最高裁令和3年3月18日民集75巻3号552頁・憲法百選Ⅰ【8版】86事件(要指導医薬品指定差止請求事件・医薬品のネット販売規制と職業の自由)
本判例は、店舗外の者に郵便その他の方法による医薬品販売(以下「郵便等販売」といいます。)をインターネットを通じて行う店舗販売業者であるX(原告・被控訴人・上告人)が、Y(国ー被告・被控訴人・被上告人)に対し、要指導医薬品の販売等をする場合に薬剤師による対面による指導等を義務付け、これができないときは要指導医薬品の販売等を禁止している医薬品、医療機器等の品質、有効性及び安全性の確保等に関する法律(薬機法)36条の6第1項及び3項(以下薬機法の規制に「本件各規定」といい、同規制について「本件対面販売規制」といいます。)は憲法22条1項等に違反すると主張し、要指導医薬品として指定された薬剤の一部につき、郵便等販売ができる権利ないし地位を有することの確認(行訴法4条後段の実質的当事者訴訟)等を求めた事案です。
判例を引用します。
https://www.courts.go.jp/hanrei/90141/detail2/index.html
「上告代理人岩橋健定の上告理由について
第1 事案の概要等
1 医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律(平成25年法律第84号による改正前の題名は薬事法。以下「法」という。)36条の6第1項及び3項(以下,これらの規定を併せて「本件各規定」という。)は,薬局開設者又は店舗販売業者(以下「店舗販売業者等」という。)において,要指導医薬品(法4条5項3号)の販売又は授与をする場合には,薬剤師に対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導を行わせなければならず,これができないときは要指導医薬品の販売又は授与をしてはならない旨を定めている。
本件は,店舗以外の場所にいる者に対する郵便その他の方法による医薬品の販売をインターネットを通じて行う事業者であったRakuten Direct株式会社が,本件各規定は憲法22条1項に違反するなどと主張して,被上告人を相手に,要指導医薬品として指定された製剤の一部につき,上記方法による医薬品の販売をすることができる権利ないし地位を有することの確認等を求める事案である。上告人は,原判決言渡し後,上記会社を吸収合併し,その権利義務を承継した。
2 法の定め等
(1) 医薬品(専ら動物のために使用されることが目的とされているものを除く。以下同じ。)は,薬局医薬品(4条5項2号),要指導医薬品(同項3号)及び一般用医薬品(同項4号)に大別され,薬局医薬品は,要指導医薬品及び一般用医薬品以外の医薬品であるとされている。
なお,薬局医薬品には,いわゆる医療用医薬品(医師若しくは歯科医師によって使用され又はこれらの者の処方箋若しくは指示によって使用されることを目的として供給されるもの。以下同じ。)が含まれる。
要指導医薬品及び一般用医薬品(以下「一般用医薬品等」という。)は,いずれも,その効能及び効果において人体に対する作用が著しくないものであって,薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものをいうとされている。一般用医薬品等のうち要指導医薬品は,4条5項3号イからニまでに掲げる医薬品で,その適正な使用のために薬剤師の対面による情報の提供及び薬学的知見に基づく指導が行われることが必要なものとして,厚生労働大臣が薬事・食品衛生審議会の意見を聴いて指定するものとされ,一般用医薬品は,一般用医薬品等から要指導医薬品を除いたものとされている。
4条5項3号イからニまでは,その製造販売の承認の申請に際して既に製造販売の承認を与えられている医薬品と有効成分,分量,用法,用量,効能,効果等が明らかに異なるとされた医薬品であって,当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの(同号イ)及びその製造販売の承認の申請に際して同号イの医薬品と有効成分,分量,用法,用量,効能,効果等が同一性を有すると認められた医薬品であって,当該申請に係る承認を受けてから厚生労働省令で定める期間を経過しないもの(同号ロ)のほか,毒薬(同号ハ)及び劇薬(同号ニ)を掲げる。
(2) 店舗販売業者等は,要指導医薬品につき,薬剤師に販売させ,又は授与させなければならないとされている(36条の5第1項)。
また,店舗販売業者等は,① 要指導医薬品の適正な使用のため,要指導医薬品を販売し,又は授与する場合には,薬剤師に,対面により,所定の事項を記載した書面を用いて必要な情報を提供させ,及び必要な薬学的知見に基づく指導を行わせなければならず(36条の6第1項),② 上記の情報の提供及び指導を行わせるに当たっては,当該薬剤師に,あらかじめ,要指導医薬品を使用しようとする者の年齢,他の薬剤又は医薬品の使用の状況等を確認させなければならず(同条2項),③ 上記の情報の提供又は指導ができないとき,その他要指導医薬品の適正な使用を確保することができないと認められるときは,要指導医薬品を販売し,又は授与してはならない(同条3項)などとされている。
これに対し,店舗販売業者等が,一般用医薬品を販売し,又は授与する場合には,一般用医薬品中の区分に応じ,薬剤師に必要な情報を提供させなければならないときがある(36条の10)ものの,情報を提供するに当たり,対面によりしなければならないとはされていない。
3 原審の適法に確定した事実関係等の概要は,次のとおりである。
(1) Rakuten Direct株式会社は,一般用医薬品等を店舗において販売し,又は授与する業務について法26条1項による許可を受けた店舗販売業者であって,薬事法に本件各規定を加えること等を定める薬事法及び薬剤師法の一部を改正する法律(平成25年法律第103号)1条が施行された平成26年6月12日より前からインターネットを通じて医薬品の販売をしていた事業者であった。
(2) 一般用医薬品等には,医療用医薬品として製造販売の承認を受けている医薬品につき,新たに薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものとして製造販売の承認を受けた医薬品であるいわゆるスイッチOTCと,医療用医薬品として使用することを前提としても製造販売の承認を受けていない医薬品につき,新たに薬剤師その他の医薬関係者から提供された情報に基づく需要者の選択により使用されることが目的とされているものとして製造販売の承認を受けた医薬品であるいわゆるダイレクトOTCが含まれる。
スイッチOTCについては,原則として,その製造販売の承認の際,法79条1項に基づき,承認の条件として当該承認を受けた者に対し製造販売後の安全性に関する調査(以下「製造販売後調査」という。)を実施する義務を課す取扱いがされており,その期間は原則として3年間である。
ダイレクトOTCについては,原則として,法14条の4第1項1号に規定する新医薬品として再審査の対象とする取扱いがされており,その再審査のための調査期間として指定される期間は,既に製造販売の承認を与えられている医薬品との相違の程度に応じ,通常4~8年間である。
製造販売後調査を実施する義務を課されたスイッチOTCでその期間を経過しないもの及び再審査の対象とされたダイレクトOTCでそのための調査期間を経過しないものは,法4条5項3号イ,ロの厚生労働省令(医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全性の確保等に関する法律施行規則7条の2)で定める期間を経過しないものとして,同号イ,ロに該当することとなる。このうち要指導医薬品としての指定がされたスイッチOTCについては原則3年間,同ダイレクトOTCについては原則4~8年間で一般用医薬品として販売することの可否の評価を行い,問題がないことが確認されれば,要指導医薬品から一般用医薬品へ移行することとされている。
(3) 一般用医薬品に該当する医薬品の品目数は,平成28年5月30日時点で1万0374品目である。これに対し,要指導医薬品に該当する医薬品の販売開始後の品目数は,平成26年6月12日時点で劇薬である5品目を含めて20品目であり,その後,おおむね14~23品目の範囲内で推移している。そして,一般用医薬品等全体の市場規模は,平成26年度において約8944億円,同27年度において約9385億円であったところ,そのうち要指導医薬品の市場規模は,同26年度において約51億円,同27年度において約26億円であった。
第2 上告理由のうち本件各規定の憲法22条1項違反をいう部分について
1 所論は,要指導医薬品について薬剤師の対面による販売又は授与を義務付ける本件各規定を合憲とした原判決には,憲法22条1項の解釈の誤りがあるというものである。
2(1) 憲法22条1項は,狭義における職業選択の自由のみならず,職業活動の自由も保障しているところ,職業の自由に対する規制措置は事情に応じて各種各様の形をとるため,その同項適合性を一律に論ずることはできず,その適合性は,具体的な規制措置について,規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度を検討し,これらを比較考量した上で慎重に決定されなければならない。この場合,上記のような検討と考量をするのは,第一次的には立法府の権限と責務であり,裁判所としては,規制の目的が公共の福祉に合致するものと認められる以上,そのための規制措置の具体的内容及び必要性と合理性については,立法府の判断がその合理的裁量の範囲にとどまる限り,立法政策上の問題としてこれを尊重すべきものであるところ,その合理的裁量の範囲については事の性質上おのずから広狭があり得る(最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)。
(2)ア 法は,医薬品等の品質,有効性及び安全性の確保並びにその使用による保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止のために必要な規制を行うこと等により,保健衛生の向上を図ることを目的とする(1条)。医薬品は,治療上の効能,効果と共に何らかの有害な副作用が生ずる危険性を有するところ,そのうち要指導医薬品は,製造販売後調査の期間又は再審査のための調査期間を経過しておらず,需要者の選択により使用されることが目的とされている医薬品としての安全性の評価が確定していない医薬品である。そのような要指導医薬品について,適正な使用のため,薬剤師が対面により販売又は授与をしなければならないとする本件各規定は,その不適正な使用による国民の生命,健康に対する侵害を防止し,もって保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止を図ることを目的とするものであり,このような目的が公共の福祉に合致することは明らかである。
イ そして,要指導医薬品は,医師又は歯科医師によって選択されるものではなく,需要者の選択により使用されることが目的とされているものであり,上記のとおり,このような医薬品としての安全性の評価が確定していないものであるところ,上記の本件各規定の目的を達成するため,その販売又は授与をする際に,薬剤師が,あらかじめ,要指導医薬品を使用しようとする者の年齢,他の薬剤又は医薬品の使用の状況等を確認しなければならないこととして使用者に関する最大限の情報を収集した上で,適切な指導を行うとともに指導内容の理解を確実に確認する必要があるとすることには,相応の合理性があるというべきである。
また,本件各規定は,対面による情報提供及び指導においては,直接のやり取りや会話の中で,その反応,雰囲気,状況等を踏まえた柔軟な対応をすることにより,説明し又は強調すべき点について,理解を確実に確認することが可能となる一方で,電話やメールなど対面以外の方法による情報提供及び指導においては,音声や文面等によるやり取りにならざるを得ないなど,理解を確実に確認する点において直接の対面に劣るという評価を前提とするものと解されるところ,当該評価が不合理であるということはできない。
ウ 一般用医薬品等のうち薬剤師の対面による販売又は授与が義務付けられているのは,法4条5項3号所定の要指導医薬品のみであるところ,その市場規模は,要指導医薬品と一般用医薬品を合わせたもののうち,1%に満たない僅かな程度にとどまっており,毒薬及び劇薬以外のものは,一定の期間内に一般用医薬品として販売することの可否の評価を行い,問題がなければ一般用医薬品に移行することとされているのであって,本件各規定による規制の期間も限定されている。
このような要指導医薬品の市場規模やその規制の期間に照らすと,要指導医薬品について薬剤師の対面による販売又は授与を義務付ける本件各規定は,職業選択の自由そのものに制限を加えるものであるとはいえず,職業活動の内容及び態様に対する規制にとどまるものであることはもとより,その制限の程度が大きいということもできない。
エ 以上検討した本件各規定による規制の目的,必要性,内容,これによって制限される職業の自由の性質,内容及び制限の程度に照らすと,本件各規定による規制に必要性と合理性があるとした判断が,立法府の合理的裁量の範囲を超えるものであるということはできない。
(3) したがって,本件各規定が憲法22条1項に違反するものということはできない。
以上は,当裁判所大法廷判決(最高裁昭和45年(あ)第23号同47年11月22日判決・刑集26巻9号586頁)の趣旨に徴して明らかというべきである。論旨は採用することができない。
第3 その余の上告理由について
論旨は,違憲をいうが,その前提を欠くものであって,民訴法312条1項及び2項に規定する事由のいずれにも該当しない。
よって,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり判決する。」
本判例は、本件各規定による本件対面販売規制は職業の自由に対する許可制的な規制が問題となっていることから最高裁大法廷昭和50年4月30日民集29巻4号572頁・憲法百選Ⅰ【8版】85事件・薬事法事件の判断枠組みを引用し、「本件各規定は,その不適正な使用による国民の生命,健康に対する侵害を防止し,もって保健衛生上の危害の発生及び拡大の防止を図ることを目的とするものであり,このような目的が公共の福祉に合致することは明らかである」としています。薬事法事件は消極目的規制の事例であったところ、本件各規定による本件対面販売規制は明らかに消極目的規制であるのに、消極目的か否かについては明示せず、本件各規定による本件対面販売規制は憲法22条1項に反しないとしました。そして、合憲であることは、最高裁大法廷昭和47年11月22日刑集26巻9号586頁・憲法百選Ⅰ【8版】84事件・小売市場事件の趣旨から明らかであるとしています(本判例が小売市場事件を指摘しているのは、「小法廷が大法廷判決に徴して合憲である旨を判断するに当たっては、合憲判決を徴すべき」という考え方によるものであるとされています。ジュリスト1566号138頁。重要判例解説令和3年度憲法8事件解説2参照)。
本判例は、規制目的二分論を採用していません。そのことは、本件各規定による本件対面販売規制は明らかに消極目的規制であるのに薬事法事件の消極目的規制に関する判示部分を引用していないことからも明らかです。本判例に続く、最高裁令和4年2月7日民集76巻2号101頁・憲法百選Ⅰ【8版】87事件も同じく規制目的二分論を採用していません。「憲法」(芦部信喜・高橋和之補訂【8版】251頁から252頁まで)には下記の指摘があります(※適宜、要約しています)。
最高裁平成12年2月8日刑集54巻2号1頁(司法書士法違反事件)は、司法書士以外の者が登記に関する手続の代理等の業務を行うことを禁止、違反すれば処罰することを規定している司法書士法19条(現行73条)につき、最高裁大法廷昭和50年4月30日民集29巻4号572頁・憲法百選Ⅰ【8版】85事件・薬事法事件を引用しつつ、合憲であるとしました。司法書士法違反事件は、特に規制目的二分論を明示はしていませんが、資格制による参入制限の事例であり、消極目的規制の事例として判断したと理解されます。最高裁令和3年3月18日民集75巻3号552頁・憲法百選Ⅰ【8版】86事件(※本判例)があり、この判例も規制目的二分論ではなく、審査基準を重視しない利益衡量論によるものとし、規制目的の違いは利益衡量において考慮される位置要素に過ぎないという観点から、立法裁量を重視する「合理性の基準」に基づき利益衡量をしました。本判例の判断枠組みは令和4年判例でもそのまま使われています。令和4年判例は、視覚障害者の職業確保(職域確保)の目的による規制であるから、積極目的の規制です(※詳細は令和4年判例の記事をお読みください。)。しかし、令和4年判例は、消極目的規制の事例である本判例の場合とまったく同じ審査基準を用いています。同著は、令和4年判例は「職業の自由に関する限り規制目的二分論の廃棄の完了を印象づけている」としています。
このように本判例は規制目的二分論を採用しませんでした。前述した通り、本判例に続く、最高裁令和4年2月7日民集76巻2号101頁・憲法百選Ⅰ【8版】87事件も同じく規制目的二分論を採用していないことから、最高裁は規制目的二分論を採用せず、審査基準を重視しない利益衡量論によるものとし、規制目的の違いは利益衡量において考慮される位置要素に過ぎないとの見地から判断をするという立場を採用しているものと思われます。現在では、憲法22条1項の職業の自由に対する違憲審査基準については、規制目的二分論ではなく、比較衡量を通じた規制の必要性・合理性判断を基礎としつつ、規制目的だけではなく規制態様等も考慮して事例ごとに審査のあり方を定めるとの理解が有力であるとされます(本判例に関する憲法百選Ⅰ【8版】86事件解説2⑴参照)。
学説においては、憲法22条1項に違反するか否かの最高裁判例の判断基準につき、その理由を掘り下げて説明しようとする見解や、規制目的二分論等の伝統的見解とは異なる観点から説明しようとする見解が現れています(本判例に関する令和3年度最高裁判所判例解説民事篇157頁から158頁まで)。以下、引用します。
「規制目的二分論に対する批判、取り分け、積極目的の場合、なぜ緩やかな基準で足り、消極目的の規制がなぜ厳格な審査に服するのかという批判を受け、最高裁が経済規制立法の目的によって違憲審査基準を使い分けることについて、以下のように政治的多元主義の観点から説明する見解がある(長谷部恭男「憲法[第7版]」253頁、山本龍彦「偽の『公共の福祉』?-経済的自由規制と政治過程」中林暁生=山本龍彦『憲法判例のコンテクスト』198頁)。
民主的政治過程とは、多様な利益集団がそれぞれにとって有利な政策決定を獲得すベく抗争し妥協する過程であるところ、そこでの裁判所の任務は、多様な集団の政治活動が透明かつ公正に行われる環境を整えることである。
経済的自由を規制する立法の多くは、特定の市場への参入制限など競争を制限する性格を持ち、これにより利益を得る集団が、いわば公然と適法なカルテルを結ぼうとするものである。ところが、この種の規制の立法目的としては、より普遍的で正当らしく見える公益の増進がうたわれることがある。その際、裁判所の任務は経済規制立法が適切な情報の下で公正かつ透明に行われる環境を整えることに尽きるのであり、国会が特定の業界の保護立法をあたかも国民一般の福祉に貢献する消極的警察規制であるかのように装って制定した場合には、裁判所は目的と手段との関連性を立ち入って審査し、十分な関連性がない場合には違憲無効とすべきである。
上記の見解は、規制目的二分論の背景の説明としてされたものであるところ、立法過程に対するこのような見方が憲法秩序全体から見て妥当といえるのか、このような立法過程を維持することがなぜ裁判所の正当な任務といえるかという点については、なお疑問を提起することができるとされている。
薬事法距離制限事件判決は、規制目的二分論によるものではなく、権利侵害の有無、それが憲法22条1項による保護範囲に含まれるか、含まれるとして正当化事由があるかという三段階審査を前提に、正当化事由の有無については、比例原則により判断したものであると理解する見解がある(石川健治「30年越しの問い-判例に整合的なドグマーティクとは」法教332号58頁)。
そして、同判決は、上記の比例原則による審査において、ドイツの職業の自由論で説かれている段階理論により審査したものであるという。段階理論とは、まず、職業「活動」の規制と、職業「選択」の規制とで段差を付け、さらに同じ職業「選択」の規制という事前規制であっても、自らの努力で克服できる「主観的条件」による規制と、そうではない「客観的条件」による規制とを段階付けるものである。
上記の見解は、薬事法距離制限事件判決等についての伝統的な学説の理解を批判するものであるところ、前記(1)で検討したように、最高裁判例が利益較量論を基礎として経済的自由の制約を伴う規制立法の憲法適合性を判断しているという理解に沿わないものではなく、その利益較量の際に着目する点を指摘するものと理解することもできよう。」
原告Xは、本件各規定による本件対面販売規制は消極目的規制であること、及び、薬事法事件のいう「職業の自由に対する強力な制限」である許可制の合憲性を判断するためには「よりゆるやかな制限」で規制目的を「十分に達成することができないと認められる」ことが必要であるという立論をしました。すなわち、本件各規定による本件対面販売規制が消極目的規制であること、及び、同規制によって生じる制約が職業選択の自由そのものと同様の厳しい制約であることを主張しました。そして、薬事法事件と同様の厳格な審査を求めました。しかし、本判例はそのような立場を採用しませんでした。本判例が、本件各規定による本件対面販売規制は明らかに消極目的規制であるのに薬事法事件の消極目的規制に関する判示部分を引用していない理由について、有力な見解は、規制対象が「職業の内容及び態様」にとどまり(すなわち、「狭義における職業選択の自由そのもの」に対する規制ではない)かつ制約の程度も大きくないと評価されたからであるという指摘があります。本判例が「一般用医薬品等のうち薬剤師の対面による販売又は授与が義務付けられているのは,法4条5項3号所定の要指導医薬品のみであるところ,その市場規模は,要指導医薬品と一般用医薬品を合わせたもののうち,1%に満たない僅かな程度にとどまっており,毒薬及び劇薬以外のものは,一定の期間内に一般用医薬品として販売することの可否の評価を行い,問題がなければ一般用医薬品に移行することとされているのであって,本件各規定による規制の期間も限定されている。このような要指導医薬品の市場規模やその規制の期間に照らすと,要指導医薬品について薬剤師の対面による販売又は授与を義務付ける本件各規定は,職業選択の自由そのものに制限を加えるものであるとはいえず,職業活動の内容及び態様に対する規制にとどまるものであることはもとより,その制限の程度が大きいということもできない」と指摘するのはその趣旨であるとされます(本判例に関する令和3年度最高裁判所判例解説民事篇161頁から162頁まで、重要判例解説令和3年度憲法8事件解説2)。制約の程度によって違憲審査基準が異なりうることからこの点についての理解は重要であると思われます。

