最高裁令和7年3月3日民集79巻3号997頁(過料決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件・民法709条の不法行為を構成する行為は宗教法人法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たるとされた事例)

 本判例の事案の概要は、判例タイムズ1535号65頁によれば以下の通りです。

 「(1)宗教法人法(以下「法」という。)81条1項は,裁判所は,宗教法人について同項各号の一に該当する事由があると認めたときは,所轄庁の請求等により,その解散を命ずることができる旨を定め,1号において,「法令に違反して,著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。」と規定しており,法78条の2第1項は,所轄庁は,宗教法人について所定の事由(法81条1項1号に該当する事由があることを含む。)に該当する疑いがあると認めるときは,一定の事項に関し,当該宗教法人に対し報告を求めることができる旨を定めている。

 (2)宗教法人であるY(以下「本件法人」とい う。)の所轄庁である文部科学大臣は,本件法人の信者らが行った本件法人への献金の勧誘等が民法709条の不法行為(以下,単に「不法行為」 というときは,同条の不法行為をいう。)を構成するとして当該信者らの損害賠償責任を認めた22件の民事訴訟の各判決が存在することなどを踏まえて,本件法人について法81条1項1号に該当する事由がある疑いがあると認め,本件法人に対して法78条の2第1項に基づく報告を求めた(以下「本件報告徴収」という。)。しかし,本件法人は,報告を求められた事項の一部について報告をしなかった。

 (3)本件は,文部科学大臣が,東京地方裁判所に対し,本件法人が上記の報告をしなかったことは,宗教法人の代表役員等を過料に処する場合について定める法88条10号に該当するとして,本件法人の代表役員である抗告人を過料に処すべきとする通知をした事案である。抗告人は,不法行為を構成する行為は,法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為(以下「法令違反行為」とい う。)には当たらず,本件法人について上記疑いはなかったなどとして,本件報告徴収は違法なものであると主張し,抗告人を過料に処さない旨の裁判を求めた。」

 抗告人は、①不法行為を構成する行為は法令違反行為に当たらない、②宗教法人の代表役員その他の幹部が法81条1項1号所定の行為をした場合でない限り、当該宗教法人「について」同号に該当する事由があるとはいえないなどと主張しました。

 判例を引用します。

 https://www.courts.go.jp/hanrei/93861/detail2/index.html

 「第1 抗告代理人福本修也、同鐘築優、同堀川敦の抗告理由第1について
 1 記録によれば、本件の経緯等は次のとおりである。
 (1) 宗教法人法(以下「法」という。)81条1項は、裁判所は、宗教法人について同項各号の一に該当する事由があると認めたときは、所轄庁の請求等により、その解散を命ずることができる旨を定め、1号において、「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。」と規定する。そして、法78条の2第1項は、所轄庁は、宗教法人について同項各号の一に該当する疑いがあると認めるときは、法を施行するため必要な限度において、当該宗教法人の業務又は事業の管理運営に関する事項に関し、当該宗教法人に対し報告を求めることができる旨を定め、3号において、「当該宗教法人について第八十一条第一項第一号から第四号までの一に該当する事由があること。」と規定する。
 (2) 宗教法人である世界平和統一家庭連合(以下「本件法人」という。)の所轄庁である文部科学大臣は、本件法人の信者らが行った本件法人への献金の勧誘等が民法709条の不法行為を構成するとして当該信者らの損害賠償責任を認めた22件の民事訴訟の各判決が存在することなどを踏まえて、本件法人について法81条1項1号に該当する事由がある疑いがあると認め、令和4年11月から令和5年7月にかけて、7回にわたり、本件法人に対して法78条の2第1項に基づく報告を求めた。しかし、本件法人は、報告を求められた事項の一部について報告をしなかった。
 文部科学大臣は、同年9月、東京地方裁判所に対し、本件法人が上記の報告をしなかったことは、宗教法人の代表役員等を過料に処する場合について定める法88条10号に該当するとして、本件法人の代表役員である抗告人を過料に処すべきとする通知をした。
 東京地方裁判所は、令和6年3月、抗告人を過料10万円に処する旨の決定(原々決定)をした。
 2 原審は、民法709条の不法行為を構成する行為は、法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たると判断した上で、上記各判決の内容等からすれば、文部科学大臣が本件法人に対して法78条の2第1項に基づく報告を求めた時点において、本件法人について法81条1項1号に該当する事由がある疑いがあったと認められ、文部科学大臣が上記の報告を求めたことは適法なものであったなどとして、原々決定に対する抗告人の抗告を棄却した。
 3 所論は、民法709条は、一定の行為をした者が損害賠償責任を負う旨を定めるにとどまり、当該行為を禁止する旨を定めた規定ではなく、同条の不法行為を構成する行為は同条違反の行為ではないのであって、これが法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たると解することはできないなどとして、原審の上記判断には法令の解釈適用の誤り及び判例違反がある旨をいうものである。
 4 しかしながら、民法709条が一定の行為を禁止する旨を定めた規定であるとはいえないものの、同条の不法行為を構成する行為は、不法行為法上違法と評価される行為、すなわち一定の法規範に違反する行為であり、行為者は、同条という法令の規定により損害賠償責任を課せられるのであって、これらの点に鑑みれば、同条の不法行為を構成する行為が法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たると解したとしても、同号の文理に反するものではない。
 むしろ、上記のように解することが同号の趣旨に沿うものというべきである。すなわち、法は、宗教団体が礼拝の施設その他の財産を所有してこれを維持運用するなどのために、宗教団体に法律上の能力を与えることを目的とし(法1条1項)、宗教団体に法人格を付与し得ることとしているところ(法4条)、法81条1項1号が宗教法人の解散命令の事由として「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。」と規定している趣旨は、同号所定の事由がある場合には、宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切となるところから、司法手続によって宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わしめることが可能となるようにすることにあると解される(最高裁平成8年(ク)第8号同年1月30日第一小法廷決定・民集50巻1号199頁参照)。そうであるところ、民法709条の不法行為を構成する行為は、故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害するものであるから、当該行為が著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる事態を招来するものであってこれに関係した宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切となることも、十分にあり得ることである。したがって、同条の不法行為を構成する行為が法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たると解することは、同号の上記趣旨に沿うものというべきである。
 また、解散命令は、宗教法人の法人格を失わせる効力を有するにとどまり、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わないものであるところ(前掲平成8年第一小法廷決定参照)、ある行為が同号所定の行為に当たるといえるためには、その行為が単に法令に違反するだけでなく、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為でなければならないことなどに照らせば、上記のように解したとしても、同号の規定が、宗教法人の解散命令の事由を定めるものとして、不明確であるとも過度に緩やかであるともいえない。
 以上によれば、民法709条の不法行為を構成する行為は、法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たると解するのが相当である。
 5 これと同旨の原審の判断は、正当として是認することができる。所論引用の判例は、いずれも事案を異にし、本件に適切でない。論旨は採用することができない。
 第2 その余の抗告理由について
 所論の点に関する原審の判断は、正当として是認することができる。なお、所論は、宗教法人の代表役員その他の幹部が法81条1項1号所定の行為をした場合でない限り、当該宗教法人について同号に該当する事由があるとはいえないというが、同項柱書きや同号の文言上、そのような限定はなく、他に所論のように解すべき根拠は見当たらない。論旨は採用することができない。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。」

 ①について、「民法709条が一定の行為を禁止する旨を定めた規定であるとはいえないものの、同条の不法行為を構成する行為は、不法行為法上違法と評価される行為、すなわち一定の法規範に違反する行為であり、行為者は、同条という法令の規定により損害賠償責任を課せられるのであって、これらの点に鑑みれば、同条の不法行為を構成する行為が法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たると解したとしても、同号の文理に反するものではない」とし、本判例に関連する判例として、最高裁平成8年1月30日民集50巻1号199頁・憲法百選Ⅰ【8版】37事件(宗教法人オウム真理教解散命令事件)を引用し、宗教法人「法は、宗教団体が礼拝の施設その他の財産を所有してこれを維持運用するなどのために、宗教団体に法律上の能力を与えることを目的とし(法1条1項)、宗教団体に法人格を付与し得ることとしているところ(法4条)、法81条1項1号が宗教法人の解散命令の事由として「法令に違反して、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為をしたこと。」と規定している趣旨は、同号所定の事由がある場合には、宗教団体に法律上の能力を与えたままにしておくことが不適切となるところから、司法手続によって宗教法人を強制的に解散し、その法人格を失わしめることが可能となるようにすることにある」としたうえで上記のように解することが宗教法人法81条1項1号の趣旨に合致するとし、「同条の不法行為を構成する行為が法81条1項1号にいう「法令に違反」する行為に当たると解することは、同号の上記趣旨に沿う」としました。そして、解散命令に関し、宗教法人オウム真理教解散命令事件を参照し、「解散命令は、宗教法人の法人格を失わせる効力を有するにとどまり、信者の宗教上の行為を禁止したり制限したりする法的効果を一切伴わないものであるところ(前掲平成8年第一小法廷決定参照)、ある行為が同号所定の行為に当たるといえるためには、その行為が単に法令に違反するだけでなく、著しく公共の福祉を害すると明らかに認められる行為でなければならないことなどに照らせば、上記のように解したとしても、同号の規定が、宗教法人の解散命令の事由を定めるものとして、不明確であるとも過度に緩やかであるともいえない。」としました。

 この点に関して、「法令の規定が「~してはならない。」とか 「~しなければならない。」というように禁止・命令の形をとっている場合には,その禁止・命令に 違反する行為が法令違反行為に当たると解することに大きな問題はない。しかし,民法709条はそのような形をとっていないことから,不法行為を構成する行為が法令違反行為に当たるといえるかが問題となる。」と本判例に関する判例タイムズ1535号66頁は論点を指摘します。

 オウム真理教解散命令事件は殺人予備罪という刑罰法規に触れる行為であったため、法令違反行為にあたることは争いはありませんでした。そのため、上記のように解釈をする必要が生じたと思われます。

 ②については、「宗教法人の代表役員その他の幹部が法81条1項1号所定の行為をした場合でない限り、当該宗教法人について同号に該当する事由があるとはいえないというが、同項柱書きや同号の文言上、そのような限定はなく、他に所論のように解すべき根拠は見当たらない。」とし、簡潔に排斥しています。

 統一教会に関しては、公序良俗違反及び不起訴合意に関する最高裁判例もあるなど、世間の注目を集めています。

 本判例は、宗教法人オウム真理教解散命令事件に関連する判例として、整理することができます。不法行為を構成する行為が法令違反行為に当たるか否かは、宗教法人の解散命令制度の運用に大きな影響を及ぼし得る問題であり、この点について法理判断を示したことは、理論的にも実務的にも重要内儀を有すると本判例に関する判例タイムズ1535号68頁が指摘しています。