最高裁令和6年10月16日集民271号147頁・重要判例解説令和6年度民訴4事件(文書提出命令に対する抗告審の変更決定に対する許可抗告事件・刑事関係文書の法律関係文書の該当性及び提出義務の有無)
本判例は、検察官が被疑者として取り調べた者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体が,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当するとして文書提出命令の申立てがされた場合に,刑訴法47条に基づきその提出を拒否した上記記録媒体の所持者である国の判断が,裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとされた事例判断です。
法廷意見のみ判例を引用します。
https://www.courts.go.jp/hanrei/93424/detail2/index.html
「抗告代理人中村和洋、同渡邉春菜の抗告理由について
1 抗告人は、複数の者が共同して実行したとされる学校法人明浄学院を被害者とする大阪地方検察庁の捜査に係る業務上横領事件(刑訴法301条の2第1項3号に掲げる事件。以下「本件横領事件」という。)の被疑者の1人として逮捕、勾留され、本件横領事件について起訴されたが、無罪判決(以下「本件無罪判決」という。)を受け、これが確定した者である。本件の本案訴訟(大阪地方裁判所令和4年(ワ)第2537号損害賠償請求事件。以下「本件本案訴訟」という。)は、抗告人が、上記の逮捕、勾留及び起訴が違法であるなどと主張して、相手方に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償を求めるものである。
本件は、抗告人が、検察官がAを本件横領事件の被疑者の1人として取り調べる際にAの供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体(以下「本件記録媒体」という。)等について、民訴法220条3号所定の「挙証者と文書の所持者との間の法律関係について作成されたとき」(以下、同号のこの部分を「民訴法220条3号後段」といい、この場合に係る文書を「法律関係文書」という。)に該当するなどと主張して、文書提出命令の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。本件では、本件記録媒体であって相手方が所持するもののうち、抗告人に係る本件横領事件の公判(以下「本件刑事公判」という。)において取り調べられなかった別紙目録記載の部分(以下、この部分を「本件公判不提出部分」、本件刑事公判において取り調べられた部分を「本件公判提出部分」といい、両者を併せて「本件対象部分」という。)について、相手方が同号に基づく提出義務を負うか否かなどが争われている。
2 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
(1) 本件横領事件は、概要、明浄学院の理事長であったB、不動産の売買等を事業内容とする会社の代表取締役を務めていた抗告人及びAほか数名が、共謀の上、明浄学院を売主とする土地の売買契約の手付金として支払われた21億円をBが明浄学院のために業務上預かり保管中、これを同人らの用途に充てる目的で横領したというものであった。Bは、抗告人から第三者を通じて貸金18億円を受領し、これによって明浄学院の経営権を取得した後、上記手付金をもって上記貸金を返済したとされており、本件横領事件では、抗告人とB及びAらとの共謀の有無に関連して、抗告人が貸付先をB個人又は明浄学院のいずれと認識していたのかという点が問題となった。
Aは、本件横領事件の被疑者として、令和元年12月5日に逮捕され、同月6日に勾留されたところ、逮捕された後の当初の取調べでは、抗告人に対して上記貸金の貸付先がB個人であるとの説明はしておらず、その使途は明浄学院の再建費用であると説明した旨の供述をしていたが、同月9日以降の取調べでは、抗告人に対して貸付先がB個人であることを説明した旨の供述(以下「本件供述」という。)をするようになった。
抗告人は、本件横領事件の被疑者として、同月16日に逮捕され、同月17日に勾留された後、同月25日に本件横領事件について起訴された。本件刑事公判において、Aは、抗告人に対して貸付先がB個人であることを説明した旨の証言をしたが、その証言内容の信用性が争われ、本件記録媒体のうち同月9日の取調べに係る約50分間の部分(本件公判提出部分)が取り調べられた。令和3年10月28日に本件無罪判決が言い渡され、その理由中において、上記証言内容は信用することができない旨の判断が示された。
(2) ア抗告人は、令和4年3月、本件本案訴訟に係る訴えを提起した。
抗告人は、本件本案訴訟において、C検事が取調べ中にAを脅迫するなどの言動をしたため、AはC検事に迎合して虚偽の本件供述をするに至ったものであって、本件供述には信用性がなく、抗告人にはその逮捕当初から本件横領事件の嫌疑が認められない旨を主張し、C検事の上記言動のうち、非言語的要素(人の言動のうち、口調、声の大きさ、表情、身振り等の非言語的なものをいう。以下同じ。)として、大きな音が響き渡る強さで机を叩いたこと、Aを大声で怒鳴りつけたこと等を指摘し、相手方に本件記録媒体及びその反訳書面を証拠として提出することを求めた。これに対し、相手方は、逮捕当初は抗告人をかばう供述をしていたAが、C検事の説得によって真実である本件供述をするに至ったと評価することが十分可能であるなどと主張し、本件記録媒体の一部分の反訳書面(以下「本件反訳書面」という。)を証拠として提出したが、本件記録媒体は提出しないとの意向を示した。なお、本件反訳書面には、C検事の言動のうち非言語的要素についても、その一部を言語的に表現したものが記載されている。
抗告人は、同年12月、本件申立てをした。抗告人は、本件対象部分により証明すべき事実について、C検事のAに対する取調べの具体的状況及び内容(以下「本件要証事実」という。)であるとしている。
イ 抗告人は、本件申立てに先立ち、Aが本件供述をしたこと等により抗告人をえん罪に陥れたなどと主張して、Aに対し、不法行為に基づく損害賠償を求める訴えを提起した。令和5年3月、上記訴えに係る訴訟において、抗告人とAとの間で、Aが、本件本案訴訟において本件記録媒体が証拠採用されることを前向きに検討し、反対しないことを確認し、抗告人が、本件記録媒体中のAの顔にモザイクをかけ、声を加工し、プライバシー情報を出さず、報道機関に実名報道を避ける旨を申し入れるなど、Aのプライバシーの保護に最大限配慮することを確認すること等を内容とする訴訟上の和解(以下「本件和解」という。)が成立した。
(3) 原々審は、令和5年9月、相手方に本件対象部分の提出を命じ、その余の本件申立てを却下する決定(原々決定)をした。原々審は、本件公判不提出部分の取調べの必要性について、本件供述の信用性の判断においては、C検事の言動のうち非言語的要素も重要であり、これが客観的に記録されている本件公判不提出部分は、本件要証事実との関係で最も適切な証拠であって、本件反訳書面や人証によって代替することは困難であるから、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いとした。
相手方は、原々決定に対し、即時抗告をした。
3 原審は、相手方に本件公判提出部分の提出を命ずべきものとする一方、要旨次のとおり判断し、本件申立てのうち本件公判不提出部分に係る部分を却下した。
抗告人は、本件刑事公判において本件記録媒体の複製物の提供を受け、これによりAの取調べにおけるC検事の言動を把握した上で、本件本案訴訟において上記言動について具体的な主張立証を行っているところ、抗告人の主張するC検事の言動について、相手方はおおむね争わないとしており、当事者間に争いがあるのは、重要とはいい難いものを除けば、C検事がAを恫喝したかどうかといった発言内容が重視されるものに限られる上、これについても本件公判提出部分や本件反訳書面を取り調べることによって推認することができるから、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いものではない。また、本件公判不提出部分が本件本案訴訟において提出された場合には、これが抗告人側から報道機関等を通じて広く公開される可能性があるところ、Aが本件和解によって本件記録媒体に含まれる自己の名誉やプライバシーといった権利利益の全部を真意に基づいて放棄したなどとみることはできず、本件公判不提出部分が提出されることによってAの名誉、プライバシーが侵害されるおそれがないとはいえない。以上に照らすと、本件公判不提出部分の提出を拒否した相手方の判断が、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用したものとまではいえない。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
(1) 本件の経緯に照らせば、本件供述は、抗告人が本件横領事件について逮捕、勾留及び起訴されるに当たり、その主要な証拠と位置付けられていたということができるところ、本件公判不提出部分は、検察官のAに対する取調べの過程を客観的に記録したものであること等からすると、抗告人と相手方との間において、法律関係文書に該当するということができる。
(2) 刑訴法47条は、その本文において、「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。」と規定し、そのただし書において、「公益上の必要その他の事由があって、相当と認められる場合は、この限りでない。」と規定しているところ、本件公判不提出部分は、同条により原則的に公開が禁止される「訴訟に関する書類」に当たることが明らかである。
ところで、同条ただし書の規定によって「訴訟に関する書類」を公にすることを相当と認めることができるか否かの判断は、当該「訴訟に関する書類」が原則として公開禁止とされていることを前提として、これを公にする目的、必要性の有無、程度、公にすることによる被告人、被疑者及び関係者の名誉、プライバシーの侵害、捜査や公判に及ぼす不当な影響等の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情を総合的に考慮してされるべきものであり、当該「訴訟に関する書類」を保管する者の合理的な裁量に委ねられているものと解すべきである。そして、民事訴訟の当事者が、民訴法220条3号後段の規定に基づき、上記「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合においても、当該文書の保管者の上記裁量的判断は尊重されるべきであるが、当該文書が法律関係文書に該当する場合であって、その保管者が提出を拒否したことが、民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無、程度、当該文書が開示されることによる上記の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものであると認められるときは、裁判所は、当該文書の提出を命ずることができるものと解するのが相当である(最高裁平成15年(許)第40号同16年5月25日第三小法廷決定・民集58巻5号1135頁等参照)。このことは、当事者が提出を求めるものが、検察官の取調べにおける被疑者の供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体であったとしても異なるものではない。
(3)ア これを本件についてみると、本件本案訴訟においては、抗告人が、AはC検事がAを脅迫するなどの言動をしたためにC検事に迎合して虚偽の本件供述をした旨を主張するのに対し、相手方が、AはC検事の説得により真実である本件供述をしたと評価し得る旨を主張して、Aが本件供述をするに至ったことに対するC検事の言動の影響の有無、程度、内容等が深刻に争われている。しかるところ、本件公判不提出部分には、C検事の言動がその非言語的要素も含めて機械的かつ正確に記録されているのであるから、本件本案訴訟の審理を担当する原々審が、本件公判不提出部分は本件要証事実を立証するのに最も適切な証拠であり、本件反訳書面や人証によって代替することは困難であるとして、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いと判断したことには、一応の合理性が認められ、このような原々審の判断には相応の配慮を払うことが求められるというべきである。
原審は、抗告人が主張するC検事の言動のうち当事者間に争いがあるものは、発言内容が重視されるものに限られる上、当該言動についても本件公判提出部分や本件反訳書面の取調べにより推認することができるとして、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いものではないと判断している。しかしながら、Aが本件供述をするに至ったことに対するC検事の言動の影響の有無、程度、内容等を受訴裁判所が判断するに当たって検討の対象となるのは、抗告人の主張において言語的に表現されたC検事の個々の言動に限られるものではなく、証拠に現れるC検事の言動の全てが上記の検討の対象となるものである。そして、C検事の言動がその非言語的要素も含めて機械的かつ正確に記録された本件公判不提出部分は、C検事の言動について、本件反訳書面や人証と比較して、格段に多くの情報を含んでおり、また、より正確性が担保されていることが明らかであるし、本件公判提出部分を取り調べることによって、本件公判不提出部分に係るC検事の言動のうち本件反訳書面に現れていないものを検討する必要がなくなると解すべき事情もうかがわれない。そうすると、この点について、原審の上記判断は合理的なものとはいえない。
そして、上記のとおり、原々審の上記判断には相応の配慮を払うことが求められることも踏まえると、原々審の上記判断のとおり、本件公判不提出部分を取り調べる必要性の程度は高いとみるのが相当である。
イ また、抗告人とAとの間に本件和解が成立し、本件和解において、Aが本件記録媒体の証拠採用に反対せず、抗告人もAのプライバシーの保護に最大限配慮することを明確に合意しているなどの本件の事実関係の下では、本件公判不提出部分が本件本案訴訟において提出されること自体によって、Aの名誉、プライバシーが侵害されることによる弊害が発生するおそれがあると認めることはできない。これに加えて、本件横領事件に関与したとされる者のうち、抗告人については無罪判決が確定し、抗告人以外の者について捜査や公判が続けられていることもうかがわれないことからすれば、本件公判不提出部分が本件本案訴訟において提出されることによって、本件横領事件の捜査や公判に不当な影響を及ぼすおそれがあるとはいえないし、将来の捜査や公判に及ぼす不当な影響等の弊害が発生することを具体的に想定することもできない。
ウ 以上の諸事情に照らすと、本件公判不提出部分の提出を拒否した相手方の判断は、その裁量権の範囲を逸脱し、又はこれを濫用するものというべきである。
5 以上と異なる原審の前記3の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原決定のうち本件公判不提出部分に係る本件申立てを却下した部分は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、相手方に本件公判不提出部分の提出を命じた原々決定は正当であるから、上記部分につき相手方の抗告を棄却することとする。
なお、原々決定には明白な誤りがあるから、職権により主文第2項のとおり更正する。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。なお、裁判官三浦守、同草野耕一の各補足意見がある。」
刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書(以下「刑事関係文書」といいます。)については、民訴法220条4号ホにより文書提出命令の対象から除外されています。すなわち、民訴法220条柱書は「次に掲げる場合には、文書の所持者は、その提出を拒むことができない。」と規定し文書提出義務があることを原則とし、その例外として4号で「前3号に掲げる場合のほか、文書が次に掲げるもののいずれにも該当しないとき。」とし、ホで「刑事事件に係る訴訟に関する書類若しくは少年の保護事件の記録又はこれらの事件において押収されている文書」を挙げ、刑事関係文書を文書提出義務の例外としています。このように規定された理由は、①開示による捜査・公判への不当な影響、被告人・被害者等へのプライバシー等の重大な侵害等のおそれ、②刑事関係文書に関する刑事手続独自の開示制度(刑訴法47条等)の存在、③刑事関係文書は公務秘密文書(民訴法220条4号ロ)に類型的に該当する場合が多いところ、インカメラ手続(民訴法223条6項)が利用できず、かつ捜査関係資料を有しない裁判官が個別具体的事情を考慮することの困難性から一般義務文書から外されています(ジュリスト1210号173頁から175頁まで参照)。
刑事関係文書に対する文書提出命令に関する判例として、最高裁平成16年5月25日民集58巻5号1135頁・民訴百選【6版】67事件(以下「平成16年判例」といいます。)があります。この判例を読む前提として、刑訴法47条を確認しておく必要があります。刑訴法47条は「訴訟に関する書類は、公判の開廷前には、これを公にしてはならない。但し、公益上の必要その他の事由があつて、相当と認められる場合は、この限りでない。」としています。
判例法理は、刑事関係文書が①民訴法220条3号後段の法律関係文書に該当するか、該当する場合には②刑訴法47条本文が公開を禁止する「訴訟に関する書類」の例外に当たるかにつき、刑訴法47条ただし書きへの該当性の判断を行うとし、その該当性判断については基本的に文書保管者の判断が尊重されるものの裁量権の範囲を逸脱・濫用があれば文書の提出義務が認められるという判断枠組みによっています。
平成16年判例は、刑訴法47条本文の趣旨につき「同条本文が「訴訟に関する書類」を公にすることを原則として禁止しているのは,それが公にされることにより,被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシーが侵害されたり,公序良俗が害されることになったり,又は捜査,刑事裁判が不当な影響を受けたりするなどの弊害が発生するのを防止することを目的とするものであること」とただし書きの趣旨につき「同条ただし書が,公益上の必要その他の事由があって,相当と認められる場合における例外的な開示を認めていること」とそれぞれの趣旨を明確にし、「同条ただし書の規定による「訴訟に関する書類」を公にすることを相当と認めることができるか否かの判断は,当該「訴訟に関する書類」を公にする目的,必要性の有無,程度,公にすることによる被告人,被疑者及び関係者の名誉,プライバシーの侵害等の上記の弊害発生のおそれの有無等諸般の事情を総合的に考慮してされるべきものであり,当該「訴訟に関する書類」を保管する者の合理的な裁量にゆだねられている」としました。その上で、「民事訴訟の当事者が,民訴法220条3号後段の規定に基づき,刑訴法47条所定の「訴訟に関する書類」に該当する文書の提出を求める場合においても,当該文書の保管者の上記裁量的判断は尊重されるべきであるが,当該文書が法律関係文書に該当する場合であって,その保管者が提出を拒否したことが,民事訴訟における当該文書を取り調べる必要性の有無,程度,当該文書が開示されることによる上記の弊害発生のおそれの有無等の諸般の事情に照らし,その裁量権の範囲を逸脱し,又は濫用するものであると認められるときは,裁判所は,当該文書の提出を命ずることができるものと解するのが相当である」としました。
平成16年判例は、法律関係文書(民訴法220条3号後段)該当性について判断をしていません。これに続く最高裁平成17年7月22日民集59巻6号1837頁(以下「平成17年判例」)は「警察官が文書提出命令の申立人の住居等において行った捜索差押えに係る捜索差押許可状及び捜索差押令状請求書は,いずれも,当該警察官が所属し,上記各文書を所持する地方公共団体と文書提出命令申立人との間において,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当する」としました。最高裁平成19年12月12日民集61巻9号3400頁(以下「平成19年判例」といいます。)は「検察官が被疑者の勾留請求に当たって刑訴規則148条1項3号所定の資料として裁判官に提供した告訴状及び被害者の供述調書は,いずれも,上記各文書を所持する国と上記請求により勾留された者との間において,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当する」としました。最高裁令和2年3月24日民集74巻3号455頁(以下「令和2年判例」という。)は「文書提出命令の申立人の父の死体について司法警察職員から鑑定の嘱託を受けた者が当該鑑定のために必要な処分として裁判官の許可を受けてした当該死体の解剖の写真に係る情報が記録された電磁的記録媒体であって当該司法警察職員が所属する地方公共団体が所持するものは,当該地方公共団体と当該申立人との間において,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当する」としました。
本判例は、下記のように判断しました。
「刑事事件の被疑者の1人として逮捕,勾留され,上記刑事事件について起訴されたが,無罪判決を受けたXが,上記の逮捕,勾留及び起訴が違法であると主張して国家賠償を求める本案訴訟において,検察官がAを上記刑事事件の被疑者の1人として取り調べる際にAの供述及びその状況を録音及び録画を同時に行う方法により記録した記録媒体のうちXに係る上記刑事事件の公判において取り調べられなかった部分について,民訴法220条3号所定のいわゆる法律関係文書に該当することを理由として文書提出命令の申立てをした場合に,刑訴法47条に基づきその提出を拒否した上記部分の所持者である国の判断は,次の(1)~(3)など判示の事情の下では,その裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものである。
①上記本案訴訟においては,AがXとの共謀の有無に関連して従前と異なる供述をするに至ったことに対する検察官Bの言動の影響の有無,程度,内容等が深刻に争われているところ,その審理を担当する原々審は,上記部分がBのAに対する取調べの具体的状況及び内容を立証するのに最も適切な証拠であり,上記記録媒体の一部分の反訳書面や人証によって代替することは困難であるとして,上記部分を取り調べる必要性の程度が高いと判断した。
②Xが,Aに対し,Aが上記の供述をしたこと等によりXをえん罪に陥れたと主張して損害賠償を求める訴訟において,XとAとの間に訴訟上の和解が成立し,上記和解において,Aが上記記録媒体の証拠採用に反対せず,XもAのプライバシーの保護に最大限配慮することを明確に合意している。
③上記刑事事件に関与したとされる者のうち,Xについては無罪判決が確定し,X以外の者について捜査や公判が続けられていることもうかがわれない。」
本判例は、公判に提出しなかった文書(公判不提出文書)が法律関係文書に当たるとしたうえで裁量の逸脱濫用を判断するという判例法理の一事例として参考になると思われます。
なお、刑事裁判の公判に提出されたものに対する文書提出命令に関する裁判例として大阪高裁令和6年1月22日令和5年(ラ)第1152号(判例秘書:L07920034)は以下のように判断しています。
「刑事事件で無罪判決が確定した相手方(原審申立人・基本事件原告)が、検察官のした起訴等が違法であるとして提起した国家賠償請求訴訟において行った、当該刑事事件についての第三者(共犯被疑者)の取調べの録音録画の提出命令の申立てについて、
①当該録音録画は、直接には、取調べを受けた共犯被疑者と捜査機関等との間において法律関係文書(民訴法220条3号後段)に該当するものであるが、当該共犯被疑者の供述の重要性などからすれば、原告と捜査機関等との間においても法律関係文書に該当するとされた事例
②当該録音録画のうち、相手方の刑事公判に提出された部分について、刑訴法53条や47条の規律を踏まえても、提出義務があるとされた事例
③当該録音録画のうち、相手方の刑事公判に提出されなかった部分について、保管検察官が刑訴法47条に基づきその提出をしないと判断したことが裁量権の範囲を逸脱し又は濫用したものとはいえないとして、原決定を変更して当該部分の提出命令申立てを却下した事例」

