最高裁平成2年6月27日刑集44巻4号385頁・刑訴百選【11版】33事件(写真撮影と準抗告)

1 はじめに

 本判例は、司法警察員が捜索差押の際にした写真撮影によって得られたネガ及び写真の廃棄又は引渡を求める準抗告が不適法とされた事例です。具体的には、司法警察員が申立人方居室内で捜索差押をするに際し捜索差押許可状記載の「差し押えるべき物」に該当しない印鑑、ポケット・ティッシュペーパー等について写真を撮影した場合において、右の写真撮影は、「押収に関する処分」には当たらず、その撮影によって得られたネガ及び写真の廃棄又は申立人への引渡を求める準抗告は、不適法であるとしたものです。

2 前提となる知識

⑴刑訴法218条1項
検察官、検察事務官又は司法警察職員は、犯罪の捜査をするについて必要があるときは、裁判官の発する令状により、差押え、捜索、電磁的記録提供命令又は検証をすることができる。この場合において、身体の検査は、身体検査令状によらなければならない。
⑵刑訴法430条
1項 検察官又は検察事務官のした第39条第3項の処分又は押収(電磁的記録提供命令(第102条の2第1項第1号イに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)を含む。)、押収物の還付、電磁的記録提供命令(同号ロに掲げる方法による提供を命ずるものに限る。)、第218条第3項の規定による命令若しくは第222条第1項若しくは第513条第6項において準用する第123百条の2第1項の規定による複写に関する処分に不服がある者は、その検察官又は検察事務官が所属する検察庁の対応する裁判所にその処分の取消し又は変更を請求することができる。
2項 司法警察職員のした前項の処分に不服がある者は、司法警察職員の職務執行地を管轄する地方裁判所又は簡易裁判所にその処分の取消し又は変更を請求することができる。

3 問題の所在

 捜索・差押えの場所にあったが,差押えの対象にならない物について.その内容・形状を記録するために撮影した場合、その写真撮影は違法であるが、写真撮影それ自体に対する準抗告が許されるか、写真撮
影で得られたネガおよび写真の廃棄・返還を求める準抗告の申立ては許されるかが問題となりました。なお、補足意見が着目すべき見解を示しています。

が問題となりました。

4 判旨

 「本件抗告の趣意は、憲法13条違反を主張するが、その実質において単なる法令違反の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
 所論にかんがみ職権をもって判断すると、原決定の認定によれば、本件においては裁判官の発付した捜索差押許可状に基づき、司法警察員が申立人方居室において捜索差押をするに際して、右許可状記載の「差し押えるべき物」に該当しない印鑑、ポケット・ティッシュペーパー、電動ひげそり機、洋服ダンス内の背広について写真を撮影したというのであるが、右の写真撮影は、それ自体としては検証としての性質を有すると解されるから、刑訴法430条2項の準抗告の対象となる「押収に関する処分」には当たらないというべきである。したがって、その撮影によって得られたネガ及び写真の廃棄又は申立人への引渡を求める抗告を申してることは不適法であるとするのが相当であるから、これと同旨の原判断は正当である。
 よって、刑訴法434条、426条1項により、裁判官藤島昭の補足意見があるほか、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。裁判官藤島昭の補足意見は、次のとおりである。
 一 検証とは、視覚、聴覚等五感の働きによって物、場所、人等の存在、形状、作用等を認識する作用であり、検証に際して行われる写真撮影は、検証の結果をフィルムに収録する行為といえよう。このような行為を捜査機関が行う場合には原則として令状を必要とする(刑訴法218条1項)。したがって、人の住居に立ち入って捜索差押許可状を執行するに際し、あわせてその現場において写真撮影を行うためには、原則として検証許可状が必要となる。
 しかし、検証許可状を請求することなく、捜索差押手続の適法性を担保するためその執行状況を写真に撮影し、あるいは、差押物件の証拠価値を保存するため発見された場所、状態においてその物を写真に撮影することが、捜査の実務上一般的に行われている。このような撮影もまた検証と解されるべきものであるが、捜索差押に付随するため、捜索差押許可状により許容されている行為であると考えられる。
 二 これに対して、本件のように、捜索差押許可状に明記されている物件以外の物を撮影した場合には、捜索差押手続に付随した検証行為とはいえないので、本来は検証許可状を必要とするものであり、その令状なしに写真撮影したことは違法な検証行為といわざるを得ないが、検証について刑訴法430条の準抗告の規定の適用がないことは条文上明らかであって、この点に関する準抗告は現行刑訴法上認められていないものと解するほかない。
 三 もっとも、物の外形のみの写真撮影に止まらず、例えば、捜索差押が行われている現場で捜索差押許可状に明記された物件以外の日記帳の内容を逐一撮影し、収賄先献金先等を記載したメモを撮影するなど、捜査の帰すうに重大な影響を及ぼす可能性のある、あるいは重大事件の捜査の端緒となるような文書の内容等について、検証許可状なくして写真撮影が行われたような場合を考えると、検証には刑訴法430条の準抗告の規定の適用がないということでこのような行為を容認してしまうことは、適正な刑事手続を確保するという観点から問題があるように思われる。
 すなわち、このような場合、実質的にみれば、捜査機関が日記帳又はメモを差し押さえてその内容を自由に検討できる状態に置いているのと同じであるから、写真撮影という手段によって実質的に日記帳又はメモが差し押さえられたものと観念し、これを「押収に関する処分」として刑訴法430条の準抗告の対象とし、同法426条2項によりネガ及び写真の廃棄又は引渡を命ずることができるとする考え方もあり得よう。
 四 しかしながら、本件の写真撮影は、印鑑等四点の物の外形のみを撮影したものであって、右のような実質上の押収があったか否かを議論するまでもない事案であるから、刑訴法430条の準抗告の対象とならないとした原決定の結論は相当である。」

5 解説

⑴本判例の評釈である判例タイムズ732号196頁

 「一、人の住居等において令状に基づく捜索差押がされる場合、その執行の現場で写真を撮影することが実務上一般的に行われているようである。
 本件最高裁決定は、こうした写真撮影それ自体に対する準抗告の適否に関して、上級審レベルにおける初めての判断を示した事例である。
 二、事案の経過の概略は、以下のとおりである。
被疑者Aに対する建造物侵入未遂被疑事件に関して、司法警察員の請求により、捜索差押許可状が発付され、申立人B方居室において捜索差押が実施された(差し押えるべき物については、「(1)(被疑者Aの)本件犯行を計画したメモ類、(2)被疑者Aの生活状況を示す預貯金通帳、領収証、請求書、金銭出納帳、日記帳」と記載されていた。)。 申立人は、各種の違法を主張して右の捜索差押に関する準抗告を申し立てたが、その中に、「本件捜索差押に際して写真撮影が行われたが、違法な撮影であるから、これによって得られたネガ及び写真の廃棄又は申立人への引渡を求める」旨の申立が含まれていた。
原決定は申立人の主張をすべて退けたが、そのうち写真撮影に関しては、「本件捜索差押に際して居室内にあった印鑑、ポケット・ティッシュペーパー、電動ひげそり機及び洋服ダンス内の背広を捜査機関が写真に撮影している点は、捜索差押に付随する写真撮影として許容される範囲を逸脱していて違法であるが、前記のようなネガ等の廃棄等を求める申立は刑訴法の認めていない不適法なものである」旨の判断を示した。
 本件特別抗告は、写真撮影に対する準抗告の適否に関する右の判断に絞って不服を申し立てたものである。
 三、捜索差押現場における写真撮影がどのような場合に許されるかの基準については、実務上の解釈が一応定着しており、(1)証拠物の証拠価値を保存するために、証拠物をその発見された場所、発見された状態において撮影する場合と、(2)捜索差押手続の適法性を担保するために、その執行状況を撮影する場合については、捜索差押に付随する処分として許されると解されている(本件原決定や次に掲げる下級審裁判例のほか、最近のものとして、東京地決平1・3・1本誌725号245頁がある。もっとも、具体的な違法判断の基準については、なお議論の余地を残しているように思われる。)。そして、写真撮影が違法と解される場合、(1)写真撮影の違法が差押処分の違法を招来することにより、差押が取り消される、(2)公判段階において、撮影によって得られた写真が、違法収集証拠として証拠能力を否定される、(3)損害賠償の対象となる、といった可能性が生じることについては異論がないと思われるが、更に、写真撮影それ自体に対する独立した準抗告(刑訴法430条)が許されるかどうかについては、裁判実務においても見解の一致をみていなかった。
 従来の見解は種々の角度から分類可能であるが、準抗告の適否という結論部分にのみ絞って従来の裁判例を大別すると、(1)写真撮影それ自体に対する準抗告を否定するもの(公刊物中には見当たらないが、本件の原決定はこの考え方をとるのではないかと解される。)、(2)違法な写真撮影処分の取消を求める準抗告は肯定するが、ネガ等の申立人への提出等を求めることは不適法であるとするもの(大津地決昭60・7・3刑月17巻7=8号721頁ほか)、(3)ネガ等の廃棄等を求める準抗告も適法とするもの(傍論としてこれを肯定するものとして、名古屋地決昭54・3・30本誌389号157頁ほか)に分類される。
 学説においてこの問題を論じた文献は少なく、横田安弘=高橋省吾・刑事抗告審の運用上の諸問題228頁が(1)の説をとっていると思われるのに対して、高部道彦・研修496号47頁は(2)説を、後藤昭・法時58巻7号97頁は(3)説を支持している。
 四、本決定は、本件における印鑑等の写真撮影は、それ自体としては検証としての性質を有すると解されるから、準抗告の対象となる「押収に関する処分」には当たらず、したがって、撮影によって得られた写真やネガの廃棄等を求める準抗告を申し立てることも不適法であるとの職権判断を示した
 これは、(1)の立場を採用することを最高裁として初めて明示したものであるが、その意義については、更に次のような指摘が可能であろう。
 第1は、本件準抗告が不適法であるとされるに至った理由付けの問題である。
 この点について、本決定は、本件撮影はそれ自体としては検証の性質を有すると解されるから、刑訴法430条に規定されている「押収に関する処分」には当たらない旨を判示しているが、その趣旨は、「検証が法430条の準抗告の対象から除外されていることは文理上明らかであり、刑訴法上検証と解される本件写真撮影について、たまたま捜索差押の際に実施されたからという理由のみで、これを『押収に関する処分』と解して独自の準抗告を認めることは許されない」との考え方を示しているものと推察される(この点については、藤島裁判官の補足意見において、同様の立場からの説明が施されている。)。そして、この論理に従えば、本件のようなケースについて、写真撮影処分の取消を求める準抗告申立を肯定する前記大津地決のような考え方も排斥されているということができよう。
 次に、本決定の先例性の範囲の問題がある。
 すなわち、本決定の判文は、捜索差押に際して行われる写真撮影全般について準抗告を不適法と判断したわけではなく、本件の撮影についての判断を示すことにより、いわゆる事例判例の体裁をとっていることが明らかであるが、その理由を推測するに当たっては、藤島裁判官の補足意見が参考になると思われる。
同意見を要約すると、検証としての性質を有する写真撮影について準抗告は一般的には許されないとされる一方で、「適正な刑事手続を確保するという観点」からみて、例外的に準抗告を認める余地がないかどうかについては結論が留保されているのであって、(写真撮影をめぐる両当事者の利害関係が本件に比べ一層鋭く対立することになると思われる)メモや日記帳の内容の撮影といったケースについての判断は、それにふさわしい事例を今後に待つこととするため、本決定の射程外としようとする考慮が払われているのではないかと考えられる。
 メモ等の内容を撮影した場合については、従来の学説においても、「実質的な押収」といった概念を導入することにより、準抗告を肯定しようとする見解がなかったわけではないが、(1)現行法の解釈論として、「実質的な押収」といった概念を肯定することが許されるか、(2)捜査機関の行政処分を不服申立の対象として法430条の準抗告制度が設けられたとされていることを前提にすると、(処分性に関する)行政訴訟における考え方との不整合はないか、といった観点からの検討が不可欠であるように思われる。」

⑵本判例の評釈である刑訴百選【11版】

 ア 捜索・差押え時の写真撮影と準抗告(解説1)

 「捜査機関が捜索・差押え時に写真撮影を行うことについては.一般に,当該写真撮影の目的や態様に分けてその可否が論じられてきた。すなわち.①捜索差押手続が適法になされたことを証明するために.令状の提示や捜索の実施状況,立会いの状況などを撮影するような場合,②差押物の証拠価値を保全するために発見時の状態や位置関係等を撮影する場合,③捜索・差押えの場所にあったが,差押えの対象にならない物について,その内容・形状を記録するために撮影する場合である……。このうち,①②は.その目的に照らして必要な範囲であれば,捜索差押令状によって許された範囲を超える,新たなプライバシー侵害を生じるものでない限り,捜索差押えに付随する処分として許容されるとされてきた(東京高判昭和29·10·7高刑集7巻9号1494頁,大阪高判昭和40·3·30高刑集18巻2号140頁など)。これに対して本件では,令状に基づく捜索・差押えが実施された際に,差押対象に含まれず,私的な場所にあった物の写真撮影が行われており,③の場合にあたる。……本決定は,最高裁として初めて,本件における写真撮影で得られたネガおよび写真の廃棄・返還を求める準抗告の申立てはできないとの事例判断を示した。

 イ 写真撮影が実質的な押収にあたる場合をどのように考えるか(解説2)

 法廷意見は刑訴法430条2項の「押収に関する処分」に当たらない、そのため、準公庫項の対象をならないという文理解釈を行い、「捜索・差押えの際の写真撮影が「押収に関する処分」にあたるという解釈はとらなかった。」「とはいえ,本決定はあくまで本件事案における写真撮影についての判断で(「右の写真撮影は,それ自体としては検証としての性質を有すると解される」と,事例判断の形式をとっている),差押対象物以外の物の写真撮影一般が準抗告の対象とならないと判断したわけではない。差押対象物以外の物の写真撮影について不服申立ての対象となるケースは,なお存在しうる……。」「法廷意見は,印鑑等の外形のみを撮影した本件の行為が検証としての性質を有すると言ったにとどまる。このような撮影は,文書や図面等の内容の撮影とは異なり,物の内容たる情報が重要な場合ではない。検証の手段としてではなく,藤島補足意見のいう「写真撮影という手段によって実質的に日記帳又はメモが差し押さえられた」ときすなわち「実質的な押収」にあたるような写真撮影が行われた事案については,刑訴法430条(※2項)で準抗告が認められる「押収に関する処分」に対する準抗告を申し立てることができると考えるべきである……。このような解釈に対しては条文の文理から無理があるとの批判もある……。しかし,立法段階で検証や捜索が(押収とは異なり)準抗告の対象とならなかったのは,これらによる権利制約が一過性のもので,事後的に取消しを求める利益がないと考えられたからであるとの考え方には説得力がある。現在のように情報を記録する技術が発達し,情報に対する権利意識が高まった状況の下では,このような区別は実態に合わない。伝統的には検証に該当するとされてきた行為でも,実質的には押収にあたるような場合で,プライバシーを保護すべき場合ならば準抗告を認める必要がある。つまり,情報の記録や保存を主たる目的として文書や図面の内容を逐一写すような撮影をするような場合は,実質的な押収にあたると考えるべきである……。」

 ウ 本決定の射程(解説3)

 「捜索・差押え時の写真撮影がどのような場合に認められるかという問題について,藤島補足意見が「捜索差押許可状に明記されている物件以外の物を撮影した場合には,捜索差押手続に付随した検証行為とはいえないので,本来は検証許可状を必要とするものであり,その令状なしに写真撮影したことは違法な検証行為といわざるを得ない」,とした上でネガおよび写真の廃棄または引渡しを命ずる裁判の可能性を認める見解を示したことは注目すべきである。このような考え方のもとでは,捜索・差押えの機会を利用して,差押対象物以外の物について,情報収集の目的で無令状の写真撮影を行う撮影は違法になるだろうし,そのような無令状の写真撮影によって,差押手続全体が令状主義を潜脱する意図で利用されたものとして違法性を帯びる……。違法な写真撮影が差押えの違法をもたらすかという問題は本決定の射程外であり,以上のような解釈は本決定のもとでも残されている(これに対して,河上和雄・判例タイムズ734号35頁は,適法な捜索・差押えに際して写真撮影が違法であっても,それが行われた捜索・差押えは違法とはならないことを本決定が明示したと主張する)。」(※一部加筆しました)