最高裁令和4年7月27日刑集76巻5号685頁・重要判例解説令和4年度刑訴2事件(検察官がした押収物の還付に関する処分に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件・押収物の還付請求権の濫用)
本判例は、捜査機関による押収処分を受けた者の還付請求が権利の濫用にあたるか否かが争われました。
判例を引用します。
https://www.courts.go.jp/hanrei/91328/detail2/index.html
「本件各抗告の趣意は、いずれも、憲法違反、判例違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
なお、所論に鑑み、職権で判断する。
1 本件は、司法警察員が申立人から差し押さえた申立人所有の携帯電話機等について、申立人が、刑訴法222条1項が準用する同法123条1項に基づき、東京地方検察庁検察官に対して還付を請求したところ、同検察官がこれに応じず還付をしない処分(以下「本件各処分」という。)をしたため、同法430条1項の準抗告を申し立てたが、棄却されたことから、特別抗告を申し立てた事案である。
2 各原決定の認定及び記録によれば、本件の事実関係は、次のとおりである。
(1) 申立人は、いわゆるナンパの方法を指導する塾を経営し、女性との性交場面を撮影した動画等を塾生のグループ内で共有するなどしていたところ、平成30年6月20日、塾生甲及び乙に対する集団準強姦被疑事件について、住居等の捜索を受け、その所有する携帯電話機2台(以下「不還付物件1」、「不還付物件2」という。)及びICレコーダー1台(以下、「不還付物件3」といい、不還付物件1ないし3を「本件各不還付物件」という。)を差し押さえられた。
その後、申立人は、乙ら塾生と共謀して又は単独で、女性3名(A、B及びC)が飲酒酩酊のため抗拒不能であるのに乗じ性交をしたという準強制性交等被告事件について、令和2年3月12日、第1審裁判所において有罪判決を言い渡され、各原決定時には、控訴が棄却され、上告を申し立てていた。
(2) 不還付物件1及び3は、いずれも女性Dを被害者とする申立人及び塾生丙に対する各準強制性交等被疑事件に関するものであり、不還付物件1には、申立人が抗拒不能の状態で横たわるDの陰部に指を挿入している状況を撮影した動画データやDの顔の画像データが、不還付物件3には、申立人らとDらが事件現場内で過ごしている状況や事件前後の状況(Dの姓名を告げている場面を含む。)等を録音した音声データがそれぞれ記録されている。申立人は、同被疑事件については不起訴処分となったが、Dの同意があった旨主張するなどしていた。
また、不還付物件2は、女性Eを被害者とする甲らに対する各準強制性交等被告事件(有罪判決が確定している。)に関するものであり、Eの名刺や顔写真、Eの裸の姿態の画像データ等が記録されている。申立人は、同各被告事件については、参考人とされたものの、甲らの逮捕を知った後に、上記名刺及び顔写真の画像を他の塾生と共有して、Eへの接触を図るなどしていた。
そして、上記各データは、いずれもD及びEに無断で撮影又は録音されたものであり、これらが流布された場合には、D及びEの名誉、人格等を著しく害し、D及びEに多大な精神的苦痛を与えるなどの回復し難い不利益を生じさせる危険性がある。
(3) 申立人は、令和3年8月、東京地方検察庁検察官に対して本件各不還付物件の還付を請求し、さらに、同検察官が同年11月にした本件各処分に対する準抗告を申し立てた。
同検察官が本件各処分に際して上記(2)の各データの消去に応ずるのであれば還付する旨申し出たのに対し、申立人は、同各データは申立人に対する上記(1)の準強制性交等被告事件及び民事裁判において申立人の犯罪行為がなかったことを立証するために必要であるなどと主張しているが、同各データを含めた本件各不還付物件の還付を受けられないことにより申立人に著しい不利益が生じていることはうかがわれない。
3 以上のような事情の下においては、申立人が本件各不還付物件の還付を請求することは、権利の濫用として許されないというべきである。そうすると、本件において、これと同旨の理由により検察官のした本件各処分を是認した各原決定は相当である。
よって、刑訴法434条、426条1項により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。」
刑訴法123条1項は、押収物の還付について、同条2項の仮還付の場合のように請求権を明示していないですが、最高裁平成15年6月30日刑集57巻6号893頁は、「捜査機関による押収処分を受けた者は、同法222条1項において準用する123条1項にいう「留置の必要がない」場合に当たることを理由として、当該捜査機関に対して押収物の還付を請求することができる」として、請求権を認めています。
本判例は、「捜査機関が押収した各押収物には、被押収者らに対する各準強制性交等被疑事件等に関する動画データ等が記録されており、同動画データ等は、被害者とされた女性らに無断で撮影又は録音されたもので、これらが流布された場合には、同人らの名誉、人格等を著しく害し、同人らに多大な精神的苦痛を与えるなどの回復し難い不利益を生じさせる危険性があり、同動画データ等を含めた各押収物の還付を受けられないことにより被押収者に著しい不利益が生じていることはうかがわれないなど判示の事情の下では、被押収者が各押収物の還付を請求することは、権利の濫用として許されない」としました。
押収物の還付請求権が権利の濫用にあたるとした事例判例です。

