最高裁令和7年2月27日民集79巻2号556頁について(特別地方交付税の額の決定取消請求事件・法律上の争訟)
本判例は、地方団体が特別交付税の額の決定の取消しを求める訴えと裁判所法3条1項にいう法律上の争訟について判断した判例です。
地方団体である上告人(第1審原告:泉佐野市)は、総務大臣から、地方交付税法15条2項の規定により、令和元年度の第1回及び第2回の地方交付税の額の各決定を受けた。本件各決定は、ふるさと納税制度による寄付金に係る収入の一部を特別交付税の減額要因と定めた「特別交付税に関する省令」の各規定を適用してされたものです。
本件は、上告人(泉佐野市)が、被上告人(第1審被告)である国を相手に、上記各規定が地方交付税法による委任の範囲を逸脱すると主張して、上記各規定の取消しを求める事案です。
原判決(大阪高裁令和5年5月10日令和4年(行コ)第53号:判例秘書L07820173)は、要旨次のとおり判断して、上告人の請求を認容した第1審判決を取り消し、本件訴えを却下しました。
「本件訴えは、行政主体としての上告人が、法規の適用の適正をめぐる一般公益の保護を目的として提起したものであって、自己の財産上の権利利益の保護救済を目的として提起したものとみることはできないから、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらない」
本判例における争点は、地方団体が特別交付税の額の決定を取消しを求める訴えが裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たるか否かです。
判例を引用します。
https://www.courts.go.jp/hanrei/93824/detail2/index.html
「上告代理人阿部泰隆ほかの上告受理申立て理由二及び三について
1 本件は、総務大臣から地方交付税法15条2項の規定により令和元年度の第1回目及び第2回目の特別交付税の額の各決定を受けた地方団体である上告人が、被上告人を相手に、上記各決定の取消しを求める事案である。
2 原審は、要旨次のとおり判断し、本件訴えを却下した。
地方団体が国から法律の定めに従い地方交付税の分配を受けることができるか否かに関する紛争は、国と地方団体がそれぞれ行政主体としての立場に立ち、地方団体全体が適正に行政事務を遂行し得るように、法規の適用の適正をめぐって一般公益の保護を目的として係争するものというべきである。したがって、本件訴えは、行政主体としての上告人が、法規の適用の適正をめぐる一般公益の保護を目的として提起したものであって、自己の財産上の権利利益の保護救済を目的として提起したものとみることはできないから、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たらない。
3 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
⑴ 裁判所法3条1項にいう法律上の争訟とは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものをいう(最高裁昭和51年(オ)第749号同56年4月7日第三小法廷判決・民集35巻3号443頁参照)。
⑵ 地方団体は、国とは別個の法人格を有し、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものであるところ(地方交付税法2条2号、地方自治法1条の2、1条の3第1項、第2項、2条1項、2項)、地方交付税は、地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方団体の独立性を強化することを目的として、地方団体がひとしくその行うべき事務を遂行することができるよう、国が、地方団体に対し、条件を付け又はその使途を制限することなく、交付するものである(地方交付税法1条、2条1号、3条2項)。そして、特別交付税は、このような地方交付税の一種であり、交付されるべき具体的な額は、総務大臣がする決定によって定められるものである(同法4条2号、6条の2第1項、15条1項、2項、16条1項)。そうすると、特別交付税の交付の原因となる国と地方団体との間の法律関係は、上記決定によって発生する金銭の給付に係る具体的な債権債務関係であるということができる。したがって、地方団体が特別交付税の額の決定の取消しを求める訴えは、国と当該地方団体との間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に当たるというべきである。
また、特別交付税の額の決定は、地方交付税法及び特別交付税に関する省令に従ってされるべきものであるから、上記訴えは、法令の適用により終局的に解決することができるものといえる。
⑶ 以上によれば、地方団体が特別交付税の額の決定の取消しを求める訴えは、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たると解するのが相当である。
4 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。」
裁判所法3条1項は「裁判所は、日本国憲法に特別の定のある場合を除いて一切の法律上の争訟を裁判し、その他法律において特に定める権限を有する。」と規定しています。
本判例は、法律上の争訟に関する確立した判例法理である最高裁昭和56年4月7日民集35巻3号443頁・憲法百選Ⅱ【8版】183事件(以下、「板まんだら事件に関する昭和56年判例」という。)を参照し、「裁判所法3条1項にいう法律上の争訟とは、当事者間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争であって、かつ、それが法令の適用により終局的に解決することができるものをいう」と規範を定立しました。
その上で、「地方団体は、国とは別個の法人格を有し、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うものであるところ(地方交付税法2条2号、地方自治法1条の2、1条の3第1項、第2項、2条1項、2項)、地方交付税は、地方自治の本旨の実現に資するとともに、地方団体の独立性を強化することを目的として、地方団体がひとしくその行うべき事務を遂行することができるよう、国が、地方団体に対し、条件を付け又はその使途を制限することなく、交付するものである(地方交付税法1条、2条1号、3条2項)。そして、特別交付税は、このような地方交付税の一種であり、交付されるべき具体的な額は、総務大臣がする決定によって定められるものである(同法4条2号、6条の2第1項、15条1項、2項、16条1項)。」と地方交付税法の仕組み解釈をし、「特別交付税の交付の原因となる国と地方団体との間の法律関係は、上記決定によって発生する金銭の給付に係る具体的な債権債務関係であるということができる」とし①「したがって、地方団体が特別交付税の額の決定の取消しを求める訴えは、国と当該地方団体との間の具体的な権利義務ないし法律関係の存否に関する紛争に当たる」こと及び②「特別交付税の額の決定は、地方交付税法及び特別交付税に関する省令に従ってされるべきものであるから、上記訴えは、法令の適用により終局的に解決することができる」ことを指摘し、地方団体が特別交付税の額の決定の取消しを求める訴えは、裁判所法3条1項にいう法律上の争訟に当たるとしました。
本判決は、最高裁として初めて、地方団体が特別交付税の額の決定の取消しを求める訴えが法律上の争訟に当たる旨の法理判断を示したもので、理論上重要な意義を有すると指摘されています(本判例に関する判例タイムズ1532号26頁)。
なお、泉佐野市がふるさと納税制度に関して争った事件として、最高裁令和2年6月30日民集74巻4号800頁・基本行政法判例演習〔第1版〕141頁があります。https://www.courts.go.jp/hanrei/89537/detail2/index.html

