最高裁令和8年1月14日令和6年(あ)第1087号(窃盗被告事件・刑訴法54条による送達)

 本判例は、住居不詳の被告人に対する控訴趣意書差出最終日通知書等の付郵便送達が有効とされた事例判断です。

 「弁護人大池かおりの上告趣意は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 所論に鑑み、原審裁判所がした送達の有効性に関し、職権で判断する。
 1 記録によれば、本件の事実関係は以下のとおりである。
 ⑴ 被告人は、令和5年3月23日、本件犯行により現行犯逮捕され、引き続き勾留されたが、逮捕当初から人定事項を供述せず、同年4月12日、住居不詳のまま起訴された。被告人は、第1審第1回公判期日における人定質問に対しても回答をしなかった。第1審裁判所は、令和6年3月18日、住居不詳のまま、被告人を罰金40万円に処し、未決勾留日数のうち、その1日を5000円に換算してその罰金額に満つるまでの分をその刑に算入する旨の判決を言い渡した。
 第1審弁護人は、同日、控訴を申し立てた。第1審裁判所書記官は、同日、被告人が釈放された直後、被告人に対し、控訴審の弁護人照会等のために被告人の帰着先や連絡先を教えてほしいと述べたが、被告人は回答を拒否し、以後所在不明となっていた。
 ⑵ 原審裁判所は、戸籍の附票に記載されている被告人の住所に宛てて、令和6年4月10日付け控訴審における弁護人選任に関する通知及び照会書等を発送したが、「あて所に尋ねあたりません」との理由で返送された。
 原審裁判所は、同月19日、検察事務官から、不提出記録にて被告人の住居所を探したが、住居所の記載がある記録は見付けられなかった旨を聴取した。また、同年5月20日、検察官から、同月8日付け戸籍の全部事項証明書等の提出を受けたが、戸籍の附票に記載されている被告人の住所に変更はなかった。
 ⑶ 原審裁判所は、令和6年6月19日、戸籍の附票に記載されている被告人の住所に宛てて、控訴趣意書差出最終日通知書、公判期日召喚状、国選弁護人選任通知書を書留郵便に付して送達し、同年7月24日の第1回公判期日後、同住所に宛てて、第2回公判期日召喚状を書留郵便に付して送達した(以下、これらを「本件付郵便送達」という。)。原審裁判所は、同年8月7日の第2回公判期日において、控訴棄却の判決を言い渡した。
 2 所論は、本件付郵便送達により、被告人が公判期日を知らず、被告人不出頭のまま審理を進めた原審裁判所の訴訟手続には法令違反があると主張する。
 しかし、被告人は、第1審判決に対して控訴を申し立てながら、原審裁判所に対して刑訴規則62条1項の住居、送達受取人等の届出をしなかったのであるから、刑訴規則63条1項により書留郵便等に付して送達をすることができると解される(最高裁平成15年(あ)第279号同19年4月9日第三小法廷決定・刑集61巻3号321頁参照)。そして、第1審判決に対して控訴を申し立てた被告人が、裁判所から尋ねられても住居等を明らかにしなかったなどという本件の事情の下では、戸籍の附票に記載されている住所に宛てて送達された書類が現実には被告人に届かないとしても、その不利益を被告人が受けるのはやむを得ないというべきである。したがって、原審裁判所が同住所に宛てて行った本件付郵便送達は有効と解するのが相当である。
 よって、刑訴法414条、386条1項3号、181条1項ただし書により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。」

 送達に関し、刑訴法54条は「書類の送達については、裁判所の規則に特別の定のある場合を除いては、民事訴訟に関する法令の規定(公示送達に関する規定を除く。)を準用する。」と定めています。それを受けて、刑訴規則62条1項は「被告人、代理人、弁護人又は補佐人は、書類の送達を受けるため、書面でその住居又は事務所を裁判所に届け出なければならない。裁判所の所在地に住居又は事務所を有しないときは、その所在地に住居又は事務所を有する者を送達受取人に選任し、その者と連署した書面でこれを届け出なければならない。」とし、同63条1項は「住居、事務所又は送達受取人を届け出なければならない者がその届出をしないときは、裁判所書記官は、書類を書留郵便又は一般信書便事業者若しくは特定信書便事業者の提供する信書便の役務のうち書留郵便に準ずるものとして別に最高裁判所規則で定めるもの(次項において「書留郵便等」という。)に付して、その送達をすることができる。ただし、起訴状及び略式命令の謄本の送達については、この限りでない。」と定めています。

 本判例が先例として引用する最高裁平成19年4月9日刑集61巻3号321頁・重要判例解説平成19年度刑訴4事件は「第一審で無罪判決を受けた後、控訴申立通知書の送達を受けて、検察官が控訴を申し立てたことを承知した被告人には、刑訴規則62条1項に基づく住居等の届出をする義務があり、被告人がその履行を怠る一方で、控訴審裁判所から当時居住していた場所宛に送達された書類を異議なく受領しながら、その後異なる意思を示すことなく所在不明となるなどの事実関係の下では、控訴審裁判所が上記場所に宛てて行った被告人に対する公判期日召喚状等の書留郵便に付する送達は、刑訴規則63条1項によるものとして有効である。」としています(令和8年度版判例六法1876頁。刑訴法54条の5つ目の判例)。

 本判例は、第1審判決に対して控訴を申し立てた住居不詳の被告人が、裁判所から尋ねられても住居等を明らかにしなかったなどという本件事情の下では、控訴審裁判所が戸籍の附票に記載されている住所に宛てて行った被告人に対する控訴趣意書差出最終日通知書等の書留郵便に付する送達は、有効であるとして事例判断です。

 刑訴法における送達に関する判例として先例的価値を有すると解されます。