最高裁大法廷令和2年11月25日民集74巻8号2229頁・憲法百選Ⅱ【8版】180事件(出席停止処分取消等請求事件・部分社会の法理に関する判例)

 本判例は、普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は,司法審査の対象となるとし、従来の判例を変更した判例です。

 法廷意見のみ判例を引用します。

 https://www.courts.go.jp/hanrei/89851/detail2/index.html

 「上告代理人阿部長ほかの上告受理申立て理由について
 1 本件は,岩沼市議会(以下「市議会」という。)の議員であった被上告人が,市議会から科された23日間の出席停止の懲罰(以下「本件処分」という。)が違憲,違法であるとして,上告人を相手に,その取消しを求めるとともに,議会議員の議員報酬,費用弁償及び期末手当に関する条例(平成20年岩沼市条例第23号。以下「本件条例」という。)に基づき,議員報酬のうち本件処分による減額分の支払を求める事案である。
 2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
 (1) 被上告人は,平成27年12月20日に行われた市議会の議員の任期満了による一般選挙において当選し,本件処分当時,市議会の議員であった者である。
 (2) 市議会の定例会の回数は,岩沼市議会定例会の回数に関する条例(昭和31年岩沼市条例第78号)により,毎年4回とされており,その会期は,岩沼市議会会議規則(平成7年岩沼市議会規則第1号)により,毎会期の初めに議会の議決で定めることとされている。市議会の平成28年6月に招集された定例会(以下「6月定例会」という。)の会期は同月14日から同月23日までの10日間,同年9月に招集された定例会(以下「9月定例会」という。)の会期は同月6日から同月28日までの23日間とされた。
 (3) 本件条例によると,市議会の議員の議員報酬は月額36万3000円とされ(2条),一定期間の出席停止の懲罰を受けた議員の議員報酬は,出席停止の日数分を日割計算により減額するものとされている(6条の2,3条3項)。
 (4) 被上告人と同一の会派に属するA議員は,海外渡航のため,平成28年4月25日に行われた市議会の教育民生常任委員会を欠席した。市議会は,同年6月14日,6月定例会において,A議員に対し,上記の欠席について,議決により公開の議場における陳謝の懲罰を科した。これを受け,A議員は,市議会の議場において,陳謝文を読み上げた。
 (5) 被上告人は,平成28年6月21日,市議会の議会運営委員会において,上記(4)のA議員が陳謝文を読み上げた行為に関し,「読み上げたのは,事実です。
 しかし,読み上げられた中身に書いてあることは,事実とは限りません。それから,仮に読み上げなければ,次の懲罰があります。こういうのを政治的妥協といいます。政治的に妥協したんです。」との発言(以下「本件発言」という。)をした。
 (6) 市議会は,6月定例会の最終日である平成28年6月23日,本件発言を問題として同月22日に提出された被上告人に対する懲罰動議を閉会中の継続審査とすることとし,懲罰特別委員会における審査を経た上,同年9月6日,同日招集された9月定例会において,被上告人に対し,本件発言について,議決により23日間の出席停止の懲罰を科する旨の本件処分をした。
 (7) 上告人は,平成28年9月21日,被上告人に対し,本件条例に基づき,本件処分により出席停止とされた23日間の分に相当する27万8300円を減額して議員報酬を支給した。
 3 原審は,普通地方公共団体の議会の議員に対する地方自治法135条1項3号所定の出席停止の懲罰の適否は,議員報酬の減額を伴う場合には司法審査の対象となり,本件処分の取消し及び議員報酬の支払を求める訴えは適法であるとして,これを不適法とした第1審判決を取り消し,本件を第1審に差し戻した。
 4 所論は,原審の判断は,普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は一律に司法審査の対象とならないとした最高裁昭和34年(オ)第10号同35年10月19日大法廷判決・民集14巻12号2633頁に反するというものである。
 5(1) 普通地方公共団体の議会は,地方自治法並びに会議規則及び委員会に関する条例に違反した議員に対し,議決により懲罰を科することができる(同法134条1項)ところ,懲罰の種類及び手続は法定されている(同法135条)。これらの規定等に照らすと,出席停止の懲罰を科された議員がその取消しを求める訴えは,法令の規定に基づく処分の取消しを求めるものであって,その性質上,法令の適用によって終局的に解決し得るものというべきである。
 (2)ア 憲法は,地方公共団体の組織及び運営に関する基本原則として,その施策を住民の意思に基づいて行うべきものとするいわゆる住民自治の原則を採用しており,普通地方公共団体の議会は,憲法にその設置の根拠を有する議事機関として,住民の代表である議員により構成され,所定の重要事項について当該地方公共団体の意思を決定するなどの権能を有する。そして,議会の運営に関する事項については,議事機関としての自主的かつ円滑な運営を確保すべく,その性質上,議会の自律的な権能が尊重されるべきであるところ,議員に対する懲罰は,会議体としての議会内の秩序を保持し,もってその運営を円滑にすることを目的として科されるものであり,その権能は上記の自律的な権能の一内容を構成する。
 イ 他方,普通地方公共団体の議会の議員は,当該普通地方公共団体の区域内に住所を有する者の投票により選挙され(憲法93条2項,地方自治法11条,17条,18条),議会に議案を提出することができ(同法112条),議会の議事については,特別の定めがある場合を除き,出席議員の過半数でこれを決することができる(同法116条)。そして,議会は,条例を設け又は改廃すること,予算を定めること,所定の契約を締結すること等の事件を議決しなければならない(同法96条)ほか,当該普通地方公共団体の事務の管理,議決の執行及び出納を検査することができ,同事務に関する調査を行うことができる(同法98条,100条)。議員は,憲法上の住民自治の原則を具現化するため,議会が行う上記の各事項等について,議事に参与し,議決に加わるなどして,住民の代表としてその意思を当該普通地方公共団体の意思決定に反映させるべく活動する責務を負うものである。
 ウ 出席停止の懲罰は,上記の責務を負う公選の議員に対し,議会がその権能において科する処分であり,これが科されると,当該議員はその期間,会議及び委員会への出席が停止され,議事に参与して議決に加わるなどの議員としての中核的な活動をすることができず,住民の負託を受けた議員としての責務を十分に果たすことができなくなる。このような出席停止の懲罰の性質や議員活動に対する制約の程度に照らすと,これが議員の権利行使の一時的制限にすぎないものとして,その適否が専ら議会の自主的,自律的な解決に委ねられるべきであるということはできない。
 そうすると,出席停止の懲罰は,議会の自律的な権能に基づいてされたものとして,議会に一定の裁量が認められるべきであるものの,裁判所は,常にその適否を判断することができるというべきである。
 (3) したがって,普通地方公共団体の議会の議員に対する出席停止の懲罰の適否は,司法審査の対象となるというべきである。
 これと異なる趣旨をいう所論引用の当裁判所大法廷昭和35年10月19日判決その他の当裁判所の判例は,いずれも変更すべきである。
 6 以上によれば,市議会の議員である被上告人に対する出席停止の懲罰である本件処分の適否は司法審査の対象となるから,本件訴えのうち,本件処分の取消しを求める部分は適法であり,議員報酬の支払を求める部分も当然に適法である。そうすると,本件訴えが適法であるとした原審の判断は,結論において是認することができる。論旨は採用することができない。
 よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。なお,裁判官宇賀克也の補足意見がある。」

 本判例は、地方自治法135条の定める懲罰について、除名のみを司法審査の対象としていた先例を変更し、出席停止も司法審査の対象となるとした重要な判例です。いわゆる部分社会の法理に関する判例として位置づけられます。

 これに関して、地方議会に対する出席停止処分が争われた事案として、大阪高裁令和6年8月28日令和6年(行コ)第24号、令和6年(行コ)第83号・重要判例解説令和6年度行政法5事件があります。

 この裁判例は、出席停止処分に先行する陳謝処分について事例判決ではあるものの、司法審査をしたものです。訴訟物が損害賠償請求権であるため法律上の争訟にあたるかは争われておらず、議会の裁量の点が争点となっています。本判例に関連する裁判例として参考になると思われます。