最高裁令和5年10月16日刑集77巻7号467頁(宅地建物取引業法違反被告事件・重要判例解説令和5年刑訴2事件・公訴事実の同一性)
本判例は、公訴事実の同一性(刑訴法312条1項)に関する判例です。本件の訴因変更では、違反行為は同一であるが、個人経営者として行ったか、法人の業務として行ったかだけに違いがある場合、公訴事実の同一性が認められるかが問題となった事案です。
判例を引用します。
https://www.courts.go.jp/hanrei/92433/detail2/index.html
「弁護人上田孝明の上告趣意のうち、公訴事実の同一性に関し、仙台高等裁判所昭和39年(う)第14号同40年5月10日判決・高等裁判所刑事判例集18巻3号168頁を引用して判例違反をいう点は、原判決は所論の点につき何ら法律判断を示していないから、前提を欠き、その余は、単なる法令違反の主張であり、被告人本人の上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論に鑑み、公訴事実の同一性に関し、職権で判断すると、本件起訴に係る訴因の要旨は、「被告人は、免許を受けないで、業として、建物賃貸借契約の媒介をし、もって免許を受けないで宅地建物取引業を営んだ」というものであるが、検察官は、第1審において、「被告人は、免許を受けないで、」とあるのを、「被告人は、株式会社Aの代表取締役であるが、同会社の業務に関し、免許を受けないで、」に改める旨の訴因変更を請求し、第1審裁判所はこれを許可して変更後の訴因に係る事実を認定したものである。以上の両訴因は、被告人が、個人として宅地建物取引業を営んだのか、法人の業務に関し法人の代表者としてこれを営んだのかに違いはあるが、被告人を行為者とした同一の建物賃貸借契約を媒介する行為を内容とするものである点で事実が共通しており、両立しない関係にあるものであって、基本的事実関係において同一であるということができる。したがって、以上の両訴因の間に公訴事実の同一性を認めて訴因変更を許可した第1審の訴訟手続に法令違反はなく、第1審判決を維持した原判決は正当である。
よって、刑訴法414条、386条1項3号、181条1項ただし書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。」
公訴事実の同一性に関しては、公訴事実の同一性(狭義)についての判例の立場は、基本的な事実関係が同一であるかが判断基準であり、その判断に当たっては、新旧両訴因の日時・場所の近接性、行為の方法・態様・相手方・結果の共通性が考慮要素となる(共通性基準)が、それらによって判断することが難しい鑑合には、補助的に両訴因が両立する関係にあるか否かという基準(非両立基準)が用いられると整理するのが一般であるとされます(「大コンメンタール刑事訴訟法〔第3版〕⑹519頁、「判例講座刑事訴訟法〔公訴提起・公判・裁判編〕105頁)。
本判例は「両訴因は、被告人が、個人として宅地建物取引業を営んだのか、法人の業務に関し法人の代表者としてこれを営んだのかに違いはあるが、被告人を行為者とした同一の建物賃貸借契約を媒介する行為を内容とするものである点で事実が共通しており、両立しない関係にあるものであって、基本的事実関係において同一である」とし、公訴事実の同一性を認めた第1審の判断を正当なものとしました。
本判例は公訴事実の同一性に関する事例判断としての一事例です。
本判例の調査官解説である法曹時報77巻12号3344頁には「両訴因は事実面でも法律面でも明らかに非両立関係にあるということができ、公訴事実の同一性が失われないことを明瞭に説明することが可能となることから、事実が共通していることとともに、両立しない関係にあることについても言及して「基本的事実関係の同一性」を根拠付けたものと推察される」「事実関係の共通性の程度が大きい場合、自ずと両立しない関係にあることが多いといえようから、非両立関係にあることが含まれていることことにもなろう」との指摘があります。

