最高裁令和6年3月19日民集78巻1号63頁・重要判例解説令和6年度民法4事件(相続回復請求権に関する民法884条)

 本判例は、相続回復請求権に関する民法884条に関する判例です。民法884条は相続回復請求権の消滅時効につき「相続回復の請求権は、相続人又はその法定代理人が相続権を侵害された事実を知った時から5年間行使しないときは、時効によって消滅する。相続開始の時から20年を経過したときも、同様とする。」と規定します。民法884条の相続回復請求権の消滅時効完成前に時効取得(民法162条)の要件を満たした場合、両者の関係が問題となります。

 本件において、第1審原告・上告人は、相続回復請求権の消滅時効前は時効取得は認められないという趣旨の主張をしました。

 原判決(東京高裁令和4年7月28日令和3年(ネ)第973号:判例秘書L07720800)は、第1審原告・上告人(以下単に「上告人」といいます。)の主張を否定し、最高裁も原判決と同様に上告人の主張を排斥しました。

 判例を引用します。

https://www.courts.go.jp/hanrei/92826/detail2/index.html

「上告人らの上告受理申立て理由(ただし、排除された部分を除く。)について
 1 本件は、被上告人が、上告人らに対し、原判決別紙物件目録記載の土地建物(以下「本件不動産」という。)について、上告人らの被上告人に対する上告人Y1及び原審控訴人Aへの持分移転登記請求権が存在しないことの確認等を求める事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 (1)Bは、平成13年4月、甥である上告人Y1及びA並びに養子である被上告人に遺産を等しく分与する旨の自筆証書遺言(以下「本件遺言」という。)をした。
 (2)Bは、本件不動産を所有していたが、平成16年2月13日に死亡した。Bの法定相続人は、被上告人のみである。
 (3)被上告人は、平成16年2月14日以降、所有の意思をもって、本件不動産を占有している。被上告人は、同日当時、本件遺言の存在を知らず、本件不動産を単独で所有すると信じ、これを信ずるにつき過失がなかった。
 (4)被上告人は、平成16年3月、本件不動産につき、被上告人単独名義の相続を原因とする所有権移転登記をした。
 (5)上告人Y2及び同Y3は、平成31年1月、東京家庭裁判所により、本件遺言の遺言執行者に選任された。
 (6)被上告人は、平成31年2月、上告人ら及びAに対し、本件不動産に係る上告人Y1及びAの各共有持分権につき、取得時効を援用する旨の意思表示をした。
 3 所論は、上告人Y1及びAの有する民法884条所定の相続回復請求権の消滅時効が完成していないところ、相続回復請求の相手方である被上告人は、上記消滅時効の完成前に上記各共有持分権を時効により取得することはできないというべきであるのに、被上告人による時効取得を認めた原審の判断には、法令の解釈適用の誤り及び判例違反があるというものである。
 4 民法884条所定の相続回復請求権の消滅時効と同法162条所定の所有権の取得時効とは要件及び効果を異にする別個の制度であって、特別法と一般法の関係にあるとは解されない。また、民法その他の法令において、相続回復請求の相手方である表見相続人が、上記消滅時効が完成する前に、相続回復請求権を有する真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられる旨を定めた規定は存しない。
 そして、民法884条が相続回復請求権について消滅時効を定めた趣旨は、相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期かつ終局的に確定させることにある(最高裁昭和48年(オ)第854号同53年12月20日大法廷判決・民集32巻9号1674頁参照)ところ、上記表見相続人が同法162条所定の時効取得の要件を満たしたにもかかわらず、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成していないことにより、当該真正相続人の相続した財産の所有権を時効により取得することが妨げられると解することは、上記の趣旨に整合しないものというべきである。
 以上によれば、上記表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるものと解するのが相当である。このことは、包括受遺者が相続回復請求権を有する場合であっても異なるものではない。したがって、被上告人は、本件不動産に係る上告人Y1及びAの各共有持分権を時効により取得することができる。
 5 以上と同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例のうち、各大審院判例(大審院明治44年(オ)第56号同年7月10日判決・民録17輯468頁、大審院昭和6年(オ)第2930号同7年2月9日判決・民集11巻3号192頁)は、昭和22年法律第222号による改正前の民法における家督相続制度を前提とする相続回復請求権に関するものであって、上記判断は、上記各大審院判例に抵触するものではない。また、その余の判例は、事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 なお、上告人Y1のその余の上告については、上告受理申立て理由が上告受理の決定において排除された。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。」

 本判例に関する判例タイムズ1523号93頁以下を一部引用します。

 「相続回復請求の制度は、表見相続人……が真正相続人……の相続権を否定し相続の目的たる権利を侵害している場合に、真正相続人が自己の相続権を主張して表見相続人に対し侵害の排除を請求することにより、真正相続人に相続権を回復させようとするものである(※最高裁昭和53年12月20日民集32巻9号1674頁・民法百選Ⅲ【3版】100事件。執筆者注。)。
 ……包括受遺者も相続人と同一の権利義務を有する(民法990条)ことから相続回復請求権を行使できると解されている。他方、同法884条は、相続回復請求権の消滅時効について規定しているが、その完成前に、表見相続人が、所有権の取得時効(同法162条)の成立に必要な期間、相続財産を占有することが生じ得る。この場合、表見相続人が相続財産の所有権を時効により取得することができる(「かが問題となる」。執筆者注。)。
 この点に関する最高裁判例は見当たらないが、大判明44.7.10民録17輯468頁及び大判昭7.2.9民集11巻3号192頁(併せて「本件各大審院判例」という。)は、いわゆる明治民法の家督相続制度の下での家督相続回復請求権等につき、その消滅時効を定めた規定が特別な時効期間を定めたものであることを理由に、表見相続人による時効取得を否定していた(否定説)。……
 一般に、取得時効と消滅時効とは飽くまでそれぞれ要件を異にする別の制度であり、消滅時効の進行に関係なく取得時効が進行することは当然のことであって、消滅時効が完成する前に取得時効が完成することは当然に想定されることである。民法884条所定の相続回復請求権の消滅時効と同法162条所定の所有権の取得時効とが、特別法と一般法の関係にあるとも解されない。そして、相続回復請求権の消滅時効が完成する前の所有権の時効取得を妨げる旨の規定は、民法その他の法令に存在しないし、民法884条が設けられた経緯をみても、取得時効の適用を排除すべきことが明確に裏付けられるものでもない。
 また、否定説を採用すると、表見相続人が、民法162条所定の期間、相続財産を占有し、取得時効が成立し得る状態となったとしても、その後の真正相続人による相続回復請求権の行使によりこの状態を覆すことを認めることになる。しかし、このような事態は、相続権の帰属及びこれに伴う法律関係を早期にかつ終局的に確定させるという同法884条の趣旨に沿わないものといえよう。
 本判決は、以上のような点を踏まえ、肯定説を採用したものと考えられ……る。
 ……本判決は、本件各大審院判例と学説の多数説とで見解が対立し、高裁裁判例も分かれている中で、相続回復請求権の消滅時効と所有権の取得時効の関係について、最高裁において初めて判断を示すものである。また、実質的には本件各大審院判例と異なる見解を採るものともみることができ、理論上及び実務上、重要な意義を有するものと考えられる。」

 共同相続人間の相続回復請求権(民法884条)に関する重要判例として、最高裁昭和53年12月20日民集32巻9号1674頁・民法百選Ⅲ【3版】100事件(以下「昭和53年判例」といいます。)があります。昭和53年判例は、共同相続人の一人によって相続権を侵害された他の共同相続人がその侵害の排除を求める場合と民法884条の適用に関し、共同相続人の一人甲が、相続財産のうち自己の本来の相続持分を超える部分につき他の共同相続人乙の相続権を否定し、その部分もまた自己の相続持分に属すると称してこれを占有管理し、乙の相続権を侵害しているため、乙が右侵害の排除を求める場合には、民法884条の適用があるが、甲においてその部分が乙の持分に属することを知っているとき、又はその部分につき甲に相続による持分があると信ぜられるべき合理的な事由がないときには、同条の適用が排除されるとの判断を示しました。昭和53年判例は、共同相続人間においても民法884条が適用されること、そして、その場合の要件としていわゆる善意かつ合理的事由が必要としました。なお、善意かつ合理的理由の判断基準時及び立証責任に関しては、最高裁平成11年7月19日民集53巻7号1138頁・重要判例解説平成11年度民法12事件(以下「平成11年判例」といいます。)があります。前者(判断基準時)については、相続権侵害の開始時点を基準とすべきこと、後者(立証責任)については、相続回復請求権の消滅時効の援用をする者が善意かつ合理的理由の存在の立証責任があるとしました(令和8年度版判例六法613頁・民法884条についての11個目と12個の判例)。

 詳細は、昭和53年判例につき、

https://www.courts.go.jp/hanrei/53218/detail2/index.html

 平成11年判例につき

https://www.courts.go.jp/hanrei/52575/detail2/index.html

 をそれぞれ参照してください。  

 さて、本判例は、この昭和53年判例を参照しつつ、相続回復請求の相手方である表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるかについて、相続回復請求の相手方である表見相続人は、真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効により取得することができるとしたものです。

 本判例は、相続回復請求権の消滅時効前は時効取得は認められるか否かという法解釈上の問題につき、相続回復請求権の相手方である表見相続人は「真正相続人の有する相続回復請求権の消滅時効が完成する前であっても、当該真正相続人が相続した財産の所有権を時効によって取得することができる」というルールを示したものであり、重要な意義を有するとされます(重要判例解説令和6年度民法4事件65頁解説2参照)。