最高裁大法廷昭和33年2月26日刑集12巻2号316頁・刑訴百選【11版】A31事件(刑の法定加重事由となる累犯前科と厳格な証明)

1 はじめに

 本判例は、刑の法定加重事由となる累犯前科の事実を認定するには、厳格な証明によること、すなわち、証拠能力のある適法な証拠調べを経た証拠によることが必要であると判示しました。

2 前提となる知識

⑴条文
・刑法
45条
確定裁判を経ていない2個以上の罪を併合罪とする。ある罪について拘禁刑以上の刑に処する確定裁判があったときは、その罪とその裁判が確定する前に犯した罪とに限り、併合罪とする。
56条
①拘禁刑に処せられた者がその執行を終わった日又はその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期拘禁刑に処するときは、再犯とする。
②死刑に処せられた者がその執行の免除を得た日又は減刑により拘禁刑に減軽されてその執行を終わった日若しくはその執行の免除を得た日から5年以内に更に罪を犯した場合において、その者を有期拘禁刑に処するときも、前項と同様とする。
57条
再犯の刑は、その罪について定めた拘禁刑の長期の2倍以下とする。
59条
3犯以上の者についても、再犯の例による。
60条
2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
・刑訴法
305条1項及び2項
①検察官、被告人又は弁護人の請求により、証拠書類の取調べをするについては、裁判長は、その取調べを請求した者にこれを朗読させなければならない。ただし、裁判長は、自らこれを朗読し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記官にこれを朗読させることができる。
②裁判所が職権で証拠書類の取調べをするについては、裁判長は、自らその書類を朗読し、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記官にこれを朗読させなければならない。
③以下略
317条
事実の認定は、証拠による。
333条
①被告事件について犯罪の証明があつたときは、第334条の場合を除いては、判決で刑の言渡をしなければならない。
②刑の執行猶予は、刑の言渡しと同時に、判決でその言渡しをしなければならない。猶予の期間中保護観察に付する場合も、同様とする。
334条
被告事件について刑を免除するときは、判決でその旨の言渡をしなければならない。
335条
①有罪の言渡をするには、罪となるべき事実、証拠の標目及び法令の適用を示さなければならない。
②法律上犯罪の成立を妨げる理由又は刑の加重減免の理由となる事実が主張されたときは、これに対する判断を示さなければならない。
336条
被告事件が罪とならないとき、又は被告事件について犯罪の証明がないときは、判決で無罪の言渡をしなければならない。
・刑訴規則203条の2
①裁判長は、訴訟関係人の意見を聴き、相当と認めるときは、請求により証拠書類又は証拠物中書面の意義が証拠となるものの取調をするについての朗読に代えて、その取調を請求した者、陪席の裁判官若しくは裁判所書記官にその要旨を告げさせ、又は自らこれを告げることができる。
②裁判長は、訴訟関係人の意見を聴き、相当と認めるときは、職権で証拠書類又は証拠物中書面の意義が証拠となるものの取調をするについての朗読に代えて、自らその要旨を告げ、又は陪席の裁判官若しくは裁判所書記官にこれを告げさせることができる。
⑵判例
・最高裁昭和38年10月17日刑集17巻10号1795頁(白鳥事件)
「「厳格な証明」とは、刑訴の規定により証拠能力が認められ、かつ、公判廷における適法な証拠調を経た証拠による証明を意味する。」(令和8年度版判例六法1975頁・刑訴法317条の1つ目の判例)

3 問題の所在

 再犯加重は、累犯加重の理由となる前科は、刑訴335条にいわゆる「罪となるべき事実」ではないところ、これについても厳格な証明が必要かが問題となりました。

4 判旨

 「弁護人梨木作次郎の上告趣意第一点について。
 論旨は、単なる訴訟法違反の主張であり、刑訴405条の上告理由に当らない。しかし、職権によって調査すると、原審が被告人の前科認定の証拠とした所論電信の訳文書及び被告人の前科調書は、いずれも、原審において、刑訴305条2項による取調がなされていないことは、所論のとおりである。
 思うに、累犯加重の理由となる前科は、刑訴335条にいわゆる「罪となるべき事実」ではないが、かかる前科の事実は、刑の法定加重の理由となる事実であって、実質において犯罪構成事実に準ずるものであるから、これを認定するには、証拠によらなければならないことは勿論、これが証拠書類は刑訴305条による取調をなすことを要するものと解すべきである。従つて、原審が適法な証拠調をしない証拠を前科認定の資料としたことは、違法であるが、原審は前科認定の証拠として、右書類のほかに、第一審で適法に証拠調のなされている被告人の指紋照会回答書をも、引用しており、右回答書によれば原審が累犯加重の理由であるとした前科のうち、昭和27年7月9日被告人が横須賀簡易裁判所において窃盗罪により、懲役1年6月に処せられた事実が認められ、記録によればこれのみでも、被告人に対し再犯による刑の加重をなし得るものである。そして3犯による刑の加重も、再犯による刑の加重も、その加重の法律上の限度は同じであり、原判決に前記の如き違法があっても、本件においては原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとは認められない、それゆえ刑訴411条を適用しない。
 同第二点は、量刑不当の主張であって、刑訴405条の上告理由に当らないし、また、刑訴411条を適用すべきものとは認められない。
 よつて刑訴414条、386条1項3号により、裁判官真野毅、同斎藤悠輔、同垂水克己の補足意見があるほか裁判官一致の意見で主文のとおり決定する。

5 解説(刑訴百選【11版】A31事件解説)

 「その後の判例においては,刑法45条後段にいう確定裁判の存在についても同様の考え方が示されている(最判昭和36·11·28刑集15巻10号1774頁)。」

6 関連する判例(最高裁大法廷昭和33年5月28日刑集12巻8号1718頁・刑訴百選【11版】A44事件・練馬事件)

⑴判旨

 「本件公訴事実は,被告人Xが,昭和26年末,製紙会杜の争議に関連して,同社の組合委員長Aおよび練馬警察署巡査Bに対する襲撃を計画し,被告人Y 方において,Yほか1名と相謀り,実行の指導連絡をYが行うこととし,その後Z方およびW方において,Yほか数名がBに対する襲撃を順次共謀したうえ, zら数名が現場に赴き, Bに暴行を加え,よってこれを死亡するに至らしめた, というものであった(いわゆる練馬事件)。

 論点は多岐にわたりますが、厳格な証明に関する部分のみを抜粋します。

 「「共謀」または「謀議」は、共謀共同正犯における「罪となるべき事実」にほかならないから、これを認めるためには厳格な証明によらなければならない」「「共謀」の事実が厳格な証明によって認められ、その証拠が判決に挙示されている以上、共謀の判示は、前示の趣旨において成立したことが明らかにされれば足り、さらに進んで、謀議の行われた日時、場所またはその内容の詳細、すなわち実行の方法、各人の行為の分担役割等についていちいち具体的に判示することを要するものではない

⑵解説(刑訴百選【11版】A44事件解説)

 「刑訴法335条1項にいう有罪判決に示されるべき「罪となるべき事実」とは,一般に,特定の犯罪構成要件に該当する具体的事実を指すものと解されている。本判決は,共謀共同正犯においては,その成否を決する「共謀」の事実も,「罪となるべき事実」に属し,厳格な証明の対象となることを認めた。そのうえで,判決書における「罪となるべき事実」の判示は,刑罰法令各本条の構成要件に該当すべき具体的事実を.当該構成要件に該当するか否かを判定するに足る程度に具体的に明白にし,その各本条を適用する事実上の根拠を確認できるよ
うにすれば足りるとするのが,判例の立場であり(最判昭和24年2月10日刑集3巻2号155頁),本判決は,共謀の事実の判示の程度についても,その考え方を踏襲したものといえる。」