東京高裁昭和52年12月20日高刑集30巻4号423頁・刑訴百選【11版】A22事件(訴因と罪数)
1 はじめに
本裁判例は、包括一罪の訴因を数個の併合罪と認定すべき場合に裁判所のとるべき措置について判断したものです。
2 前提となる知識
刑訴法312条1項
裁判所は、検察官の請求があるときは、公訴事実の同一性を害しない限度において、起訴状に記載された訴因又は罰条の追加、撤回又は変更を許さなければならない。
3 問題の所在(刑訴百選【11版】A22事件解説)
「一罪として審判の対象とされた事実が,公判審理の過程で数罪を構成すると評価されるに至った場合,どのような手続的処理をすればよいか。
本件では,複数の拳銃と実包の所持の事実が包括一罪として審判の対象とされていたが,審理の結果,被告人が拳銃等を一度交付者に返却し,再度受領していたことが判明したため,再受領後の所持は返却前のそれとは別個独立の罪を構成すると考えられるに至った。第1審は,訴因中の事実を縮小認定するにすぎず,かつ所持の中断の事実は被告人の供述によるところであるから,被告人の防御に実質的な不利益を与えるおそれはないとの理由で,訴因変更手続を経ずに,上記2つの所持の事実を認定し併合罪として処断した。これに対し,本判決は,訴因変更手続を経ずに併合罪を認定したのは違法であるとの被告人側の主張を容れ,次のように判示して,第1審判決を破棄した。」
4 判旨
「所論は要するに、本件においては原判示の被告人の全所為を包括一罪として公訴が提起されていることが明らかであるのに、原判決がなんら訴因変更等の手続を経ることなく原判示第二の一、二及び三の各事実を併合罪と認定したのは審判の請求を受けない事件について判決した違法があるというのである。
そこで一件記録を精査検討してみると、本件の訴因は当初、(一)被告人は昭和51年11月6日ころから昭和52年4月1日までの間大阪市内の喫茶店「ブルボン」店内及び和歌山県勝浦町の垂井三男方等においてけん銃(ワルサー32口径)1丁及び実包17発を所持した、というのであったところ、その後訴因変更手続を経て、(二)被告人は昭和51年11月6日ころから同年12月28日ころまでの間前記喫茶店「ブルボン」店内及び和歌山県田辺市の恵中弘方等において、けん銃(ワルサー32口径)1丁及び実包10発を所持したこと及び(三)被告人は昭和51年11月6日ころから同月12日ころまでの間前記喫茶店「ブルボン」店内及び和歌山県白浜町の飲食店「伯爵」店内等においてけん銃(ミクロス25口径)1丁及び実包15発を所持したことが追加され、右各事実は包括一罪を構成するものとして審判の対象となったことが明らかである。ところが証拠調べの結果、原裁判所としては、被告人は右けん銃等の不法所持期間の中途に、すなわち昭和51年11月15日ころから同年12月中旬ころまでの間、さきに被告人にけん銃等の売却を依頼しこれを手交した原審相被告人室田きみ子に対し前記(一)及び(二)のけん銃2丁と実包27発を返却している事実が明らかとなり、同女から再度受領した同年12月中旬以降の所持は返却前の所持とは別個独立の新たな所持(なお、このけん銃2丁及び実包27発の所持は二罪を構成し、右二罪が併合罪の関係にあるとする原判決の判断は誤りであって、返却前の所持(けん銃3丁及び実包42発の所持)と同様、処断上の一罪を構成するに過ぎないと考えられる。)と認めるのが相当であると判断するにいたったものであることが認められる。かように、当初は包括一罪として審判の対象とされたものが証拠調べの結果、単に事実に対する法的評価の範囲を超えて訴因事実そのものに変動が生じ、そのため数個の併合罪と認定するのが相当であると判断されるにいたったのであるから、原裁判所としてはその段階で検察官に釈明を求めて、所持に中断があったことのもつ意味や罪数の関係等について検察官の主張を明確にし、場合により罪数補正を伴う訴因変更手続をうながすなどして、もって被告人・弁護人にそれに対応する防禦の機会を与えるべき訴訟法上の義務があるものというべきである。しかるに原裁判所がこのような手続を経ることなく、そのまゝ審理を終結して判決をしたのは訴訟手続に法令の違反があり、その違反が判決に影響を及ぼすことが明らかだといわなければならないから、論旨は理由があり、この点において破棄を免れない。
よって、その余の控訴趣意に対する判断を省略し、刑訴法397条1項、379条により原判決を破棄し、原裁判所をして更に審理を尽させるため同法400条本文により、本件を原裁判所である東京地方裁判所に差し戻すこととして、主文のとおり判決をする。」

