最高裁昭和36年11月21日刑集15巻10号1764頁・刑訴百選【11版】A14事件(被告人の取調べ)

1 はじめに

 本判例は、起訴後における捜査官による被告人の取調の適否が問題となりました。事案は、窃盗事件で起訴後勾留中の被告人が、第1回公判期日前に行われた検察官の取調べに対し自白し、これを録取した調書が有罪の証拠とされたというものです。

2 前提となる知識

⑴刑訴法197条
①捜査については、その目的を達するため必要な取調べをすることができる。ただし、強制の処分は、この法律に特別の定めのある場合でなければ、これをすることができない。
②以下略
⑵刑訴法198条 
①検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、被疑者の出頭を求め、これを取り調べることができる。但し、被疑者は、逮捕又は勾留されている場合を除いては、出頭を拒み、又は出頭後、何時でも退去することができる。
②以下略

3 問題の所在

 刑訴法198条1項本文は「被疑者」について取調べができると規定しています。そうすると、起訴後、すなわち、被告人となった後は当該を取り調べることができなくなるのかが問題となります。本判例は、この点につき、「起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないが、これによつて直ちにその取調を違法とし、その取調の上作成された供述調書の証拠能力を否定すべきではない。」としました。

4 判旨

 「弁護人松永東、同松永光、同縄雅登の上告趣意第一点について。
 所論は、単なる訴訟法違反の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない(なお、刑訴一九七条は、捜査については、その目的を達するため必要な取調をすることができる旨を規定しており、同条は捜査官の任意捜査について何ら制限をしていないから、同法一九八条の「被疑者」という文字にかかわりなく、起訴後においても、捜査官はその公訴を維持するために必要な取調を行うことができるものといわなければならない。なるほど起訴後においては被告人の当事者たる地位にかんがみ、捜査官が当該公訴事実について被告人を取り調べることはなるべく避けなければならないところであるが、これによつて直ちにその取調を違法とし、その取調の上作成された供述調書の証拠能力を否定すべきいわれはなく、また、勾留中の取調であるのゆえをもつて、直ちにその供述が強制されたものであるということもできない。本件において、第一審判決が証拠に採用している所論被告人の検察官に対する昭和三五年九月六日付供述調書は、起訴後同年九月七日の第一回公判期日前に取調がなされて作成されたものであり、しかも、右供述調書は、第一審公判において、被告人およびその弁護人がこれを証拠とすることに同意している。したがつて、原判決には所論のような違法は認められない。)。
 同第二点は、事実誤認、単なる訴訟法違反の主張であり、同第三点は、量刑不当の主張であつて、刑訴四〇五条の上告理由に当らない。また記録を調べても同四一一条を適用すべきものとは認められない。
 よつて同四一四条、三八六条一項三号により裁判官全員一致の意見で主文のとおり決定する。」

5 解説(刑訴百選【11版】A14事件)

 「本決定は.起訴後第1 回公判期日前の取調べに関するものであるが,最決昭和57年3月2日(集刑225号689頁)は,本決定について「起訴後作成された被告人の捜査官に対する供述調書の証拠能力を肯定するために必要とされる具体的な要件を判示しているとは解せられない」とする。実際,第1回公判期日後に作成された供述証拠の証拠能力を肯定した裁判例がある(東京高判平成8年5月29日高刑集49巻2号272頁)。他方で,福岡地判平成15年6月24日(判夕1143号192頁)は,上記2つの最高裁の決定を,「第1回公判期日後の取調べを無条件で全面的に許容しているとは到底解されない」とした上で,第2回公判期日の被告人質問後に,当該質問により判明した捜査の不備を補うべく実施された取調べについて,当事者主義や公判中心主義に反するなどとして,これによる調書の証拠能力を否定した。
 そのほか,被告人に対して具体的にどのような態様の取調べが許されるかも,なお問題となる。例えば,本決定後の下級審裁判例には,被告人の当事者としての地位を重視する立場から,被告人がみずから申し出たか,取調べを拒否できることを十分承知していた場合に限る(大阪高判昭和43·7·25 判時525 号3 頁)とか,原則として弁護人の立会いを必要とする(東京地決昭和50·1·29 判時766 号25 頁)など,公判手続に準じた厳格な条件を付けるものが見られる。」