最高裁平成6年9月16日刑集48巻6号420頁・刑訴百選【11】29事件(身柄を拘束されていない被疑者を強制採尿場所への連行することの可否)

1 はじめに

 ①いわゆる強制採尿令状により採尿場所まで連行することの適否が主に問題となりました。これに関連して、②任意同行を求めるため被疑者を職務質問の現場に長時間違法に留め置いたとしてもその後の強制採尿手続により得られた尿の鑑定書の証拠能力は否定されないかも問題となりました。

 ①に関しては、身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、いわゆる強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができるとしました。②に関しては、覚せい剤使用の嫌疑のある被疑者に対し、自動車のエンジンキーを取り上げるなどして運転を阻止した上、任意同行を求めて約六時間半以上にわたり職務質問の現場に留め置いた警察官の措置は、任意捜査として許容される範囲を逸脱し、違法であるが、被疑者が覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動を繰り返していたことなどから運転を阻止する必要性が高く、そのために警察官が行使した有形力も必要最小限度の範囲にとどまり、被疑者が自ら運転することに固執して任意同行をかたくなに許否し続けたために説得に長時間を要したものであるほか、その後引き続き行われた強制採尿手続自体に違法がないなどの判示の事情の下においては、右一連の手続を全体としてみてもその違法の程度はいまだ重大であるとはいえず、右強制採尿手続により得られた尿についての鑑定書の証拠能力は否定されないとしました。

2 前提となる知識

⑴刑訴法99条(222条1項本文前段で準用)
①裁判所は、必要があるときは、証拠物又は没収すべき物と思料するものを差し押えることができる。ただし、特別の定めのある場合は、この限りでない。
② 差し押さえるべき物が電子計算機であるときは、当該電子計算機に電気通信回線で接続している記録媒体であつて、当該電子計算機で作成若しくは変更をした電磁的記録(電子的方式、磁気的方式その他人の知覚によつては認識することができない方式で作られる記録であつて、電子計算機による情報処理の用に供されるものをいう。以下同じ。)又は当該電子計算機で変更若しくは消去をすることができることとされている電磁的記録を保管するために使用されていると認めるに足りる状況にあるものから、その電磁的記録を当該電子計算機又は他の記録媒体に複写した上、当該電子計算機又は当該他の記録媒体を差し押さえることができる。
③ 裁判所は、差し押えるべき物を指定し、所有者、所持者又は保管者にその物の提出を命ずることができる。
⑵刑訴法102条(222条1項本文前段で準用)
裁判所は、必要があるときは、被告人の身体、物又は住居その他の場所に就き、捜索をすることができる。
② 被告人以外の者の身体、物又は住居その他の場所については、押収すべき物の存在を認めるに足りる状況のある場合に限り、捜索をすることができる。
⑶刑訴法218条
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索、電磁的記録提供命令又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
②から⑧まで略
⑨ 裁判官は、身体の検査に関し、適当と認める条件を付することができる。
⑷刑訴法219条
①前条の令状には、被疑者若しくは被告人の氏名、罪名、差し押さえるべき物、捜索すべき場所、身体若しくは物、提供させるべき電磁的記録、提供させるべき者及び提供の方法、検証すべき場所若しくは物又は検査すべき身体及び身体の検査に関する条件、有効期間及びその期間経過後は差押え、捜索若しくは検証に着手し、又は電磁的記録提供命令をすることができず令状はこれを返還しなければならない旨並びに発付の年月日その他裁判所の規則で定める事項を記載し、裁判官が、これに記名押印しなければならない。
②以下略
⑸刑訴法317条
事実の認定は、証拠による。
⑹警察官職務執行法
2条
①警察官は、異常な挙動その他周囲の事情から合理的に判断して何らかの犯罪を犯し、若しくは犯そうとしていると疑うに足りる相当な理由のある者又は既に行われた犯罪について、若しくは犯罪が行われようとしていることについて知つていると認められる者を停止させて質問することができる。
② その場で前項の質問をすることが本人に対して不利であり、又は交通の妨害になると認められる場合においては、質問するため、その者に附近の警察署、派出所又は駐在所に同行することを求めることができる。
③ 前二項に規定する者は、刑事訴訟に関する法律の規定によらない限り、身柄を拘束され、又はその意に反して警察署、派出所若しくは駐在所に連行され、若しくは答弁を強要されることはない。
⑺道路交通法
65条1項
何人も、酒気を帯びて車両等を運転してはならない。
67条3項
車両等に乗車し、又は乗車しようとしている者が第65条第1項の規定に違反して車両等を運転するおそれがあると認められるときは、警察官は、次項の規定による措置に関し、その者が身体に保有しているアルコールの程度について調査するため、政令で定めるところにより、その者の呼気の検査をすることができる。

3 問題の所在(本判例の評釈である判例タイムズ862号267頁)

 身柄を拘束されていない強制採尿令状により被疑者をその意思に反して採尿場所へ連行することの可否について、公刊された裁判例はすべてこれを是認していたが、その根拠については、令状の効力として認めるもの(東京高判平3・3・12判時1385号129頁)と刑訴法222条1項で準用される同法111条所定の「必要な処分」として認めるもの(東京高判平2・8・29判時1374号136頁等)とに分かれていました。この点について、判例は後者に立つことを明らかにしました。

4 判旨

 「弁護人小野純一郎の上告趣意第1は、判例違反をいうが、所論引用の各判例は事案を異にして本件に適切でなく、同第2は、判例違反をいうが、所論引用の各判例は、所論のように控訴審において訴因変更を許可した後控訴を棄却することは許されないという趣旨まで判示したものではないから、前提を欠き、刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
 なお、所論にかんがみ、職権により判断するに、原判決が被告人から採取された尿に関する鑑定書の証拠能力を認めたのは、次の理由により、結論において正当である。
一 原判決及びその是認する第一審判決の認定並びに記録によれば、事件の経過は、次のとおりと認められる。
 1 福島県会津若松警察署A警部補は、平成4年12月26日午前11時前ころ、被告人から、同警察署八田駐在所に意味のよく分からない内容の電話があった旨の報告を受けたので、被告人が電話をかけた自動車整備工場に行き、被告人の状況及びその運転していた車両の特徴を聞くなどした結果、覚せい剤使用の容疑があると判断し、立ち回り先とみられる同県猪苗代方面に向かった。
 2 同警察署から捜査依頼を受けた同県猪苗代警察署のB巡査は、午前11時すぎころ、国道49号線を進行中の被告人運転車両を発見し、拡声器で停止を指示したが、被告人運転車両は、2、3度蛇行しながら郡山方面へ進行を続け、午前11時5分ころ、磐越自動車道猪苗代インターチェンジに程近い同県耶麻郡a町大字b字cの通称堅田中丸交差点の手前(以下「本件現場」という。)で、B巡査の指示に従って停止し、警察車両二台もその前後に停止した。当時、付近の道路は、積雪により滑りやすい状態であった。
 3 午前11時10分ころ、本件現場に到着した同警察署C巡査部長が、被告人に対する職務質問を開始したところ、被告人は、目をキョロキョロさせ、落ち着きのない態度で、素直に質問に応ぜず、エンジンを空ふかししたり、ハンドルを切るような動作をしたため、C巡査部長は、被告人運転車両の窓から腕を差し入れ、エンジンキーを引き抜いて取り上げた。
 4 午前11時25分ころ、猪苗代警察署から本件現場の警察官に対し、被告人には覚せい剤取締法違反の前科が4犯あるとの無線連絡が入った。午前11時33分ころ、A警部補らが本件現場に到着して職務質問を引き継いだ後、会津若松警察署の数名の警察官が、午後5時43分ころまでの間、順次、被告人に対し、職務質問を継続するとともに、警察署への任意同行を求めたが、被告人は、自ら運転することに固執して、他の方法による任意同行をかたくなに拒否し続けた。他方、警察官らは、車に鍵をかけさせるためエンジンキーをいったん被告人に手渡したが、被告人が車に乗り込もうとしたので、両脇から抱えてこれを阻止した。そのため、被告人は、エンジンキーを警察官に戻し、以後、警察官らは、被告人にエンジンキーを返還しなかった。
 5 右4の職務質問の間、被告人は、その場の状況に合わない発言をしたり、通行車両に大声を上げて近づこうとしたり、運転席の外側からハンドルに左腕をからめ、その手首を右手で引っ張って、「痛い、痛い」と騒いだりした。
 6 午後3時26分ころ、本件現場で指揮を執っていた会津若松警察署D警部が令状請求のため現場を離れ、会津若松簡易裁判所に対し、被告人運転車両及び被告人の身体に対する各捜索差押許可状並びに被告人の尿を医師をして強制採取させるための捜索差押許可状(以下「強制採尿令状」という。)の発付を請求した。午後5時2分ころ、右各令状が発付され、午後5時43分ころから、本件現場において、被告人の身体に対する捜索が被告人の抵抗を排除して執行された。
 7 午後5時45分ころ、同警察署E巡査部長らが、被告人の両腕をつかみ被告人を警察車両に乗車させた上、強制採尿令状を呈示したが、被告人が興奮して同巡査部長に頭を打ち付けるなど激しく抵抗したため、被告人運転車両に対する捜索差押手続を先行させた。ところが、被告人の興奮状態が続き、なおも暴れて抵抗しようとしたため、同巡査部長らは、午後6時32分ころ、両腕を制圧して被告人を警察車両に乗車させたまま、本件現場を出発し、午後七時一〇分ころ、同県会津若松市鶴賀町所在の総合会津中央病院に到着した。午後7時40分ころから52分ころまでの間、同病院において、被告人をベッドに寝かせ、医師がカテーテルを使用して被告人の尿を採取した。
二 以上の経過に即して被告人の尿の鑑定書の証拠能力について検討する。
 1 本件における強制採尿手続は、被告人を本件現場に六時間半以上にわたって留め置いて、職務質問を継続した上で行われているのであるから、その適法性については、それに先行する右一連の手続の違法の有無、程度をも十分考慮してこれを判断ずる必要がある(最高裁昭和……61年4月25日第二小法廷判決・刑集40巻3号215頁参照)。
 2 そこで、まず、被告人に対する職務質問及びその現場への留め置きという一連の手続の違法の有無についてみる。
 (一) 職務質問を開始した当時、被告人には覚せい剤使用の嫌疑があったほか、幻覚の存在や周囲の状況を正しく認識する能力の減退など覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動が見受けられ、かつ、道路が積雪により滑りやすい状態にあったのに、被告人が自動車を発進させるおそれがあったから、前記の被告人運転車両のエンジンキーを取り上げた行為は、警察官職務執行法二条一項に基づく職務質問を行うため停止させる方法として必要かつ相当な行為であるのみならず、道路交通法67条3項に基づき交通の危険を防止するため採った必要な応急の措置に当たるということができる。
 (二) これに対し、その後被告人の身体に対する捜索差押許可状の執行が開始されるまでの間、警察官が被告人による運転を阻止し、約6時間半以上も被告人を本件現場に留め置いた措置は、当初は前記のとおり適法性を有しており、被告人の覚せい剤使用の嫌疑が濃厚になっていたことを考慮しても、被告人に対する任意同行を求めるための説得行為としてはその限度を超え、被告人の移動の自由を長時間にわたり奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱したものとして違法といわざるを得ない。
 (三) しかし、右職務質問の過程においては、警察官が行使した有形力は、エンジンキーを取り上げてこれを返還せず、あるいは、エンジンキーを持った被告人が車に乗り込むのを阻止した程度であって、さほど強いものでなく、被告人に運転させないため必要最小限度の範囲にとどまるものといえる。また、路面が積雪により滑りやすぐ、被告人自身、覚せい剤中毒をうかがわせる異常な言動を繰り返していたのに、被告人があくまで磐越自動車道で宮城方面に向かおうとしていたのであるから、任意捜査の面だけでなく、交通危険の防止という交通警察の面からも、被告人の運転を阻止する必要性が高かったというべきである。しかも、被告人が、自ら運転することに固執して、他の方法による任意同行をかたくなに拒否するという態度を取り続けたことを考慮すると、結果的に警察官による説得が長時間に及んだのもやむを得なかった面があるということができ、右のような状況からみて、警察官に当初から違法な留め置きをする意図があったものとは認められない。これら諸般の事情を総合してみると、前記のとおり、警察官が、早期に令状を請求することなく長時間にわたり被告人を本件現場に留め置いた措置は違法であるといわざるを得ないが、その違法の程度はいまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえない。
 3 次に、強制採尿手続の違法の有無についてみる。
 (一) 記録によれば、強制採尿令状発付請求に当たっては、職務質問開始から午後1時すぎころまでの被告人の動静を明らかにする資料が疎明資料として提出されたものと推認することができる。
 そうすると、本件の強制採尿令状は、被告人を本件現場に留め置く措置が違法とされるほど長期化する前に収集された疎明資料に基づき発付されたものと認められ、その発付手続に違法があるとはいえない。
 (二) 身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合には、強制採尿令状の効力として、採尿に適する最寄りの場所まで被疑者を連行することができ、その際、必要最小限度の有形力を行使することができるものと解するのが相当である。けだし、そのように解しないと、強制採尿令状の目的を達することができないだけでなく、このような場合に右令状を発付する裁判官は、連行の当否を含めて審査し、右令状を発付したものとみられるからである。その場合、右令状に、被疑者を採尿に適する最寄りの場所まで連行することを許可する旨を記載することができることはもとより、被疑者の所在場所が特定しているため、そこから最も近い特定の採尿場所を指定して、そこまで連行することを許可する旨を記載することができることも、明らかである。
 本件において、被告人を任意に採尿に適する場所まで同行することが事実上不可能であったことは、前記のとおりであり、連行のために必要限度を超えて被疑者を拘束したり有形力を加えたものとはみられない。また、前記病院における強制採尿手続にも、違法と目すべき点は見当たらない。
 したがって、本件強制採尿手続自体に違法はないというべきである。
 4 以上検討したところによると、本件強制採尿手続に先行する職務質問及び被告人の本件現場への留め置きという手続には違法があるといわなければならないが、その違法自体は、いまだ重大なものとはいえないし、本件強制採尿手続自体には違法な点はないことからすれば、職務質問開始から強制採尿手続に至る一連の手続を全体としてみた場合に、その手続全体を違法と評価し、これによって得られた証拠を被告人の罪証に供することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとも認められない。
 5 そうであるとすると、被告人から採取された尿に関する鑑定書の証拠能力を肯定することができ、これと同旨の原判断は、結論において正当である。
 よって、刑訴法414条、386条1項3号、刑法21条により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。」

5 解説

 ⑴本判例の評釈である判例タイムズ862号267頁

 「一 本件は、派出所に電話をかけてきた被告人の異常な言動等から、覚せい剤使用の嫌疑を抱いた警察官が、被告人運転車両のエンジンキーを引き抜き取り上げるなどして、被告人による運転を阻止し、任意同行を求めて約6時間半以上にわたり被告人を道路上に留め置いた上、尿を強制採取するための捜索差押許可状(以下「強制採尿令状」という。)の発付を得て、これにより、被告人を病院まで連行し、その尿を採取したところ、その尿中から覚せい剤が検出されたという事案である。
 被告人から採取された尿に関する鑑定書の証拠能力が争われた。
 本決定は、まず、(一)強制採尿手続に先行する職務質問及びその現場である道路上への長時間にわたる留め置きという一連の手続(以下「先行手続」という。)について、(1)被告人運転車両のエンジンキーを取り上げた行為は、最1小決昭53・9・22刑集32巻6号1774頁、本誌370号70頁の趣旨に従い、適法であるとする一方、(2)その後被告人による運転を阻止して約6時間半以上も職務質問の現場に留め置いた措置は、任意同行を求める説得行為としての限度を超え、被告人の自由を長時間奪った点において、任意捜査として許容される範囲を逸脱し違法といわざるを得ないが、(3)その違法の程度は、いまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえないと判示し、次いで、(二)その後の強制採尿手続については、(1)決定要旨一のとおりの一般論を示した上、(2)本件強制採尿手続自体に違法はないとし、(三)右(一)(二)の一連の手続を全体としてみた場合にも、その手続全体を違法と評価し、これによって得られた証拠を被告人の罪証に供することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとも認められないとして、被告人の尿に関する鑑定書の証拠能力を肯定した。
 二 右(一)の先行手続については、強制捜査に移行するか被告人を解放するかの警察官の見極めが遅れたため、結果として令状に基づくことなく被告人の移動の自由を長時間奪った点で違法とされたもので、本決定は、右の点の違法を宣言することにより、警察官に対し、迅速かつ適切な対応を求めたものといえよう。
もっとも、本決定は、警察官の行使した有形力が、被告人に運転させないため必要最小限度の範囲にとどまること、交通警察の面からも、運転を阻止する必要性が高かったこと、被告人が自ら運転することに固執し、他の方法による任意同行をかたくなに拒否したため、警察官による説得が長時間に及んだことなどを指摘して、違法の程度は重大なものとはいえないとした。
 本決定の右のような判示は、行政警察的な面も考慮しながら任意捜査の限界及びそれを逸脱した場合の違法の程度に関する判断事例として参考となるものと思われる。
 三 強制採尿令状により被疑者をその意思に反して採尿場所へ連行することの可否について、公刊された裁判例はすべてこれを是認していたが、その根拠については、令状の効力として認めるもの(東京高判平3・3・12判時1385号129頁)と刑訴法222条1項で準用される同法111条所定の「必要な処分」として認めるもの(東京高判平2・8・29判時1374号136頁等)とに分かれていた。
これに対し、学説からは、事前の司法審査なく人身の自由が制約されるなどとの批判があった(最近のものとして酒巻匡・刑訴法判例百選〔6版〕62頁参照)。
 本決定は、最高裁がこの点について初めての判断を示したものであり、連行の要件(身柄を拘束されていない被疑者を採尿場所へ任意に同行することが事実上不可能であると認められる場合)、連行すべき場所(採尿に適する最寄りの場所)及び手段(必要最小限度の有形力の行使)並びに理論的根拠(強制採尿令状の効力)を明らかにした点において、先例的価値を有し、捜査実務に対する影響の大きな判例であると思われる。
 本決定は、連行の当否について、事前の司法審査に服することを前提としていることが明らかであって、被疑者を採尿場所まで任意に同行することが事実上不可能であり、かつ、警察で用意した採尿場所が最寄りの採尿に適する場所であることについて、令状を請求する者が疎明し、裁判官がその当否を審査することになる。
また、当然のことながら、連行のために行使できる有形力も、必要最小限度にとどまるべきことを判示しているところ、強制採尿令状による連行は、逮捕の場合とはおのずから異なってくることに注意を要しよう(佐藤文哉・刑訴法判例百選〔5版〕58頁参照)。
 四 最後に、本決定は、被告人の尿に関する鑑定書の証拠能力を肯定した原判断を是認したわけであるが、このように先行手続の違法の承継を認めつつ後行手続である強制採尿手続により得られた尿に関する鑑定書の証拠能力について判断した点は、従来の判例(最2小判昭61・4・25刑集40巻3号215頁、本誌600号78頁、最2小決昭63・9・16刑集42巻7号1051頁、本誌680号121頁)を踏まえた判断方法に従ったものではあるが、違法収集証拠の証拠能力の判断に関する新たな事例を加えたものとして実務上の意義があるものと思われる。」

 ⑵ 本判例の評釈である刑訴百選【11版】29事件解説4(連行のための立入りの可否)

 「被疑者方自宅・勤務先事業所等に捜査官が適法に立ち入って強制採尿令状を呈示したところ.被疑者がトイレ個室に立て籠った場合.財産価値を損なう扉の損壊までも,令状発付時に審査していると見ることには無理がある。強制採尿令状の効力に基づく連行のための「必要な処分」として刑訴法222条1項,111条1項により,扉の損壊をすることは許容されよう。
 他方屋外や共用廊下で強制採尿令状を呈示された被疑者が自宅・ホテル客室等に閉じ籠った場合は,強制採尿令状によって制約が許容されているのが被疑者の身体である反面自宅・ホテル客室等の空間には被疑事実とは無関係な被疑者の思想信条・嗜好等に関する情報も存在する可能性がある。強制採尿令状の付随的効力または「必要な処分」としてこのような空間への強制的立入りは許容されない。逮捕のための無令状での立入りが明文で認められていること(刑訴220条1項1号・同3項)とは対照的である。強制採尿のための連行を実施する目的でプライバシーが高度に保障される空間へ立ち入るためには別途,立入りを許容する令状の発付を受けなければ違法である(札幌高判平成29 年9月7日高刑速(平29)336頁。……川出敏裕『判例講座刑事訴訟法〔捜査・証拠篇〕〔第2版〕・201 頁)。」