広島高裁令和5年10月31日令和5年(う)第16号(詐欺幇助被告事件・判例秘書:L07820414・中立的行為と幇助)

 本裁判例は、IP電話回線利用サービスの提供について幇助行為性及び幇助の故意が争われた詐欺幇助被告事件において、これらをいずれも認めて被告人を有罪とした原判決の事実認定が是認された事例です。いわゆる中立的行為について幇助犯(刑法62条1項)が成立するかが問題となりました。

 裁判例を引用します。

 「本件控訴の趣意は、弁護人望月賢司(主任)及び同富本洋正共同作成の控訴趣意書に記載のとおりであるからこれを引用するが、論旨は、被告人に詐欺幇助罪の共同正犯が成立すると認定した原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というものである(なお、弁護人は、当審第1回公判期日において、控訴趣意書中、審理不尽とあるのはこれを理由とする事実誤認をいうものであり、また、罪刑法定主義違反とあるのは具体的な主張内容としては事実誤認をいうものであるから、控訴理由としては全体として事実誤認を主張するものである旨釈明した。)。
 そこで、記録を調査して検討する。
1 原判決の判断概要等
 (1) 原判決が認定した罪となるべき事実の要旨は、IP電話回線貸出販売業等を営むA合同会社(以下単に「A」という。)の従業員として同社の業務全般に従事していた被告人が、①氏名不詳者らにおいて、共謀の上、令和2年1月29日頃から同年4月28日頃までの間、広島市内にいた男性にIP電話回線を利用して電話をかけるなどし、同人に対し、現金を交付すれば運用による利益の配当が受けられるなどとうそを言ってその旨誤信させ、氏名不詳者らが管理する預貯金口座に現金合計42万1410円を振込入金させて騙し取った際、上記犯行に使用されることを知りながら、Aの経営者であるBと共謀の上、これに先立つ同年1月7日頃から同年4月28日頃までの間、東京都内又はその周辺において、氏名不詳者らに対し上記IP電話回線利用サービスを提供して利用させ、②氏名不詳者らにおいて、共謀の上、同年6月20日頃から同年8月26日頃までの間、高知市内にいた女性にIP電話回線を利用して電話をかけるなどし、同人に対し、上記同様のうそを言ってその旨誤信させ、氏名不詳者らが管理する預金口座に現金合計792万円を振込入金させて騙し取った際、上記犯行に使用されることを知りながら、B及びAの代表社員であるCと共謀の上、これに先立つ同年5月上旬頃から同年8月26日頃までの間、東京都内又はその周辺において、氏名不詳者らに対し上記IP電話回線利用サービスを提供して利用させ、③氏名不詳者らにおいて、共謀の上、同年10月12日頃及び同月13日頃、広島県福山市内にいた男性にIP電話回線を利用して電話をかけ、同人に対し、アプリの年会費等の未納料金をすぐに支払う必要があり、示談金を支払えば大事になることはないなどとうそを言ってその旨誤信させ、氏名不詳者らが管理する預金口座に現金合計129万8800円を振込入金させた際、上記犯行に使用されることを知りながら、B及びCと共謀の上、これに先立つ同年9月3日頃から同年10月13日頃までの間、東京都内又はその周辺において、氏名不詳者らに対し上記IP電話回線利用サービスを提供して利用させ、もって、氏名不詳者らの上記①ないし③の各犯行を容易にしてこれを幇助した、というものである。
 (2) 原判決は、本件において氏名不詳者らにIP電話回線利用サービスを提供して利用させる行為は、氏名不詳者らによる本件特殊詐欺の実行行為を物理的に容易にするものであり、相当因果関係が認められるとした上で、Aの経営に携わっていたBは、Aが、数年にわたり、業務指導を受けたり、全国の警察から捜査関係事項照会や捜索を受けたりして、Aが提供したIP電話回線利用サービスが特殊詐欺を含む犯罪行為に多数利用されている事実を認識していた中、Aでは、あえて契約書を作成せず、本人確認も行わずにIP電話回線利用サービスの提供行為を行い、契約書が存在するものについても問題がみられ、捜査関係事項照会への回答のための帳尻合わせ等として事後的に虚偽名義の契約書を作成することを繰り返していたのであるから、Aにおいては、特殊詐欺を含む犯罪行為に利用される事態を容認し、意図的に実際の契約者を特定することが困難な形でIP電話回線利用サービスの提供行為を行っていたと指摘して、Aが行っていたそのような提供行為は、本犯により一方的に犯罪に利用された価値中立的な行為とみるべきではなく、本件における提供行為もその一環であって、幇助行為と評価すべきものであり、Bに幇助の未必的な故意も認められるとし、Aに入社後、その業務全般に従事していた被告人も、上記Aの業務の実態を理解していたと考えられるから、幇助犯の成立を制限すべき事情はなく、未必的な故意も認められるとの判断を示したものである。
 (3) このように、Aが行っていたIP電話回線利用サービスの提供行為は、契約者の本人確認を求める法の趣旨に反し、意図的に実際の契約者を特定することを困難にさせる形態で行われていたものであり、これを利用した特殊詐欺等の犯罪の遂行を容易にするものであるから、特殊詐欺等の犯罪行為に利用される可能性が高く、正犯による犯行を惹起する危険性が高いものであったということができ、実際にAが提供したIP電話回線の多くが特殊詐欺に使用されている事実によって裏付けられているのであって、被告人らは、多数の捜査関係事項照会や詐欺を理由とする解約依頼を受け、また、捜索等が行われることにより上記危険性を認識している中で、意図的に実際の契約者を特定することが困難な形での回線提供行為を続けていたのである。
   原判決の事実認定等は相当として是認することができ、その認定判断に論理則・経験則等に照らし不合理なところは認められない。
 2(1) 所論は、Aの事業は、電気事業法が第二種通信事業として予定し世の中で広く展開されている回線再販業であり、被告人らは、大手キャリアと基本的に同一の立場で同一の認識のもとに稼働していたのであって、もとより詐欺の実行には何ら関与しておらず詐欺被害からの利益も得ていないのであるから、被告人らの行為は客観的に詐欺幇助行為とみることはできないのに、原判決は、我が国におけるIP電話回線の再販業務の実際について審理を尽くさなかった結果、この点を正しく理解しないまま誤った判断をしており、また、本人確認が甘かったことを非難するのであれば本人確認義務を定めた関係法令の罰則で対処すべきであって、被告人らのようなIP電話回線の提供業者に詐欺幇助罪を適用することは公正な判断ではないなどというのである。
    しかしながら、原判決は、IP電話回線が特殊詐欺等に利用されていることから、IP電話回線を提供する再販業務一般について詐欺幇助に該当すると説示しているわけではなく、被告人らが意図的に実際の契約者を特定することが困難な形態でIP電話回線利用サービスの提供行為を行っていたという事実関係を認定し、これをもって幇助行為と評価すべきものであると判断しているのである。被告人らは、契約者の本人確認が求められている回線再販業において、数年にわたり、全国の警察から捜査関係事項照会を受けたり捜索を受けたりして、Aが提供したIP電話回線利用サービスが特殊詐欺を含む犯罪行為に多数利用されている事実を認識していた中、なおも本人確認を求める法の趣旨に反し、そのような業務形態をもって、特殊詐欺等の犯罪に利用される可能性の高いIP電話回線利用サービスの提供を意図的に行っていたと認められるのであるから、被告人らの業務及びそれがもたらした結果と、法を遵守し契約者の本人確認を適正に行っている一般の回線再販業者について、その提供に係るIP電話回線が犯罪に利用された場合とを同列に論じることはできないというべきである。所論は原判決の判断を的確に論難するものとはいえない。
  (2) また、所論は、被告人らが捜査関係事項照会を受けるなどしていたことからすれば、Aが提供したIP電話回線が何らかの犯罪行為に使用されるかもしれないという程度の認識を抱く可能性はあり得るが、被告人らは、捜査機関の依頼には直ちに応じて強制解約するなど詐欺被害を防ぐ積極的な行為に出ており、顧客が詐欺犯であっても一般の使用料以上の対価を得ていなかったことからしても、それが詐欺に使用されることを意欲したり、認容したりしていたと認めることはできないから、原判決が詐欺幇助の故意を認定したことは誤りであるというのである。
    しかしながら、電話を使用した犯罪として特殊詐欺等の事件が多発して社会問題化していることは周知の事実であるところ、被告人らは、従前から業務指導を受けていただけでなく、多数の捜査関係事項照会や詐欺事件に利用されたことを理由とする解約依頼を繰り返し受け、詐欺事件による捜索も何度となく行われていたにもかかわらず、本人確認を徹底するなどといった根本的な対策や業務内容の見直しなどの対応を何らとることなく、実際の契約者を特定することが困難な形態での回線提供を続けていたのであるから、被告人らは、意欲などしていなかったにしても、提供する回線が詐欺等の犯罪行為に利用されることを少なくとも認容していたことは明らかというべきである。捜査機関の依頼に直ちに対応していたことや問題のある顧客に対しても一般の使用料以上の対価を得ていなかったことなど所論の指摘する事情は、詐欺幇助の故意を認定した原判決の判断を左右するまでの事情とはいえない。
  (3) また、所論は、原判決には、一般的可能性を超える具体的な特殊詐欺等への犯罪使用状況についての指摘はなく、被告人らが例外的とはいえない範囲の者がそれを特殊詐欺に利用する蓋然性が高いことを認識・認容していたとまで認めることは困難であり、このことからも被告人には詐欺幇助の故意に欠けるというべきであり、さらに、所論は、原判決はAが第三者に提供したIP電話回線の犯罪利用率が高いから許されないとの判断をしており、有罪無罪の境界を結果的に犯行に利用された割合で決定することは罪刑法定主義に違反するなどともいうのである。
    しかしながら、原判決は、前述したとおり、被告人らが提供したIP電話回線利用サービスが特殊詐欺を含む犯罪行為に多数利用されている状況に関して、現に捜査関係事項照会や捜索を受け、そのような状況にあることを被告人らも認識していたにもかかわらず、あえて契約書を作成せず本人確認も行わずにIP電話回線利用サービスの提供行為を続けていたことなどから、Aにおいては、特殊詐欺を含む犯罪行為に利用される事態を容認し、意図的に実際の契約者を特定することが困難な形でIP電話回線利用サービスの提供行為を行っていたといえ、被告人らに詐欺幇助犯の未必的な故意が認められるとの判断を示しているのであって、その判断の前提あるいは具体的な裏付けとなる事実として、Aが提供したIP電話回線のうち一定範囲のものについて、特殊詐欺に使用されたことが確認されたものの割合や、不正利用が疑われるものの割合を指摘しているのである。このような原判決の判断内容に照らせば、一般的可能性を超える具体的な特殊詐欺等への犯罪使用状況、例外的とはいえない範囲の者がそれを特殊詐欺に利用する蓋然性等といった抽象的な観点から原判決の判断を論難する所論の指摘は当を得たものとはいえず、もとより、原判決が有罪無罪の境界を結果的に犯行に利用された割合で決定するといった判断の仕方をしているものでないことは明らかというべきである。
 3 以上のとおり、所論はいずれも採用することができないのであって、被告人らのIP電話回線利用サービスの提供行為を詐欺幇助行為と評価し、被告人らに詐欺幇助の故意を認めた原判決の判断に誤りはなく、被告人に詐欺幇助罪の共同正犯が成立すると認定した原判決に事実の誤認があるとは認められない。
   論旨は理由がない。
  よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとして、主文のとおり判決する。」

 中立的行為と幇助に関しては、最高裁平成23年12月19日刑集65巻9号1380頁・刑法百選Ⅰ【8版】89事件・Winny事件(以下「Winny事件」といいます。)がすでに判例としてあります。

 Winny事件は以下のように判断しています。

 「(1) 刑法62条1項の従犯とは,他人の犯罪に加功する意思をもって,有形,無形の方法によりこれを幇助し,他人の犯罪を容易ならしむるものである(最高裁昭和24年(れ)第1506号同年10月1日第二小法廷判決・刑集3巻10号1629頁参照)。すなわち,幇助犯は,他人の犯罪を容易ならしめる行為を,それと認識,認容しつつ行い,実際に正犯行為が行われることによって成立する。原判決は,インターネット上における不特定多数者に対する価値中立ソフトの提供という本件行為の特殊性に着目し,「ソフトを違法行為の用途のみに又はこれを主要な用途として使用させるようにインターネット上で勧めてソフトを提供する場合」に限って幇助犯が成立すると解するが,当該ソフトの性質(違法行為に使用される可能性の高さ)や客観的利用状況のいかんを問わず,提供者において外部的に違法使用を勧めて提供するという場合のみに限定することに十分な根拠があるとは認め難く,刑法62条の解釈を誤ったものであるといわざるを得ない。
 (2) もっとも,Winnyは,1,2審判決が価値中立ソフトと称するように,適法な用途にも,著作権侵害という違法な用途にも利用できるソフトであり,これを著作権侵害に利用するか,その他の用途に利用するかは,あくまで個々の利用者の判断に委ねられている。また,被告人がしたように,開発途上のソフトをインターネット上で不特定多数の者に対して無償で公開,提供し,利用者の意見を聴取しながら当該ソフトの開発を進めるという方法は,ソフトの開発方法として特異なものではなく,合理的なものと受け止められている。新たに開発されるソフトには社会的に幅広い評価があり得る一方で,その開発には迅速性が要求されることも考慮すれば,かかるソフトの開発行為に対する過度の萎縮効果を生じさせないためにも,単に他人の著作権侵害に利用される一般的可能性があり,それを提供者において認識,認容しつつ当該ソフトの公開,提供をし,それを用いて著作権侵害が行われたというだけで,直ちに著作権侵害の幇助行為に当たると解すべきではない。かかるソフトの提供行為について,幇助犯が成立するためには,一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり,また,そのことを提供者においても認識,認容していることを要するというべきである。すなわち,ソフトの提供者において,当該ソフトを利用して現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,その公開,提供を行い,実際に当該著作権侵害が行われた場合や,当該ソフトの性質,その客観的利用状況,提供方法などに照らし,同ソフトを入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が同ソフトを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められる場合で,提供者もそのことを認識,認容しながら同ソフトの公開,提供を行い,実際にそれを用いて著作権侵害(正犯行為)が行われたときに限り,当該ソフトの公開,提供行為がそれらの著作権侵害の幇助行為に当たると解するのが相当である。
 (3) これを本件についてみるに,まず,被告人が,現に行われようとしている具体的な著作権侵害を認識,認容しながら,本件Winnyの公開,提供を行ったものでないことは明らかである。
    次に,入手する者のうち例外的とはいえない範囲の者が本件Winnyを著作権侵害に利用する蓋然性が高いと認められ,被告人もこれを認識,認容しながら本件Winnyの公開,提供を行ったといえるかどうかについて検討すると,Winnyは,それ自体,多様な情報の交換を通信の秘密を保持しつつ効率的に行うことを可能とするソフトであるとともに,本件正犯者のように著作権を侵害する態様で利用する場合にも,摘発されにくく,非常に使いやすいソフトである。そして,本件当時の客観的利用状況をみると,原判決が指摘するとおり,ファイル共有ソフトによる著作権侵害の状況については,時期や統計の取り方によって相当の幅があり,本件当時のWinnyの客観的利用状況を正確に示す証拠はないが,原判決が引用する関係証拠によっても,Winnyのネットワーク上を流通するファイルの4割程度が著作物で,かつ,著作権者の許諾が得られていないと推測されるものであったというのである。そして,被告人の本件Winnyの提供方法をみると,違法なファイルのやり取りをしないようにとの注意書きを付記するなどの措置を採りつつ,ダウンロードをすることができる者について何ら限定をかけることなく,無償で,継続的に,本件Winnyをウェブサイト上で公開するという方法によっている。これらの事情からすると,被告人による本件Winnyの公開,提供行為は,客観的に見て,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高い状況の下での公開,提供行為であったことは否定できない。
 他方,この点に関する被告人の主観面をみると,被告人は,本件Winnyを公開,提供するに際し,本件Winnyを著作権侵害のために利用するであろう者がいることや,そのような者の人数が増えてきたことについては認識していたと認められるものの,いまだ,被告人において,Winnyを著作権侵害のために利用する者が例外的とはいえない範囲の者にまで広がっており,本件Winnyを公開,提供した場合に,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識,認容していたとまで認めるに足りる証拠はない。
 確かに,①被告人がWinnyの開発宣言をしたスレッド(以下「開発スレッド」という。)には,Winnyを著作権侵害のために利用する蓋然性が高いといえる者が多数の書き込みをしており,被告人も,そのような者に伝わることを認識しながらWinnyの開発宣言をし,開発状況等に関する書き込みをしていたこと,②本件当時,Winnyに関しては,逮捕されるような刑事事件となるかどうかの観点からは摘発されにくく安全である旨の情報がインターネットや雑誌等において多数流されており,被告人自身も,これらの雑誌を購読していたこと,③被告人自身がWinnyのネットワーク上を流通している著作物と推定されるファイルを大量にダウンロードしていたことの各事実が認められる。これらの点からすれば,被告人は,本件当時,本件Winnyを公開,提供した場合に,その提供を受けた者の中には本件Winnyを著作権侵害のために利用する者がいることを認識していたことは明らかであり,そのような者の人数が増えてきたことも認識していたと認められる。
 しかし,①の点については,被告人が開発スレッドにした開発宣言等の書き込みには,自己顕示的な側面も見て取れる上,同スレッドには,Winnyを著作権侵害のために利用する蓋然性が高いといえる者の書き込みばかりがされていたわけではなく,Winnyの違法利用に否定的な意見の書き込みもされており,被告人自身も,同スレッドに「もちろん,現状で人の著作物を勝手に流通させるのは違法ですので,βテスタの皆さんは,そこを踏み外さない範囲でβテスト参加をお願いします。これはFreenet系P2Pが実用になるのかどうかの実験だということをお忘れなきように。」などとWinnyを著作権侵害のために利用しないように求める書き込みをしていたと認められる。これによれば,被告人が著作権侵害のために利用する蓋然性の高い者に向けてWinnyを公開,提供していたとはいえない。被告人が,本件当時,自らのウェブサイト上などに,ファイル共有ソフトの利用拡大により既存のビジネスモデルとは異なる新しいビジネスモデルが生まれることを期待しているかのような書き込みをしていた事実も認められるが,この新しいビジネスモデルも,著作権者側の利益が適正に保護されることを前提としたものであるから,このような書き込みをしていたことをもって,被告人が著作物の違法コピーをインターネット上にまん延させて,現行の著作権制度を崩壊させる目的でWinnyを開発,提供していたと認められないのはもとより,著作権侵害のための利用が主流となることを認識,認容していたとも認めることはできない。また,②の点については,インターネットや雑誌等で流されていた情報も,当時の客観的利用状況を正確に伝えるものとはいえず,本件当時,被告人が,これらの情報を通じてWinnyを著作権侵害のために利用する者が増えている事実を認識していたことは認められるとしても,Winnyは著作権侵害のみに特化して利用しやすいというわけではないのであるから,著作権侵害のために利用する者の割合が,前記関係証拠にあるような4割程度といった例外的とはいえない範囲の者に広がっていることを認識,認容していたとまでは認められない。③の被告人自身がWinnyのネットワーク上から著作物と推定されるファイルを大量にダウンロードしていた点についても,当時のWinnyの全体的な利用状況を被告人が把握できていたとする根拠としては薄弱である。むしろ,被告人が,P2P技術の検証を目的としてWinnyの開発に着手し,本件Winnyを含むWinny2については,ファイル共有ソフトというよりも,P2P型大規模BBSの実現を目的として開発に取り組んでいたことからすれば,被告人の関心の中心は,P2P技術を用いた新しいファイル共有ソフトや大規模BBSが実際に稼動するかどうかという技術的な面にあったと認められる。現に,Winny2においては,BBSのスレッド開設者のIPアドレスが容易に判明する仕様となっており,匿名性機能ばかりを重視した開発がされていたわけではない。そして,前記のとおり,被告人は,本件Winnyを含むWinnyを公開,提供するに当たり,ウェブサイト上に違法なファイルのやり取りをしないよう求める注意書を付記したり,開発スレッド上にもその旨の書き込みをしたりして,常時,利用者に対し,Winnyを著作権侵害のために利用することがないよう警告を発していたのである。
 これらの点を考慮すると,いまだ,被告人において,本件Winnyを公開,提供した場合に,例外的とはいえない範囲の者がそれを著作権侵害に利用する蓋然性が高いことを認識,認容していたとまで認めることは困難である。
 (4) 以上によれば,被告人は,著作権法違反罪の幇助犯の故意を欠くといわざるを得ず,被告人につき著作権法違反罪の幇助犯の成立を否定した原判決は,結論において正当である。」

 Winny事件は、「刑法62条1項の従犯とは,他人の犯罪に加功する意思をもって,有形,無形の方法によりこれを幇助し,他人の犯罪を容易ならしむるものである(最高裁昭和24年……10月1日第二小法廷判決・刑集3巻10号1629頁参照)。すなわち,幇助犯は,他人の犯罪を容易ならしめる行為を,それと認識,認容しつつ行い,実際に正犯行為が行われることによって成立する。」としたうえで、「かかるソフトの提供行為について,幇助犯が成立するためには,一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり,また,そのことを提供者においても認識,認容していることを要する」という規範を定立しています。

 本裁判例は、被告人が「全国の警察から捜査関係事項照会や捜索を受けたりして、Aが提供したIP電話回線利用サービスが特殊詐欺を含む犯罪行為に多数利用されている事実を認識していた」こと等を重視し、Winny事件の示した「一般的可能性を超える具体的な侵害利用状況が必要であり,また,そのことを提供者においても認識,認容している」という規範にあてはめ、幇助犯が成立するとした原審の判断を是認しています。

 本裁判例は、中立的行為と幇助に関する一事例として参考になると思われます。