東京高裁令和4年12月8日令和4年(ネ)第1694号・重要判例解説令和6年度商法8事件・判例秘書L07720814(損害賠償請求控訴事件・商法526条3項は重過失の場合にも適用されるかに関する裁判例)
本裁判例は、商人間の売買事案において、売主が目的物の引渡しに際し当該目的物に契約の内容に適合しないもの(※債権法改正前においては「瑕疵」。以下同じ。)が存在するのを知らなかったことにつき重過失がある場合は商法526条3項が規定する売主悪意の場合と同視できるとの解釈を採った上、当該事案の事実関係の下では売主に重過失があるとして損害賠償責任を認めた事例判決です。本裁判例の事案は債権法改正前の事案ですが、債権法改正後においても当てはまるため、用語は債権法改正後のものによることとします。
本裁判例の事案は、本裁判例に関する判例タイムズ1521号131頁によれば以下の通りです。
「本件は,商人間の売買において売主が瑕疵(※契約の内容に適合しないこと。執筆者注。)のある目的物を買主に引き渡したことにつき,売主が商法526条により損害賠償責任を免れるかが争点となった事案である。衣服の製造加工等を業とするX社は,他社に対して納入する従業員用ユニフォームに縫い付けるためのバーコードネームをY社から購入することとした。このバーコードネームは,13桁の数字列を表す1次元バーコードなどを印刷した布製ラベルであり,各従業員が着用するユニフォームを識別して管理することを目的とするものであって,Y社は令和元年6月から同年11月にかけて80万枚以上のバーコードネームをX社に納入した。ところが,各バーコードネームに印刷されたバーコードは所定の識別番号数字と異なるため管理の用に供し得ない瑕疵があり,同年12月にY社の担当者がこれに気づいたが社内で情報が共有されなかったためX社には連絡されず,同2年5月になってX社が瑕疵を認識するに至り,Y社に通知した。この時点で,X社は海外の業者を使ってバーコードネームをユニフォームに縫い付けさせた上でユニフォームを日本に送らせるなどしていたため,改めてユニフォームに瑕疵のないバーコードネームを縫い付けさせる補修作業などが必要となり,その費用相当額等の損害が生じた。そこでX社がY社に対して債務不履行等に基づく損害賠償請求をしたのに対し,Y社は,X社が商法526条2項の所定期間内に検査義務を履行して通知していないからX社は損害賠償請求できないと主張して争った」
重過失の内容として原告Xより主張されたのは、本裁判例に関する重要判例解説令和6年度商法8事件事実の概要によれば、「⑴Y社の担当者のミスによりA社の指定した通りの識別番号が設定されなかったこと(判決文からは明確ではないものの,バーコードネームの添え字部分にはA社の指定した識別番号が記載されていたようである),⑵Y社におけるバーコードの正確性のチェック方法が、作成されたバーコードの版下のうちの最初の1点目のみを、バーコードリーダーによって読み取るという形でなされていたところ,これによって表示された誤った識別番号の13 桁Hと添え字の13 桁目(チェックデジット)が偶然一致したため,それらの1桁目の数字が異なるにもかかわらず,上記設定ミスが見過ごされたことによるものだった。X 社も,版下の内容を確認してはいたが,その圃顧に関する指摘はしていなかった。ま
た, X 社は, Y 社からバーコードネームの納入を受けた際も,注文書に記載された番号と添え字の照合等はしていたが,バーコードリーダーを用いてバーコードを読み取ることまではしていなかった。なお,令和元年12月12日に,Y社の従業員がバーコードの設定ミスに気づいたため,その設定が修正されたが,同従業員はそのことを上長に報告しなかった。」というものです。
本裁判例の論点は多岐にわたりますが、商法526条3項に関する部分のみ、本裁判例を引用します。
「商法526条2項は,商人間の売買において,買主は,同条1項の検査により売買の目的物に瑕疵があることを発見したとき,又は,売買の目的物に直ちに発見することのできない瑕疵がある場合において,買主が6か月以内にその瑕疵を発見したときは,直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ,その瑕疵を理由として損害賠償請求をすることができない旨を定めている。これは商取引における迅速性の要請に応えるとともに売主の保護を図る趣旨に出たものと解されるところであるが,これを買主の側からみれば瑕疵が直ちに発見することができないものであったとしても6か月の経過という事実によって売主に対する損害賠償請求を一切認めないとするものであるから,買主にとって酷ともいえる結果をもたらす場合があり得ることは否定し難い。
ところで,一審原告は,瑕疵につき売主に悪意がある場合だけでなく,重過失がある場合にも商法526条3項により同条2項の適用は排除されるべきである旨主張する。
そこで検討すると,かかる主張について直接判断を示した判例は見当たらないものの,取引の場面において善意ではあるが重過失がある場合を悪意に準じるものとして解すべきとする判例はこれまでにも存在していた(商取引に関するものとして,最高裁昭和38年(オ)第236号同41年1月27日第一小法廷判決・民集20巻1号111頁,最高裁昭和52年(オ)第106号同年10月14日第二小法廷判決・民集31巻6号825頁,最高裁昭和60年(オ)第1300号平成2年2月22日第一小法廷判決・裁判集民事159号169頁など)。」
「商法526条3項が悪意の売主には同条2項の売主保護規定を適用しない旨定めているのは,かかる事情も考慮しつつ,自己の債務が履行済みであるとの売主の信頼は保護する必要があるが,悪意の売主にはかかる保護を与える必要がないとの判断に基づき,売主と買主の間の適切な利益衡量を図ろうとしたものと解される。商法526条3項が悪意の売主に同条2項の売主保護規定を適用しない旨定めているのは,かかる売主には自己の債務が履行済みであるとの売主の信頼を保護する必要がないとの趣旨に出たものと解されるところ,同項の規定により買主に酷ともいえる結果が生じる場合があり得ることも踏まえると,保護されるべき売主の信頼は正当なものであることが求められるというべきであり,瑕疵の存在を知らないことにつき売主に重過失があるときには,悪意の場合と同視し,売主は同項により保護されないものと解するのが相当である。」
「本件についてみると,……一審被告(※Y。執筆者注。)は,バーコードネームを自ら製作してこれを一審原告(※X。執筆者注。)に納入する旨の売買の発注を一審原告から受けていたものであるところ,バーコードネームは,その性質上,正確なバーコードが印刷されなければ全く意味がないだけでなく,衣服に縫い付けて使用されるというその使用形態に照らすならば,誤ったバーコードが印刷されたバーコードネームが納入された場合には縫付けのやり直しに係る多大な拡大損害を招き得ることは事柄の性質上当然に予見できたから,正確なバーコードが印刷されたバーコードネームを製作して納入することは,一審被告が本件契約上負う義務の中で最重要なものであったといえる。そして,(※被告会社の各工程の担当者が前記⑴⑵のようなミスをしたために。執筆者注。)、令和元年11月14日までに一審原告に納入された多量のバーコードネームの全てに誤ったバーコードが印刷されるとの結果となったものである。これは,生産フローのそれぞれの段階を担当する各担当者による基本的ミスが競合することによって一審被告が負う最重要義務の違反を生じさせたものといえるから,一審被告には重過失があったと評価すべきである。一審被告においては,令和元年12月12日に担当者がバーコードの設定ミスに気付きながら,その情報が組織的に共有されず,当該情報が一審原告に伝えられることもなく,そのまま放置されていたのであり,上記のようなミスの競合があったことも併せ考慮すると,一審被告内におけるリスク管理面での不備を指摘せざるを得ないところである。」
「本件においては,商法526条3項により同条2項の売主保護規定の適用は排除され,買主である一審原告は,本件瑕疵について売主である一審被告に対して損害賠償請求をすることができるというべきである。」
商法526条は以下のように規定しています。
1 商人間の売買において、買主は、その売買の目的物を受領したときは、遅滞なく、その物を検査しなければならない。
2 前項に規定する場合において、買主は、同項の規定による検査により売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことを発見したときは、直ちに売主に対してその旨の通知を発しなければ、その不適合を理由とする履行の追完の請求、代金の減額の請求、損害賠償の請求及び契約の解除をすることができない。売買の目的物が種類又は品質に関して契約の内容に適合しないことを直ちに発見することができない場合において、買主が6箇月以内にその不適合を発見したときも、同様とする。
3 前項の規定は、売買の目的物が種類、品質又は数量に関して契約の内容に適合しないことにつき売主が悪意であった場合には、適用しない。
商法526条は商人間の売買に適用されます。商法526条は、その1項および2項で、商人間の売買における買主の検査・通知義務を定めており,買主が, H 的物について契約の内容に適合しないこと(契約不適合)を発見した場合には、一定期間内に売主へ通知しないと救済(損害賠償等)を受けられなくなると規定します。同規定の趣旨は,一般に、善意の売主に善後策を講じる機会を付与することと、買主が売主の危険で投機することを防止することだといわれます(以上につき江頭憲治郎「商取引法〔第9版〕』30 頁)。ただし同条3項では、売主が、引渡時点において、その契約不適合について悪意である場合(大審院昭和16年6月14日判決全集8輯22 号6頁。以下「商法526条3項の悪意の判断基準時に関する昭和16年判例」といいます。)には同条2項の適用はないとも定められています(同条3項の趣旨につき熊代拓馬・六甲台論集66巻2号35頁、40 頁参照)。本件では、この3項の適用の有無が主たる争点となっており、原判決も本判決もその適用を肯定しています(以上につき重要判例解説令和6年度商法8事件解説1)。
主観的事情の判断について、即時取得(民法192条)に関して、最高裁昭和47年11月21日民集26巻9号1657頁(令和8年度判例六法398頁。民法101条の1個目の判例。以下「主観的事情に関する判断基準時についての昭和47年判例」といいます。)は「民法192条における善意無過失の有無は、法人については、第一次的にはその代表機関について決すべきであるが、その代表機関が代理人により取引をしたときは、その代理人について判断すべきことは同法101条の趣旨から明らかである」としていました。本件では、そのような立場にある者の悪意は認定されておらず、原判決も本裁判例も、商法526条3項の適用をあくまで従業員の認識や行為態様等から肯定します。この点に本件の事案としての特徴があります(以上につき重要判例解説令和6年度商法8事件解説1)。
原判決と裁判例では、商法526条3項の適用を肯定する際に採用した理由付けは異なります。原判決は、令和元年12月12日にY社従業員がバーコードの設定ミスに気づいたことから、同社の悪意を認定しましたが、これに対して、本裁判例は、3項にいう悪意には重過失も含むという解釈を示し、引渡時点での重過失を認定しています(以上につき重要判例解説令和6年度商法8事件解説1)。
原判決の構成が否定された理由としては、第1に、原判決が目的物の引渡時点(※令和元年6月27日から令和2年5月にかけて)を商法526条3項の悪意の判断基準時としない点で商法526条3項の悪意の判断基準時に関する昭和16年判例と矛盾する可能性があったこと、第2に上述した法人の悪意認定に関する議論(主観的事情に関する判断基準時についての昭和47年判例)からして、原判決の悪意の認定方法にはやや無理があったことを指摘できます(以上につき重要判例解説令和6年度商法8事件解説1)。
本裁判例は、商法526条3項について、重過失は悪意と同視することができることを事例判決ではあるものの示した点で意義があると思われます。

