最高裁令和6年11月15日刑集78巻6号447頁(証拠開示に関する裁定請求棄却決定に対する即時抗告棄却決定に対する特別抗告事件・裁判書謄本が複数の上訴権者に異なる日に送達された場合に関する刑訴法358条の上訴期間についての判例)
本判例は、弁護人からの証拠開示命令請求(刑訴法316条の26第1項)の棄却決定の謄本が先に弁護人に送達され,その後に被告人本人に送達された場合における,同決定に対する弁護人の即時抗告提起期間の起算日が問題となりました。
判例を引用します。
https://www.courts.go.jp/hanrei/93511/detail2/index.html
「本件抗告の趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらない。
所論に鑑み、職権で判断する。
記録によると、同法316条の26第1項に基づく弁護人からの本件証拠開示命令請求を棄却した原々決定の謄本は、主任弁護人には令和6年8月30日に、被告人本人には同年9月3日にそれぞれ送達され、同決定に対して、弁護人から同月5日に即時抗告の申立てがされたことが明らかである。原決定は、本件において、同法422条に定める3日の即時抗告の提起期間は主任弁護人に原々決定の謄本が送達された日から進行すると解し、同申立ては提起期間経過後にされたものであって不適法であるとして、これを棄却した。
しかしながら、弁護人からの証拠開示命令請求を棄却した決定に対しては、弁護人は、検察官又は被告人以外の者で決定を受けたものとして即時抗告をすることができるほか、被告人のため即時抗告をすることもできる。そして、弁護人が被告人のため即時抗告をする場合、その提起期間は、証拠開示命令請求を棄却した決定の謄本が被告人本人に送達された日から進行する。そうすると、弁護人からの証拠開示命令請求を棄却した決定の謄本が先に弁護人に送達され、その後に被告人本人に送達された場合において、弁護人が同決定に対して即時抗告をするときは、その提起期間は、同決定の謄本が被告人本人に送達された日から進行するものと解すべきである。
したがって、本件即時抗告の申立ては、同法422条に定める即時抗告の提起期間内にされたものであって、適法であり、これを不適法とした原決定には、同法358条、422条の解釈適用を誤った違法があり、これが決定に影響を及ぼし、原決定を取り消さなければ著しく正義に反すると認められる。
よって、同法411条1号を準用して原決定を取り消し、同法434条、426条2項により本件を福岡高等裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。」
上記の論点に関し、本判例は、弁護人からの証拠開示命令請求(刑訴法316条の26第1項)を棄却した決定の謄本が先に弁護人に送達され,その後に被告人本人に送達された場合において,弁護人が同決定に対して即時抗告をするときは,その提起期間は,同決定の謄本が被告人本人に送達された日から進行するとしました。
この点に関しては、本判例に関する判例タイムズ1531号61頁を一部引用します。
「……最三小決平23.8.31刑集65巻5号935頁,判タ1356号95頁(以下「平成23年決定」という。)は,弁護人に対し証拠開示することを命じる旨求めた弁護人からの裁定請求を棄却する決定については,即時抗告の提起期間 は同決定の謄本が弁護人に送達された日から進行するとした。平成23年決定の事案は,裁定請求棄却決定の 謄本が先に被告人本人に送達され,その後に弁護人に送達されたというものであったところ,平成23年決定の担当調査官解説(野原俊郎・最高裁判所判例解説刑事篇平成23年度110頁)では,送達の先後がこれと逆の場合にも,平成23年決定の射程が及ぶことが示唆されていた。本件の原決定は,この見解に依拠したものとうかがわれる。 しかし,この見解に対しては,被告人本人も固有の即時抗告権を有する(刑訴法351条1項)にもかかわらず,裁定請求棄却決定の謄本が弁護人に送達され,3日の即時抗告の提起期間が経過した後,被告人本人に同決定の謄本が送達された場合に,被告人本人からの即時抗告が不適法とされることは不都合であるとの批判があり(平成23 年決定の評釈である豊崎七絵・法セ682号134頁),平成23年決定の事案とは送達の先後が逆の事案には,平成23年決定の射程は及ばず,被告人本人に対する送達日を基準として,被告人本人の即時抗告権を行使することはできるとする見解も主張されていた……
刑訴法358条にいう「裁判が告知された日」とは,固有の上訴権者に対して裁判が告知された日をいうものと解されている。 平成23年決定は,弁護人に対する証拠開示命令を求める弁護人からの裁定請求を棄却した決定につき,弁護人が「決定を受けたものと解される」ことを理由として,同決定に対する即時抗告の提起期間は,上記裁定請求棄却決定の謄本が弁護人に送達された日から進行すると判示した。刑訴法352条が「検察官又は被告人以外の者で決定を受けたもの」に固有の抗告権を認めていることに鑑みれば,平成23年決定は,当該事案において,弁護人が弁護人固有の即時抗告権に基づき即時抗告をしたものと解したと考えられる。そうすると,平成23年決定の射程は,弁護人からの裁定請求を棄却した決定に対し,弁護人が弁護人固有の即時抗告権に基づき即時抗告をする場合に及ぶものと解される。
……一方で,弁護人からの裁定請求を棄却した決定に対しては,被告人本人も固有の即時抗告権を有しており(刑訴法351条1項),弁護人は,被告人本人のため(刑訴法355条),すなわち被告人本人を代理して即時抗告をすることもできる。この場合,固有の即時抗告権者は被告人本人であるから,その提起期間は,同決定の謄本が被告人本人に送達された日から進行する……
以上によると,弁護人からの裁定請求を棄却した決定に対して弁護人がした即時抗告については,弁護人固有の即時抗告権に基づいてしたものと,被告人本人を代理してしたものの2種類を観念することができ,そのいずれであるかによって,即時抗告の提起期間の起算日も異なり得ることとなる。本決定は,このような理解に立って, ……判示したものと解される。
……本決定は,弁護人からの裁定請求を棄却した決定に対する弁護人の即時抗告の提起期間の起算日につき,これまで議論のあった平成23年決定の射程を明らかにするとともに,その射程の及ばない場合における法理を示したものであって,平成23年決定と合わせて実務に明確な基準を示した判例として,重要な意義を有すると思われる。」

