最高裁昭和33年2月13日刑集12巻2号218頁・刑訴百選【11版】A27事件(職権審理義務の存否)
1 はじめに
本判例は、①現行刑訴法上裁判所は職権で証拠調をしたり検察官に対して立証を促したりする義務があるか、あるとして②裁判所に検察官に対し証拠を提出を促がす義務があると認められる場合はどのような場合かについて判断したものです。
2 前提となる知識
刑訴法298条
①検察官、被告人又は弁護人は、証拠調を請求することができる。
②裁判所は、必要と認めるときは、職権で証拠調をすることができる。
3 問題の所在(刑訴百選【11版】A27事件解説)
「刑訴法298条2項は,当事者の請求に基づく証拠調べを補充するものとして,「必要と認めるとき」に,裁判所が職権で証拠調べをする権限を認めている。また,刑訴規則208条は,裁判長および陪席裁判官が,訴訟関係人に対して立証を促すことができるとされている。こうした権限の存在を前提に,その職権発動が義務となる場合があるのかという点が,現行法の基本構造に係わる問題として,早くから議論の対象とされてきた。」
4 判旨
「わが刑事訴訟法上裁判所は、原則として、職権で証拠調をしなければならない義務又は検察官に対して立証を促がさなければならない義務があるものということはできない。しかし、原判決の説示するがごとく、本件のように被告事件と被告人の共犯者又は必要的共犯の関係に立つ他の共同被告人に対する事件とがしばしば併合又は分離されながら同一裁判所の審理を受けた上、他の事件につき有罪の判決を言い渡され、その有罪判決の証拠となつた判示多数の供述調書が他の被告事件の証拠として提出されたが、検察官の不注意によつて被告事件に対してはこれを証拠として提出することを遺脱したことが明白なような場合には、裁判所は少くとも検察官に対しその提出を促がす義務あるものと解するを相当とする。従つて、被告事件につきかかる立証を促がすことなく、直ちに公訴事実を認めるに足る十分な証拠がないとして無罪を言い渡したときは、審理不尽に基く理由の不備又は事実の誤認があつて、その不備又は誤認が判決に影響を及ぼすことが明らかであるとしなければならない。されば、原判決は、結局正当であつて、所論違憲の主張はその前提を欠き、その余の主張はその理由がなく、すべて、採ることができない。
よつて、刑訴414条、396条に従い、主文のとおり判決する。
この判決は、真野裁判官の反対意見を除くほか、他の裁判官の全員一致の意見によるものである。」
5 解説(刑訴百選【11版】A27事件解説)
「学説上は,現行刑訴法が当事者追行主義を基調とするものである以上,裁判所には,原則として職権を発動する義務はなく,例外的に,証拠の存在が明らかで,かつその取調べが容易であり,それを取り調べなければ著しく正義に反する結果を招来するおそれが顕著なときに,当事者に対して証拠調べの請求を促す義務があるとする点で,ほぽ見解の一致がある。それを越えて,裁判所自らが職権で証拠調べを行う義務が生じるのは,裁判所の勧告に対する被告人側の対応が不十分な場合に限られ,検察側の立証活動との関係では,立証を促す義務にとどめるべきだとする見解が有力であり,実務上も,そのような取扱いがなされるのが通例とされる。」

