最高裁平成23年9月14日刑集65巻6号949頁・刑訴百選【11版】66事件(証人尋問における被害再現写真の利用)
1 はじめに(判例タイムズ1364号90頁)
「本件は,被告人が,夜の電車内で乗客の女性のスカート内に手を入れ,下着をめくり上げた上で臀部を直接なで回すなどしたという強制わいせつの事案である。被告人は犯行を否認し,「触っている犯人の手をつかみ,被告人が犯人であると確認した。」旨述べる被害者供述の信用性が中心争点となり,被害者の証人尋問が行われた。その際検察官は,裁判所の許可を受けて,証拠として採用されていない被害再現写真を被害者に示して尋問を行い,裁判所は,この写真を証人尋問調書に添付し,被害者の証言を証拠の標目に掲げて事実認定を行った。これらの手続の当否が争われ,この点に関する職権判示が行われている。」
2 前提となる知識
⑴条文
・刑訴法
304条
①証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人は、裁判長又は陪席の裁判官が、まず、これを尋問する。
②検察官、被告人又は弁護人は、前項の尋問が終つた後、裁判長に告げて、その証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人を尋問することができる。 この場合において、その証人、鑑定人、通訳人又は翻訳人の取調が、検察官、被告人又は弁護人の請求にかかるものであるときは、請求をした者が、先に尋問する。
③裁判所は、適当と認めるときは、検察官及び被告人又は弁護人の意見を聴き、前2項の尋問の順序を変更することができる。
317条
事実の認定は、証拠による。
・刑訴規則
49条(調書の引用)
調書には、書面、写真その他裁判所又は裁判官が適当と認めるものを引用し、訴訟記録に添附して、これを調書の一部とすることができる。
(書面又は物の提示・法第304条等)
199条の10
①訴訟関係人は、書面又は物に関しその成立、同一性その他これに準ずる事項について証人を尋問する場合において必要があるときは、その書面又は物
を示すことができる。
②前項の書面又は物が証拠調を終つたものでないときは、あらかじめ、相手方にこれを閲覧する機会を与えなければならない。ただし、相手方に異議がないときは、この限りでない。
(記憶喚起のための書面等の提示・法第304等)
199条の11
①訴訟関係人は、証人の記憶が明らかでない事項についてその記憶を喚起するため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、書面(供述を録取した
書面を除く。)又は物を示して尋問することができる。
②前項の規定による尋問については、書面の内容が証人の供述に不当な影響を及ぼすことのないように注意しなければならない。
3 第1項の場合には、前条第2項の規定を準用する。
(図面等の利用・法第304条等)
199条の12
①訴訟関係人は、証人の供述を明確にするため必要があるときは、裁判長の許可を受けて、図面、写真、模型、装置等を利用して尋問することがで
きる。
②前項の場合には、第199条の10第2項の規定を準用する。
⑵判例
・最高裁平成17年9月27日刑集59巻7号753頁・刑訴百選【11版】82事件
「捜査官が被害者や被疑者に被害・犯行状況を再現させた結果を記録した実況見分調書等で,実質上の要証事実が再現されたとおりの犯罪事実の存在であると解される書証が刑訴法326条の同意を得ずに証拠能力を具備するためには,同法321条3項所定の要件が満たされるほか,再現者の供述録取部分については,再現者が被告人以外の者である場合には同法321条1項2号ないし3号所定の要件が,再現者が被告人である場合には同法322条1項所定の要件が,写真部分については,署名押印の要件を除き供述録取部分と同様の要件が満たされる必要がある。」
3 問題の所在(判例タイムズ1364号90頁)
「被告人は,「電車内では目をつぶって立っており,自分の前は人一人分くらい空いていて,誰かに手を触れた記憶は全くないのに,被害者から突然右腕をつかまれた。」旨主張し,犯行を否認したことから,検察官は,被害者の供述調書や被害再現に関する実況見分調書(被害者が被害状況を再現した写真を添付したもの)を証拠請求し,被告人の犯人性を立証しようとした。弁護人はこれらの検察官請求書証について不同意意見を述べ,検察官は,これを受けて,被害者の証人尋問を請求し,それとともに被害再現写真に関する捜査報告書(実質は,被害者が被害再現をした際の写真だけを証拠化したもの)を証拠請求したが,弁護人はこの捜査報告書についても不同意意見を述べ,証拠物としての証拠採用にも反対する意向を示した。これらの経過により,被害再現写真やこれを添付した書証は証拠採用されていない。
その後,被害者に対する証人尋問が行われ,被害者は,被害の状況や犯人を検挙した経緯について証言した。検察官は,被害者が被害状況等を具体的に証言した後に,被害者の供述を明確化するために,捜査段階で撮影された被害者による被害再現写真を被害者に示して尋問することの許可を求めた。裁判所は,これを許可し,被害再現写真を用いた被害者の尋問が行われ,尋問終了後,裁判所は,被害者に示した被害再現写真を被害者証人尋問調書の末尾に添付する措置をとった。
1審裁判所は,被害者の公判証言を証拠の標目に挙げ,被害者証言は信用でき,被告人の犯人性が認められるとして,被告人を懲役2年執行猶予4年に処する有罪判決をした。これに対し,被告人が控訴し,控訴審では,事実誤認の主張とともに,1審判決が被害者の公判証言を証拠の標目に挙げ,被害再現写真を用いて犯罪事実を認定していることが伝聞法則に違反する旨の法令違反の主張がされた。法令違反の主張は,証人尋問調書に添付した被害再現写真は,伝聞例外の要件を満たさないために,証拠として採用されなかったものであり,これを実質証拠として用いて事実認定をすることは伝聞証拠法則の潜脱であるというものであった。
2審判決は,この法令違反の主張に対し,「証人に示した写真が証人尋問と一体となったものと解される場合や,当事者が写真の調書添付に同意した場合は,写真を調書に添付すること自体は許される。」とした上で,「本件の再現写真は,供述を明確にするにとどまらず,犯行当時の状況に関して,独自の証明力を持つものであり,証人尋問と一体ということはできず,当事者が調書添付に積極的に同意したとも認められない。」として,「再現写真を独立した証拠として扱うかどうかを明確にすることなく,漫然と調書に添付した措置は相当ではない。」とした。その上で,結論としては,「写真を独立の証拠として扱って実質判断に用いたというような事情はなく,被害者の供述は写真が調書に添付されたことには左右されずに十分信用できる」ことを理由に「判決に影響を及ぼすような訴訟手続の法令違反はない。」と判示し,被告人の控訴を棄却した。
これに対し,被告人が上告し,控訴審と同趣旨の主張を行った。」
4 判旨
https://www.courts.go.jp/hanrei/81621/detail2/index.html
「弁護人佐藤善博,同北原雄二,同星名優の上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認の主張であり,被告人本人の上告趣意は,事実誤認の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,所論に鑑み,証人尋問中に被害再現写真を示すことを許可してこれを訴訟記録に添付するなどした第1審の訴訟手続の適否について職権で判断する。
1 原判決及び記録によれば,本件訴訟の経過等は,次のとおりである。
(1) 本件は,電車内における痴漢行為(強制わいせつ)の事案であるところ,第1審の期日間整理手続において,検察官は,立証趣旨を「被害の再現状況等」とする捜査報告書(甲7号証)及び立証趣旨を「被害再現状況等」とする実況見分調書(甲13号証)の証拠調べを請求したが,弁護人は,これらの証拠について,いずれも証拠とすることに同意しないとの意見を述べた。
検察官は,これを受けて立証趣旨を「被害者立会による犯行再現時の写真について」とする捜査報告書2通(甲24,25号証。甲7,13号証の写真部分をまとめたもの)の証拠調べを請求したが,弁護人は,これらの証拠についても証拠とすることに同意しないとの意見を述べた。その後,検察官は,上記捜査報告書2通に添付された写真を証拠物として証拠請求する意向を示したが,これに対し弁護人は,再現写真は供述証拠であるから,証拠物として請求することには反対であり,証人尋問において示すことも同意できない旨の意見を述べた。
(2) 第1審第3回公判期日において,被害者の証人尋問が実施され,検察官は,痴漢被害の具体的状況,痴漢犯人を捕まえた際の具体的状況,犯人と被告人の同一性等について尋問を行い,動作を交えた証言を得た後,被害状況等を明確にするために必要であるとして,捜査段階で撮影していた被害再現写真(甲24,25号証の写真部分。犯人を検挙した状況を再現した写真も含む。)を示して尋問することの許可を求めた。
弁護人は,その際,写真によって証言のどの部分が明確になるかということが分かるように尋問することを求めたが,写真を示すこと自体には反対せず,裁判官は,再現写真を示して被害者尋問を行うことを許可した。
そこで,検察官は,被害再現写真を示しながら,個々の場面ごとにそれらの写真が被害者の証言した被害状況等を再現したものであるかを問う尋問を行い,その結果,被害者は,被害の状況等について具体的に述べた各供述内容は,再現写真のとおりである旨の供述をした。
上記公判期日終了後,裁判所は,尋問に用いられた写真の写しを被害者証人尋問調書の末尾に添付する措置をとったが,添付することに同意するかどうかを当事者に明示的に確認しておらず,その後もこれらの写真は証拠として採用されていない。
(3) 第1審判決は,主として被害者の証言により,被告人の電車内での強制わいせつ行為を認定した。
(4) 原判決は,本件被害再現写真は,供述を明確にするにとどまらず,犯行当時の状況に関して,独自の証明力を持つものであり,独立した証拠として扱うかどうかを明確にすることなく,これを漫然と調書に添付することは,当該写真の証拠としての位置付けに疑義を招くおそれがあって相当ではないとした上で,第1審判決が写真を独立の証拠として扱い,実質判断に用いたというような事情は認められず,また,被害者供述は,上記写真の調書添付に左右されずに,十分信用に値するものであるから,第1審の措置に,判決に影響を及ぼすような訴訟手続の法令違反はないと判断した。
2 所論は,検察官が示した被害再現写真は伝聞法則の例外の要件を具備せず,証拠として採用することができない証拠であって,このような写真を尋問に用いて記録の一部とすることは,伝聞証拠について厳格な要件を定めていることを潜脱する違法な措置であり,これが事実認定に影響を及ぼすことは明らかであると主張する。
(1) 本件において,検察官は,証人(被害者)から被害状況等に関する具体的な供述が十分にされた後に,その供述を明確化するために証人が過去に被害状況等を再現した被害再現写真を示そうとしており,示す予定の被害再現写真の内容は既にされた供述と同趣旨のものであったと認められ,これらの事情によれば,被害再現写真を示すことは供述内容を視覚的に明確化するためであって,証人に不当な影響を与えるものであったとはいえないから,第1審裁判所が,刑訴規則199条の12を根拠に被害再現写真を示して尋問することを許可したことに違法はない。
また,本件証人は,供述の明確化のために被害再現写真を示されたところ,被害状況等に関し具体的に証言した内容がその被害再現写真のとおりである旨供述しており,その証言経過や証言内容によれば,証人に示した被害再現写真を参照することは,証人の証言内容を的確に把握するために資するところが大きいというべきであるから,第1審裁判所が,証言の経過,内容を明らかにするため,証人に示した写真を刑訴規則49条に基づいて証人尋問調書に添付したことは適切な措置であったというべきである。この措置は,訴訟記録に添付された被害再現写真を独立した証拠として扱う趣旨のものではないから,この措置を決するに当たり,当事者の同意が必要であるとはいえない。
そして,本件において証人に示した被害再現写真は,独立した証拠として採用されたものではないから,証言内容を離れて写真自体から事実認定を行うことはできないが,本件証人は証人尋問中に示された被害再現写真の内容を実質的に引用しながら上記のとおり証言しているのであって,引用された限度において被害再現写真の内容は証言の一部となっていると認められるから,そのような証言全体を事実認定の用に供することができるというべきである。このことは,被害再現写真を独立した供述証拠として取り扱うものではないから,伝聞証拠に関する刑訴法の規定を潜脱するものではない。
(2) 以上によれば,本件において被害再現写真を示して尋問を行うことを許可し,その写真を訴訟記録に添付した上で,被害再現写真の内容がその一部となっている証言を事実認定の用に供した第1審の訴訟手続は正当であるから,伝聞法則に関する法令違反の論旨を採用しなかった原判決は結論において是認できる。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。」
5 解説(判例タイムズ1364号90頁)
「1 本件は,被告人が,夜の電車内で乗客の女性のスカート内に手を入れ,下着をめくり上げた上で臀部を直接なで回すなどしたという強制わいせつの事案である。被告人は犯行を否認し,「触っている犯人の手をつかみ,被告人が犯人であると確認した。」旨述べる被害者供述の信用性が中心争点となり,被害者の証人尋問が行われた。その際検察官は,裁判所の許可を受けて,証拠として採用されていない被害再現写真を被害者に示して尋問を行い,裁判所は,この写真を証人尋問調書に添付し,被害者の証言を証拠の標目に掲げて事実認定を行った。これらの手続の当否が争われ,この点に関する職権判示が行われている。
2 本件の経過は以下のとおりである。
被告人は,「電車内では目をつぶって立っており,自分の前は人一人分くらい空いていて,誰かに手を触れた記憶は全くないのに,被害者から突然右腕をつかまれた。」旨主張し,犯行を否認したことから,検察官は,被害者の供述調書や被害再現に関する実況見分調書(被害者が被害状況を再現した写真を添付したもの)を証拠請求し,被告人の犯人性を立証しようとした。弁護人はこれらの検察官請求書証について不同意意見を述べ,検察官は,これを受けて,被害者の証人尋問を請求し,それとともに被害再現写真に関する捜査報告書(実質は,被害者が被害再現をした際の写真だけを証拠化したもの)を証拠請求したが,弁護人はこの捜査報告書についても不同意意見を述べ,証拠物としての証拠採用にも反対する意向を示した。これらの経過により,被害再現写真やこれを添付した書証は証拠採用されていない。
その後,被害者に対する証人尋問が行われ,被害者は,被害の状況や犯人を検挙した経緯について証言した。検察官は,被害者が被害状況等を具体的に証言した後に,被害者の供述を明確化するために,捜査段階で撮影された被害者による被害再現写真を被害者に示して尋問することの許可を求めた。裁判所は,これを許可し,被害再現写真を用いた被害者の尋問が行われ,尋問終了後,裁判所は,被害者に示した被害再現写真を被害者証人尋問調書の末尾に添付する措置をとった。
1審裁判所は,被害者の公判証言を証拠の標目に挙げ,被害者証言は信用でき,被告人の犯人性が認められるとして,被告人を懲役2年執行猶予4年に処する有罪判決をした。これに対し,被告人が控訴し,控訴審では,事実誤認の主張とともに,1審判決が被害者の公判証言を証拠の標目に挙げ,被害再現写真を用いて犯罪事実を認定していることが伝聞法則に違反する旨の法令違反の主張がされた。法令違反の主張は,証人尋問調書に添付した被害再現写真は,伝聞例外の要件を満たさないために,証拠として採用されなかったものであり,これを実質証拠として用いて事実認定をすることは伝聞証拠法則の潜脱であるというものであった。
2審判決は,この法令違反の主張に対し,「証人に示した写真が証人尋問と一体となったものと解される場合や,当事者が写真の調書添付に同意した場合は,写真を調書に添付すること自体は許される。」とした上で,「本件の再現写真は,供述を明確にするにとどまらず,犯行当時の状況に関して,独自の証明力を持つものであり,証人尋問と一体ということはできず,当事者が調書添付に積極的に同意したとも認められない。」として,「再現写真を独立した証拠として扱うかどうかを明確にすることなく,漫然と調書に添付した措置は相当ではない。」とした。その上で,結論としては,「写真を独立の証拠として扱って実質判断に用いたというような事情はなく,被害者の供述は写真が調書に添付されたことには左右されずに十分信用できる」ことを理由に「判決に影響を及ぼすような訴訟手続の法令違反はない。」と判示し,被告人の控訴を棄却した。
これに対し,被告人が上告し,控訴審と同趣旨の主張を行った。
3 本決定は,上告趣意は不適法であるとした上で,以下のとおり職権判示をして被告人の上告を棄却した。
本決定は,まず,刑訴規則199条の12を根拠に被害再現写真を示すことを許可した裁判所の措置について,証人から被害状況等に関する具体的な供述が十分にされた後に,その供述を明確化するために,被害者による被害再現写真を示すことを求めていたことや,示す写真の内容が既にされた供述と同趣旨のものであったと認められることなどの事情によれば,被害再現写真を示すことは供述内容を視覚的に明確化するためであって,証人に不当な影響を与えるものであったとはいえないとして,裁判所の措置に違法はないと判示した。
次に,証人に示した写真を証人尋問調書に添付した措置について,証人に示した被害再現写真を参照することが証人の証言内容を的確に把握するために資するところが大きいという本件の事情を踏まえ,証言の経過や内容を明らかにするために証人に示した写真を刑訴規則49条に基づいて証言調書に添付したことは適切な措置であったとし,この措置は写真を独立した証拠として扱う趣旨のものではないから,当事者の同意は必要でないと判示した。
さらに,独立した証拠として採用されていない被害再現写真を示して得られた証言による事実認定の許容性に関し,証人が写真の内容を実質的に引用しながら証言した場合には,引用された限度において写真の内容は証言の一部となり,そのような証言全体を事実認定の用に供することができるとし,被害再現写真の内容がその一部となっている証言を事実認定の用に供した第1審の訴訟手続は正当であると判示した。
4 本件において,写真を示した尋問の取扱いが問題とされた背景には,再現実況見分調書等の証拠能力に関する最二小決平17.9.27刑集59巻7号753頁,判タ1192号182頁が,痴漢被害についての再現実況見分調書や写真撮影報告書を刑訴法321条3項により証拠採用していた事案に関し,これらの証拠は「立証趣旨が『被害再現状況』,『犯行再現状況』とされていても,実質においては,再現されたとおりの犯罪事実の存在が要証事実になるものと解される」とした上で,供述録取部分や写真部分については,再現者の供述を録取した伝聞証拠としての要件(再現者が被告人以外の場合には刑訴法321条1項2号ないし3号,再現者が被告人の場合には同法322条1項)が必要であると判示していることがある。被害再現実況見分調書は,警察官が被害者から事情を聴く過程で作成されることが多く,上記判例が求める伝聞証拠としての要件を満たすことは稀であり,争いのある事件において被害再現実況見分調書や被害再現写真を書証として立証に用いることは困難となっていた。
5 本決定は,被害再現写真を用いた立証を問題視する所論に対し,まず,供述を明確化するために写真を示すことを許可した措置の適法性という観点から,証人が既に証言した内容と示す予定の写真の内容との関係などを検討し,写真を示すことは供述内容を視覚的に明確化するためであり証人に不当な影響を与えるものではないとして,1審裁判所の措置を是認している。
被害再現写真は,実質的には当該再現者の過去の供述という側面もあるから,証人に示す予定の被害再現写真に未証言事項に関する内容が含まれている場合には,記憶喚起のために証人に供述調書を示して尋問することを禁じる刑訴規則199条の11第1項との関係が問題となりうるが,本件のように被害再現写真の撮影時の説明と同趣旨の供述が当該証人から既に得られていれば,再現写真を示すことで不当に記憶を喚起するような問題は生じないように思われる。本決定は,このような点を考慮し,証人に被害再現写真を示すことによる不当な影響の有無を事案に即して検討したものと解される。なお,写真を示すことの許可は尋問の途中で行うものであるから,事案によっては,証人のそれまでの証言だけではなく,その後の予定証言事項も考慮した上で,示す写真が未証言事項に関するものであるかどうかという点を検討することが必要になる。予定証言内容を具体的に把握していない裁判所は,当事者の意見も参考にして,事案に即して不当な影響の有無を検討すべきことになるから,当事者が写真を示すことに反対する場合には,不当な影響の有無を判断するための参考となるような事情を述べることが期待される。
また,本決定は,供述の明確化のために証拠として採用されていない写真を示して証言させた場合の事実認定に関し,証言内容から離れて写真自体から事実認定をすることができないと判示した上で,写真の内容を実質的に引用しながら供述した部分については,引用された写真の内容も含む証言全体から事実認定ができるとしている。これは,証人に示したというだけでは写真を証拠と同等に扱うことはできないことを確認しつつ,証言内容を理解するために証言が引用する限度で写真を参照し,証言内容から認定をすることを許容したものと解される。証人に示した写真自体から事実認定すべき事項がある事案については,写真を独立した証拠として取り調べることが求められる。
なお,本決定は,証人に示した写真を調書に添付するに当たり,当事者の同意は必要ではないとし,この問題が公判の経過を記録化するという観点から裁判所が判断すベき事柄であることも判示している。資料を示す尋問が行われた場合には,示した資料を調書に添付することに関する意見を当事者から聴取する扱いが実務上広く行われており,本決定も意見聴取の有用性を否定する趣旨ではないと解される。
6 本件は,証人に証拠として採用されていない写真を示し記録に添付することが,これを実質的に証拠として取り扱う不当な措置であると争われた事案といえるが,本決定は,証人尋問の際に供述の明確化のために証人に写真を示すことを,写真を証拠として採用することなどとは次元の異なる証人尋問上の問題として位置づけ,そのような立証を許す際に考慮すべき事情やその後の措置,そのような尋問結果の事実認定への利用について判示したものといえる。
事実関係が争われる事件については,本件のように被害再現写真を用いて尋問を行い立証することが有用である事案も少なくなく,本決定の実務上の参照価値は高いと思われる。」
6 関連する判例(最高裁平成25年2月26日刑集67巻2号143頁)
https://www.courts.go.jp/hanrei/83033/detail2/index.html
⑴事案
「第1審第10回公判期日において,被告人乙の被告人質問が行われ,その際,検察官は,被告人乙が送信した平成17年10月30日付け電子メールのうち,同メールにより転送されたオリジナルメッセージ(同年9月21日にBが被告人乙に宛てて送信した電子メール)部分(以下「本件電子メール」という。)を被告人乙に示して質問した。
本件電子メールは,第1審第10回公判調書中の被告人乙の被告人供述調書の末尾に添付されたが,これとは別に証拠として取り調べられてはいない。
第1審判決は,本件電子メールの存在及び記載内容を被告人乙の詐欺の故意や共犯者との間の共謀の認定の用に供した。」
⑵判旨
「被告人甲の弁護人野村創,同清水夏子,同片野田志朗の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であり,被告人乙の弁護人宮村啓太ほかの上告趣意は,憲法違反,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
なお,被告人乙の弁護人らの所論に鑑み,公判調書中の被告人乙の被告人供述調書の末尾に添付された書面を事実認定の用に供したことの適否について職権で判断する。
1 記録によれば,本件の審理経過について,次の事実が認められる。
第1審第10回公判期日において,被告人乙の被告人質問が行われ,その際,検察官は,被告人乙が送信した平成17年10月30日付け電子メールのうち,同メールにより転送されたオリジナルメッセージ(同年9月21日にBが被告人乙に宛てて送信した電子メール)部分(以下「本件電子メール」という。)を被告人乙に示して質問した。
本件電子メールは,第1審第10回公判調書中の被告人乙の被告人供述調書の末尾に添付されたが,これとは別に証拠として取り調べられてはいない。
第1審判決は,本件電子メールの存在及び記載内容を被告人乙の詐欺の故意や共犯者との間の共謀の認定の用に供した。
2 原判決は,上記第1審判決が本件電子メールを事実認定の用に供したことについて,①本件電子メールは証拠物と同視できる客観的証拠であること,②それを示された被告人乙がその同一性や真正な成立を確認していること,③本件電子メールを被告人乙に示すに当たり刑訴規則199条の10第2項の要請が満たされていたことを根拠として,本件電子メールは被告人乙の供述と一体になったとみることができるとし,訴訟手続の法令違反はないとした。
3 しかしながら,上記原判断は是認することができない。その理由は,次のとおりである。
(1) 本件電子メールは,刑訴規則199条の10第1項及び199条の11第1項に基づいて被告人乙に示され,その後,同規則49条に基づいて公判調書中の被告人供述調書に添付されたものと解されるが,このような公判調書への書面の添付は,証拠の取調べとして行われるものではなく,これと同視することはできない。したがって,公判調書に添付されたのみで証拠として取り調べられていない書面は,それが証拠能力を有するか否か,それを証人又は被告人に対して示して尋問又は質問をした手続が適法か否か,示された書面につき証人又は被告人がその同一性や真正な成立を確認したか否か,添付につき当事者から異議があったか否かにかかわらず,添付されたことをもって独立の証拠となり,あるいは当然に証言又は供述の一部となるものではないと解するのが相当である。
(2) 本件電子メールについては,原判決が指摘するとおり,その存在及び記載が記載内容の真実性と離れて証拠価値を有するものであること,被告人乙に対してこれを示して質問をした手続に違法はないこと,被告人乙が本件電子メールの同一性や真正な成立を確認したことは認められるが,これらのことから証拠として取り調べられていない本件電子メールが独立の証拠となり,あるいは被告人乙の供述の一部となるものではないというべきである。本件電子メールは,被告人乙の供述に引用された限度においてその内容が供述の一部となるにとどまる(最高裁平成……23年9月14日第一小法廷決定・刑集65巻6号949頁参照)。
したがって,上記の理由により本件電子メールが被告人乙の供述と一体となったとして,これを証拠として取り調べることなく事実認定の用に供することができるとした原判決には違法があるといわざるを得ない。
4 しかし,被告人乙が本件電子メールについてした供述やその他の関係証拠によれば,被告人乙について第1審判決判示の犯罪事実を認定することができるから,上記の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえない。
よって,刑訴法414条,386条1項3号により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。」
⑶解説(判例タイムズ1387号100頁)
「1 本件は,いわゆる平成電電詐欺事件の事案であるが,判示事項との関係で問題となったのは,被告人質問の際に被告人に示され,その後公判調書中の被告人供述調書に添付されたものの,これとは別に証拠として取り調べられていない電子メール(写し。以下「本件電子メール」という。)の証拠としての取扱いについてである。
2 1審判決は,本件電子メールの存在及び記載内容を被告人の詐欺の故意や共犯者との共謀の認定の用に供し,被告人を有罪とした。
被告人が控訴し,1審判決が本件電子メールを用いて犯罪事実を認定したことは訴訟手続の法令違反に当たると主張したが,原判決は,①本件電子メールは証拠物と同視できる客観的証拠であること,②それを示された被告人がその同一性や真正な成立を確認していること,③本件電子メールを被告人に示すに当たり刑訴規則199条の10第2項(相手方への閲覧の機会の付与)の要請が満たされていたことを根拠として,本件電子メールは被告人の供述と一体になったとみることができるとし,本件電子メールを証拠として取り調べることなく事実認定に用いた第1審判決に訴訟手続の法令違反はないとした。
これに対して被告人が上告し,事実誤認等の主張のほか,本件電子メールを用いて犯罪事実を認定したことは違法である旨を主張した。
3 本決定は,上告趣意は適法な上告理由に当たらないとしたが,職権で,原判決の上記判断には違法があるとした。すなわち,本決定は,公判調書への書面の添付は,証拠の取調べとして行われるものではなく,これと同視することはできないから,原判決が,本件電子メールが被告人の供述と一体となったとして,これを証拠として取り調べることなく事実認定の用に供することができるとしたことには違法があるとした。もっとも,被告人が本件電子メールについてした供述やその他の関係証拠により犯罪事実を認定することができ,その違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえないとして,上告は棄却した。
4 証人又は被告人に対して書面を示して尋問又は質問をすることは,刑訴規則199条の10ないし12の要件の下で許容される。本件電子メールは被告人が送付を受けた電子メールであり,被告人に対しては,本件電子メールを示した上で,その同一性等を確認する質問のみならず,被告人が本件電子メールを閲読することを通じて得た認識を問題とする質問がされていることからすると,被告人に本件電子メールを示した根拠は,刑訴規則199条の10(成立,同一性等についての尋問)及び199条の11(記憶喚起のため)にあると解される。なお,刑訴規則199条の10及び199条の11により示す書面等に証拠能力は必要でないとするものが多数説,実務である。
5 次に,証人又は被告人に対して示した書面は刑訴規則49条により公判調書に引用(添付)することができる。同条に基づく公判調書への添付については,調書に添付するには当事者の同意が必要か,添付する書面に証拠能力は必要かという問題があるが,前者については,刑訴規則199条の12に基づき証人に示した被害再現写真を証人尋問調書に添付したという事案について,最一小決平23.9.14刑集65巻6号949頁,判タ1364号90頁は,同意は不要であるとしており,不要と解される。後者についても,学説はいずれも調書に添付する書面に証拠能力は必要でないことを前提にしており(高野隆「証人尋問における書面や物の利用」日本弁護士連合会編『法廷弁護技術〔第2版〕』191頁,渡部市郎「尋問における書面等の提示と証拠制限規定(刑訴法316条の32)との関係」判タ1318号34頁等),上記最一小決平23.9.14も,被害再現写真を調書に添付した事案であるが,当該被害再現写真が伝聞例外の要件を具備しないという原判決の判断を否定することなく,「訴訟記録に添付された被害再現写真を独立した証拠として扱う趣旨のものではないから」という理由で,調書添付に当事者の同意が必要ではないとしており,添付する書面に証拠能力が必要でないことを前提にしているものと解される。したがって,本件において,被告人に対して本件電子メールを示して質問し,これを公判調書中の被告人供述調書に添付した手続は適法と解される。
6 しかしながら,そのようにして添付された書面を証拠として用いることができるかは別の問題である。公判調書への書面の添付は,証拠の取調べとして行われるものではないからである。判例をみると,上記最一小決平23.9.14は,刑訴規則199条の12に基づき証人に示した写真を刑訴規則49条により証人尋問調書に添付した事案であるが,「本件において証人に示した被害再現写真は,独立した証拠として採用されたものではないから,証言内容を離れて写真自体から事実認定を行うことはできない」としており,これは,刑訴規則49条により調書に添付されても直ちに証拠となるものではないことを前提にしたものといえる。他方,大阪高判昭59.12.21判タ546号194頁は,「不同意とされた国税査察官の調査報告書が,当該査察官の証人尋問に用いられ,その調書の内容に関する反対尋問も行われた後に弁護人の同意に基づいて調書に添付された事案」について,公判調書に添付することについての弁護人の同意により,報告書が証人の供述と一体となったものと認められるとした上で,国税査察官に対する反対尋問が行われたことなどを踏まえて,「その供述が建物完成割合を判断するための資料となりうる」としたものであり,調書に添付された調査報告書が実質証拠となることを認めたものと理解されている。学説は,刑訴規則199条の11や199条の12に基づいて示された書面等は当然に証拠となるわけではなく,証拠とされるためには別に請求,決定,証拠調べを必要とする点では一致しており(最高裁判所事務総局『刑事訴訟規則逐条説明・公判』110頁,『注釈刑事訴訟法(4)』287頁〔小林充〕,河上和雄ほか編『大コンメンタール刑事訴訟法(4)』658頁〔高橋省吾〕等),上記大阪高判昭59.12.21に対しては,「調書添付についての承諾によってなぜ添付された書面と証言の一体化の効果が生じるのか」(的場純男「証人尋問の際に利用された図面等の取扱い」大阪刑事実務研究会編『刑事実務上の諸問題』138頁),「租税刑事事件における査察官調査書の取扱いにかかわる特殊な事案であって,少なくとも,通常の証人尋問の場合に一般化すべきではないであろう。」(渡部・前掲34頁)などの問題点等が指摘されている。
そうすると,刑訴規則49条により調書に添付された書面が,別途証拠として取り調べられていないのに証拠になると解するためには,調書への添付が,①それにより証言と添付書面の一体化を招くと解するか,②証拠請求,証拠決定,証拠の取調べと同視できると解するほかないことになろう。
しかし,①については,証人又は被告人に示した書面が証言の一部となるかどうかは,証人又は被告人に示した書面の内容と証言内容の関係で決まるものと思われ,当該書面を証人尋問調書又は被告人供述調書に添付することに当事者の同意があったかどうか,当該書面が証拠物と同視できる客観的証拠であるかどうか,当該書面について同一性や真正な成立が確認されているかどうか,当該書面を示して尋問した手続が適法かどうかとは別の問題と思われるし,書面が証言又は供述の一部となる場合も,書面が証言又は供述に一体化するのであって,その逆ではなく,事実認定に用いるのは飽くまで証言又は供述ということになると思われる。
次に,②については,確かに,当該書面が証拠物と同視できる客観的証拠である場合,すなわちその存在及び記載が記載内容の真実性を離れて証拠価値を有する場合は,当該書面には伝聞法則の適用はないから(そして,当該書面について同一性や真正な成立が確認されていれば,関連性も肯定されるであろうから),被告人の同意やその他の伝聞例外の要件を問題にするまでもなく非供述証拠として証拠能力が肯定され,当該書面を別に証拠として取り調べようとする場合,それは容易である。しかし,このことを根拠として調書への添付を請求,決定,取調べと同視することは,これらの手続の省略を認めることにほかならないところ,刑訴法,刑訴規則は,証拠請求の時期,順序,方式,要件等(刑訴法301条,刑訴規則188条ないし189条の2),証拠決定の方式,送達(刑訴規則190条,191条),証拠の取調べの方式(刑訴法304条ないし306条)等について種々の規定を設け,証拠調べ手続を厳格に規律していることに照らせば,そのような「手続の省略」を安易に認めるのは相当でないと思われる。
このようなことから,本決定は,原判決が,本件電子メールが被告人の供述と一体となったとして,これを証拠として取り調べることなく事実認定の用に供することができるとしたことを違法としたものと思われる。
ただし,被告人が,本件電子メールを示されてその内容について一定の供述をした場合,その供述に表れた限りにおいて本件電子メールの内容が被告人の供述の一部となることはもちろんである。実際,被告人は本件電子メールの内容のほとんどについて供述をしていたようであり,このこともあって,本決定は,原判決には違法があるとしたものの,「被告人X2が本件電子メールについてした供述やその他の関係証拠によれば,被告人X2について第1審判決判示の犯罪事実を認定することができるから,上記の違法は判決に影響を及ぼすことが明らかなものとはいえない。」として,判決影響性を否定して上告を棄却したものと思われる。
7 証人又は被告人に対して示した書面を公判調書に添付するという取扱いは実務上広く行われているが,添付された書面の証拠としての取扱いについては取扱いが統一されていたわけではなく,原判決のような考え方も存在していたところである。本決定は,事例判断ではあるが,この点についての考え方が明らかにされており,実務上重要な意義を有すると思われる。」

