東京高裁令和3年10月29日令和2年(う)第806号・重要判例解説令和5年度刑訴1事件(住居侵入,傷害被告事件・体腔内の証拠物の差押え等)

 本裁判例は、捜索差押許可状、鑑定処分許可状及び身体検査令状の発付を受け、被疑者の肛門から大腸内視鏡を挿入して、その体腔内からマイクロSDカードを採取し、差し押さえた捜査手続について、強制処分として許容できるかについての実質的な令状審査を欠き、高度の捜査上の必要性(後述する強制採尿令状に関する昭和55年判例参照)が認められないのに発付された令状によるもので、重大な違法があるとして、マイクロSDカード等の証拠能力を否定した事例判決です。

 体内の異物の強制採取に関しては、強制採尿について、後述する強制採尿令状に関する昭和55年決定により、一定の条件下で強制処分として許容され、実務上、広く行われています。本裁判例では、内視鏡による大腸内の異物の強制採取の適法性が問題となったところ、この論点に関する先例は、公刊物を参照する限り、本件が初めてです。①強制採尿令状に関する昭和55年決定の基準のいう高度の捜査の必要性(犯罪捜査上真にやむを得ないと認められる場合であること)を満たすか、②①を満たさないとして違法収集証拠排除法則の適用があるかが問題となりました。

 裁判例を一部引用します。

 「(2)本件強制採取の違法性の検討
 ア 内視鏡による異物の強制採取に関する判断枠組みについて
 (ア)いわゆる強制採尿の可否に関する最高裁判所昭和55年10月23日第一小法廷決定・刑集34巻5号300頁(以下「昭和55年決定」という。)は,導尿管(カテーテル)を用いて強制的に尿を採取する強制処分について,「被疑事件の重大性,嫌疑の存在,当該証拠の重要性とその取得の必要性,適当な代替手段の不存在等の事情」(以下「昭和55年決定の諸事情」という。)に照らして,捜査上真にやむを得ないと認められる場合に許されるとしているが,かかる捜査手法を「真にやむを得ない場合」に限定したのは,身体内に存する異物の採取が,身体への侵襲行為として,被採取者に対し屈辱感等の精神的打撃を与えるのみならず,身体上ないし健康上の障害をもたらす危険性等があるからにほかならない。そして,手技の危険性や生じ得る健康上のリスクの大きさ,被採取者に与える屈辱感等を考慮して強制採尿が絶対に許されないとまではいえないと評価した上で,昭和55年決定の諸事情に照らして,最終的手段として許されるとしたにすぎない。昭和55年決定は,強制採尿の特質に照らして許されると判示したにすぎないとみるべきであって,強制採尿と異なる方法での体腔内の異物の捜索の可否が問題となる場合には,個々の手法が持つ身体の安全等に対し及ぼす影響,屈辱感,精神的打撃等の程度なども踏まえ慎重な検討を要するというべきである。
 (イ)肛門から内視鏡を挿入して体腔内の異物を取り出す捜査手法(以下「内視鏡による異物の強制採取」という。)は,対象者の身体に対する大きな負担や侵襲行為を伴うものであり,下剤を服用させるなどして胃腸等の内容物を空にするという前処置による身体的負担も相当大きい。加えて,直径1センチメートルを超える太さの管を,相当な長さにわたり,数十分かけて挿入するものであり,腸管等を損傷すれば重大な危険が生じ得るものである(以下「内視鏡による手技のリスク」という。)。尿道にカテーテルを挿入する強制採尿に比して,体内への侵襲やリスクの程度は相当大きい。また,かなりの太さ・長さの管を長時間にわたり肛門に入れられた状態が続く点で,屈辱感等の精神的打撃も大きい。確かに,内視鏡を挿入する手技が習熟した医師によって適切に行われる限り,出血や穿孔などの合併症や偶発症の発生可能性は低いとの報告結果がある(原審甲75)が,犯罪捜査としての内視鏡による異物の強制採取は,対象者(被疑者)の同意,協力が通常得られない場合であるから,手技について同意がある場合と同列に考えるのは相当ではないし,対象者の抵抗を抑える目的で鎮静剤が投与される場合,呼吸抑制や呼吸停止等の偶発症のリスクも伴うことになることも軽視できない。
 これに対し,原審検察官は,大腸への内視鏡挿入は検査目的での人間ドックなどでも広く行われていて,G医師は五千件以上の臨床経験があり,リスクを生じさせたことがなく,本件強制採取についても,偶発症の発生リスクは低く,危険なものではないと主張するが,医師が検診等で通常実施する内視鏡検査の場合には,対象者が合併症等について説明を受けて内視鏡の挿入に同意しているので,小さくはない本件SDカードを強制的に体外に取り出して採取することと同列に扱うことはできないし,鎮痛剤の投与等に伴うリスクなどもあり得る(原判決本文)。
 (ウ)ところで,昭和55年決定後の捜査・裁判実務において,内視鏡による体内への侵襲の可否が問題となった例は見当たらない。したがって,本件のような強制処分の可否が問題となった場合は,新たな法律問題が問われているというべきであって,当該強制処分に係る令状を請求する捜査官や,これを審査して令状を発付する裁判官には,その身体への侵襲の大きさに鑑み,慎重な検討が求められていることは明らかである。
 (エ)以上を踏まえ,昭和55年決定の趣旨にも鑑みると,本件強制採取の令状審査に当たっては,本件で実施される内視鏡による異物の強制採取の具体的手技の内容や,これによる偶発症等の危険性,被告人の身体への侵襲の程度,これに伴う精神的負担を踏まえて,当該強制処分がそもそも許されるかを検討し,その上で,昭和55年決定の諸事情に照らして,捜査上真にやむを得ないと認められるかを慎重に判断すべきである。
 イ 本件強制採取の検討
 (ア)内視鏡による異物の強制採取は,上記のとおり,内視鏡による手技のリスクを伴うものであるから,それに係る令状請求を受けた裁判官としては,その手技にどのようなリスクがあるかなどについて十分な吟味を加え,その許否の判断をすべきである。
 本件各令状の請求を担当した警察官は,前例がないことに不安を感じて警察内部や担当検察官に相談したものの(検察官から法的な問題点の示唆は特にされなかったとうかがえる。),内視鏡による異物の強制採取が対象者に与える影響や,そのリスクについて検討した形跡は証拠上うかがえず,したがって,令状請求に当たり,内視鏡による手技のリスク等を裁判官に伝えていない。そして,強制採尿がカテーテルにより実施されることは実務上共通した理解ができており,(強制)採血も日常的な健康診断の機会などにおいて実施されるありふれた手技であり,その内容も裁判官にとって明らかであるのと異なり,大腸の内視鏡検査は,社会生活において通常経験する機会は多くなく,内視鏡による手技のリスクについての共通の理解も醸成されているとはいえないから,この点に関する請求者の疎明がなければ,裁判官が令状審査に当たって,検討する前提事情が欠けている。本件で上記リスクを踏まえ,本件強制採取の許否が検討されたかも明らかでない。
 (イ)昭和55年決定の諸事情を検討するに,本件各令状請求に係る被疑事実は,住居侵入(第4事件)及び傷害(第5事件)であって,軽微な事件とはいえないが,マイクロSDカード様の本件異物内に保存されていることがうかがえる画像が強い関連性を有するのは住居侵入の点であり,これは必ずしも重大な犯罪とはいい難い。そして,被告人は,本件対象事件直後に家人により現行犯逮捕され,検察官は,上記家人らの供述等の収集済みの証拠により立証できると考えて,本件対象事件を起訴したものと推察される。本件異物内の動画が発見された場合には,被告人の犯行を裏付け,また,住居侵入の目的が明らかになる可能性があるが,覚醒剤自己使用事犯の立証に当たってほぼ唯一の証拠方法である尿とは異なり(なお,覚醒剤成分は,比較的短期間で尿から検出されなくなるものである。),本件対象事件については既に上記の供述証拠が収集されていた。そもそも,本件強制採取の実施時には,本件SDカード内に本件対象事件に係る動画が保存されているかどうかも不明であったことを併せ考慮すると,本件SDカードは決定的に重要な証拠であるとはいえないし,その取得が必要不可欠であったとは到底いえない。
 これに対し,原審検察官は,昭和55年決定が提示した要件を不当に厳格化した要件を設定し,本件強制採取の必要性の判断を誤ったなどと論難するが,昭和55年決定は強制採尿の特質に照らしてこれを許容したものであり,内視鏡による異物の強制採取は,強制採尿の場合に比して身体に対する侵襲の程度が相当大きく,危険性も大きいとうかがえるので,より一層慎重な検討審査を要するのは当然である(本件異議棄却決定)。
 (ウ)本件では,被告人が現行犯逮捕されて以降長期間が経過しており,より侵襲の程度が低い下剤により排せつされることを待つことで,本件SDカードに大きな変質を来すとはいえず,被告人の健康上も,本件SDカードの存在が特段支障を及ぼしていたとはうかがえない。なお,本件では,相当長期間にわたり多数回の下剤の投与が被告人になされたことが認められるところ,本件強制採取の際には制限量を超える下剤の投与もされており,内視鏡による異物の強制採取という重大な侵襲を受けるべき被告人に対し,より一層前処置による負担が大きくなっていたとみることが可能である。この点について,仮に1週間以上腸内の同じ部位に留まっている本件異物の採取が,一応医療上必要な措置であるとはいえても,上記の被告人の症状等を考慮すると,これが直ちに犯罪捜査として強制処分により取得する必要性を基礎付けるものではない。
 これに対し,原審検察官は,下剤による排せつを待つことは被告人にとって不利益が大きいと主張するが,本件強制処分に先立ち,10月22日から約1か月間にわたり,被告人に下剤を服用させ続け,その際,被告人の体調などへの不利益を特段考慮したことはうかがえないのに,本件強制採取が許容される事情として上記の点を援用するのは背理である(本件異議棄却決定)。
 なお,大腸内にあった本件異物が盲腸に逆流することは通常はあり得ないことから,被告人が一度排せつした本件SDカードを再度嚥下した疑いがあって(上記(1)エ),罪証隠滅を防止する必要性があることなどを考慮しても,上記判断は左右されない(本件異議棄却決定)。
 ウ 本件各令状の発付について
 (ア)仮に,本件異物を採取することが犯罪捜査上真にやむを得ないと認められる場合には,本件SDカードが体腔内に挿入された異物であることは明らかであるから,これを強制的に捜索して差し押さえるのは,性質上捜索差押えに当たり,本件強制採取が身体への強度の侵襲を伴うものであることなどからすると,これを実施するには捜索差押許可状(医師により相当な方法によることを条件とするもの)と鑑定処分許可状の発付を要するといえ,本件では,警察官は,形式的にはこれらの令状の発付を受けたとみることができる(身体検査令状の要否には立ち入らない)。
 しかしながら,上記のとおり,本件各令状の請求を受けた裁判官としては,これまでの判例や学説等に例を見ない捜査手法であるから,令状審査に当たっては,本件で実施される具体的手技の内容や,これによる偶発症等の危険性,被告人の身体への侵襲の程度,これに伴う精神的負担を踏まえて,当該強制処分がそもそも許されるかを検討し,その上で,昭和55年決定の諸事情に照らして,本件各令状の発付が許容されるかを相当慎重に検討する必要があったというべきであるが,発付時の疎明状況等を検討すると,このような点に十分に意を配った疎明資料が提出されていたとは認められない。また,担当裁判官においても,請求した警察官に対して内視鏡による異物の強制採取が内包する法律的な問題性を指摘し,特に疎明資料の追加を指示することもしないで,本件各令状を発付したと認められる。
 (イ)これに対し,原審検察官は,本件各令状は,内視鏡検査に伴うリスクや検査の安全性を確保できるかについての十分な疎明資料に基づいて,実質的な司法審査を経て発付されている旨主張するところ,警察官は,本件各令状の請求に当たり,本件異物を採取する前にCTによる位置確認をしたり,下剤により腸内をきれいにすることなどの手順や,検査中に暴れたりすることの危険性,鎮静剤投与により眠らせて実施すること等について,G医師から聴取した内容を記載した報告書(原審甲76ないし78,以下「本件各報告書」という。)を含む疎明資料を提出したことがうかがわれる。しかし,本件各報告書中で言及されている内視鏡検査の危険性は,検査の際に暴れることで腸管を傷つけたり,穴を開けてしまうことのみに特化されていて,検査それ自体により腸管などに損傷を与えるリスクの有無等には言及がないばかりか,侵襲の程度に関係する内視鏡の形状,手技に要する時間等にも言及がなく,詳しい検査内容に触れられておらず,内視鏡による手技のリスクについての十分な疎明がなされていたとは評価できない。さらに,G医師は鎮静剤を投与する予定であったが,鎮静剤等を投与することのリスクなどについて警察官に説明もしていないし,疎明もされていなかった(本件異議棄却決定)。
 また,原審検察官は,本件強制採取で使用された内視鏡は医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(以下「医薬品医療機器等法」という。)による適式な検定を受けたもので,そもそも適した内視鏡が使用されることは自明のことであり,本件各令状請求の際の疎明資料とされた本件各報告書中に,内視鏡の形状,手技の時間等について言及がないとしても,十分な疎明があったなどと主張するが,令状審査を実質的に行うためには,被疑者の身体への侵襲の程度を理解するに足りる程度の情報が疎明されるべきところ,本件各報告書では,いかなる器具が用いられるか,どの程度の時間にわたり内視鏡が身体に挿入されるかなど,被疑者の身体への侵襲度合いや手技が身体に及ぼすリスクを判断するのに必要な事情の疎明が欠けていたといわざるを得ない(原判決本文)。
 エ 以上によれば,本件各令状は,強制処分として許容できるかに関する疎明資料を欠いていて,その実質的な審査を欠き,かつ,昭和55年決定の諸事情に照らして,犯罪捜査上真にやむを得ないとは認められないまま発付されたものと認められる。
 これに対し,原審検察官は,違法収集証拠の証拠能力が否定されるのは,令状主義が没却されるような重大な違法があって,証拠として許容することが将来における違法捜査の抑制の見地から相当でない場合であり,本件ではいずれも認められない旨主張するが,本件強制採取が許容できるかについての実質的な令状審査を経ておらず,昭和55年決定の諸事情に照らしてもやむを得ないとはいえないから,ここに重大な違法があるといえる。そうすると,将来の違法捜査抑制の点からも,証拠能力を否定するのが相当である(原判決本文)。」

 「嚥下された証拠物については、通常は自然排泄を待って差し押さえることになる。この場合には、自然排泄された証拠物を通常の差押許可状によって差し押さえれば足りる。」「問題は、自然排泄が困難と認められる場合や証拠保全の必要性・緊急性がある場合に、下剤や吐剤を用いて早急に排出させることが認められるかである。このためには、第一段階として、レントゲン照射や超音波診断装置を用いて体内の証拠物の存否とその所在場所を確認し、これを排泄させるための適切な措置を確定する必要がある。さらに第二段階として、第一段階の調査によって確定した措置に従って証拠物を排泄させる必要がある。」「嚥下した異物は、身体の一部ではないから、これを押収するためには、その行為の性質上、捜索・差押許可状によるべきである。ただし、捜索が身体の内部に及び、その差押えが体腔(食道、胃、腸)内からの取り出しであり、身体に損傷を与える危険性もあること等から、その執行方法に何らかの条件を付する必要があり、鑑定処分として身体検査(法168条)の性質も有するものとして、鑑定処分許可状を併用するのが相当である。」(「令状に関する理論と実務Ⅱ」116頁から117頁まで。テンはカンマにしています。)とされています。

 本裁判例が引用する最高裁昭和55年10月23日刑集34巻5号300頁・刑訴百選【11版】28事件(以下「強制採尿令状に関する昭和55年判例」といいます。令和8年度判例六法1922頁。刑訴法218条の14個目の判例。)は、「尿を任意に提出しない被疑者に対し、強制力を用いてその身体から尿を採取することは、身体に対する侵入行為であるとともに屈辱感等の精神的打撃を与える行為であるが、右採尿につき通常用いられるカテーテルを尿道に挿入して尿を採取する方法は、被採取者に対しある程度の肉体的不快感ないし抵抗感を与えるとはいえ、医師等これに習熟した技能者によって適切に行われる限り、身体上ないし健康上格別の障害をもたらす危険性は比較的乏しく、仮に障害を起こすことがあっても軽微なものにすぎないと考えられるし、また、右強制採尿が被疑者に与える屈辱感等の精神的打撃は、検証の方法としての身体検査においても同程度の場合がありうるのであるから、被疑者に対する右のような方法による強制採尿が捜査手続上の強制処分として絶対に許されないとすべき理由はなく、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむをえないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経てこれを行うことも許されてしかるべきであり、ただ、その実施にあたっては、被疑者の身体の安全とその人格の保護のため十分な配慮が施されるべきものと解するのが相当である。
 そこで、右の適切な法律上の手続について考えるのに、体内に存在する尿を犯罪の証拠物として強制的に採取する行為は捜索・差押の性質を有するものとみるべきであるから、捜査機関がこれを実施するには捜索差押令状を必要とすると解すべきである。ただし、右行為は人権の侵害にわたるおそれがある点では、一般の捜索・差押と異なり、検証の方法としての身体検査と共通の性質を有しているので、身体検査令状に関する刑訴法218条5項(※現在は10項。執筆者注。)が右捜索差押令状に準用されるべきであって、令状の記載要件として強制採尿は医師をして医学的に相当と認められる方法により行わせなければならない旨の条件の記載が不可欠であると解さなければならない。」としていました。

 本裁判例は、強制採尿令状に関する昭和55年判例を引用し、「本件強制採取の令状審査に当たっては,本件で実施される内視鏡による異物の強制採取の具体的手技の内容や,これによる偶発症等の危険性,被告人の身体への侵襲の程度,これに伴う精神的負担を踏まえて,当該強制処分がそもそも許されるかを検討し,その上で,昭和55年決定の諸事情に照らして,捜査上真にやむを得ないと認められるかを慎重に判断すべき」という規範を定立し、捜査上真にやむを得ないとは認められないとし、本件強制処分には重大な違法があり、将来の違法捜査抑止の観点からも、本件SDカードの証拠能力を否定するのが相当とし、派生証拠である本件SDカード内の動画データに基づく証拠も本件SDカードの違法を直接承継し、これと密接に関連する証拠であるとして証拠能力を否定しました。

 本裁判例は、前述の通り、強制採尿令状に関する昭和55年判例「後の捜査・裁判実務において,内視鏡による体内への侵襲の可否が問題となった例は見当たらない」との指摘がある事案に関し判断がなされた裁判例です。嚥下した異物の採取手続に必要となる令状については諸説ありますが、本件では、捜索差押許可状,鑑定処分許可状及び身体検査令状の3種の令状を用いています。本裁判例は、必要となる令状の種類については判断をしていません。「令状に関する理論と実務Ⅱ」116頁から117頁までは、「嚥下した異物の採取手続を、強制採尿、強制採血の上記各手続との比較で検討すると嚥下した異物は、体内の血液はもちろん、尿以上に人体の一部とはいえないものであり、かかる異物の取得は、まさに証拠物の物理的な取得であるので、その発見及び採取は、その行為の性質から、当然に捜索・差押えに当たると考えられる。しかし、下剤・吐剤を利用して体内の異物を強制的に排出させる措置は、薬物を使用した身体の生理作用に変化を生じさせるという意味で、単にカテーテルを尿道に挿入して膀胱から尿を採取するといった手続以上に、身体へのより強い侵襲を伴うものであるから、単に捜索差押令状だけでは足りず、鑑定処分許可状を併用するという取扱いが相当であろう。」との指摘があります(※テンはカンマにしています。)。なお、「令状に関する理論と実務Ⅱ」116頁は「強制採血については、血液が身体に不可欠の構成物質であり、採取の方法についても、血液は軽微とはいえ人体に損傷を与えるもので、身体からの老廃物として本来自然に排泄されるものである尿の場合とは異なるとの理由で、上記昭和55年判決以降も、鑑定処分許可状のほかに、刑訴法218条1項による身体検査令状を得て、両者の令状を併用して強制的に採血し得るとするのが多数説であり、実務の運用である」と指摘しています。関連する裁判例として仙台高裁昭和47年1月25日刑月4巻1号14頁・刑訴百選【11版】A7事件(令和8年度判例六法1923頁。刑訴法218条の20個目の裁判例。)があります。仙台高裁昭和47年裁判例は「たとえ採血が治療の際に行われ僅か約5グラムすなわち2ミリリットルという少量で身体の健康にどれほどの影響も及ぼさない程のものにすぎなかったにしても捜査官としては任意の承諾のもとに血液の提出を受けえない以上医師に対して……刑事訴訟法第223条に基づく鑑定の嘱託をなし同法第225条第168条第1項による鑑定処分許可状を求める手続を践むべき場合であった……。この点につき原判決は同法第218条の身体検査令状によるべき場合であったというが同条の身体検査はあくまで検証としてすなわち身体の外部から五官の作用によって為しうる程度のものに限られるべきで軽度であるにせよ身体に対する損傷を伴い生理的機能に障害を与えるおそれのある血液の採取はいささか検証の限度を超えると思われ特別の知識経験を必要とする医学的な鑑定のための処分としての身体検査によるのが相当と思料される」とし、原審が身体検査令状によるとしたのに対し、鑑定処分許可状によるべきとしています。

 本裁判例は、強制採尿令状に関する昭和55年判例を踏まえて、本件強制採取について、捜査上真にやむを得ない場合(高度の捜査上の必要性)の有無を判断してこれを否定しました。本件SDカード及び派生証拠である本件SDカード内の動画データに基づく証拠について、違法収集証拠排除法則を適用しました。違法収集証拠排除法則に関して、最高裁昭和53年9月7日刑集32巻6号1672頁・刑訴百選【11版】88事件・令和8年度判例六法1978頁(刑訴法317条の33個目の判例)、派生証拠については最高裁平成15年2月14日刑集57巻2号121頁・刑訴百選【11版】90事件・令和8年度判例六法1978頁と1979頁(刑訴法317条の38個目と43個目の判例))を参照してください。なお、違法収集証拠排除法則に関しては、別記事で最高裁令和4年4月28日刑集76巻4号380頁・重要判例解説令和4年度刑訴6事件も解説していますので、参照してください。