広島高裁令和6年6月13日令和5年(う)第125号重要判例解説令和6年度刑法1事件・判例秘書L07920258(強盗被告事件・強盗罪の承継的共同正犯)
本裁判例は、先行行為者が、強盗の犯意をもって被害者に暴行を加えて傷害を負わせた後、被害者が反抗を抑圧された状態にあることを認識しながら、先行行為者らと意思を相通じて、同人らとともに被害者から財物を盗取した被告人について強盗罪の承継的共同正犯の成立を肯定した事例判決です。
LIC提供の事実の概要と論点を引用します。
「本件は、被告人らが、投資目的で預けていた金員の返還を被害者に求めていたところ、同人がこれに応じなかったために発生した事件である。1審判決が認定した犯罪事実の要旨は、まず、被害者の事務所において、債権者D(仮名の表記は控訴審判決のそれによる。以下同じ。)と債権回収を依頼されたC及びEが被害者を脅迫するとともに、殴る蹴るの暴行を加えて被害者を反抗抑圧状態にしたが、その後、被告人ほか3名の債権者も加わり、ここに被告人を含む7名が投資資金回収目的で現金を奪う旨共謀して、室内を物色するなどして現金約11万円を強取したとされるものである。
検察官は、被告人に強盗罪の承継的共同正犯が成立する旨主張したが、これに対して弁護人は、①被告人は被害者事務所に至った際、同人が反抗抑圧状態にあるとの認識はなかった、また、DやCらとの間に財物奪取の意思連絡もなかった、などとして事実関係の一部を争い、また、②法解釈上の問題点として、被告人は、暴行・脅迫には加担しておらず、財物奪取のみに加担しているが、このような場合には強盗罪の承継的共同正犯は成立しない旨主張した。従って、本件の主要な争点は、強盗罪の承継的共同正犯の成否であり、その前提として被告人の主観的事情に関する事実認定が問題となる。」
本記事では②を中心に取り上げます。
裁判例を一部引用します。
「3 強盗罪の承継的共同正犯に関して事実誤認ないし法令適用の誤りをいう論旨について
(1)所論は、強盗罪の承継的共同正犯に関し、共犯が他人の行った行為によって惹起された法益侵害結果についても罪責を負うのは、共犯行為を通じて法益侵害結果との間で因果関係を有しているからであり、自己が全く関与していない先行者の行為について後行者が罪責を負う理由はなく、承継的共同正犯は本来的に認められないとした上で、強盗罪においては、財物奪取行為のみ加担した後行者は、先行者の暴行脅迫行為によってもたらされた被害者の反抗抑圧状態という法益侵害結果に対して原因となる行為を何ら行っていないのであるから、その結果に対して因果性を有しておらず、しかも、強盗罪は法定刑の重さに照らしても単純な財産犯ではなく、生命、身体、自由が副次的とはいえない重要な保護法益となっているのであるから、先行者による暴行脅迫によって生じた被害者の生命、身体、自由に対する法益侵害結果を後行者に帰責することはできず、強盗罪の承継的共同正犯を肯定した原判決には事実誤認ないし法令適用の誤りがある、などというのである。
しかしながら、本件においては、先行者であるCの暴行により被害者が反抗を抑圧された状態となったところ、後行者である被告人の共謀加担後もその効果ないし状態が継続しており、その効果ないし状態に乗じて後行者である被告人が共犯者らと共同して財物奪取という犯罪の結果を実現しているのであるから、被告人の行為は強盗罪の第一次的な保護法益である財物の占有を侵害したという結果に因果関係を有しており、被告人には強盗罪の承継的共同正犯が成立するというべきである。
(2)また、所論は、後行者が先行行為である暴行脅迫によって生じた反抗抑圧状態を利用して財物を奪取した場合と、自らが財物奪取に向けられていない暴行脅迫をして相手方を反抗抑圧状態とした後に財物を奪取した場合は、相手方の反抗抑圧状態を利用しているという点において状況としては同一であるのに、前者では強盗罪の承継的共同正犯の成立を認め、後者では強盗罪の成立を認めないのは矛盾しているなどともいうのである。
しかしながら、強盗罪の承継的共同正犯は、先行者が財物奪取に向けて相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行脅迫を加え、強盗罪所定の「暴行又は脅迫」が行われている場合に成立し得るものであって、自らが相手方に財物奪取に向けた暴行脅迫を加えていない場合とは、法的観点からみて全く状況が異なるのであるから、両者の場合に矛盾があるなどという所論は当を得た指摘とはいえない。
所論を踏まえて検討してみても、本件事実関係において、被告人に強盗罪の承継的共同正犯が成立すると判断した原判決に事実の誤認ないし法令適用の誤りがあるとは認められない。」
承継的共同正犯の問題とは、先行者が実行行為の一部を終了した後に、後行者がその間の事情を認識した上で共同加功の意思をもって事後の行為に加功した場合に、後行者がその加功前に既に先行者の引き起こした犯罪の部分についても責任を負うか、という問題です(本判例に関する警察学論集78巻10号177頁)。承継的共同正犯を肯定するということは、途中参加者を当初から共謀があった場合と同様に扱うことを意味します(「応用刑法Ⅰ」〔第1版〕467頁)。承継的共同正犯に関しては、①全面肯定説、②中間説(限定的肯定説)、③全面否定説があり、②中間説にはⅰ後行者が先行者の行為・結果を積極的に利用したといえるときだけ承継を肯定するもの、ⅱ後行者が先行者の行為の効果を利用して結果に因果性を有しているとき(結果を共同惹起したとき)だけ承継を肯定するものに別れています(同467頁以下。同469頁にはこれらの説について図でまとめられています。)。判例は、どの説に立つかは明示していないものの、②中間説(限定的肯定説)のうちⅰ後行者が先行者の行為・結果を積極的に利用したといえるときだけ承継を肯定する見解は採用せず、ⅱ後行者が先行者の行為の効果を利用して結果に因果性を有しているとき(結果を共同惹起したとき)だけ承継を肯定するという見解に親和性のある立場に立っていると思われます。本裁判例も判例と同様の立場に立つと解されます(本裁判例に関する警察学論集78巻10号185頁から186頁参照)。
承継的共同正犯に関しては、最高裁平成24年11月6日刑集66巻11号1281頁・刑法百選Ⅰ【8版】81事件(以下「傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例」といいます。)が傷害罪について否定し、最高裁平成29年12月11日刑集71巻10号535頁・刑法百選Ⅰ【8版】82事件(だまされたふり作戦事件。以下「詐欺罪の承継的共同正犯に関する平成29年判例」といいます。)が詐欺罪について肯定していました。
傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例の法廷意見は「共犯者らが被害者に傷害の結果を生じさせた後に、共犯者らに共謀加担した上被害者に対し暴行に及んだ者は、共謀加担前に被害者に生じていた傷害結果については、自己の共謀及びそれに基づく行為がこれと因果関係を有することはないから、傷害罪の共同正犯としての責任を負うことはなく、共謀加担後の傷害を引き起こすに足りる暴行によって被害者の傷害の発生に寄与したことについてのみ、傷害罪の共同正犯としての責任を負う。」(令和8年度判例六法1761頁。刑法60条の15個目の判例。)としました。補足意見は「いわゆる承継的共同正犯において後行者が共同正犯としての責任を負うかどうかについては,強盗,恐喝,詐欺等の罪責を負わせる場合には,共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の結果について因果関係を持ち,犯罪が成立する場合があり得るので,承継的共同正犯の成立を認め得るであろうが,少なくとも傷害罪については,このような因果関係は認め難いので(法廷意見が指摘するように,先行者による暴行・傷害が,単に,後行者の暴行の動機や契機になることがあるに過ぎない。),承継的共同正犯の成立を認め得る場合は,容易には想定し難いところである。」としていました。傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例については、「共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の結果について因果関係を持ち,犯罪が成立する場合があり得る」という中間説(限定的肯定説)の立場に親和性のある見解です。傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例については、第1審判決が認定した傷害のうち先行者が既に生じさせていて後行者の加担後の暴行も向けられていない部位の傷害など,後行者がその発生に寄与しているとは認められない傷害結果について,傷害罪の共同正犯としての責任を負わないと判断した一方で、被告人の共謀加担後の暴行により相当程度重篤化されら傷害でその発生に寄与したと認められるものについては,傷害罪の共同正犯としての責任を負うと判断したものと推察される」との指摘があります(傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例に関する調査官解説である平成24年度最高裁判所判例解説刑事篇455頁)。「応用刑法Ⅰ」〔第1版〕475頁は、傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例の意義につき、「本決定の第1の意義は、後行者の加担前に先行者が発生させた傷害結果について、後行者は傷害罪の共同正犯としての責任を負わないとし、その理由を、後行者の行為と加担前に発生していた傷害結果との間に因果関係(因果性)が存在しない点に求めた点にある。これは、判例が共同正犯の処罰根拠を因果性に求めることを裏から示したものといえる。本決定の第2の意義は、後行者が先行者による行為・結果を積極的に利用した事実があったとしても、それは共謀加担前に生じた傷害結果について後行者に責任を問える理由にはならないとし、従来の下級審裁判例のとる積極的利用説を否定したことにある。個人責任の原則からは、自己の行為と因果関係を有しない結果について責任を問われないことは当然であり、それは単独正犯のみならず共犯の場合にも妥当する(因果的共犯論)。そうだとすると、後行者が先行者の行為・結果を積極的に利用したという事実があっても、それによって後行者の行為と関与前の結果との間の因果性が基礎づけられるわけではないから、先行者の行為・結果について共同正犯が成立しないのはむしろ当然であろう。本決定は、承継的共同正犯の成立範囲について最高裁として初めて出された判断であり、承継の根拠を因果性に求め、従来の下級審裁判例の主流的な考え方である積極的利用説(※②ⅰの説。執筆者注。)を否定したことにより、裁判実務に与える影響は極めて大きいものがある。」との指摘があります。最高裁は、共犯の処罰根拠について、相互利用補充関係ではなく、因果的共犯論に立つことは明らかといえるでしょう。
なお、傷害罪については承継的共同正犯を否定するとしても、刑法207条(同時傷害の特例)が適用される余地があることに注意が必要です。共謀成立前後にわたる一連の暴行により傷害結果が発生したことが明らかであるが、共謀成立の前後いずれの暴行により生じたものであるか確定することができないという傷害がある場合に刑法207条が適用できるかについては争いがあります(「応用刑法Ⅰ」〔第1版〕484頁以下)。
最高裁平成28年3月24日刑集70巻3号1頁・刑法百選Ⅱ【8版】6事件(以下「同時傷害の特例に関する平成28年判例」といいます。令和8年度判例六法1802頁。刑法207条の1個目の判例。)は、①同時傷害の特例を定めた刑法207条の法意につき「同時傷害の特例を定めた刑法207条は,共犯関係にない二人以上が暴行を加えた事案において,検察官が,各暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであること及び各暴行が外形的には共同実行に等しいと評価できるような状況において行われたこと,すなわち同一の機会に行われたものであることの証明をした場合,各行為者において,自己の関与した暴行が傷害を生じさせていないことを立証しない限り,傷害についての責任を免れないとしたものである。」とし、②共犯関係にない二人以上の暴行による傷害致死の事案においていずれかの暴行と死亡との間の因果関係が肯定された場合と刑法207条の適用の可否につき「共犯関係にない二人以上の暴行による傷害致死の事案において,刑法207条適用の前提となる事実関係が証明された場合には,いずれかの暴行と死亡との間の因果関係が肯定されるときであっても,各行為者について同条の適用は妨げられない。」としています。同時傷害の特例に関する平成28年判例は207条が適用されるためには、各暴行が「当該傷害結果」を発生させる危険性を有するものでなければならないことを明らかにしました(「応用刑法Ⅰ」〔第1版〕483頁)。同時傷害の特例に関する平成28年判例がこのように判断した理由として、「207条は、各自の暴行が傷害結果との因果関係を推定させるものであることを前提に、被岩人に各自の暴行と傷害結果との間の因果関係が存在しないことを反証させ、反証できないときは結果を帰責させるという挙証責任転換の規定であるから、因果関係を推定させる事実として、各暴行が(傷害の一般的な危険性ではなく)当該傷害結果を惹起する危険性を有することが必要であるから」との指摘があります(同483頁)。
最高裁令和2年9月30日刑集74巻6号669頁・令和2年度重要判例解説令和6年度刑法4事件(以下「同時傷害の特例に関する令和2年判例」といいます。令和8年度判例六法1802頁。刑法207条の2個目の判例。)は、①他の者が先行して被害者に暴行を加え、これと同一の機会に、後行者が途中から共謀加担したが、被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたとは認められない場合と刑法207条につき「他の者が先行して被害者に暴行を加え,これと同一の機会に,後行者が途中から共謀加担したが,被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたとは認められない場合,その傷害を生じさせた者を知ることができないときは,刑法207条の適用により後行者は当該傷害についての責任を免れない。」とし、②他の者が先行して被害者に暴行を加え、これと同一の機会に、後行者が途中から共謀加担したが、被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたとは認められない場合において、後行者の加えた暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有しないときに、刑法207条を適用することの可否につき「他の者が先行して被害者に暴行を加え,これと同一の機会に,後行者が途中から共謀加担したが,被害者の負った傷害が共謀成立後の暴行により生じたとは認められない場合に,刑法207条の適用により後行者に対して当該傷害についての責任を問い得るのは,後行者の加えた暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであるときに限られる。」としました。このように判断した理由として、「同決定は、207条を適用することができるためには「後行者の加えた暴行が当該傷害を生じさせ得る危険性を有するものであるときに限られる」として、207条の滴用要件を充足していることを前提としているが、そのような要件を充足している以上、「途中から行為者間に共謀が成立していた事実が認められるからといって、同条が適用できなくなるとする理由はなく、むしろ同条を適用しないとすれば、不合理であって、共謀関係が認められないときとの均衡も失するというべきである」としている。これは、後行者が、先行者の暴行と同一の機会に、先行者と意思の連絡なく暴行を加えたが、傷害結果がいずれの暴行により生じたか不明である場合であれば刑法207条が適用されるのに、後行者が共謀の上で犯行に加担し、傷害の結果が生じたが、共謀成立前後いずれの段階の暴行により生じたか不明である場合に207条の適用がないとすると、後者の方が当罰性が高いにもかかわらず、先行者との共謀が成立したためにかえつで帰責できる範囲が縮減されるのは妥当でないという趣旨であろう。」との指摘があります(「応用刑法Ⅰ」〔第1版〕485頁)。
詐欺罪の承継的共同正犯に関する平成29年判例(だまされたふり作戦事件)は「特殊詐欺について共犯者による欺罔[ぎもう]行為がされた後、だまされたふり作戦(だまされたことに気付いた被害者側が、捜査機関と協力の上、引き続き犯人側の要求どおり行動しているふりをして犯人を検挙しようとする捜査手法)が開始されたことを認識せずに、共犯者らと共謀の上、現金が入っていない箱を受領する行為のみに関与した者は、欺罔行為と一体のものとして予定されていた受領行為に関与している以上、だまされたふり作戦の開始いかんにかかわらず、その加功前の欺罔行為の点も含めた本件詐欺につき、詐欺未遂罪の共同正犯としての責任を負う。」(令和8年度判例六法1761頁。刑法60条の16個目の判例。)としていました。傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例の補足意見が示唆していた詐欺罪について、承継的共同正犯の成立を認めました。傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例の補足意見は「いわゆる承継的共同正犯において後行者が共同正犯としての責任を負うかどうかについては,強盗,恐喝,詐欺等の罪責を負わせる場合には,共謀加担前の先行者の行為の効果を利用することによって犯罪の結果について因果関係を持ち,犯罪が成立する場合があり得るので,承継的共同正犯の成立を認め得るであろう」としていました。これは、後行者は、自ら関与した行為によって因果性を及ぼした結果については共同正犯が成立するという趣旨です(「応用刑法Ⅰ」〔第1版〕486頁)。詐欺罪の承継的共同正犯に関する平成29年判例(だまされたふり作戦事件)につき、「応用刑法Ⅰ」〔第1版〕490頁は、以下のように指摘します。「後行者乙に詐欺未遂罪の共同正犯の成立を認めるにあたって、「詐欺を完遂する上で本件欺岡行為と一体のものとして予定されていた本件受領行為」への関与を指摘している。詐欺罪は、欺岡行為を手段として、錯誤に陥った被害者から財物の交付を受け、それを受領することによって財物の占有を移転する犯罪であるから、手段としての「欺岡行為」と占有移転を完成させる行為としての「受領行為」がともに行為者の構成要件該当行為を構成するものである。」詐欺罪の承継的共同正犯に関する平成29年判例(だまされたふり作戦事件)「は、欺岡行為と受領行為が一体性をなす構成要件該当行為であることを確認し、後行者乙は、その受領行為に関与したから承継的共同正犯が肯定できるとしている。ただ、なぜ受領行為に関与すると承継的共同正犯が成立するのか、その理論的根拠は直接的には示されていないが、当然、承継的共同正犯の根拠を因果性に求める」傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例を「前提とするものであろう。すなわち、後行者乙は、(欺岡行為により被害者Vを錯誤に陥れた)先行者甲と意思を通じて被害者Vから財物の交付を受けようとしており、加担後の後行者乙の行為は、「(錯誤に基づく)財物交付の危険性」という未遂結果に因果性を及ぼした以上、先行者甲と共に詐欺未遂罪の共同正犯(60条・250 条・246 条1 項)が成立するのである。」(甲について「先行者」、乙について「後行者」、Vについて「被害者」と追記しました。執筆者注。)
本裁判例は、先行者である共犯者が強盗の故意をもって被害者に暴行脅迫を加えた後に当該共犯者らと意思を相通じて被害者からの財物奪取に関与した被告人について、強盗罪の承継的共同正犯を認めるべきかが問題となりました。本裁判例の事案では、被告人は財物奪取のみに関与したという点が特徴的です。強盗罪の承継的共同正犯について、これを正面から扱った判例は存在していなかったところ、本裁判例は、傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例や詐欺罪の承継的共同正犯に関する平成29年判例(だまされたふり作戦事件)と整合的な解釈をしています。
まず、後行者(本裁判例の被告人)の共謀及びそれに基づく行為は、財物の占有の移転という強盗罪の犯罪結果と因果関係を有していると考えられます。本裁判例も「被告人の行為は強盗罪の第一次的な保護法益である財物の占有を侵害したという結果に因果関係を有しており」と判示しています。原判決は、財物奪取のみに加担した者の共謀及びそれに基づく行為が「先行する者の暴行脅迫によってもたらされた被害者の反抗抑圧状態」についても因果関係を有すると判示していますが、本裁判例は、被告人の共謀及びそれに基づく行為が反抗抑圧状態と因果関係を有しているとは判示していません。このように本裁判例が、「先行する者の暴行脅迫によってもたらされた被害者の反抗抑圧状態」について、因果関係(因果性)を認めなかったのは、被害者の反抗抑圧状態は、共謀の成立及び財物奪取の以前に生じており、これらが被害者の反抗抑圧状態を生じさせることについて傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例のいうところの「寄与する」ことはないと考えられたからであるとの指摘があります(本裁判例に関する警察学論集78巻10号184頁及び同頁注9参照)。
そして、強盗罪は、相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行脅迫を用いて他人の財物を強取する犯罪であり、その第一次的な保護法益である財物の占有は、そのような暴行脅迫によって直接侵害されるものではなく、そのような暴行脅迫を手段として移転されることによって侵害されるという特質があることから、そのような占有の取得に加担した後行者である被告人は、犯罪に加功する前に先行者がした暴行脅迫の結果も含め強盗の共同正犯としての責任を負うべきと考えられます。本裁判例が「先行者……の暴行により被害者が反抗を抑圧された状態となったところ、後行者である被告人の共謀加担後もその効果ないし状態が継続しており、その効果ないし状態に乗じて後行者である被告人が共犯者らと共同して財物奪取という犯罪の結果を実現している」と判示して強盗罪の承継的共同正犯を肯定したのは、前述したような相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行脅迫を手段として財物奪取が行われるという強盗罪の特質を意識したものと考えられます(本裁判例に関する警察学論集78巻10号184頁から185頁まで)。
傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例及び詐欺罪の承継的共同正犯に関する平成29年判例(だまされたふり作戦事件)は、これらの判示からして、承継的共同正犯を肯定するに当たって、先行者の行為によって生じた結果を後行者が自ら進んで利用することまでは求めていないと考えられます。本裁判例も同様に判断しています。先行者の暴行により被害者の反抗抑圧状態が生じた後、後行者がそれを認識した上で先行者と財物奪取について意思を相通じて強盗を完遂させた場合に、後行者が自ら進んで財物奪取を企図したのではなく、先行者からの働きかけ等によって財物奪取の意思を生じてこれに加担することになったとしても、客観的には反抗を抑圧するに足りる暴行を用いて他人の財物を強取したという事態が生じており、主観的には、そのような暴行を手段として財物を奪取したという強盗罪の特質に沿った状況を認識しているのであるから、強盗罪の承継的共同正犯を認めるべきと考えられます(本裁判例に関する警察学論集78巻10号186頁)。このように後行者の認識について、反抗抑圧状態を自ら進んで利用するといった意思を必要としないと解することは、一般に故意の内容として、意欲までは必要なく、認識・認容で足りると解されていることと整合的であると考えられます(本裁判例に関する警察学論集78巻10号186頁注12。最高裁昭和23年3月16日刑集2巻3号227頁・刑法百選Ⅰ【8版】41事件等参照。同判例につき令和8年度判例六法1747頁。刑法38条の4個目の判例。いわゆる認容説に立つとされる判例。)。
強盗罪の承継的共同正犯の成否が問題となる事案において、反抗抑圧状態に対する被害者の認識を検討する際には、本裁判例を踏まえて以下の点に留意すべきと考えられます。まず、①本裁判例が、「原判決が反抗抑圧状態にあることの認識と説示しているのは、反抗を抑圧するに足りる程度の暴行、脅迫を加えられた状態にあることの認識をいうものと解される」と判示していることを踏まえると、後行者について認識の有無を検討すべき対象は、被害者が反抗抑圧状態にあることではなく、被害者に反抗を抑圧するに足りる程度の暴行・脅迫が加えられた状態であると考えられます。次に、②後行者は、先行者によって被害者に加えられた暴行脅迫が財物奪取に向けられたものであることも認識している必要があります。本裁判例が、「強盗罪の承継的共同正犯は、先行者が財物奪取に向けて相手方の反抗を抑圧するに足りる暴行脅迫を加え、強盗罪所定の「暴行又は脅迫」が行われている場合に成立し得るもの」と判示しているとおり、強盗罪の承継的共同正犯が成立するには、先行者の暴行が財物奪取に向けられている必要があり、後行者としても、そのことを認識する必要があると考えられます。一般に、暴行脅迫は怨恨やわいせつン目的など様々な動機から加えられると思われることから、後行者と共犯者との関係や後行者が犯罪に加担するまでの経緯等の諸事情について検討し、先行者による暴行脅迫の目的について後行者がどのような認識を有していたかを丁寧に検討することが重要であると考えられます(本裁判例に関する警察学論集78巻10号188頁から189頁まで)。事案を検討する際には①②の点に留意することが重要であると解されます。②については、暴行脅迫が財物奪取に向けられていないのであれば強盗罪ではなく、他の犯罪の成否を検討することとなるため、注意が必要です。
本裁判例は、これまで承継的共同正犯の問題について従来から意識されてきた犯罪の種別ごとの個別的検討を行い、強盗罪の承継的共同正犯について、傷害罪の承継的共同正犯に関する平成24年判例及び詐欺罪の承継的共同正犯に関する平成29年判例(だまされたふり作戦事件)と整合的な考え方を示した点で意義があると思われます(本裁判例に関する警察学論集78巻10号186頁)。

