最高裁令和8年1月27日令和7(行ツ)72について(行政文書不開示決定取消請求事件・名張毒ぶどう酒事件に関連する判例・存在応答拒否)
行政機関の保有する情報の公開に関する法律(以下「情報公開法」といいます。)に基づく開示請求がされた行政文書の存否を答えるだけで、同法5条1号及び4号所定の不開示情報を開示することになるとして、当該文書の存否を明らかにしない存在応答拒否(グローマ―拒否)でされた全部不開示決定について、当該文書の存否を答えるだけで、同各号所定の不開示情報を開示することとなるかについて判断せず、これを適法であるとした原判決に理由の不備の違法があるとされた事例に関する判例です。
判例を引用します。
https://www.courts.go.jp/hanrei/95429/detail2/index.html
「上告代理人鈴木泉ほかの上告理由について
1 本件は、上告人が、行政機関の保有する情報の公開に関する法律(令和3年法律第37号による改正前のもの。以下「情報公開法」という。)に基づき、法務大臣に対し、死刑確定者であった亡Aに係る死刑執行上申書及びその添付書類(以下「本件文書」という。)の開示請求をしたところ、本件文書の存否を答えるだけで、情報公開法5条1号及び4号所定の不開示情報を開示することとなるとして、本件文書の存否を明らかにしないでその全部を開示しない旨の決定(以下「本件決定」という。)を受けたため、被上告人を相手に、その取消し及び本件文書の開示決定の義務付けを求める事案である。
2 上告人は、本件決定が違法であることの理由として、本件文書に記録されている情報は、情報公開法5条1号及び4号所定の不開示情報に該当しないことに加え、本件文書の存否を答えたとしても、これによって同各号所定の不開示情報を開示することにはならず、情報公開法8条により本件文書の存否を明らかにしないで本件文書の開示請求を拒否することはできない旨を主張し、原判決は、これらの主張に係る第1審判決の事実の記載を引用している。 しかしながら、原審は、本件文書に記録されている情報は、情報公開法5条1号及び4号所定の不開示情報に該当するから、本件決定は適法であるとして、上告人の本件決定の取消請求を棄却すべきものとし、本件文書の開示決定の義務付けを求める訴えを却下したが、本件文書の存否を答えるだけで、同各号所定の不開示情報を開示することとなるかについて判断をしていない。そして、本件決定が適法であるというためには、この点に係る上告人の主張を排斥することが必要であることは明らかであり、原判決には、理由の不備の違法があるといわざるを得ない。
3 以上によれば、この点に関する論旨は理由があり、その余の論旨について判断するまでもなく、原判決は破棄を免れない。そして、本件文書の存否を答えるだけで、情報公開法5条1号及び4号所定の不開示情報を開示することとなるかにつき、更に審理を尽くさせるため、本件を原審に差し戻すこととする。」
本判決は、「本件文書の存否を答えるだけで、同各号所定の不開示情報を開示することとなるかについて判断をしていない」という考慮不尽を理由として原審を破棄して原審に差し戻したという単純な事案です。
情報公開法8条は「開示請求に対し、当該開示請求に係る行政文書が存在しているか否かを答えるだけで、不開示情報を開示することとなるときは、行政機関の長は、当該行政文書の存否を明らかにしないで、当該開示請求を拒否することができる。」と規定しています。これを存在応答拒否(グローマ―拒否)といいます。例えば、特定人の前科情報について前科記録の開示請求がなされた場合、「個人情報に該当するから不開示にする」と回答してしまうと、そのこと自体で当該人物の前科情報が存在することが知られてしまいます。このような場合に、文書の存否を明らかにしないで開示請求を拒否できるようにすることできるようにしています。なお、この例において、前科記録が存在する場合にのみ存在応答拒否をし、存在しない場合には文書不存在により不開示とする運用をすると、存在応答拒否によって文書の存在が推知されてしまうので、前科記録が存在しない場合にも存在応答拒否をする必要があるとされます(「基本行政法〔第4版〕」224頁参照)。
存在応答拒否(グローマ―拒否)に関する判例として事例判断ではあるものの、情報公開の運用に影響を与える可能性のある判例として先例的価値があるかと思われます。

