかも、罷免判決は、裁判官としての地位のみならず、法曹資格をも奪う絶大な効果を伴うものであること、また問題を起こした裁判官への対処法としてほ、分限裁判に基づく懲戒制度や10年の任期毎に行われる再任審査において、裁判官としての適格性を判断しているのであるから、比例原則に照らせば、その行使には謙抑性が求められる。そうすると、比例原則に照らせば、弁護士会の懲戒処分のうち最も重い除名処分と釣り合う必要がある。
以上の弁護人の主張を検討すると、確かに処分対象となる行為と受ける不利益処分との均衡は一定程度考慮すべきである。
 しかし、既に述べたとおり、裁判官という地位には、もともと裁判官に望まれる品位を辱める行為をしてはならないという倫理規範が内在している(裁判所法49条)のであり、憲法上、検察官や弁護士よりも身分が厚く保障されていることから、常に高い品性の陶冶に努め、在野法曹として「基本的人権を擁護」する重責を担う弁護士(弁護士法1条1項)よりも、より厳格な倫理規範が求められる。
 よって、弁護士の懲戒事由と必ずしも同列に論じる必要はないと判断した。
 2 過去の弾劾裁判例や訴追猶予事案との均衡を欠くこと
 弁護人は、過去の弾劾裁判例や訴追猶予事案と比較し、均衡を保つことが法的正義に適うとも主張するが、本件ではSNSによる投稿が訴追事由を構成する主たる要素となっており、過去には例を見ない事案である。
したがって、過去の弾劾裁判例や訴追猶予事案を比較の対象とすることはできないと判断した。
 3 最高裁判所が訴追請求していないこと
 弾劾法15条3項は、「最高裁判所は、裁判官について、弾劾による罷免の事由があると思料するときは、訴追委員会に対し罷免の訴追をすべきことを求めなければならない。」として最高裁に法的義務を課しているところ、本件については最高裁から訴追委員会に訴追請求していないことを重視すべきであるとも、弁護人は主張する。
 しかし、弾劾法15条1項は「何人も」裁判官について弾劾による罷免の事由があるときは訴追請求することができるとも定めており、過去には最高裁からの訴追請求がない事案について罷免判決をした例もある。
そうすると、理論的には最高裁が訴追請求していない事案についでも、弾劾裁判所の判断で罷免判決をすることができることになる。この点、山元証人も「ここは微妙なデリケートな問題が含まれていますけれども、最高裁判所が訴追請求しなかったから罷免にしてはいけないというルールが別にあるわけではないですし、それが絶対的な意味を持つことは弾劾裁判制度の趣旨そのものを裏切ることにもなります。」と最高裁からの訴追請求が罷免の絶対条件であるとは述べていない。
 したがって、最高裁からの訴追請求がなされていないことは、罷免判決を行うに際して支障とはならないと判断した。
 4 「国民の信頼を害した」事実は何ら立証されていないこと
弁護人は、被訴追者のSNS上での投稿等の一部が不法行為を構成するとしても、このことが直ちに「司法に対する国民の信頼」を害したことになるわけではなく、「国民の信頼を害した」事実は何ら立証されていないとも主張する。
 確かに「司法に対する国民の信頼」を害したという事実を客観的に証明することは困難とも言える。しかし、先にも同様の趣旨を述べたとおり、裁判官の身分が手厚く保障されていること(憲法76条3項、78条等)及び公務員の罷免が究極的には国民の権利であると宣言されていること(同法15条1項)との調和の観点から、我が国では裁判官の弾劾裁判を行うために、国民の代表である国会議員の中から選ばれた裁判員によって組織される特別の裁判所を制度として設置したのである(同法64条)。そうすると、最終的には、「司法に対する国民の信頼」を害したかどうかの認定は、その時々の弾劾裁判所を構成する裁判員の良識に依存することとなるが、それは制度上、想定されていることである。
 したがって、「国民の信頼を害した」事実につき立証の程度や方法をどのように考えるかは、時の弾劾裁判所の裁量に属する事項であって、通常の要証事実のような立証責任は問題にならないと判断した。
 第7 結論
 当裁判所は、前記争点等について、裁判員による評議等を慎重に行なったところ、様々な観点から真摯な議論や意見提出がなされ、例えば、特定の学説に依拠した上で、事実関係の一体性を認めるべきでない、被訴追者の心療的特徴やその反省に基づく再任辞退を考慮すれば、罷免には一定の疑問が残る等の少数意見があった。しかし、結論的には、被訴追者による刑事事件投稿等行為群(③⑩を除く。)につき、弾劾法31条2項但書に基づき、本件審理に関与した裁判員の3分の2以上の多数意見により、同法2条2号を適用して被訴追者を罷免することとし、主文のとおり判決する。」