福岡高裁平成23年7月1日判例時報2127号9頁・刑訴百選【11版】37事件(秘密交通権)

1 はじめに

 本裁判例は、担当検察官が、逮捕・勾留された被疑者の弁護人であった控訴人(1審原告)と本件被疑者との接見内容を聴取し、これを供述調書化して完成させ、起訴後に上記調書の取調べを請求したことは、控訴人(1審原告)の固有権である秘密交通権(接見終了後,接見内容を知られない権利)の侵害に当たるなどとして、国家賠償法1条1項による損害賠償を請求した事案で、控訴審が、1審判決を変更して、控訴人の請求を一部認容した事例です。

2 前提となる知識

刑訴法39条
1項 身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第31条第2項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。
3項 検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第1項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。

3 問題の所在(本判例の評釈である刑訴百選【11版】37事件解説1・2)

 「刑訴法39条1項は,身体の拘束を受けている被告人・被疑者について,弁護人または弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という)と立会人なくして接見し,または書類もしくは物の授受をすることができるとしている。これを被疑者・被告人と弁護人等との「接見交通権」というが,このうち,「立会人なくして接見」することができるという側面が「秘密交通権」と呼ばれている。」「秘密交通権の内容に関し,刑訴法39条1項にいう「立会人なくして」の意味について,事後に接見内容を聴取することを禁止・制約する趣旨まで読み込むのは語義の上で無理があるとして,接見の際における立会いを拒否できるという内容にすぎないという見解もあるが(加藤俊治・警論64巻10号188頁),萎縮的効果が生じることなく自由な意思疎通を図ることによって,被害者等が弁護人等から有効かつ適切な助言を得られるようにすることが秘密交通権保障の趣旨であることから,事後的に接見内容を知られないことをも含むとする見解の方が多くみられる。このような見解は,捜査機関による接見内容の聴取が秘密交通権を侵害したか否かが問題となった他の先行裁判例でも採られていたところ(鹿児島地判平成20年3月24日判時2008号3頁〔侵害に当たると認定した事例〕,京都地判平成22年3月24判時2078 号77 頁〔侵害に当たるとは認めなかった事例〕),本判決も,……秘密交通権は,接見終了後においても,接見内容を知られない権利を保障したものとしている。」

4 判旨(一部のみ)

 「3 争点に対する判断
(1) 争点①について(接見内容の聴取行為に係る違法性)
 ア 刑訴法39条1項所定の秘密交通権は,憲法34条の保障に由来するものであり,同条所定の「立会人なくして」との文言は,接見に際して捜査機関が立ち会ってはならないということを意味するにとどまらず,弁護人等の固有権として,接見終了後においても,接見内容を知られない権利を保障したものであると解するのが相当であるところ,他方で,憲法が刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が国家の権能であることを当然の前提としていることに照らし,被疑者等と弁護人等との接見交通権は,刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものではないと解されることについては,原判決が争点①について判断した冒頭部分(原判決26頁15行目から28頁15行目)の説示と同一であるから,これを引用する。
 イ これに対し,控訴人は,最高裁平成11年判決は,法律で調整規定を設けることを許容したにとどまり,接見交通権も適正な法律による調整に服するという意味で無制限ではないが,法律による調整以外の制約は受けないというべきであるところ,刑訴法39条3項は,接見における「日時・場所・時間」という接見の機会について限界を定めているにすぎず,接見内容そのものについては何ら制限を認めていないのであるから,接見交通権にも「内在的制約」があることを理由に,捜査機関が接見内容を聴取することは到底許されないというべきであるし,高見・岡本国賠判決も,検察官側における聴取の必要性等がいかなるものであっても,秘密交通権を侵害する行為は当然に禁止することを宣言しており,原判決の判断枠組みは,同判決とも整合しないと主張する。
 しかしながら,刑訴法上,被疑者の取調べは,被疑者の弁解,主張を含む供述を聴取して犯罪の嫌疑を明らかにし,起訴,不起訴を決定し,また,その後の公判手続を含めて,刑罰法令を適正に適用するために不可欠なものと位置づけられており,捜査機関は,被疑者から当該事件の詳細を聴取することはもちろんのこと,供述内容の真偽を明らかにするために,その供述の信用性を十分に吟味することが必要となるところ,被疑者等がある時点でそれまでそれなりに一貫していた供述を突然に翻して相反する供述をするに至ったり,あるいは従前から何度も供述を変転,変遷させ,かつ,その変転,変遷の理由が必ずしも合理的とは認められない場合などにおいて,取調べに当たっている捜査官が被疑者等に対しその供述を変えた理由等について聴き出そうとするのは,捜査官として当然であり,また職責でもあるから,こうした際に,被疑者等の供述が弁護人等との接見内容に及ぶことはままあり得ることであって,その限度において,捜査権の行使が秘密交通権の保障と抵触することは,事実としては承認せざるを得ないところである(その意味において,捜査権を適正に行使しようとしさえすれば,およそ接見内容を関知する契機が生じる余地はなく,聴取する必要も調整する必要もないとも受け取れる旨の控訴人の主張は採用することができない。)。
 そして,そのような場合に,被疑者等が有効かつ適切な弁護人等の援助を受ける機会を確保するという刑訴法39条1項の趣旨を損なうことにならない限りにおいて,捜査機関が被疑者等から接見内容に係る供述を聴取したことが,直ちに国賠法上違法となると断ずることは相当でないといわなければならない。それゆえ,接見交通権については,刑訴法39条3項本文に定める制限事項(日時・場所・時間)による調整しか許されないとして,捜査権の行使と秘密交通権の保障とが抵触する場合において,一切調整の余地を認めない控訴人の主張は採用することができない。
 また,高見・岡本国賠判決が,「被拘禁者とその弁護人との間の接見において,仮に訴追機関や収容施設側が重大な関心をもつと考えられる被拘禁者側からの罪証隠滅の希望や示唆,さらには被拘禁者の心情の著しい変化等の内容にわたる可能性があったとしても,それを理由に右の接見についての秘密交通権自体を否定することは法的にはできないというべきである。」と説示していることは,控訴人の指摘するとおりであるが,秘密交通権の行使と捜査権の行使が抵触する場面における制約ないし調整を一切許容しない趣旨であるとまで解することはできないから,高見・岡本国賠判決をもって,被疑者等と弁護人との接見交通権の行使が捜査権の行使に優先するとの根拠にする控訴人の主張もまた採用することができない。
 ウ もとより,被疑者等と弁護人等との接見交通権は,身体を拘束された被疑者等が弁護人等の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであるとともに,弁護人等にとって,その固有権の最も重要なもののひとつであるから,捜査権の行使と秘密交通権の保障とを調整するに際しては,秘密交通権の保障を最大限尊重すべきであり,被疑者等と弁護人等との自由な意思疎通ないし情報伝達に萎縮的効果を及ぼすことのないよう留意することが肝要であって,刑訴法39条1項の趣旨を損なうことになるか否かについても,かかる観点から慎重に判断すべきものといわなければならない。
 また,一般に法的知識に乏しく,あるいは逮捕,勾留等捜査官憲による身柄拘束を体験したことがなく,時には捜査官と勾留担当裁判官や弁護人との区別も正確に認識できない被疑者等に対し,唯一の後ろ盾といってよい弁護人の援助を受ける機会を実質的に確保する目的で,秘密交通権を弁護人等の固有権と位置づけている以上,取調べの際に被疑者等が自発的に接見内容を供述したとしても,そのことをもって,弁護人固有の秘密交通権を保護する必要性が低減したということはできないというべきである。
 したがって,捜査機関は,被疑者等が弁護人等との接見内容の供述を始めた場合に,漫然と接見内容の供述を聞き続けたり,さらに関連する接見内容について質問したりすることは,刑訴法39条1項の趣旨を損なうおそれがあるから,原則としてさし控えるべきであって,弁護人との接見内容については話す必要がないことを告知するなどして,被疑者等と弁護人等との秘密交通権に配慮すべき法的義務を負っているものと解するのが相当である。
 エ 捜査機関は,事案の真相を明らかにし,刑罰法令を適正かつ迅速に適用実現するために,捜査権の行使として,被疑者等の取調べを行うところ,被疑者等から当該事件の詳細を聴取することはもちろん,供述内容の真偽を明らかにするために,供述に変遷がある場合には,その理由を吟味することが重要となることは,前記イでも述べたとおりである。そして,被疑者等の供述の信用性を判断するに当たって,当該被疑者等の捜査機関以外の者に対する供述が判断材料となることは,一般的に承認されており,当該供述が弁護人等との接見の際になされたものであっても例外ではないが,上記のとおり,捜査機関は,刑訴法39条1項の趣旨を損なうような接見内容の聴取を控えるべき義務を負っているから,原則として,弁護人等との接見における供述について聴取することは禁止されているというべきである。
 オ 本件において,B弁護士は,接見の際の本件被疑者の供述の一部を報道機関に対して公表しているところ,秘密交通権保障の趣旨は,接見内容が捜査機関に知られることによって,被疑者等と弁護人等との自由な意思疎通が萎縮し,被疑者等が有効かつ適切な助言を得られなくなることがないようにするためであり,被疑者等と弁護人等との意思疎通の過程全体が秘密交通権の対象となるというべきであるから,B弁護士が報道機関に対し,本件被疑者の供述の一部を公表したからといって,供述過程を含む秘密交通権が放棄されたとは到底認めることができない。しかしながら,一方,本件被疑者がB弁護士との接見の際に同弁護士に対し,「被害者が死んだと思い放置した」と供述した事実それ自体については,前記報道機関に対する公表をもって,秘密性が消失したものといわざるを得ない(このように解すると,弁護人等が被疑者等の供述を報道機関に公表することにつき,萎縮的効果が生じることも考えられるが,報道機関への情報開示は,法律の専門家である弁護人等において,その方法や範囲を慎重に取捨選択することができるのであるから,報道機関への情報開示が防御権行使の一環であるとしても,被疑者等の防御権保障の根幹をなす接見交通権と同様の保障が及ぶものではない。)。
 カ 引用に係る原判決の認定事実及びA作成の陳述書(乙13)によれば,A検事は,本件新聞記事に接し,取調べにおいて被害者が生きているとわかって放置した旨供述していた本件被疑者が,弁護人に対しては,これと異なる供述をしていることを知って,本件被疑者の供述の信用性をより慎重に判断する必要があると考え(なお,A検事は,従前の数回にわたる取調べの中で,本件被疑者が知的レベル,理解力,表現力の点がそれほど高くなく,性格も気弱であることを十分に認識していた。),本件被疑者に対し,「(弁護人に対して)被害者が死んだと思った」旨の供述をしたことがあるのかどうかを尋ねたこと,すると本件被疑者がこれを認めたことから,その理由を尋ねたところ,本件被疑者は罪が重くなると思ったため,弁護人に対しては虚偽の説明をしたと答えたこと,A検事は,殺意を認めると罪が重くなることは弁護人から言われてわかったことか,もともと知っていたことかを確認したところ,本件被疑者は,控訴人からも生きている人間を放置した方が罪が重くなるといわれたが,控訴人から言われる前からそのことはわかっていたと答えたこと,さらに,A検事は,本件被疑者に対し,「死んだと思った」旨の供述が虚偽であることを弁護人に対して伝えているかを確認したことが認められる。
 A検事において,本件被疑者に対し,本件被疑者がB弁護士に「(被害者が)死んだと思った」と供述した事実の有無を確認した点は,当該事実につき既に秘密性が消失していることに照らし,接見交通権に萎縮的効果を及ぼすおそれはなく,弁護人に対して捜査機関に対する供述と異なる供述をした理由を尋ねた点についても,本件被疑者が接見内容に関わる回答をする可能性はあるものの,本件被疑者とその弁護人との間の意思疎通の内容を尋ねたわけではなく,その意味では接見内容と無関係に供述が変遷した理由を尋ねたにすぎないとみてよいから,直ちに刑訴法39条1項の趣旨を損なうとまではいえないものと解される。
 しかしながら,A検事が,さらに,本件被疑者に対し,殺意を認めると罪が重くなることは弁護人から言われてわかったことか,もともと知っていたことかを確認した点,「死んだと思った」旨の供述が虚偽であることを弁護人に対して伝えているか否かを確認した点については,未だ秘密性が消失していない本件被疑者と弁護人との間の情報交換の内容を尋ねるものであり,本件被疑者と弁護人との意思疎通の過程を聴取したものにほかならず,被疑者等と弁護人等との自由な意思疎通ないし情報伝達に萎縮的効果を及ぼすおそれがあるというべきであるから,A検事は,刑訴法39条1項の趣旨を損なうような聴取を控えるべき注意義務に違反したといわざるを得ず,本件聴取行為は,国賠法上違法となるというべきである。
(2) 争点②について(接見内容を調書化した行為の違法性)
 控訴人は,A検事が,本件被疑者から聴取した本件被疑者と控訴人との接見内容を調書に録取した上,本件被疑者に署名・指印させた行為が,弁護人等の固有権たる秘密交通権侵害との関係で,被疑者等の供述の聴取行為と独立して違法行為を構成すると主張する。
 しかしながら,検察官は,被疑者の取調べをし,その供述を調書に録取することができ(刑訴法198条1項及び3項),この場合においては,当該調書を被疑者に閲覧させ,又は読み聞かせて,誤りがないかどうかを問い,被疑者が増減変更の申立てをしたときは,その供述を調書に記載しなければならず(同条4項),また,被疑者が調書に誤りのないことを申し立てたときは,被疑者が拒絶した場合を除き,これに署名・押印することを求めることができる(同条5項。なお,押印に代えて指印することも許される。)のであるから,被疑者供述を調書に録取する行為は,単に聴取した被疑者の供述を書面化して証拠化する行為に過ぎず,当該調書に署名・指印を求める行為も,当該調書の記載内容の正確性を承認し,当該調書に証拠能力を付与することを求める行為に過ぎないというべきである。
 この点,控訴人は,上記に反し,捜査機関による接見内容の聴取行為が,聴取行為のみで終わった場合と,これを録取して被疑者等に署名・指印させた場合では,後者の場合の方が,現に接見内容が記載された調書が証拠として形になった以上,防御の有効性が阻害されたことは証拠上も決定的となることから,接見内容が調書化されることを慮って,接見における被疑者等と弁護人等の自由な意思疎通が萎縮するなどと主張するが,上記弊害は,捜査機関による接見内容の聴取行為により生じるものであって,接見内容の調書化により独立して生じるものとは認め難い。
 したがって,聴取行為によっていったん侵害された接見内容の秘密が,供述を調書に録取する行為及び当該調書に署名・指印を求める行為によって新たに侵害されたと解することは困難であるといわざるを得ず,A検事が接見内容を調書化した行為は,接見内容を聴取した行為と一体のものとして国賠法上違法となるというべきである。
 (3) 争点③について(本件供述調書の証拠調べ請求行為の違法性)
 被疑者の起訴後においても,刑訴法39条1項の趣旨は妥当し,検察官は,公判において,証拠調べ請求や被告人質問等の職務行為をするに当たり,刑訴法39条1項の趣旨を損なわないようにすべき注意義務を負っており,これに違反した場合には,当該職務行為は,国賠法上違法となると解すべきことは前記のとおりである。
 本件供述調書は,前記のとおり,国賠法上違法な聴取行為に基づいて作成されたものであるところ,本件において,A検事は,「生きていた被害児童を殺そうと考えたこと,逮捕直後は警察官に『死んだと思った。』旨嘘をついたこと,その理由,弁護士にも嘘をついたこと等」を立証趣旨として,本件供述調書の証拠調べ請求をしたことが認められる(乙12)。
 A検事が,本件供述調書の証拠調べ請求をするに際し,あえて「弁護人にも嘘をついたこと」をまでも立証趣旨とする必要があったとは,被疑者の殺意を巡る供述にそれなりの変遷があったことを考慮にいれても,到底認めることができず,かかる訴訟活動は,控訴人と本件被疑者との信頼関係を破壊するおそれのある行為であって,控訴人に対し,今後の公判における審理準備のため弁護活動をなす際においても,実質的弁護権としての秘密交通権を行使する機会を持つことについて,心理的な萎縮効果を生じさせたものと認めることができるから,聴取行為それ自体とは別個に,国賠法上違法と評価せざるを得ない。
(4) 争点④について(A検事の故意・重過失)
 A検事は,本件被疑者の取調べにおいて,未だ秘密性が消失したとはいえない接見内容について聴取し,これを調書化したうえ,「生きていた被害児童を殺そうと考えたこと,逮捕直後は警察官に『死んだと思った。』旨嘘をついたこと,その理由,弁護士にも嘘をついたこと等」を立証趣旨として,本件供述調書の証拠調べ請求をしたことが認められるところ,検察官において,刑訴法39条1項の趣旨を尊重すべきことは当然に認識してしかるべきであり,それにもかかわらず接見内容の聴取行為等に及んだことについては,重大な過失があるといわざるを得ない。
(5) 争点⑤について(損害額)
 控訴人は,A検事の上記一連の違法行為によって,弁護人固有の秘密交通権を侵害され,不快の念等の精神的損害を被り,また,本件刑事事件において,本件供述調書の証拠能力及び証明力を争うための訴訟活動を余儀なくされたことなど,本件に顕れた諸般の事情を考慮すると,その慰謝料としては,接見行為の聴取行為の違法行為につき40万円,本件供述調書の証拠調べ請求の違法行為につき10万円とするのが相当である。
 また,控訴人は,本件訴訟追行を弁護士に依頼したことが認められ,本件不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当損害金はそれぞれ,上記各行為につきそれぞれ4万円と1万円が相当である。
 4 そうすると,控訴人の本訴請求は,55万円及びうち44万円に対する不法行為の日である平成18年6月13日から,うち11万円に対する不法行為の日である平成18年8月14日から各支払い済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で理由があるから認容し,その余は理由がないから棄却すべきところ,これと異なり,控訴人の請求を全部棄却した原判決は失当であって,本件控訴は一部理由があるから,原判決を上記のとおり変更することとし,主文のとおり判決する。なお,仮執行免脱宣言は相当でないからこれを付さないこととする。」

5 解説(本判例の評釈である刑訴百選【11版】37事件)

 「本判決は,接見交通権が刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものではないとしつつも,秘密交通権の保障の限界の具体的適用に関して示した判断基準等については原判決と見解を異にする
とした上で秘密交通権の保障を最大限尊重すぺきであり,被疑者等が自発的に接見内容を供述しても弁護人固有の秘密交通権を保護する必要性が低減したとはいえず捜査機関は,接見内容の供述を始めた被疑者等に対して話す必要がないことを告知するなどの配慮義務を負っており捜査機関による接見内容聴取は原則として禁止されているとした。その上で本判決は, P の聴取行為について,ⓐAがBに「被害者が死んだと思った」と供述した事実の有無を確昭した点,ⓑ弁護人に対して捜査機関に対する供述と異なる供述をした理由を尋ねた点,ⓒ殺意を詑めると罪が重くなることは弁護人から言われて分かったことかなどと確認した点,およびⓓ「死んだと思った」という供述が虚偽であることを弁護人に伝えているかを確認した点について順次検討し,ⓐおよびⓑは直ちに刑訴法39条1項の趣旨を損なうとまではいえないがⒸおよびⓓは国賠法上違法であるとした。」(解説4)

 「なお本件事案とは離れるが,秘密交通権に関して被告人質問や共犯者に対する証人尋問において,検察官が弁護人との接見時のやり取りについて質問・尋問に及
ぶことが許容されるかという問題もある……。」(解説5)