最高裁令和5年9月27日集民第270号161頁・重要判例解説令和5年度民訴3事件(移送決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件・民訴法263条後段)

 本判例は、当事者双方が口頭弁論期日に連続して出頭しなかった場合において,訴えの取下げがあったものとみなされないとした原審の判断に民訴法263条後段の解釈適用を誤った違法があるとされた事例判例です。

 本判例の事案は、本判例に関する判例タイムズ1516号60頁によると以下の通りです。

 「X(※原告・相手方・相手方。執筆者注。)は,大阪拘置所に収容中の死刑確定者であるところ,Y(※被告・抗告人・抗告人)の執筆した記事により名誉が毀損されたなどとして,Yに対し,損害賠償金等の支払を求める基本事件(以下「本件訴訟」という。)を大阪地裁に提起したが,X及びYは,本件訴訟の第1回口頭弁論期日及び第2回口頭弁論期日(以下「本件口頭弁論期日」という。)に連続して出頭しなかった。そして,本件口頭弁論期日では,期日を延期し,新たな口頭弁論期日を指定する旨の措置がとられた。 本件は,Xが,面会した弁護士が東京地裁には出頭し得ると述べたとして,本件訴訟を同地裁に移送することを求めた事案である。Yは,本件訴訟は民事訴訟法(以下「民訴法」という。)263 条後段の規定により終了していると指摘し,本件申立てを争った。」

 判例を引用します。

 https://www.courts.go.jp/hanrei/92395/detail2/index.html

 「抗告代理人村下憲司ほかの抗告理由について
 1 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
 (1) 相手方は、大阪拘置所に収容されている死刑確定者であるところ、抗告人の執筆した雑誌記事により名誉が毀損されたなどとして、抗告人に対し、不法行為に基づき、損害賠償金等の支払を求める訴訟(以下「本件訴訟」という。)を同拘置所の所在地を管轄する大阪地方裁判所に提起した。
 (2) 相手方及び抗告人は、本件訴訟が第1審に係属した後、適式な呼出しを受けたにもかかわらず、第1回口頭弁論期日及びその次の期日である第2回口頭弁論期日(以下「本件口頭弁論期日」という。)に連続して出頭しなかった。本件口頭弁論期日では、期日を延期し、新たな口頭弁論期日を指定する旨の措置がとられた。
 なお、相手方は、本件訴訟において、訴訟代理人を選任しておらず、第1回口頭弁論期日及び本件口頭弁論期日に先立ち、拘置所長の許可が得られないため自ら出頭することはできないなどとする上申書を提出していたが、本件口頭弁論期日に至るまでの間に、相手方において、訴訟代理人を選任することが具体的に見込まれていたとはうかがわれない。
 (3) 相手方は、本件口頭弁論期日の後、面会した弁護士が東京地方裁判所には出頭し得ると述べたとして、本件訴訟を同裁判所に移送することを求める申立てをした。
 これに対し、抗告人は、民訴法263条後段により本件訴訟について訴えの取下げがあったものとみなされると主張した。
 2 原審は、本件口頭弁論期日において、審理を継続することが必要であるとして、期日の延期とともに新たな口頭弁論期日の指定がされたのであるから、本件口頭弁論期日は民訴法263条後段の「期日」に当たらず、同条後段の規定にかかわらず本件訴訟について訴えの取下げがあったものとはみなされないと解すべきであると判断した上、本件移送申立てに基づき、本件訴訟を東京地方裁判所に移送すべきものとした。
 3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 民訴法263条後段は、当事者双方が、連続して2回、口頭弁論又は弁論準備手続の期日に出頭しなかった場合、訴えの取下げがあったものとみなす旨規定する。同条後段の趣旨は、上記の不出頭の事実をもって当事者の訴訟追行が不熱心であるとして、訴訟係属が維持されることにより裁判所の効率的な訴訟運営に支障が生ずることを防ぐことにあると解されるが、同法には、上記の場合において、同条後段の適用を排除し、審理を継続する根拠となる規定は見当たらない。そうすると、上記の場合に、審理の継続が必要であるとして、期日を延期して新たな口頭弁論又は弁論準備手続の期日を指定する措置がとられたとしても、直ちに同条後段の適用が否定されるとは解し得ず、同条後段の「期日」の要件を欠くことになるともいえないというべきである。
 そして、本件訴訟においては、当事者双方が第1審の第1回口頭弁論期日及び本件口頭弁論期日に出頭せず、訴状の陳述もされていないところ、相手方(本件訴訟の原告)は、拘置所に収容されている死刑確定者であり、本件口頭弁論期日に至るまで、訴訟代理人を選任する具体的な見込みを有していたともうかがわれないことからすると、相手方が主観的に訴訟追行の意思を失っていなかったにせよ、当事者双方が出頭しないことにより裁判所の訴訟運営に支障が生じており、これが直ちに解消される状況になかったことは明らかであり、そのほか訴えの取下げがあったものとみなすことを妨げる事情も見当たらない。そうすると、本件口頭弁論期日において、上記の措置がとられたからといって、同条後段の適用が否定されると解することはできないというべきである。
 したがって、本件訴訟について訴えの取下げがあったものとみなされないとした原審の判断には同条後段の解釈適用を誤った違法がある。

 4 以上のとおり、原審の上記判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、本件訴訟について訴えの取下げがあったものとみなされ、本件移送申立ては不適法であるから、原々決定を取り消し、相手方の本件移送申立てを却下すべきである。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。なお、裁判官宇賀克也の補足意見がある。
 裁判官宇賀克也の補足意見は、次のとおりである。
 私は法廷意見に賛成するものであるが、その理由について補足的に意見を述べておきたい。
 非訟事件手続法64条は非訟事件の申立てについて、家事事件手続法83条は家事審判の申立てについて、申立ての取下げがあったものとみなすことができると規定しているのに対して、民訴法263条は、訴えの取下げがあったものとみなすと規定しており、文理上は、裁判所の裁量を認めない趣旨と読める。もっとも、同条は、当事者の不熱心な訴訟追行により裁判所の効率的な訴訟運営に支障が生ずることを回避することを目的としているので、交通機関の事故や相手方による訴訟妨害等のやむを得ない事由で出頭できなかった場合にも、例外なく訴えの取下げを擬制することには疑問の余地がある。原決定は、かかる問題意識の下に、同条の「期日」の概念を限定する解釈をとったものと思われる。確かに、突発的な交通事故等、事前に期日変更の上申等を行う暇がない事由が発生し、かつ、当該事由が解消されれば事件を進行することができると見込まれる場合にまで、一切例外を認めないことは硬直的すぎるように思われる。そこで、本件において、例外的に民訴法263条後段の規定が適用されないと解し得るかについて検討する。
 本件の場合、相手方は、刑事収容施設に収容されている死刑確定者であるところ、刑事収容施設の被収容者に対する出廷許可は、昭和35年7月22日付け矯正甲第645号法務省矯正局長通達「収容者提起にかかる訴訟の取扱いについて」に基づいて運用されており、訴訟について裁判所から召喚を受けた被収容者の出廷については、具体的事案における出廷の必要の程度及び出廷の拘禁に及ぼす影響の程度等を勘案し、施設長の裁量によりその許否を決することを原則としている。実際の運用としては、出廷許可がされる可能性はきわめて低いようであり(そのことの是非は別に論ずる余地があると思われるものの)、一般的にいえば、本人訴訟を提起する死刑確定者について、民訴法263条後段の訴えの取下げ擬制の例外を認めたとしても、その後、事件が進行する見込みは立たないと思われるので、かかる場合に例外的に訴えの取下げ擬制を排除することが妥当かには疑問が生じ得る。
 他方において、本件においては、東京地方裁判所に移送されれば、弁護士を訴訟代理人に選任して、当該訴訟代理人が期日に出頭することが可能であるという上申がなされており、原決定は、この点も考慮して、移送決定をした原々決定を是認したものと考えられ、訴訟追行の意思がある者の訴訟追行の機会をできる限り奪うべきでないという趣旨は理解することができないではない。もっとも、東京地方裁判所での審理であれば、弁護士を訴訟代理人に選任して訴訟代理人が期日に出頭することができる見込みであることを裏付けるものは、相手方の上申書のみであり、当該弁護士に対する委任状が提出されているわけではなく、かつ、当該弁護士の氏名や連絡先も明らかにされていない。したがって、当該弁護士が真に受任の意思を表示したかを確認することができず、東京地方裁判所に移送すれば、当該弁護士が訴訟を追行する蓋然性が高いとは判断し難い。さらに、相手方は、本件口頭弁論期日の直前まで訴訟代理人の選任に尽力したが間に合わなかったというわけではなく、本件口頭弁論期日の約6か月後に本件移送申立てを行っているのであり、民訴法263条後段の規定により生じたはずの訴えの取下げ擬制の効果を、約6か月後の具体性の乏しい上申書により覆滅させることには躊躇せざるを得ない。
 しかしながら、法廷意見の考え方による場合、本人訴訟を提起する刑事収容施設の被収容者の裁判を受ける権利の侵害にならないかについて、検討する必要がある。この点については、被告の協力が得られる事案では、最初の口頭弁論期日から被告に出頭を求めれば、民訴法263条後段の規定は適用されず、擬制陳述(民訴法158条)の方法をとることもできるが、被告が一貫して出頭を回避する方針をとった場合には、擬制陳述を行うためには、当事者の一方が出頭している必要があると解されるので、本件のように、本人訴訟を提起する刑事収容施設の被収容者について、民訴法263条後段の規定による取下げ擬制の例外を認めても、実体審理に入ることはできない。
 もとより、刑事収容施設の被収容者に資力がない場合、民事訴訟では国選弁護人の制度がないので、実質的に裁判を受ける権利を侵害しないか否かは重要な問題であるが、総合法律支援法に基づく民事法律扶助事業を利用することにより、資力のない者も、民事訴訟で弁護士を代理人とする道は閉ざされていないといってよいと思われる。
 以上の点に鑑み、原決定は、訴訟追行の意思のある者の裁判を受ける権利に配慮したと思われるものの、本件の事情の下では、法廷意見に賛成するものである。」

 原決定(大阪高裁令和4年9月30日令和4年(ラ)第692号:判例秘書L07720804)は、抗告人執筆の記事により名誉を毀損されたとして相手方(死刑確定者)が提起した損害賠償請求訴訟において、双方が第1回及び第2回口頭弁論期日に連続して出頭せず、第2回期日が延期され、新たな期日が指定された後の、相手方申立てに基づく移送決定を不服とする抗告。抗告審は、第2回期日において、審理を継続することが必要であるとして、期日の延期とともに新たな期日の指定がされたのであるから、第2回期日は民訴法263条後段の「期日」には当たらず、相手方は訴訟追行の意思が十分あることを明らかにしており、訴訟追行に不熱心であるということはできないとしました。

 それに対し、本判例は、以下のように判断し、原決定を破棄し、原々決定を取消し、本件移送申立てを却下しました。

 本判例は、「民訴法263条後段は、当事者双方が、連続して2回、口頭弁論又は弁論準備手続の期日に出頭しなかった場合、訴えの取下げがあったものとみなす旨規定する。同条後段の趣旨は、上記の不出頭の事実をもって当事者の訴訟追行が不熱心であるとして、訴訟係属が維持されることにより裁判所の効率的な訴訟運営に支障が生ずることを防ぐことにある」と民訴法263条後段の趣旨を明確に判示しました。

 本判例は、民事訴訟の当事者双方が,適式な呼出しを受けながら,第1審の第1回口頭弁論期日及びその次の期日である第2回口頭弁論期日に連続して出頭しなかった場合において,当該訴訟の原告が,拘置所に収容されている死刑確定者であり,上記第2回口頭弁論期日に至るまで訴訟代理人を選任する具体的な見込みを有していたともうかがわれないことからすれば,当事者双方が出頭しないことにより裁判所の訴訟運営に支障が生じており,これが直ちに解消される状況になかったことが明らかであるなど判示の事情の下では,上記第2回口頭弁論期日において審理を継続することが必要であるとして期日の延期とともに新たな口頭弁論期日の指定がされたことを理由に当該訴訟について訴えの取下げがあったものとはみなされないとした原審の判断には,民訴法263条後段の解釈適用を誤った違法があるとしました。

 本判例は、民訴法263条後段の趣旨を前述のように解した上で、本件ではXが訴訟追行の意思を失っていなくても、訴訟運営に支障が生じているとして同条後段を適用しました。これは、裁判所の効率的な訴訟指揮に支障が生じると、他の裁判所利用者(潜在的な者を含む)の利益を損なうため、これを防止する必要があるという趣旨と解されます(重要判例解説令和6年度民訴3事件解説2参照)。

 民訴法263条における「口頭弁論の期日」とは、当事者が口頭弁論において弁論をなし得る状態にある期日をいいます(「注釈民事訴訟法⑷」1251頁)。例えば、判決言渡期日(民訴法251条)はこれに当たりません。また、「期日の延期」とは、期日を開始したが、弁論等の予定した訴訟行為を行わないまま期日を終結し、次の期日を指定する場合をいい(「注釈民事訴訟法⑵」380頁)、期日の変更(期日開始前に当該期日の指定を取り消して、これに代わる期日を指定すること)とは区別されます。上記の理解を前提とすれば、期日の延期とともに新たな口頭弁論期日の指定がされた場合には、民訴法263条後段の「期日」に当たらないとする原決定の解釈には無理があります。仮に期日の延期にも期日の変更に関する規定(民訴法93条3項・4項、民訴規則37条)を類推適用すべきである(「条解民事訴訟法」〔第2版〕421頁)としても、民訴法263条後段の適用はこのような規制に関わる問題でもありません。また、非情事件手続法64条、家事事件手続法83条は、申立ての取下げがあったものとみなすことが「できる」と規定している(これは、取下擬制をすることが公益性の観点から相当でないと考えられる場合も生じ得るからであるとされます(「一問一答非情事件手続法」143頁等参照))のに対し、民訴法263条にはこのような文言はない、すなわち、「みなすことできる」等とはしていないため、裁判所の裁量を認めない趣旨と読める(本判例の宇賀裁判官補足意見参照)ことからも、裁判所が審理継続の必要があるとして期日を延期したとしても、同条後段の適用が排除されると解釈することは困難です(重要判例解説令和6年度民訴3事件解説3参照)。

 本決定は、期日を欠席したことにつき、やむを得ない事情がある場合には、取下擬制がされない可能性があることを前提にしているとされます。法廷意見は明示していませんが、補足意見は「突発的な交通事故等、事前に期日変更の上申等を行う暇がない事由が発生し、かつ、当該事由が解消されれば事件を進行することができると見込まれる場合」であるとされます。法廷意見は、「Xは、……本件口頭弁論期日に至るまで、訴訟代理人を選任する具体的な見込みを有していたともうかがわれない」としており、事件進行の見込みがないことを、取下擬制を妨げる事情がないことの理由としています。補足意見では、より詳細に、面会した弁護士に対する委任状が提出されておらず、当該弁護士の氏名や連絡先も明らかにされていないことから、当該弁護士が真に受任の意思を表示したか確認することができないとしています(もっとも、本件において当該弁護士の受任の意思表示を確認できたならば、取下擬制を妨げる事情があったと認められたのかは明らかではありません。)。以上につき、重要判例解説令和5年度民訴3事件解説4参照。

 本判例は、最高裁が、民訴法263条後段の趣旨を明らかにしたうえで、原審の採った「期日」の解釈を否定し、取下擬制を妨げる事情の有無を具体的に判断した点に意義があるとの指摘があります(重要判例解説令和5年度民訴3事件解説1参照)。本件のように刑事収容施設の被収容者についてこのような判断をすることは裁判を受ける権利(憲法32条)との関係で問題があるとの指摘があります(補足意見はこの点にも言及しています。)。