最高裁令和7年12月23日令和6(あ)504(児童買春、児童ポルノに係る行為等の規制及び処罰並びに児童の保護等に関する法律違反、大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例違反、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(昭和38年兵庫県条例第66号)違反被告事件・憲法94条の「法律の範囲内」)

 本判例は、条例と法律の関係が問題となりました。

 判例を引用します。

 https://www.courts.go.jp/hanrei/95271/detail2/index.html

「1 弁護人奥村徹の上告趣意のうち、大阪府公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等の防止に関する条例(令和7年大阪府条例第2号による改正前のもの。以下「本条例」という。)15条2項、1項1号、6条3項2号(以下「本件各規定」という。)の憲法94条違反をいう点について
 ⑴ 所論は、軽犯罪法1条23号にいう「ひそかにのぞき見た」には、撮影機能を有する機器をひそかに設置して撮影する場合を含むと解すべきところ、本件各規定は、同法1条23号が処罰の対象とする行為の一部をより重く処罰する趣旨の規定であるから、憲法94条に違反するという。
 ⑵ 軽犯罪法1条23号は、「正当な理由がなくて人の住居、浴場、更衣場、便所その他人が通常衣服をつけないでいるような場所をひそかにのぞき見た者」を、拘留又は科料に処すると定めている。日常生活における身近な道徳律に違反する比較的軽微な犯罪の処罰を定めるという同法の性格に加え、法定刑が拘留又は科料にとどめられていること等に照らすと、同号は、所定の行為が私生活の秘密を侵害する抽象的危険性を有し、国民の性的風俗にも好ましくない影響を及ぼすおそれがあることに着目して、これを処罰することとしたものと解される。
 一方、本件各規定は、住居、浴場、便所、更衣室その他人が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいるような場所における当該状態にある人の姿態を、みだりに撮影することを禁止し、これに違反した者を1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に、常習としてこれに違反した者を2年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処すると定めている。府民及び滞在者の平穏な生活を保持するという本条例の目的(1条)、本件各規定に係る改正の経過等を踏まえると、本件各規定は、本条例6条3項2号に掲げる行為が、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるものであって、ひいては府民等の平穏な生活を害することに着目してこれを処罰することとしたものと解される。
 そうすると、本件各規定の処罰対象となる行為は、軽犯罪法1条23号のそれと重なり合う部分があるものの、本件各規定は、同法1条23号とは別の目的に基づく規律を意図するものというべきである。そして、本件各規定は、もとより同法1条23号の罪の成立範囲を変更するものではなく、同号とは別の目的からより重い罰則を定めているものであって、同号もこのような罰則を条例によって設けることを禁じたものとは解されず、同号の目的及び効果を阻害するとはいえない。
 ⑶ 以上によれば、軽犯罪法1条23号と本件各規定との間に矛盾抵触はなく、本件各規定は同法1条23号に違反しないことが明らかというべきであるから、憲法94条違反をいう所論は前提を欠く。
 2 その余の上告趣意について
 弁護人奥村徹のその余の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって本件に適切でないか、原判決は所論のような趣旨を判示したものとはいえないから、前提を欠き、その余は、単なる法令違反、事実誤認、量刑不当の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
 3 よって、刑訴法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。なお、裁判官三浦守の補足意見がある。
 裁判官三浦守の補足意見は、次のとおりである。
 本件各規定が軽犯罪法1条23号に違反しないと解すべき理由について補足的に意見を述べる。
 軽犯罪法1条23号に規定する場所を撮影する行為は、当該場所をのぞき見る行為に当たると解されるから、同号と本件各規定がそれぞれ処罰の対象とする行為の間には重なり合う部分がある。
 しかし、それぞれの規律の目的についてみると、軽犯罪法1条23号は、所定の行為が私生活の秘密を侵害する抽象的危険性を有し、国民の性的風俗にも好ましくない影響を及ぼすおそれがあることに着目して、これを処罰することとしたものと解される。
 他方、本条例は、公衆に著しく迷惑をかける暴力的不良行為等を防止し、もって府民等の平穏な生活を保持することを目的とし、本条例の各条項は、上記目的を実現するための措置として定められたものということができる。また、本条例6条3項2号は、令和3年大阪府条例第37号により改正されたものであるところ、その改正前の規定は、「何人も、みだりに、公衆浴場、公衆便所、公衆が利用することができる更衣室その他公衆が通常衣服の全部又は一部を着けない状態でいる場所における当該状態にある人の姿態を撮影してはならない。」というものであって、上記目的の下に、公衆が利用する場所における上記姿態の撮影行為を禁止するものと解される。そして、上記姿態を撮影する行為は、その影像記録の保持、移転及び拡散の可能性が長期間に及ぶものであって、上記場所をのぞき見る行為よりも、一般的に、人を著しく羞恥させ、又は人に不安を覚えさせるものであり、ひいては府民等の平穏な生活を害するおそれが強いと考えられることに鑑み、上記目的の下に、禁止の対象を私的な場所における行為にも拡大する改正がされたものと解される。
 そうすると、本件各規定は、軽犯罪法1条23号とは別の目的に基づく規律を意図するものと認められることなどから、本件各規定は、同法1条23号に違反しないものと解される。」

 憲法94条の「法律の範囲内」に関する著名判例として、最高裁大法廷昭和50年9月10日刑集29巻8号489頁・憲法百選Ⅰ【8版】78事件(徳島市公安条例事件)があります。

 徳島市公安条例事件は「条例が国の法令に違反するかどうかは、両者の対象事項と規定文言を対比するのみでなく、それぞれの趣旨、目的、内容及び効果を比較し、両者の間に矛盾抵触があるかどうかによってこれを決しなければならない。」とします。そして、3つの場面を設定します。

 ①「ある事項について国の法令中にこれを規律する明文の規定がない場合でも、当該法令全体からみて、その規定の欠如が特に当該事項についていかなる規制をも施すことなく放置すべきものとする趣旨であると解されるときは、これについて規律を設ける条例の規定は国の法令に違反することとなりうる」

 ②「特定事項についてこれを規律する国の法令と条例とが併存する場合でも、後者が前者とは別の目的に基づく規律を意図するものであり、その適用によつて前者の規定の意図する目的と効果をなんら阻害することがないとき」は「国の法令と条例との間にはなんらの矛盾抵触はなく、条例が国の法令に違反する問題は生じえない」

 ③「両者が同一の目的に出たものであっても、国の法令が必ずしもその規定によって全国的に一律に同一内容の規制を施す趣旨ではなく、それぞれの普通地方公共団体において、その地方の実情に応じて、別段の規制を施すことを容認する趣旨であると解されるときは、国の法令と条例との間にはなんらの矛盾抵触はなく、条例が国の法令に違反する問題は生じえない」

 という規範を定立しました。

 本判例は、大阪府条例と軽犯罪法が併存する場合のため、②③の問題となりえるところ、本判例は②の問題と解し、以下のように判断しました。

 本判例は、大阪府条例の「本件各規定の処罰対象となる行為は、軽犯罪法1条23号のそれと重なり合う部分があるものの、本件各規定は、同法1条23号とは別の目的に基づく規律を意図するものというべきである。そして、本件各規定は、もとより同法1条23号の罪の成立範囲を変更するものではなく、同号とは別の目的からより重い罰則を定めているものであって、同号もこのような罰則を条例によって設けることを禁じたものとは解されず、同号の目的及び効果を阻害するとはいえない。」として、「軽犯罪法1条23号と本件各規定との間に矛盾抵触はなく、本件各規定は同法1条23号に違反しない」とし、大阪府条例は「法律の範囲内」(憲法94条)にあるとしました。

 「法律の範囲内」(憲法94条)に関する判例として先例的意義を有すると思われます。