最高裁令和6年4月26日集民271号109頁・重要判例解説令和6年度労働法7事件(損害賠償等請求事件・職種限定労働者に対する配転命令の違法性)

 本判例は、労働者と使用者との間に当該労働者の職種及び業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合において、使用者が当該労働者に対してした異なる職種等への配置転換命令につき、配置転換命令権の濫用に当たらないとした原審の判断に違法があるとされた事例判断です。

 判例を引用します。

 https://www.courts.go.jp/hanrei/92928/detail2/index.html

 「上告代理人塩見卓也の上告受理申立て理由について
 1 本件は、被上告人に雇用されていた上告人が、被上告人から、職種及び業務内容の変更を伴う配置転換命令を受けたため、同命令は上告人と被上告人との間でされた上告人の職種等を限定する旨の合意に反するなどとして、被上告人に対し、債務不履行又は不法行為に基づく損害賠償請求(以下「本件損害賠償請求」という。)等をする事案である。
 2 原審の確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
 (1)公の施設である滋賀県立長寿社会福祉センターの一部である滋賀県福祉用具センター(以下、単に「福祉用具センター」という。)においては、福祉用具について、その展示及び普及、利用者からの相談に基づく改造及び製作並びに技術の開発等の業務を行うものとされており、福祉用具センターが開設されてから平成15年3月までは財団法人滋賀県レイカディア振興財団が、同年4月以降は上記財団法人の権利義務を承継した被上告人が、指定管理者等として上記業務を行っていた。
 (2)上告人は、平成13年3月、上記財団法人に、福祉用具センターにおける上記の改造及び製作並びに技術の開発(以下、併せて「本件業務」という。)に係る技術職として雇用されて以降、上記技術職として勤務していた。上告人と被上告人との間には、上告人の職種及び業務内容を上記技術職に限定する旨の合意(以下「本件合意」という。)があった。
 (3)被上告人は、上告人に対し、その同意を得ることなく、平成31年4月1日付けでの総務課施設管理担当への配置転換を命じた(以下、この命令を「本件配転命令」という。)。
 3 原審は、上記事実関係等の下において、本件配転命令は配置転換命令権の濫用に当たらず、違法であるとはいえないと判断し、本件損害賠償請求を棄却すべきものとした。
 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 労働者と使用者との間に当該労働者の職種や業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合には、使用者は、当該労働者に対し、その個別的同意なしに当該合意に反する配置転換を命ずる権限を有しないと解される。上記事実関係等によれば、上告人と被上告人との間には、上告人の職種及び業務内容を本件業務に係る技術職に限定する旨の本件合意があったというのであるから、被上告人は、上告人に対し、その同意を得ることなく総務課施設管理担当への配置転換を命ずる権限をそもそも有していなかったものというほかない。
 そうすると、被上告人が上告人に対してその同意を得ることなくした本件配転命令につき、被上告人が本件配転命令をする権限を有していたことを前提として、その濫用に当たらないとした原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。
 5 以上によれば、この点に関する論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決中、不服申立ての範囲である本判決主文第1項記載の部分(本件損害賠償請求に係る部分)は破棄を免れない。そして、本件配転命令について不法行為を構成すると認めるに足りる事情の有無や、被上告人が上告人の配置転換に関し上告人に対して負う雇用契約上の債務の内容及びその不履行の有無等について更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。」

 配転命令に関しては、①職種限定合意があるか、②仮に職種限定合意がないとしても権利濫用に当たらないかという判断枠組みによるとするのが判例です。東亜ペイント事件(最高裁昭和61年7月14日労判477号6頁・労働百選【10版】62事件)により確立された判例法理です。

 ①職種限定合意があるかについては、従来の裁判例では、医師や大学教員など専門性が非常に高いケースを除いては黙示の職種限定合意を認めていませんでした。具体的には、「他の職種には一切つかせない」というレベルでの職種限定合意の存在が強く求められてきたといえます。こうした裁判例の姿勢の背景には、柔軟な人事管理による労働者の雇用保障・維持の要請があったものと思われますが、学説からは批判も強くありました。

 ②配転命令の有効性に関しては、本判例は判断していませんが、前述した東亜ペイント事件が確立した判例法理となっています。業務の必要性がない場合や不当な動機・目的に基づく場合、通常甘受すべき程度を著しく超える程度の不利益がある場合には権利濫用になるとしています。

 本判例は、労働者と使用者との間に当該労働者の職種及び業務内容を特定のものに限定する旨の合意がある場合において、使用者が当該労働者に対してその同意を得ることなくした異なる職種等への配置転換命令につき、使用者が同命令をする権限を有していたことを前提として、その濫用に当たらないとした原審の判断には、違法があるとし、原審を破棄して差し戻しました。

 本件は、明示の職種限定合意はなかったものの、技術職に長年(18年)従事してきた労働者に対し、その職種の廃止に伴って配点を命じたことの違法性が、最高裁において初めて争われた点に特徴があります。本判例の意義は、①黙示の職種限定合意の成立を認めたこと、及び、②職種限定合意がある場合には、たとえ当該職種が廃止される場合でも、労働者の同意を得ない配転命令はできない旨を最高裁として初めて認定した点にあります。特に②に関しては、配転に関する労使間合意の意義を重視するものであり、労働契約法の基本原則である合意原則を促進する理論的意義を有するとの指摘があります(以上につき、重要判例解説令和6年度労働法7事件解説1参照)。