最高裁昭和58年12月13日刑集37巻10号1581頁(争点顕在化措置)

1 はじめに

 本判例は、控訴審における謀議の認定手続に不意打ちの違法があるとされた事例判例です。

2 前提となる知識

⑴刑法
60条
2人以上共同して犯罪を実行した者は、すべて正犯とする。
⑵刑訴法
294条
公判期日における訴訟の指揮は、裁判長がこれを行う。
308条
裁判所は、検察官及び被告人又は弁護人に対し、証拠の証明力を争うために必要とする適当な機会を与えなければならない。
317条
事実の認定は、証拠による。

3 問題の所在

 「3月12日から14日までの謀議への関与を理由にハイジャックの共謀共同正犯として起訴された被告人につき、13日及び14日の謀議とりわけ13日夜の第1次謀議への関与を重視してその刑責を肯定した第1審判決に対し、被告人のみが控訴を申し立てた事案において、右第1次謀議への関与の有無がハイジャックに関する謀議の成否の判断上とりわけ重要であるとの基本的認識に立つ控訴審が、13日夜の被告人のアリバイの成立を認めながら、第1審判決が認定せず控訴審において被告人側が何らかの防禦活動を行つていない12日夜の謀議の存否を争点として顕在化させる措置をとることなく、率然として、第1次謀議の日を12日夜であると認めてこれに対する被告人の関与を肯定した本件訴訟手続(判文参照)は、被告人に不意打ちを与え違法である。」としたものです。

4 判旨

 「(上告趣意に対する判断)
 被告人本人の上告趣意第一のうち、判例違反をいう点は、所論引用の判例は、事案を異にし本件に適切でなく、その余の点は、憲法31条、37条違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張にすぎず、同第二は、判例違反をいうが、原判決はいわゆる共謀共同正犯における共謀ないし謀議の認定方法や共謀成立の要件等について、何ら法律的な見解を示しているものではないから、所論は前提を欠き、同第三は、判例違反をいうが、原判決は被告人が共謀関係からの離脱を表明した事実を肯定しながらその離脱を否定したわけではないから、所論は前提を欠き、同第四、第五は、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて、いずれも刑訴法405条の上告理由にあたらない。
 弁護人堀川日出輝、同小野正典の上告趣意第一は、憲法31条、37条1項違反をいうが、実質は単なる法令違反の主張であり、同第二のうち、判例違反をいう点は、所論引用の各判例はいずれも事案を異にし本件に適切でなく、その余の点は事実誤認の主張であり、同第三、第四は、単なる法令違反、量刑不当の主張であつて(なお、被告人及び共犯者らの所論各供述の任意性に疑いはないとした原判断は、相当である。)、いずれも刑訴法405条の上告理由にあたらない。
(職権による判断)
 所論にかんがみ、職権をもつて記録を調査すると、原審の訴訟手続には、法令の違反があるが、いまだ原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとは認められない。その理由は、次のとおりである。
 一 記録に現われた本件訴訟の経過は、おおむね、次のとおりである。
 被告人は、「A派に属する被告人が、B、C、Dら十数名と共謀のうえ、昭和45年3月31日午前7時30分すぎころ、富士山上空付近を航行中のE株式会社の定期旅客機(通称「よど」)内において、乗客を装い搭乗していた前記C、Dら9名において、抜身の日本刀を振りかざすなどしてスチユワーデスや乗客らの身体を順次ロープで縛り上げ、さらにはF機長らの背後から日本刀、短刀を擬すなどしてその反抗を抑圧し、よつて、右F機長らをして右C、Dらの命ずるままに航行するのやむなきに至らしめて右旅客機を強取し、その際、五名に加療約四日ないし約二週間を要する各傷害を負わせた」などという、強盗致傷、国外移送略取、同移送、監禁の各事実により公訴を提起されたものである。
 ところで、本件においては、公訴事実記載の日時に、A派(以下「A派」という。)政治局員Cらによつて公訴事実記載の犯行(以下「本件ハイジヤツク」という。)が実行されたことに争いはなく、また、右犯行当時、被告人が同派政治局議長Bとともに別件のいわゆる大菩薩峠事件(爆発物取締罰則違反)などにより警察に身柄を拘束されていて、右の実行行為に加担していないことも明らかであつたため、第一審以来の中心的な争点は、被告人が他の共犯者との間で本件ハイジヤツクに関する共謀共同正犯の刑責を肯定するに足りるような謀議を遂げたと認められるかどうかの点にあつた。
 第一審公判において、検察官は、当初、「共謀の日時は、昭和45年1月7日ころから犯行時までであり、同年3月15日以降は順次共謀である。」「共謀の場所は豊島区ab丁目c番d号ホテルG、同区ab丁目e番f号喫茶店Hなどである。」と釈明したが(第一回公判)、その後の冒頭陳述(第二回公判)においては、「同年3月12日より同月14日までの間に、前記『H』などにおいて」被告人がB、Cらと本件ハイジヤツクについての「具体的謀議」を遂げた旨を主張した。右冒頭陳述によると、被告人の属するA派の思想的指導者であるBは、同年1月以降、海外における国際根拠地の設定及びそのための要員の国外脱出の手段としてのハイジヤツクを思いつき、被告人を含む同派の者に対し、その計画(いわゆるフエニツクス作戦)を実現するうえで必要な武器調達作戦(いわゆるアンタツチヤブル作戦)及び資金獲得作戦(いわゆるマフイア作戦)などを命じて実行させていたが、同年三月一二日夜にはホテル「G」でIに対し千歳飛行場の調査等を命じ、13日昼には喫茶店「J」でフエニツクス作戦の参加要員選定のための面接を行つたうえ、被告人に命じて合格者に対する注意事項の伝達をさせるなどしたほか、これと相前後して、13、14の両日、喫茶店「H」などにおいて、C、D及び被告人とともに、ハイジヤツクについてその時期、手段、方法、実行行為者などを具体的に協議して決定したというのであり、右は、検察官が、本件ハイジヤツクにつき被告人の刑責を問うために必要な「謀議」の日時を、3月12日から14日までの3日間に限局して主張し、争点の明確化を図つたものと理解される。
 これに対し、被告人・弁護人は、被告人の右謀議への関与を徹底的に争つた。そのため、第一審においては、右3日間における被告人及びBらの具体的行動をめぐり、双方の攻撃防禦が尽くされたのであるが、右謀議に関する検察官の立証の中心をなすものは、「3月13日夜喫茶店『H』において、B、Cらからはじめてハイジヤツクの決意を打ち明けられ、大学ノートに書き込んだメモを見せられて、その具体的方法等に関する説明を受けた。」とする被告人の検察官調書及びほぼこれに照応するBの検察官調書であり、右以外の日及び時間帯の行動に関する証拠の中には、被告人の具体的謀議への関与を端的に窺わせるものが見当らなかつたため、右13日夜の被告人の行動、とくに被告人が、その自供するように喫茶店「H」における具体的な協議(以下「第一次協議」という。)に加わつたのかどうかという点が最大の争点となり、被告人側は、被告人及びBの各検察官調書の任意性、信用性を極力争う一方、右第一次協議が行われたとされる13日夜のアリバイ(右協議が行われたとされる時間帯に被告人が知人のK方を訪問しており、同所で旧知のLにも会つたとするもの)に力点を置いた主張・立証を展開した。
 第一審裁判所は、本件ハイジヤツクの謀議成立に至る経過として、12日及び13日昼の行動の点を含め、おおむね、検察官の主張に副う事実関係を認定したほか、13日夜の第一次協議に関する被告人のアリバイの主張を排斥し、被告人が「3月13日および翌14日、喫茶店『H』等において、」B、C及びDと本件ハイジヤツクの謀議を遂げたものと認めて、被告人に対し「懲役10年(未決勾留日数900日算入)」の有罪判決を言い渡した。なお、検察官も、第59回公判に行われた論告の際には、「3月13、14日の両日、喫茶店『H』など」において、被告人らが具体的謀議を遂げた旨主張するに止まり、12日の謀議については、これを明示的には主張していない。
 右判決に対し、被告人側から控訴を申し立てた。原審において、被告人側は、第一審に引き続き、3月13日夜のアリバイを強く主張し、新たな証人や証拠物たる書面によりその立証を補充したところ、原審は、右アリバイの成立を認め、これを否定した第一審判決には事実誤認の違法があるとしたが、同判決の認定した3月13日夜の第一次協議は、実は12日夜に喫茶店『H』において行われたもので、被告人もこれに加わつており、さらに、13日昼及び14日にも被告人を含めた顔ぶれで右協議の続行が行われていると認められるから、右事実誤認は判決に影響を及ぼすものではないと判示した(ただし、原判決は、被告人側の量刑不当の主張を理由ありと認め、第一審判決を破棄して、被告人に対し、改めて「懲役8年、原審未決勾留日数900日算入」の刑を言い渡した。)。なお、原審において、検察官は、本件ハイジヤツクの謀議を自白した被告人及びBの各検察官調書が信用できるとし、13日夜のアリバイに関する被告人側の証拠の信用性を攻撃したが、第一審判決が謀議の行われた日と認めた3月13、14の両日以外の日(たとえば12日)に謀議が行われた旨の主張は一切しておらず、原審も本件ハイジヤツクに関する第一次協議の行われた日が13日ではなくて12日ではなかつたのかという点につき、当事者双方の注意を喚起するような訴訟指揮は行つていない。
 二 しかして、被告人が所属するA派内部において、昭和45年1月以降、海外における国際根拠地の設定及びそのための派遣要員の国外脱出計画が存在し、その手段としてのハイジヤツクに向けた種々の準備が行われていたこと、被告人が右国外派遣要員の母体とされる「M軍」の隊長という地位にあり、ハイジヤツクを実行するうえで必要な資金や武器の獲得計画に重要な役割を果たしたことなどの点については、証拠上第一審判決の認定をおおむね是認することができるが、他方、A派内部において、国外脱出の手段としてのハイジヤツク計画が現実のものとして具体化してきたのは、3月上旬以降のことであること、被告人は、3月4日から12日まで京都市に居て、同日夜帰京してきたものであり、帰京以前に、B、Cらと本件ハイジヤツクに関する具体的な話合いをしたことを窺わせる的確な証拠の見当らないことなども、記録上明らかなところである。そして、前記のような訴訟の経過によると、本件において、当事者双方は、被告人に対し本件ハイジヤツクに関する共同正犯の刑責を負わせることができるかどうかが、一にかかつて、被告人が、京都から帰つた12日以降逮捕された15日朝までの間にB、CらA派最高幹部とともに本件ハイジヤツクに関する具体的な謀議を遂げたと認めうるか否かによるとの前提のもとに、右謀議成否の判断にあたつては、証拠上本件ハイジヤツクに関する具体的な話合いが行われたとされている3月13日の喫茶店「H」における協議(第一次協議)に被告人が加わつていたかどうかの点がとりわけ重要な意味を有するという基本的認識に立つて訴訟を追行したことが明らかであり、一、二審裁判所もまた、これと同一の基本的認識に立つものであると認められる。
 ところで、原審は、第一審と異なり、13日夜喫茶店「H」において第一次協議が行われたとされる時間帯における被告人のアリバイの成立を認めながら、同夜の協議は現実には12日夜に同喫茶店において行われたもので、被告人もこれに加わつており、さらに、13日昼、14日にも被告人を含めた顔ぶれで右協議が続行されているとして、被告人に対し本件ハイジヤツクの共謀共同正犯の成立を肯定したのである。
 しかし、3月12日夜喫茶店「H」及びホテル「G」において被告人がB、Cらと顔を合わせた際に、これらの者の間で本件ハイジヤツクに関する謀議が行われたという事実は、第一審の検察官も最終的には主張せず、第一審判決によつても認定されていないのであり、右12日の謀議が存在したか否かについては、前述のとおり、原審においても検察官が特段の主張・立証を行わず、その結果として被告人・弁護人も何らの防禦活動を行つていないのである。したがつて、前述のような基本的認識に立つ原審が、第一審判決の認めた13日夜の第一次協議の存在に疑問をもち、右協議が現実には12日夜に行われたとの事実を認定しようとするのであれば、少なくとも、12日夜の謀議の存否の点を控訴審における争点として顕在化させたうえで十分の審理を遂げる必要があると解されるのであつて、このような措置をとることなく、13日夜の第一次協議に関する被告人のアリバイの成立を認めながら、率然として、右第一次協議の日を12日夜であると認めてこれに対する被告人の関与を肯定した原審の訴訟手続は、本件事案の性質、審理の経過等にかんがみると、被告人に対し不意打ちを与え、その防禦権を不当に侵害するものであつて違法であるといわなければならない
 三 しかしながら、さらに検討すると、記録によれば、A派内部においては、昭和45年1月以降、海外における国際根拠地の設定の手段としてのハイジヤツク計画(いわゆるフエニツクス作戦)並びにこれを実現するうえで必要な武器調達作戦(いわゆるアンタツチヤブル作戦)及び資金獲得作戦(いわゆるマフイア作戦)が存在し、被告人は、国外派遣要員の母体たる「M軍」の隊長として、武器調達及び資金獲得の両作戦の遂行上重要な役割を果たしていたこと、同年3月9日ころには、CからBに対し、調査委員会で収集した資料等に基づき、旅客機をハイジヤツクして北朝鮮に行く予定であること及び右ハイジヤツク実行の具体的方法等について詳しい説明を行つていることなどの点は、第一審判決が詳細に認定しているとおりであると認められるところ、右事実を前提として3月12日以降15日に至る被告人らの行動(とくに、3月12日夜被告人らとともにホテル「G」に投宿したIが、BないしCに命ぜられて、翌13日千歳空港へ機内及び空港周辺の状況等の調査に赴き、14日に帰京してBらにその結果を報告していること、同月13日午前中、Cに命ぜられた被告人が、実父に対し、国外脱出用の資金30万円を無心する手紙を書いていること、同日、Bに依頼された被告人が、Bによる国外派遣要員の面接の直後、その合格者に対しBから指示された注意事項を伝達していること、翌14日、被告人の示唆によりBの面接を受けたNに対し、Bは、被告人の同室する喫茶店「H」内においてその海外渡航の意思を確認したが、その際、「玄海灘の藻屑と消えるかもしれない。」旨ハイジヤツクを暗示するかのような発言をしたこと、同日夜には、被告人はBとともにO方に投宿していることなどの行動。なお、これらの事実は、一、二審判決がほぼ共通して認定しており、証拠上も明らかであると認められる。)、及び被告人らが逮捕されたのち本件ハイジヤツク実行に至るまでのC、Dらの動き(とくに、被告人らが逮捕された3月15日夜、C、D及びPらがいち早く協議を遂げて、「既定方針どおり、ハイジヤツクを敢行して北朝鮮へ行く。」旨の意思を統一し、翌16日以降、右の基本方針に従つて本件ハイジヤツクの具体的準備を進め、同月31日その実行に至つたこと、3月13日に行われたBの面接に合格し被告人による注意事項の伝達を受けた者は、すべて「M軍」の隊員であり、その全員が右ハイジヤツクの実行に加わつていること。なお、この点に関する第一審判決の認定も、証拠上十分是認することができる。)、さらには、Cらによつて現に実行された本件ハイジヤツクの方法が、BとCとの間で3月9日に話し合われたそれと基本的に同一であり、また、被告人が調達した武器(日本刀)が現に右犯行の用に供せられていること等記録上明らかな諸般の事実を総合すれば、同月12日に上京してきた被告人においても、逮捕前日の同月14日までの間に、すでに本件ハイジヤツクの実行に関する具体的な謀議を遂げていたB、Cらのいずれかから、ハイジヤツク計画の具体的方法等について聞かされてこれに賛同し、その実現に向けて自己の役割を遂行していたことを推認するに十分であつて、原判示第一次協議の存否及びこれに対する被告人の出席の有無にかかわりなく、ほぼ検察官の主張及び一、二審判決認定の事実の範囲内で、結局、被告人の謀議への関与を肯定することができるから、原判決を破棄しなければ著しく正義に反するとまでは認められない。
 よつて、刑訴法414条、396条により本件上告を棄却することとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。」

5 解説(判例タイムズ516号86頁)

 「1 本件事案の概要、審理の経過などは、判文に詳しく判示されているが、その要点のみを摘記すると、次のとおりである。
 赤軍派の中堅幹部の一人であった被告人は赤軍派による本件ハイジャック事件が発生した当時、別件の爆発物取締罰則違反の容疑で身柄拘束中であったが、右ハイジャックの謀議への関与を理由に、共謀共同正犯として起訴された。
被告人側が右謀議関与を徹底して争ったため、検察官は、釈明・冒頭陳述において、右謀議の日時を、被告人が京都から帰った3月12日から逮捕される前日の3月14日までの3日間、謀議の場所を「喫茶店白鳥など」と指定した。
被告人は、右謀議への関与を否認し、とくに、検察官の主張によれば被告人が塩見孝也、田宮高麿ら赤軍派最高幹部と詳細な打合せをしたとされている3月13日夜の喫茶店白鳥における謀議(いわゆる第1次謀議)については、アリバイを主張したりして争ったが、一審判決は、右主張を排斥し、3月13日及び14日の両日に、被告人が他の共犯者らと謀議を遂げた旨認定した。
 これに対し、被告人側だけが控訴を申し立て、控訴審において、3月13日夜の謀議に関するアリバイの追加立証をしたところ、原審は、右アリバイの成立を認めたが、被告人の検察官に対する詳細な自白は、謀議の日の点を除き、基本的に信用できるとし、被告人側に対し謀議の日のちがいについて注意を喚起するための措置を何らとることなく、一審判決が認定した3月13日夜の第1次謀議は、じつは、3月12日夜喫茶店白鳥において行われたものであると認め、さらに、3月13日昼、14日にも右謀議の続行が行われているとして、結局、共謀共同正犯の成立を認めた一審判決の認定を是認した。
 被告人、弁護人の上告趣意は、多岐にわたるが、その中心は、原判決の右のような謀議の認定手続は、被告人に不意打ちを与え、その防禦権を不当に侵害するもので違法であるという、単なる法令違反の主張であった。
 2 本判決は、右上告趣意をすべて不適法として排斥したが職権をもって、判決要旨のような判断を示し、原審の謀議の認定手続の違法を宣言した。
 本件において、被告人が関与したとされる謀議の日時は、第一審検察官によって、3月12日から14日までの3日間に限定されていたが、原審が認定した3月12日も、検察官の右主張の範囲内のものであったから、原判決の認定が不意打ちであるといっても、本件は、いわゆる訴因逸脱認定が問題となる事案ではない
 しかし、本件は、1・2審を通じ、訴訟関係者が一致して、13日夜の喫茶店白鳥における第1次謀議に被告人が関与したかどうかの点が、被告人に対する共謀共同正犯の成否の判断上きわめて重要な意味を有するとの基本的認識のもとに、訴訟を遂行してきたとみられる事案であって、第一審判決は12日の謀議を認定していない
 また、原審においても、もっぱら13日夜のアリバイの成否をめぐって攻防が尽されていたのであり、右第1次謀議が12日夜に行われたものであることを示唆する主張は、検察官も全くしていなかつたとみられる。
 したがって、一審判決が認定した13日夜の第1次謀議が2日夜に行われたと認めた原判決の認定は、当事者双方にとって予想外のことであったと思われるのであり、このような場合、本件原審のように、12日の謀議の成否の点につき被告人側の注意を喚起するための何らの措置をとることなく、率然として謀議の日時に関する一審判決の認定を動かすことが許されるとすると、被告人側としては、1・2審における検察官の主張及び訴訟の経過のいかんにかかわらず、あらゆる場合を想定して防禦を尽くさなければならなくなるが、このようなことでは、訴訟の円滑な進行は期待できず、いたずらに審理の長期化を招くことが予想される
 本判決が、本件のような審理経過をたどった事案において、控訴審が一審判決と異なる謀議の日を認定しようとする場合には、「12日夜の謀議の存否の点を控訴審における争点として顕在化させたうえで十分の審理を遂げる必要がある」と判示したのは、右のような事態を憂慮したためではないかと推察される。
 なお、右にいう「争点として顕在化」させる方法としては、裁判長の釈明によるのがオーソドックスなものと思われるが、あるいは、裁判所が、証人や被告人に対し、12日夜の行動について具体的な問いを発することにより、事実上、当事者双方に12日夜の謀議に関する注意を喚起するという方法でも足りる場合があるかもしれない。
 3 当事者に不意打ちを与えるような事実の認定が許されないことは、いわゆる新島ミサイル事件上告審決定(最高大法廷決昭和46・3・24刑集25巻2号293頁)において明言されているところであるが、どの程度の不意打ちがあれば当不当の域をこえて違法となるのかは、難しい問題である。
 本判決は、原審の訴訟手続が不意打ちで違法であることを認めたものとしては、新島ミサイル決定以来のものであり、事例判例ながら、今後の控訴審の実務に与える影響は、小さくないと思われる。
 なお、本判決は、原審の訴訟手続を違法としながら、結局において被告人の謀議関与を肯定することができるとして、刑訴法411条を発動しなかった。
 本件の具体的事実関係のもとにおいて、被告人につきハイジャックの共謀共同正犯の成立を認めうるとした本判決の判示部分についても、事例的な価値がないとはいえないが、いわゆる不著反正義の理由として述べられたものであり、この点に重大な先例的意義を認めることができるかどうかについては、議論の余地があろう。
 4 本判決によって、よど号事件の関係者の処分は、国外逃亡者の分を除き、すべて確定した。」

 「「共謀」は共謀共同正犯の「罪となるべき事実」である一方,共謀の成立過程における謀議行為の日時等は,訴因の特定に必要な事項ではなく,訴因として記載する必要はない(最大判昭和33·5·28刑集12巻8号1718頁〔本書A44事件〕参照)。そのため,その点に関して検察官が訴因外で釈明・主張した内容は訴因の内容とならず,裁判所がそれと異なる認定をするとしても,審判対象画定の見地から訴因変更が必要となることはない。また,謀議行為の日時等は.一般的に被告人の防御にとって重要な事項であり得るが本件ではそれが訴因に明示されて
いないから,争点明確化のために訴因変更が必要となることもない(最決平成13年4月11日刑集55巻3号127頁〔本書46事件〕参照)。しかし,検察官が訴因外で釈明・主張した事実が.罪責の認定または量刑の判断にとって重要な事項であり,それと異なる事実を認定すれば被告人に不意打ちを与えるという場合には,裁判所は,これを防止するために,求釈明(刑訴規208条1項)等により,当該事実を争点として顕在化させる措置(争点顕在化措置)をとる必要がある(最判平成26年4月22日刑集68巻4号730 頁も参照)。」(刑訴百選【11版】A26事件解説)