最高裁平成元年1月23日集刑251号13頁・刑訴百選【11】72事件(接見制限と自白)

1 はじめに

 本判例は、弁護人との接見交通権の制限を含めて検討しても自白の任意性に疑いがないとされた事例判例です。

2 前提となる知識

憲法38条2項
強制、拷問若しくは脅迫による自白又は不当に長く抑留若しくは拘禁された後の自白は、これを証拠とすることができない。
刑訴法319条1項
強制、拷問又は脅迫による自白、不当に長く抑留又は拘禁された後の自白その他任意にされたものでない疑のある自白は、これを証拠とすることができない。

3 問題の所在

 違法な接見指定等により接見が制限された場合に、自白法則を適用できるかが問題となりました。

4 判旨

 「一 被告人A、同B、同C、同D、同E、同F、同G、同H、同I、及び同Jの弁護人K外五名の上告趣意について
 所論は、判例違反をいう点を含め、その実質は事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
 二 被告人A及び同Cの弁護人K、同L、同Mの上告趣意について
 所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
 三 被告人B、同I及び同Jの弁護人K、同Nの上告趣意について
  1 被告人Bの自白調書に関する憲法違反の主張について
 所論は、贈収賄事件に関する被告人Bの自白調書を証拠とするのは憲法三一条、三四条、三八条に違反するという。そこで検討するに、原判決の認定によれば、昭和四一年一二月二日当時、同被告人に対しては詐欺被告事件の勾留と恐喝被疑事件の勾留が競合していたが、同日は、担当検察官が余罪である贈収賄の事実を取り調べていたところ、同被告人は、午後四時二五分から四時四五分まで弁護人Pと接見した直後ころ、右贈収賄の事実を自白するに至ったものであり、また、同日以前には、一一月三〇日に弁護人Qと同Pが、一二月一日に弁護人Rと同Kがそれぞれ同被告人と接見していたというのである。他方、記録によれば、K弁護人は、一二月二日午後四時三〇分ころ同被告人との接見を求めたところ、担当検察官が取調中であることを理由にそれを拒んだため接見できず、その後同日午後八時五八分から五〇分間同被告人と接見したことが認められるものの、前記のように、右自白はP弁護人が接見した直後になされたものであるうえ、同日以前には弁護人四名が相前後して同被告人と接見し、K弁護人も前日に接見していたのであるから、接見交通権の制限を含めて検討しても、右自白の任意性に疑いがないとした原判断は相当と認められる。したがって、憲法違反をいう所論は、前提を欠き、適法な上告理由に当たらない。
  2 その余の主張について
 所論のうち、被告人I及び同Jの各自白調書に関して憲法三八条違反をいう点は、記録によれば、所論指摘の右各自白調書に任意性があるとした原判決は相当であるから、所論は前提を欠き、憲法三七条一項違反をいう点は、記録上認められる本件事案の内容、審理経過等に徴すれば、本件審理が著しく遅延したとは認められないから、所論は前提を欠き、判例違反をいう点は、原判決の認容に沿わない事実関係を前提とするものであり、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
 四 被告人Bの弁護人Sの上告趣意について
 所論は、憲法違反をいう点を含め、その実質は事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
 五 被告人D、同E、同F、同G及び同Hの弁護人Qの上告趣意について
 所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
 六 被告人Eの弁護人T、同Uの上告趣意について
 所論は、憲法違反、判例違反をいうが、その実質は単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
 七 被告人Vの弁護人Kの上告趣意について
 所論は、事実誤認、単なる法令違反の主張であって、適法な上告理由に当たらない。
 よって、刑訴法四一四条、三八六条一項三号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。」

5 解説(判例タイムズ689号276頁)

 「一、本件の事実関係は本決定に記載されているが、原判決を参考にしながら捜査経過を整理すると、以下のようなものとなる。
 すなわち、問題となった昭和41年12月2日当時、被告人甲に対しては、(1)詐欺被告事件による起訴後の勾留と、(2)恐喝被疑事件による起訴前の勾留が競合していた。
同日、検察官が余罪である(3)贈収賄事件について任意の取調べを行っていたところ、甲が「弁護士に会ってから話す。」と自白をほのめかしたため、検察官は、午後3時か4時ころに接見を求めてきた弁護人Aに対し接見指定を行い、同弁護人が午後4時25分から20分間甲と接見した。
甲はその直後から贈収賄事件の自白を始めた。
ところが、検察官は、同日午後4時半ころ、弁護人Bが甲との接見を求めたのに対しては、取調中であることを理由にそれを拒否したため、同弁護人が甲と接見できたのは、検察官が取調べを終えた後である午後8時58分から50分間であった。
 なお、そのころの甲と弁護人らとの接見状況をみると、11月30日に弁護人AとCが、12月1日に弁護人BとDが接見しているほか、問題となっている12月2日には、弁護人AとBが接見し、その後の5日に弁護人Cが接見したことが認められる。
 二、ところで、接見交通権の侵害があった場合の自白調書の証拠能力については、(1)任意性の有無にかかわらず、手続違反を理由に証拠の許容性を否定する違法排除説、(2)違法に収集された証拠物の証拠排除についての判例の考え方を応用して、弁護権侵害の程度が重大で、弁護権を保障した趣旨を没却させるに等しいほど高度な違法性がある場合には、違法収集証拠として証拠の許容性を失うが、その程度に至らない侵害の場合は、任意性の有無の判断資料になるにとどまるとする重大違法排除説、(3)任意性の有無を判断する際の一事情とする任意性説などに分かれるようである。
 最高2小判昭28・7・10刑集7巻7号1474頁は、弁護人との接見時間を2、3分に制限したのは不当であるものの、右のような不当な措置や、弁護人との接見の際に警察官が立ち会ったという所論指摘の事実があったとしても、直ちに自白の任意性に疑いがあるとは断定できないから、任意性の有無はそれらの事由とはかかわりなく、その自白をした当時の情況に照らして判断すべきであるとしている。
右判断は、接見交通権の不当な侵害が他の事情と相まって任意性に影響を及ぼす場合のあることを認めるものと理解すべきであろう(定塚脩・刑事判例評釈集15巻214頁、所一彦・刑訴法判例百選14頁ほか)。
もっとも、どのような場合に接見交通権の侵害が任意性に疑いを生じさせるのか、明らかでないが、接見交通権の侵害によって、被疑者の自由な意思決定が侵害されたと認められる場合には、任意性が否定されることになろう。
 三、本決定は、担当検察官が余罪の取調中であることを理由に弁護人Bとの接見を拒んだことを考慮しても、被告人の自白が弁護人Aとの接見の直後になされたものであること、当時、4名の弁護人が相前後して接見し、弁護人Bも前日には接見していたことなどの事情に照らし、任意性が認められるとしたものである。
接見交通権の制限が任意性に影響する場合のあることを前提としながらも、当該事案では任意性が認められるとしたものである。
なお、本件においては、同じころ別個に接見を求めてきた2名の弁護人につき、担当検察官が、独自の判断で、1名の弁護人と接見させながら、他の弁護人との接見を拒否したようであるが、そのような措置が相当でないことはいうまでもない。
 この点に関する文献としては、谷口敬一「弁護権侵害による自白」本誌397号30頁、河上和雄「弁護権侵害により得た自白」警察学論集34巻9号134頁、田宮裕「弁護人選任権の侵害と自白」証拠法大系II 185頁、泉山禎一「弁護人との接見制限と自白」同一94頁等がある。」