最高裁大法廷平成11年3月24日民集53巻3号514頁・刑訴百選【11版】34事件(接見指定制度の合憲性及び要件)
1 はじめに
本判例は、接見指定制度の合憲性につき、最高裁として初めて判断を示したものであり、かつあるべき「捜査との調整」の理解、とくに接見指定の要件につき一定の決着を与えたものです(本判例の評釈である刑訴百選【11版解説1】参照)。
2 前提となる知識
⑴条文
・憲法34条前段
何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。
・憲法37条3項
刑事被告人は、いかなる場合にも、資格を有する弁護人を依頼することができる。被告人が自らこれを依頼することができないときは、国でこれを附する。
・憲法38条1項
何人も、自己に不利益な供述を強要されない。
刑訴法39条3項
検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第1項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。
・
⑵判例
・最高裁昭和53年7月10日民集32巻5号820頁・杉山事件判決
捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見の申出があつたときは、原則として何時でも接見の機会を与えなければならないのであり、現に被疑者を取調中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある等捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見のための日時等を指定し、被疑者が防禦のため弁護人等と打ち合せることのできるような措置をとるべきである。
・最高裁平成3年5月10日民集45巻5号919頁・浅井事件判決
弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)と被疑者との接見交通権が憲法上の保障に由来するものであることにかんがみれば、刑訴法三九条三項の規定による捜査機関のする接見又は書類若しくは物の授受の日時、場所及び時間の指定は、あくまで必要やむを得ない例外的措置であって、これにより被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限することが許されないことはいうまでもない。したがって、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり、これを認めると捜査の中断による支障が顕著な場合には、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁
護人等と防御の準備をすることができるような措置を採るべきである(最高裁昭和……53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁※杉山事件判決)。
そして、右にいう捜査の中断による支障が顕著な場合には、捜査機関が、弁護人等の接見等の申出を受けた時に、現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせているというような場合だけでなく、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合も含むものと解すべきである。
・最高裁平成3年5月31日集民163号47頁
捜査の中断による支障が顕著な場合には、捜査機関が、弁護人等の接見等の申出を受けた時に、現に被疑者を取調べ中であるとか、実況見分、検証等に立ち会わせているというような場合だけでなく、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の必要とする接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合も含むものと解すべきである。
3 問題の所在
本判例では、接見指定の要件に関し、従来の判例法理を確立したものです。合憲性を含めて検討がなされています。
4 判旨
「上告代理人大堀有介の上告理由第二点について
一 刑訴法39条3項本文の規定と憲法24条前段
所論は、要するに、身体の拘束を受けている被疑者と弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(以下「弁護人等」という。)との接見等を検察官、検察事務官又は司法警察職員(以下「捜査機関」という。)が一方的に制限することを認める刑訴法三九条三項本文の規定は、憲法三四条前段に違反するというのである。
1 憲法34条前段は、「何人も、理由を直ちに告げられ、且つ、直ちに弁護人に依頼する権利を与へられなければ、抑留又は拘禁されない。」と定める。この弁護人に依頼する権利は、身体の拘束を受けている被疑者が、拘束の原因となっている嫌疑を晴らしたり、人身の自由を回復するための手段を講じたりするなど自己の自由と権利を守るため弁護人から援助を受けられるようにすることを目的とするものである。したがって、右規定は、単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである。
刑訴法三九条一項が、「身体の拘束を受けている被告人又は被疑者は、弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者(弁護士でない者にあつては、第31条第2項の許可があつた後に限る。)と立会人なくして接見し、又は書類若しくは物の授受をすることができる。」として、被疑者と弁護人等との接見交通権を規定しているのは、憲法34条の右の趣旨にのっとり、身体の拘束を受けている被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、その意味で、刑訴法の右規定は、憲法の保障に由来するものであるということができる(最高裁昭和……53年7月10日第一小法廷判決・民集32巻5号820頁、最高裁……平成3年5月10日第三小法廷判決・民集45巻5号919頁、最高裁……平成3年5月31日第二小法廷判決・裁判集民事163号47頁参照)。
2 もっとも、憲法は、刑罰権の発動ないし刑罰権発動のための捜査権の行使が国家の権能であることを当然の前提とするものであるから、被疑者と弁護人等との接見交通権が憲法の保障に由来するからといって、これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものということはできない。そして、捜査権を行使するためには、身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が生ずることもあるが、憲法はこのような取調べを否定するものではないから、接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図らなければならない。憲法34条は、身体の拘束を受けている被疑者に対して弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれない限りにおいて、法律に右の調整の規定を設けることを否定するものではないというべきである。
3 ところで、刑訴法39条は、前記のように一項において接見交通権を規定する一方、3項本文において、「検察官、検察事務官又は司法警察職員(司法警察員及び司法巡査をいう。以下同じ。)は、捜査のため必要があるときは、公訴の提起前に限り、第一項の接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定することができる。」と規定し、接見交通権の行使につき捜査機関が制限を加えることを認めている。この規定は、刑訴法において身体の拘束を受けている被疑者を取り調べることが認められていること(198条1項)、被疑者の身体の拘束については刑訴法上最大でも23日間……という厳格な時間的制約があること(203条から205条まで、208条、208条の2参照)などにかんがみ、被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る趣旨で置かれたものである。そして、刑訴法39条3項ただし書は、「但し、その指定は、被疑者が防禦の準備をする権利を不当に制限するようなものであつてはならない。」と規定し、捜査機関のする右の接見等の日時等の指定は飽くまで必要やむを得ない例外的措置であって、被疑者が防御の準備をする権利を不当に制限することは許されない旨を明らかにしている。
このような刑訴法39条の立法趣旨、内容に照らすと、捜査機関は、弁護人等から被疑者との接見等の申出があったときは、原則としていつでも接見等の機会を与えなければならないのであり、同条3項本文にいう「捜査のため必要があるとき」とは、右接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、右要件が具備され、接見等の日時等の指定をする場合には、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないものと解すべきである。そして、弁護人等から接見等の申出を受けた時に、捜査機関が現に被疑者を取調べ中である場合や実況見分、検証等に立ち会わせている場合、また、間近い時に右取調べ等をする確実な予定があって、弁護人等の申出に沿った接見等を認めたのでは、右取調べ等が予定どおり開始できなくなるおそれがある場合などは、原則として右にいう取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に当たると解すべきである(前掲昭和53年7月10日第一小法廷判決、前掲平成3年5月10日第三小法廷判決、前掲平成3年5月31日第二小法廷判決参照)。
なお、所論は、憲法38条1項が何人も自己に不利益な供述を強要されない旨を定めていることを根拠に、逮捕、勾留中の被疑者には捜査機関による取調べを受忍する義務はなく、刑訴法198条1項ただし書の規定は、それが逮捕、勾留中の被疑者に対し取調べ受忍義務を定めているとすると違憲であって、被疑者が望むならいつでも取調べを中断しなければならないから、被疑者の取調べは接見交通権の行使を制限する理由にはおよそならないという。しかし、身体の拘束を受けている被疑者に取調べのために出頭し、滞留する義務があると解することが、直ちに被疑者からその意思に反して供述することを拒否する自由を奪うことを意味するものでないことは明らかであるから、この点についての所論は、前提を欠き、採用することができない。
4 以上のとおり、刑訴法は、身体の拘束を受けている被疑者を取り調べることを認めているが、被疑者の身体の拘束を最大でも23日間……に制限しているのであり、被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る必要があるところ、(一) 刑訴法39条3項本文の予定している接見等の制限は、弁護人等からされた接見等の申出を全面的に拒むことを許すものではなく、単に接見等の日時を弁護人等の申出とは別の日時とするか、接見等の時間を申出より短縮させることができるものにすぎず、同項が接見交通権を制約する程度は低いというべきである。また、前記のとおり、(二) 捜査機関において接見等の指定ができるのは、弁護人等から接見等の申出を受けた時に現に捜査機関において被疑者を取調べ中である場合などのように、接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、しかも、(三) 右要件を具備する場合には、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないのである。このような点からみれば、刑訴法三九条三項本文の規定は、憲法34条前段の弁護人依頼権の保障の趣旨を実質的に損なうものではないというべきである。
なお、刑訴法39条3項本文が被疑者側と対立する関係にある捜査機関に接見等の指定の権限を付与している点も、刑訴法430条1項及び2項が、捜査機関のした39条3項の処分に不服がある者は、裁判所にその処分の取消し又は変更を請求することができる旨を定め、捜査機関のする接見等の制限に対し、簡易迅速な司法審査の道を開いていることを考慮すると、そのことによって39条3項本文が違憲であるということはできない。
5 以上のとおりであるから、刑訴法39条3項本文の規定は、憲法34条前段に違反するものではない。論旨は採用することができない。
二 刑訴法39条3項本文の規定と憲法37条3項
所論は、要するに、憲法37条3項の規定は、公訴提起後の被告人のみならず、公訴提起前の被疑者も対象に含めているとし、それを前提に、刑訴法39条3項本文の規定は憲法37条3項に違反するというのである。
しかし、憲法37条3項は「刑事被告人」という言葉を用いていること、同条1項及び2項は公訴提起後の被告人の権利について定めていることが明らかであり、憲法37条は全体として公訴提起後の被告人の権利について規定していると解されることなどからみて、同条3項も公訴提起後の被告人に関する規定であって、これが公訴提起前の被疑者についても適用されるものと解する余地はない。論旨は、独自の見解を前提として違憲をいうものであって、採用することができない。
三 刑訴法39条3項本文の規定と憲法38条1項
所論は、要するに、憲法38条1項は、不利益供述の強要の禁止を実効的に保障するため、身体の拘束を受けている被疑者と弁護人等との接見交通権をも保障していると解されるとし、それを前提に、刑訴法39条3項本文の規定は、憲法38条1項に違反するというのである。
しかし、憲法38条1項の不利益供述の強要の禁止を実効的に保障するためどのような措置が採られるべきかは、基本的には捜査の実状等を踏まえた上での立法政策の問題に帰するものというべきであり、憲法38条1項の不利益供述の強要の禁止の定めから身体の拘束を受けている被疑者と弁護人等との接見交通権の保障が当然に導き出されるとはいえない。論旨は、独自の見解を前提として違憲をいうものであって、採用することができない。
四 以上のとおりであるから、刑訴法39条3項本文の規定は、憲法34条前段、37条3項、38条1項に違反するものではないとした原審の判断は正当であり、原判決に所論の違法はなく、本件上告理由第二点の論旨はいずれも理由がない。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
5 解説(判例タイムズ1007号106頁)
「一 刑訴法39条1項は、身体の拘束を受けている被告人又は被疑者と弁護人又は弁護人を選任することができる者の依頼により弁護人となろうとする者との立会人なしの接見、書類の授受等を認めているが、他方で、同条3項本文は、検察官、検察事務官又は司法警察職員に、捜査のため必要があるときは、右接見又は授受に関し、その日時、場所及び時間を指定する権限を与えている。本件の上告人らは、このように、捜査の必要を理由に、捜査機関が弁護人の接見等に関し制限をすることを認める右三項本文の規定は、弁護人依頼権を保障する憲法34条前段、37条3項前段、自己に不利益な供述の強要を禁止する憲法38条1項に違反すると主張するものである。
二 本件の事案は、恐喝未遂事件により代用監獄に勾留中の被疑者に接見しようとした弁護士が、留置担当の警察官及び検察官に指定書の受領、持参を要求されるなどして、前後九回にわたり接見を妨害されたとして、国と福島県に対し、国家賠償を求める事件である。一審の福島地郡山支判平2・10・4本誌751号88頁は、検察官の執った措置の一部につき違法を認め、国に対する請求を一部認容し、福島県に対する請求を棄却したが、原審の仙台高判平5・4・14判時1463号70頁は、国に対する関係でもすべて違法は認められないとして、請求を全部棄却したので、原告らが国と福島県を相手方として上告した。なお、現在最高裁にはこのような弁護人と被疑者との接見の妨害を理由とする国賠訴訟が複数係属している。
三1 本件の上告理由は多岐にわたるが、上告理由第二点において、刑訴法39条3項本文の規定が憲法34条前段、37条3項、38条1項に違反する旨の主張がされた(なお、上告理由第四点においては、原判決は、刑訴法三九条三項を合憲的に限定して解釈すべきであるのに、違憲的解釈を行った違法があると論ずる。)。同条項の解釈適用をめぐっては、これまでに、最1小判昭53・7・10民集32巻5号820頁、本誌372号67頁(杉山事件最高裁判決)、最三小判平3・5・10民集45巻5号919頁、本誌763号150頁(浅井事件最高裁判決)、最二小判平3・5・31裁判集民163号47頁、本誌763号177頁(若松事件最高裁判決)など最高裁の判断が積み重ねられてきているところであるが、その憲法適合性について、最高裁が直接判断を示したことはなく、先例とすべき適切な大法廷判決はないといってよい。本件は当初、第三小法廷に係属したが、第三小法廷は、本件は、右上告理由第二点について、大法廷において審理裁判すべきものと認めるとして、いわゆる「論点回付」をした。
2 なお、この「論点回付」とは、最高裁判所事務処理規則9条3項後段に根拠を置くもので、小法廷が大法廷に事件を回付するに当たり、複数ある論点のうち一部の論点についてのみ大法廷で審理裁判することを相当と判断し、その旨を表示して回付する場合をいうものである。大法廷は、通常、この論点についてのみ審理判断をし、右論点につき論旨は理由がないと判断したときは、論旨は理由がない旨の判決(中間判決的なものと解されよう。)を下し、そのほかの論点については元の小法廷において審理判断するということになる。これまで、この論点回付がされたものとしては、民事事件では昭和32年から昭和51年まで10件、刑事事件では昭和36年から昭和40年まで3件を数えるようである。
四 原審の判断
原審は、刑訴法39条3項本文の憲法適合性について、次のように判断した(なお、一審では、憲法違反の主張はされていなかった。)。
憲法34条前段は、被疑者と弁護人が自由に接見等をすることをいかなる場合にも保障したとまでは解することができないのであり、捜査との関係において接見交通権をどのような権利として保障すべきかは、同条の趣旨を踏まえての合理的な立法政策にゆだねられているというべきである。そして、刑訴法39条3項ただし書が、捜査機関が接見指定権を行使するに当たって被疑者の防御の準備をする権利を不当に制限してはならないとしていること、同項本文の「捜査のため必要があるとき」の意義について、最高裁の判例が、現に被疑者を取調べ中であるとか実況見分、検証等に立ち会わせる必要がある場合のほか、間近い時に取調べ等をする確実な予定がある場合がこれに該当するとして極めて限定的に解釈し、また、接見等の日時を指定する場合でも、弁護人等ができるだけ速やかに接見等を開始することができ、かつ、その目的に応じた合理的な範囲内の時間を確保することができるように配慮すべきであるとしていることにかんがみると、同条項及び同条項に関して最高裁の示した解釈が憲法34条前段に違反しないことは明らかである。また、被疑者はいつでも自己に不利益な供述をすることを拒否できるが、他方で任意に捜査官による取調べに応じて供述し、もって自らの主張や弁解をして、事案の真相の解明に資することもできるのであるから、被疑者が任意に取調べに応じて供述しているなどの場合に刑訴法39条3項に基づき弁護人等の接見交通権が制限されることがあっても、これが憲法三八条一項に違背しないことは明らかである。なお、憲法37条3項の規定は刑事被告人に関する規定で、本件ではその違反は問題になり得ない。
五1 刑訴法三九条三項本文の「捜査のため必要があるとき」の解釈及び接見指定の運用をめぐっては、過去捜査側と弁護側とで対立があったところである。もっとも、前記のように、最一小判昭53・7・10、最三小判平3・5・10、最二小判平3・5・31と判例が積み重ねられ、接見指定の実務の運用も変わるなどして、近時は接見指定をめぐるトラブルも大幅に減少したといわれる。
2 ところで、刑法39条3項本文に規定する接見指定の憲法適合性を考えるに当たっては、まず接見交通権の憲法上の位置付け、特に憲法34条の弁護人依頼権と接見交通権との関係を明らかにする必要がある(なお、憲法37条3項は公訴提起後の被告人に関する規定であると解するのが通説であるし、憲法38条1項の不利益供述強要の禁止の定めから接見交通権の保障が当然に導き出されると論ずるものはほとんど見当たらない。)。この点については、学説はほぼ一致して、憲法34条の弁護人依頼権保障の趣旨は、捜査官憲によってこれを妨害されてはならないとする消極的なものにとどまらず、弁護人による実質的な弁護を受けることについての保障という積極的な趣旨を含むのであり、弁護人との接見交通権の保障の趣旨を含むと解している(註解日本国憲法上巻(2)616頁、佐藤功・ポケット注釈全書・憲法上[新版]543頁、樋口陽一外・注釈日本国憲法上741頁〔佐藤幸治〕等参照)。そして、最1小判昭53・7・10は、弁護人等との接見交通権は、身体を拘束された被疑者が弁護人の援助を受けることができるための刑事手続上最も重要な基本的権利に属するものであり、弁護人との接見交通権は憲法の保障に由来すると判示している。
次に、接見交通権の憲法上の位置付けを前提として、その権利行使を制約する刑訴法39条3項の憲法適合性が問題とされることになる。この点については、学説をみても、規定それ自体が違憲であると正面からいうものはほとんどないといってよい。また、下級審の裁判例も一致して、接見交通権も国家の刑罰権行使のための捜査権も共に重要な権利であって、接見交通権が捜査権に絶対的に優先するとはいえず、捜査権の行使のため接見交通権が一定限度制約されることを認める刑訴法39条3項は違憲でないとの立場を採る(浦和地判平4・3・・23本誌798号154頁、大阪地判平4・11・9判時1470号106頁、仙台高判平5・4・14判時1463号70頁、東京地判平5・12・7本誌847号159頁、東京高判平6・10・26判時1519号91頁、福岡高判平6・2・21本誌874号147頁)。
規定自体の違憲性を正面から主張しているのは、主として本件を初めとする接見国賠訴訟の原告及び代理人を構成する弁護士グループである(高野隆「刑事訴訟法39条3項の違憲性」接見交通権の現代的課題15頁、憲法的刑事手続研究会編・憲法的刑事手続288頁〔村岡啓一〕参照)。規定を違憲とする理由は、要するに、(1)そもそも接見交通権は憲法に内在する権利であり、刑訴法上認められたものにすぎない捜査権に優越する絶対的なものとして保障されているのであるから、捜査の必要を理由に接見交通を制限することを認めた刑訴法39条3項の規定は憲法に違反する、あるいは、一方当事者にすぎない捜査機関が一方的に「捜査の必要」というような抽象的かつあいまいで恣意的運用を許す要件の下で接見を制限することを認める刑訴法39条3項の規定は違憲である、(2)憲法38条の黙秘権の保障の趣旨を考えると、被疑者に取調べ受忍義務はないから(刑訴法197条1項ただし書が取調べ受忍義務を定めているとすると、右規定は違憲である。)、被疑者が弁護人と接見したいといえば取調べ中であっても直ちに接見を認めるべきであり、取調べ等の必要があることを根拠に接見を制限することはできないなどとというものである。
六 最高裁大法廷は、概略以下のとおり判示した。
1 刑訴法39条3項本文の規定と憲法34条前段
憲法34条前段の規定は、単に被疑者が弁護人を選任することを官憲が妨害してはならないというにとどまるものではなく、被疑者に対し、弁護人を選任した上で、弁護人に相談し、その助言を受けるなど弁護人から援助を受ける機会を持つことを実質的に保障しているものと解すべきである。
刑訴法39条1項の規定は、憲法34条の右の趣旨にのっとり、被疑者が弁護人等と相談し、その助言を受けるなど弁護人等から援助を受ける機会を確保する目的で設けられたものであり、その意味で、憲法の保障に由来するものであるということができる。
もっとも、被疑者と弁護人等との接見交通権が憲法の保障に由来するからといって、これが刑罰権ないし捜査権に絶対的に優先するような性質のものということはできない。捜査権を行使するためには、身体を拘束して被疑者を取り調べる必要が生ずることもあるが、憲法はこのような取調べを否定するものではないから、接見交通権の行使と捜査権の行使との間に合理的な調整を図らなければならない。憲法34条は、身体の拘束を受けている被疑者に対して弁護人から援助を受ける機会を持つことを保障するという趣旨が実質的に損なわれない限りにおいて、法律に右の調整の規定を設けることを否定するものではない。
刑訴法39条3項本文は、刑訴法において身体の拘束を受けている被疑者を取り調べることが認められていること、被疑者の身体の拘束については厳格な時間的制約があることなどにかんがみ、被疑者の取調べ等の捜査の必要と接見交通権の行使との調整を図る趣旨で置かれたものである。
そして、(一)刑訴法39条3項本文の予定している接見等の制限は、弁護人等からされた接見等の申出を全面的に拒むことを許すものではなく、単に接見等の日時を弁護人等の申出とは別の日時とするか、接見等の時間を申出より短縮させることができるものにすぎず、同項が接見交通権を制約する程度は低い。また、
(二) 捜査機関において接見等の指定ができるのは、弁護人等から接見等の申出を受けた時に現に捜査機関において被疑者を取調べ中である場合などのように、接見等を認めると取調べの中断等により捜査に顕著な支障が生ずる場合に限られ、しかも、
(三) 右要件を具備する場合には、捜査機関は、弁護人等と協議してできる限り速やかな接見等のための日時等を指定し、被疑者が弁護人等と防御の準備をすることができるような措置を採らなければならないのである。このような点からみれば、刑訴法39条3項本文の規定は、憲法34条前段の弁護人依頼権の保障の趣旨を実質的に損なうものではないというべきである。
2 刑訴法39条3項本文の規定と憲法37条3項
憲法37条3項は公訴提起後の被告人に関する規定であって、これが公訴提起前の被疑者についても適用されるものと解する余地はない。
3 刑訴法39条3項本文の規定と憲法38条1項
憲法38条1項の不利益供述の強要の禁止を実効的に保障するためどのような措置が採られるべきかは、基本的には捜査の実状等を踏まえた上での立法政策の問題に帰するものというべきであり、憲法38条1項の不利益供述の強要の禁止の定めから身体の拘束を受けている被疑者と弁護人等との接見交通権の保障が当然に導き出されるとはいえない。
4 以上のとおりであるから、刑訴法39条3項本文の規定は、憲法34条前段、37条3項、38条1項に違反しない。
七 本判決は、接見交通権の憲法上の位置付け、それと国家の刑罰権ないし捜査権との関係を明確にした上で、刑訴法39条3項本文の規定は憲法の保障に由来する接見交通権を実質的に損なうものではなく、これを違憲ということはできないとしたもので、注目すべきものといえよう。なお、本判決は、刑訴法39条3項の「捜査のため必要」の解釈については、従来小法廷で積み重ねてきた解釈を踏襲する立場を採っている。そして、上告理由第二点以外の点をめぐり、本件はなお小法廷に係属しており、そのうち小法廷の判断が示されることになろう。
*漢数字をアラビア数字に直しています。

