最高裁平成7年3月27日刑集49巻3号525頁・刑訴百選【11版】52事件(必要的弁護事件とその例外)
1 はじめに
本判例は、いわゆる必要的弁護事件の公判期日について刑訴法289条1項の適用がないとされた事例判例です。
2 前提となる知識
刑訴法289条
①死刑又は無期若しくは長期三年を超える拘禁刑に当たる事件を審理する場合には、弁護人がなければ開廷することはできない。
②弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないとき若しくは在廷しなくなつたとき、又は弁護人がないときは、裁判長は、職権で弁護人を付さなければならない。
③弁護人がなければ開廷することができない場合において、弁護人が出頭しないおそれがあるときは、裁判所は、職権で弁護人を付することができる。
3 問題の所在
必要的弁護事件とは、弁護人がなければ開廷して審理をすることができない事件をいいます(刑訴法289条1項、316条の29、350条の23)。本判例では。必要的弁護事件において甲は期日に弁護人が出頭できない事情がある場合、例外的に弁護人なしでも開廷できるかがもんだいとなりました。
4 判旨
「弁護人齋藤實及び同松江頼篤の上告趣意は、違憲をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であり、被告人本人の上告趣意は、違憲をいう点を含め、実質は事実誤認、単なる法令違反、量刑不当の主張であって、いずれも刑訴法四〇五条の上告理由に当たらない。
なお、所論のうち、差戻し後の第二次第一審の審理手続が刑訴法289条1項に違反するとの主張について、職権をもって判断する。
一 差戻し後の第二次第一審判決及び原判決(第二次控訴審判決)並びに記録によれば、本件審理の経過は、次のとおりである。
1 差戻し前の第一次第一審の経過
本件は、暴力行為等処罰に関する法律違反(常習傷害・暴行・脅迫)、住居侵入被告事件として起訴されたいわゆる必要的弁護事件であるところ、第一次第一審である大津地方裁判所における審理は、昭和44年4月から昭和54年3月までの約10年間に及んだ。この間、被告人は、公判期日への不出頭や勾引状を執行不能にさせる出廷拒否を重ねながら、裁判官忌避申立て(18回)、書記官忌避申立て(1回)及び管轄移転の請求(13回)を繰り返し、国選弁護人に対しては、公判期日への不出頭を要求し、裁判所にその解任を請求するなどした。このため、国選弁護人の選任、解任が繰り返され、延べ八名の国選弁護人が審理に関与したが、最後に選任された国選弁護人2名も辞任届を提出して公判期日に出頭しなくなったところから、裁判所は、第26回公判期日において、被告人及び弁護人の立会いがないまま、被告人の身上調査回答書及び前科調書を取り調べ、不出頭の証人(被告人の妻)の採用を取り消し、検察官が論告求刑を行って結審した上、第27回公判期日に、懲役1年6月の有罪判決を宣告した。
2 第一次控訴審の経過
被告人からの控訴申立てにより、大阪高等裁判所において、昭和54年9月から昭和56年12月までの間に7回の公判期日が開かれたが、被告人が当初選任した私選弁護人2名は、公判期日に出頭しないまま辞任する一方、被告人は、裁判官忌避を申し立てたり、選任された国選弁護人2名に対する解任請求を繰り返したりして、公判期日に1回も出頭しないまま、結審を迎えた。同裁判所は、第一次第一審が弁護人の立会いがないまま実質審理をした点に違法があるとして、第一次第一審判決を破棄し、事件を原審である大津地方裁判所に差し戻した(第一次控訴審判決)。
3 差戻し後の第二次第一審の経過
(一) 差戻しを受けた大津地方裁判所において、昭和57年10月から昭和59年2月までの間、16回の公判期日が開かれたが、被告人は、昭和58年10月保釈取消しにより収監されるまで、裁判所からの送達書類の受取りを拒否し、郵送された書類は開封しないまま返送するなどして、公判期日に出頭せずに、疎明資料のない公判期日変更請求を繰り返し、収監された後も、公判期日に3回出頭した以外は、出廷拒否を重ねたほか、裁判官忌避申立て(12回)及び管轄移転の請求(2回)を繰り返した。
(二) 当初の国選弁護人2名は、いずれも第一回公判期日に出頭したものの、その後は、本件の紛糾の原因が裁判所にあるなどとする意見書等を提出したまま公判期日に出頭せず、辞任届を提出したため、裁判所が滋賀弁護士会に刑訴規則303条2項による処置請求をした結果、同弁護士会は、会長である北川和夫弁護士及び遠藤幸太郎弁護士を推薦した。裁判所は、当初の国選弁護人2名を解任して、北川、遠藤両弁護士を国選弁護人に選任した。
(三) 新たな国選弁護人の選任を知った被告人は、昭和58年7月15日、北川弁護人の自宅に押し掛け、その妻子に対し、約4時間にわたり、「おやじが法廷に出ないように言っておけ。」と要求するなどし、同年9月18日には、その妻に対し電話で、「裁判になれば、わしの家族も不幸になるが、おまえのところの家族の両手がそのままあると思っていたら大間違いやぞ。」などと脅迫し、同日午後10時半ころには、同弁護人の自宅に押し掛けて、その胸倉をつかまえ、「今日はケリをつけたるから外へ出ろ。」などと言って、同弁護人を外へ連れ出した上、翌日午前1時ころまで、右電話によるのと同様の脅迫を行い、心配して駆けつけた遠藤弁護人に対しても、同日午前2時半ころまで同様の脅迫を続けた。さらに、被告人は、同月21日にも、両弁護人に対し、同様の脅迫行為を繰り返したため、北川弁護人は、裁判所に対し、被告人による脅迫を理由として辞任を決意した旨の上申書を提出し、同月22日以降の公判期日には出頭しなかった。
(四) 他方、被告人は、同年10月20日、保釈を取り消されて収監された後、私選弁護人2名を選任した。このうち1名は、第一次第一審において国選弁護人に選任されたが、被告人との信頼関係欠如を理由に辞任届を提出して、同審第26回公判期日に出頭しなかった者であり、また、他の1名は、差戻し後の第二次第一審の当初の国選弁護人であり、前記のとおり、公判期日への不出頭を重ねた上、辞任届を提出した者である。
(五) 第7回ないし第9回各公判期日には、被告人及び前記私選弁護人の1名又は2名が出頭したが、第9回公判期日には、出頭した私選弁護人2名のうち1名が病気治療を理由に途中退廷し、他の1名及び被告人が当日の審理打切りを強く要求したため、裁判所は、被告人らの強い要望に従って次回期日を追って指定にした。その後の期日の打合せにおいて、私選弁護人両名は、被告人を納得させるためには保釈すべきであると主張したほか、2箇月先の期日指定を要求したり、被告人の承知しない期日指定には応じられないとする態度を示したか、裁判所は、同年12月27日に、翌59年1月11日から2月9日までの間に九回の公判期日を一括して指定した。
(六) 昭和59年1月11日の第10回公判期日において、被告人が出廷を拒否したため、裁判所が刑訴法286条の2の規定に基づいて開廷したところ、私選弁護人両名は、公判期日の一括指定に抗議して、裁判官の忌避を申し立てた上(簡易却下された。)裁判官の在廷命令を無視して退廷した。裁判所は、国選の遠藤弁護人に電話で出頭を要請したが、同弁護人がこれに応じなかったため、弁護人が在廷しないまま当日に予定されていた公判手続の更新を行った。その後、裁判所は、公判期日ごとに、被告人及び各弁護人に対し、前回の公判調書の写しを送付し、当日には電話で出頭を要請したが、いずれも出頭しないまま、第12回公判期日までに、公判手続の更新を終えた。第13回公判期日には、被告人質問を予定し、事前に被告人及び各弁護人にもその旨を通知していたが、被告人及び各弁護人がいずれも出頭しなかったため、同期日には開廷することができなかった。
(七)第14回公判期日の直前に、遠藤弁護人は、不出頭届を提出して、被告人が行った同弁護人やその家族に対する脅迫による不安を訴えた。また、同公判期日に出頭した私選弁護人両名は、被告人の身上調査回答書及び前科調書が取り調べられた後に、公判調書の記載の正確性に対する異議申立て及び裁判官忌避申立てを行い(簡易却下された。)、さらに、被害者の再尋問の請求等を検討中であるとして第15回以降の公判期日指定の取消しを求めたが、裁判所が証人としては既に採用され取調べ未了の被告人の妻だけを取り調べる意向を表明したことから、裁判官の在廷命令を無視して退廷した。
(八) その後も、裁判所は、各公判期日ごとに、各弁護人に対し、前回の公判調書の写しを送付し、審理の経過を通知するなどしたほか、公判期日の当日にも電話で出頭を要請したが、被告人及び各弁護人の出頭が得られないまま、第15回公判期日において、不出頭の証人(被告人の妻)の採用を取り消して同証人の取調べ請求を却下した後、検察官が論告求刑を行い、第16回公判期日において、懲役1年6月の有罪判決を宣告した。
二 以上の経過に即して、第二次第一審における審理手続の適否について判断する。
1 刑訴法289条に規定するいわゆる必要的弁護制度は、被告人の防御の利益を擁護するとともに、公判審理の適正を期し、ひいては国家刑罰権の公正な行使を確保するための制度である(最高裁昭和23年……10月30日第二小法廷判決・刑集2巻11号1435頁)。
2 被告人は、第二次第一審において、本件が必要的弁護事件であって、審理を行うには弁護人の立会いが必要であることを熟知しながら、前記のように、弁護人を公判期日へ出頭させないなど、種々の手段を用いて、本件公判審理の進行を阻止しようとしたものであり、私選弁護人両名は、このような被告人の意図や目的を十分知りながら、裁判所による公判期日の指定に応ぜず、被告人の意向に沿った対応に終始し、裁判所が公判期日を一括して指定するや、公判期日への不出頭あるいは在廷命令を無視した退廷を繰り返し、裁判所からの再三にわたる出頭要請にも応じなかったものである。さらに、裁判所が弁護人出頭確保のため弁護士会の推薦に基づき順次選任した同会会長を含む国選弁護人も、被告人の意向に従って、あるいは、被告人の弁護人本人やその家族に対する暴行ないし脅迫によって、いずれも公判期日に出頭しなくなったものである。そして、このような被告人の言動あるいは被告人の意向に沿った弁護人らの対応によって、多数回にわたり実質審理が阻止され、弁護人の立会いの下に公判期日を開くことが事実上不可能になったものであることは明らかである。
3 このように、①裁判所が弁護人出頭確保のための方策を尽したにもかかわらず、②被告人が、弁護人の公判期日への出頭を妨げるなど、弁護人が在しての公判審理ができない事態を生じさせ、かつ、③その事態を解消することが極めて困難な場合には、当該公判期日については、刑訴法289条1項の適用がない(※①から③までは筆者)ものと解するのが相当である。けだし、このような場合、被告人は、もはや必要的弁護制度による保護を受け得ないものというべきであるばかりでなく、実効ある弁護活動も期待できず、このような事態は、被告人の防御の利益の擁護のみならず、適正かつ迅速に公判審理を実現することをも目的とする刑訴法の本来想定しないところだからである。
三 そうすると、差戻し後の第二次第一審が弁護人の立会いのないまま実質審理を行ったのは、刑訴法289条1項に違反するものではないとした原判断は、正当として是認することができる。
よって、刑訴法414条、386条1項3号、181条1項ただし書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。」
5 解説
⑴判例タイムズ875号59頁
「一 事案の概要 本件は、決定文のとおり、刑訴法289条1項にいわゆる必要的弁護事件である。
被告人は、差戻し前の1次一審途中から、公判期日への不出頭を重ねながら、裁判官忌避申立て等を繰り返し、国選弁護人には、公判期日への不出頭を要求し、裁判所にもその解任を要求するなどした結果、最後に選任された国選弁護人も辞任届を提出して公判期日に出頭しなくなったため、1次一審が、被告人及び弁護人の立会いのないまま結審して有罪判決を宣告したところ、1次二審判決は、右訴訟手続が違法であるとして、1次一審判決を破棄し、事件を一審に差し戻した。
ところが、被告人は、差戻し後の2次一審においても、本件公判審理の進行を阻止しようとして、公判期日への不出頭や裁判官忌避申立てを繰り返し、私選弁護人も、このような被告人の意向に沿った対応に終始したばかりでなく、被告人は、裁判所が弁護人出頭確保のため選任した国選弁護人に対しても、その本人や家族に暴行・脅迫を加えてその出頭を妨害し、その結果、多数回にわたり実質審理が阻止され、弁護人の立会いの下に公判期日を開くことが事実上不可能になったため、2次一審は、再び被告人及び弁護人の立会いがないまま審理を行い結審して有罪判決を宣告し、2次二審判決(原判決)が2次一審の右訴訟手続に違法はないとして控訴を棄却したところ、被告人が上告を申し立てたものである。
二 本件の争点等 1 本件の争点は、刑訴法289条1項にいわゆる必要的弁護事件について、弁護人の立会いなく実質審理する余地があるのか、あるとすれば、その要件はどのようなものであり、その理論的根拠は何かという点にある。
2 古くは、刑訴法289条1項に例外の定めのないことを理由として、必要的弁護制度に例外がないと解するのが一般的であったが、大学紛争等に伴う荒れる法廷の出現を契機として、下級審において、必要的弁護事件であっても、例外的に弁護人の立会いなく実質審理を行うことを認める裁判例が現れ(東京高判昭57・4・28判時1070号142頁等)、学説においても、裁判実務家、検察実務家を中心に、被告人による権利の放棄(ないしその擬制)、刑訴法341条又は286条の2の類推適用(船田三雄・曹時27巻2号19頁等)、更には同法289条1項自体の解釈により(小林充・曹時33巻2号20頁等)、こうした裁判例を擁護する見解が主張され、最近では、弁護実務家や有力な学者からも、例外を認める見解が主張されるに至っている(田宮裕・刑訴法271頁、石井吉一・刑訴法判例百選〔6版〕111頁)。
3 また、昭和53年3月には、必要的弁護事件について、私選弁護人が正当な理由なく公判期日に出頭しないときなどには、必要的弁護制度の例外を認める趣旨の「刑事事件の公判の開廷についての暫定的特例を定める法律案」が国会に提出され、その当否が厳しく争われたが、昭和54年3月、法曹三者協議会において、弁護士会が特別案件(通常の推薦手続によることが困難又は不相当な事件)について国選弁護人を責任をもって速やかに推薦することなどを内容とする協議結果がまとまる一方、この法案が廃案となったという経緯がある(山下善三・ひろば32巻8号51頁参照)。
三 本決定の意義 1 本決定は、以上のような経緯を踏まえながら、必要的弁護制度の例外を正面から認めたものであり、従来から厳しい争いのあった刑訴法289条1項の解釈について明確な判断を示したものであって、先例的価値が高く、実務に対する影響の大きな判例であると思われる。
2 本決定は、(1)裁判所において弁護人出頭確保のための方策を尽くしたにもかかわらず、(2)被告人が、弁護人の公判期日への出頭を妨げるなど、弁護人が在廷しての公判審理ができない事態を生じさせ、かつ、(3)その事態を解消することが極めて困難な場合には、当該公判期日については、刑訴法289条1項の適用がなく、弁護人の立会いのないまま公判審理を行うことができると判示して、同条項の適用例外に必要な3要件を明らかにした。
このうち(1)は、裁判所に対し弁護人出頭確保のための方策を尽くす義務を課したものであり、私選弁護人が出頭しないだけでは足りず、前記の法曹3者協議結果に従って、弁護士会との協力により、公判期日に出頭できる国選弁護人を確保することを求めるものと思われ、(2)は、被告人が、弁護人の在廷する公判審理を事実上不可能にしたことであり、被告人が主導的にこのような事態を生じさせ、その帰責事由の存在が明らかであることを意味し、さらに、(3)は、裁判所が様々な方策を尽くしても、その事態を解消することが極めて困難なことをいうものといえよう。
3 また、本決定は、刑訴法289条1項の適用例外を認める理由について、前記の要件が満たされる場合には、被告人は、もはや必要的弁護制度による保護を受けられないものであり、しかも、実効ある弁護活動も期待できず、また、このような事態は、被告人の防御の利益の擁護だけでなく、適正かつ迅速に公判審理を実現することをも目的とする刑訴法の本来想定しないところである点を指摘している。
必要的弁護制度は、被告人の防御の利益を擁護するとともに、公判審理の適正を所期し、ひいては国家刑罰権の公正な行使を確保するための制度である(最2小決昭23・10・30刑集2巻11号1435頁参照)ところ、本決定の趣旨を敷衍すると、次のようになるものと思われる。
すなわち、被告人の防御の利益の擁護の点は、被告人が自らその権利を乱用したのであるから、必要的弁護制度による保護を受ける資格を有しないといえよう。
また、適正な審理及び国家刑罰権の公正な行使の確保の点は、このような事態に立ち至れば、被告人と弁護人との信頼関係に基づき公判手続を通じて行われるべき実効ある弁護活動も、もはや期待できないから、同制度の機能も限られたものとならざるを得ない。
しかも、同制度を遵守することにより、公判審理及び国家刑罰権の行使の実現を不可能又は極めて困難にすることは、法の本来想定しないものというべきであり、その限りにおいて、この制度は一定の例外を前提とするものと考えられる。
そして、刑訴法289条1項をそのまま適用したのでは、迅速な裁判実現の要請という正当な利益が甚だしく害され、しかも、被告人の防御の利益擁護及び公正な審理確保の要請を考慮に入れても、なお著しく正義に反するような場合には、同条項を適用しないことが例外的に許されると解すべきである、ということができよう。
なお、本決定が被告人による権利の放棄(その擬制)又は刑訴法341条や286条の2の類推適用という従来有力であった見解を採用しなかったのは、前説には、同法289条が被告人の権利という面からは規定しておらず、被告人が「弁護人は不要である。」と言っても弁護人の在廷が義務付けられている点において、また、後説には、弁護人は法律上代替可能であり、前記法曹三者協議結果により、弁護士会が特別案件について国選弁護人を責任をもって速やかに推薦することを約束していることのほか、同法341条や286条の2は弁護人の在廷を前提とする規定と考えられるなどの点において、それぞれ難点があるためと思われる。
四 本決定は、弁護人が在廷しないまま進め得る審理の範囲について、特に限定を加えていない。
しかし、必要的弁護事件のような重罪事件の審理が弁護人や被告人の立会いもなく行われることは、まさに異常な事態というほかはなく、裁判所としても、できる限り慎重かつ謙抑的な運用が望まれるから、原則として、2次一審が行ったように、事前に被告人や弁護人にも了知されていた当該公判期日の訴訟手続にとどめるのが妥当といえよう。」
⑵刑訴百選【11版】52事件解説
「本決定は,……例外的措置を認めたが,本件のように①裁判所が弁護人出頭確保のための方策を尽くしたにもかかわらず,②被告人が弁護人の出頭を妨げるなど,弁護人が在廷しての公判審理ができない事態を生じさせ,③事態を解消することが極めて困難な場合には「刑訴法289条1項の適用がない」と述べ,いわゆる内在的制約説に立った。」(解説2)
「2004年に刑訴法289条が改正され,同条2項中に弁護人が「在廷しなくなったとき」という文言が付加され.「弁護人が出頭しないおそれがあるとき」に弁護人を選任できる旨の3項も新設された。これらにより前述の③は生じにくくなる。そこで,現在においてもなお本決定を援用すべきなのは「国選弁護人を選任しても,被告人が脅迫してその出頭を困難にさせるといった,特異な事態に限られる」(松尾浩也監修『条解刑事訴訟法〔第5版〕』[2022] 634頁)と評されている。」(解説3)
「2004年の刑訴法改正により即決裁判手続が導入され,当該手続により審理する事件は必要的弁護事件とされた(刑訴350条の9〔現350条の23〕)。また,公判ではないが公判前整理手続および期日間整理手続につき弁護人が必要とされた(刑訴316条の4 ・316条の8・316条の28第2項)。これらについても本決定の射程は及ぶか(公判前整理手続等を経た事件を審理する場合も刑訴法316条の29により必要的弁護事件となるが,これは刑訴法289条1項の場合と同じように考えてよい)。以下のように.消極に解するのが妥当と思われる。
即決裁判手続については,即決裁判に同意している被疑者・被告人(刑訴350条の16第2項,350条の22第1号)が弁護人の出廷を阻止するという事態は考えにくく.かつ,そのような場合には通常の手続に戻せばよい(刑訴350 条の25 参照)ので.弁護人不在のまま即決裁判手続を進めるべき必要性は乏しい。
公判前整理手続等については.弁護人不在のまま進められると想定するのは難しいため,公判前整理手続を打ち切って通常の公判準備に切り替えるしかないのではな
いか。公判前整理手続が必要となる(裁判員49 条)裁判員裁判対象事件の場合は,超法規的措置として,または裁判員法3条の2第1項等の拡大・類推解釈により.裁判員裁判対象事件から除外したうえで通常の公判準備に切り替えるしかなかろう。」(解説4)

