最高裁令和5年10月26日民集77巻7号1860頁・重要判例解説令和5年度商法7事件(株式買取価格決定申立て却下決定に対する抗告棄却決定に対する許可抗告事件・会社法785条2項1号イにいう吸収合併等に反対する旨の通知)

 本判例は、吸収合併消滅株式会社の株主が吸収合併をするための株主総会に先立って上記会社に対して委任状を送付したことが会社法785条2項1号イにいう吸収合併等に反対する旨の通知に当たるとされた事例判例です。

 判例を引用します。

 https://www.courts.go.jp/hanrei/92454/detail2/index.html

 「抗告代理人土屋勝裕、同高橋佳久の抗告理由について
 1 本件は、スジャータめいらく株式会社(以下「スジャータ社」という。)の株主である抗告人が、利害関係参加人を吸収合併存続株式会社、スジャータ社を吸収合併消滅株式会社とする吸収合併(以下「本件吸収合併」という。)についての会社法785条2項所定の株主(以下「反対株主」という。)であるとして、スジャータ社に対し、抗告人の有する株式を公正な価格で買い取ることを請求したが、その価格の決定につき協議が調わないため、同法786条2項に基づき、価格の決定の申立て(以下「本件申立て」という。)をした事案である。
 2 記録によれば、本件の経緯は次のとおりである。
 (1) スジャータ社は、令和2年10月15日、利害関係参加人との間で、効力発生日を同年12月1日として本件吸収合併をする旨の吸収合併契約(以下「本件合併契約」という。)を締結した。
 (2) スジャータ社は、「第1号議案 名古屋製酪株式会社との吸収合併契約承認の件」(以下「本件議案」という。)を決議事項とする臨時株主総会(以下「本件総会」という。)を令和2年11月13日に開催することとし、スジャータ社の代表取締役(以下「本件代表取締役」という。)は、同月9日、スジャータ社の株式7950株を有する抗告人に対し、本件総会の招集通知を発するとともに、本件総会に抗告人自身が出席しない場合には、上記招集通知に同封された委任状用紙(以下「本件委任状用紙」という。)に本件議案に対する賛否を記載するなどして委任状を作成し、これを返送するよう議決権の代理行使を勧誘した。
 本件委任状用紙には、冒頭に、作成日付、議決権の個数並びに株主の住所及び氏名を記載する欄が設けられていたほか、宛先として「スジャータめいらく株式会社御中」と印字されており、これに続いて、「委任状」という表題の下に「私は、.........を代理人と定め下記の権限を委任いたします。」、「令和2年11月13日開催の貴社臨時株主総会及びその継続会または延会に出席して下記の議案につき私の指示(〇印で表示)にしたがって、議決権を行使すること。ただし、議案に対して賛否の表示のない場合及び原案に対して修正案または動議が提出された場合は、いずれも白紙委任いたします。」とそれぞれ印字されており、更にその下に「賛」又は「否」のいずれかに〇印を付けて本件議案に対する賛否を記載する欄(以下「本件賛否欄」という。)が設けられていた。
 (3) 抗告人は、令和2年11月10日、上記(2)の議決権の代理行使の勧誘に応じ、本件委任状用紙を用いて、上記(2)の点線の部分に本件代表取締役の氏名を記載するとともに、本件賛否欄の「否」に〇印を付け、その欄外に「合併契約の内容や主旨が不明の上、数日前の通知であり賛否表明ができません(合併契約書を表示して下さい)」との付記(以下「本件付記」という。)をするなどして原々決定別紙のとおりの委任状(以下「本件委任状」という。)を作成し、これをスジャータ社に対して返送した。
 (4) 令和2年11月13日、本件総会において本件合併契約を承認する旨の決議がされたところ、上記決議が行われるに当たり、本件代表取締役は抗告人の代理人として本件議案に反対する旨の議決権の行使をした。
 (5) 抗告人は、令和2年11月30日までに、スジャータ社に対し、抗告人の有する全株式を公正な価格で買い取ることを請求した。
 (6) 令和2年12月1日、本件吸収合併の効力が発生し、スジャータ社は利害関係参加人に吸収合併された。
 (7) 抗告人は、令和3年1月20日、本件申立てをした。
 (8) 抗告人は、抗告人がスジャータ社に対して本件委任状を送付したことは、会社法785条2項1号イにいう、吸収合併等をするための株主総会に先立って消滅株式会社等に対してされる当該吸収合併等に反対する旨の通知(以下「反対通知」という。)に当たるから、抗告人は反対株主であり、本件申立ては適法であると主張している。
 3 原審は、要旨次のとおり判断し、抗告人は反対株主ではないから、本件申立ては不適法であるとして、これを却下すべきものとした。
 本件委任状は、代理人となるべき者に対して本件総会における議決権の代理行使を委任する旨の意思表示をした書面であり、本件賛否欄の「否」に〇印を付けた部分は、上記の者に対する指示であってスジャータ社に向けられたものであるということはできない。また、本件委任状の宛先がスジャータ社とされているのは、代理権を証明する書面が株式会社に提出されなければならないとされていること(会社法310条1項)からすると不自然ではない。さらに、本件付記があることからすると、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思が本件委任状に表明されているということもできない。したがって、抗告人がスジャータ社に対して本件委任状を送付したことは、反対通知に当たらない。
 4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
 会社法785条1項、2項1号イは、吸収合併等をするための株主総会において議決権を行使することができる株主が反対株主として株式買取請求をするためには、上記株主総会に先立って当該株主が反対通知をすることを要する旨規定している。その趣旨は、消滅株式会社等に対し、吸収合併契約等の承認に係る議案に反対する株主の議決権の個数や株式買取請求がされる株式数の見込みを認識させ、当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会を与えるところにあると解される。そして、本件のように、株主が上記株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても、当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して、吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには、消滅株式会社等において、上記見込みを認識するとともに、上記機会が与えられているといってよいから、上記委任状を消滅株式会社等に送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。
 これを本件についてみると、本件委任状は、スジャータ社が、抗告人に対し、宛先を自社とする本件委任状用紙を送付して議決権の代理行使を勧誘し、抗告人が、これに応じて、本件委任状用紙の各欄に記載をするなどして作成し、スジャータ社に対して返送したものである。そうすると、抗告人が本件賛否欄に記載したところは、代理人となるべき者に対して議決権の代理行使の内容を指示するだけのものではなく、上記勧誘をしてきたスジャータ社に対する応答でもあったということができ、本件委任状の送付は、スジャータ社に向けて本件吸収合併についての抗告人の意思を通知するものでもあったというべきである。そして、本件賛否欄には「否」に〇印が付けられていたのであるから、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思が本件委任状に表明されていたことは明らかである。なお、本件付記は、その記載内容等からすると、本件議案に反対する理由を記載したものとみるべきであって、本件付記があることは、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思が本件委任状に表明されていたとの上記判断を左右するものではない。
 以上からすると、本件委任状の送付は、本件吸収合併に反対する旨の抗告人の意思をスジャータ社に対して表明するものということができる。
 したがって、抗告人がスジャータ社に対して本件委任状を送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である。
 5 以上と異なる見解の下に、本件申立てを却下すべきものとした原審の判断には、裁判に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨は理由があり、原決定は破棄を免れない。そして、原々決定を取り消し、更に審理を尽くさせるため、本件を原々審に差し戻すこととする。
 よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。」

 会社法785条1項・2項1号イは、吸収合併等をするための株主総会において議決権を行使することができる株主が反対株主として株式買取請求をするためには、当該総会に先立って当該吸収合併等に反対する旨を通知(反対通知)をしなければならないと規定しています。会社法は反対通知の方式を法定していないため、本件のような議決権代理行使の委任状を送付したことが反対通知に当たるかどうかは解釈にゆだねられていました。

 この点については、学説の多くは、反対通知は会社に対する明示的かつ確定的な異議である必要があるとし、株主総会の議決権代理行使の委任状に否と記載し、会社宛てに返送しても、代理人となる者に対し議案に反対の方向に議決権を行使することを委任する趣旨の意思表示が記載されているにすぎず、会社に反対通知をしたことにはならないと解していました。

 原決定(名古屋高裁令和4年3月30日令和3年(ラ)第391号:判例秘書L07720767)は、上記の多数説と同様の見解に立ち、本件委任状の送付は反対通知に当たらないとしました。

 それに対し、本判例は、下記のように判断し、原決定を破棄して原々決定を取り消し、本件を名古屋地裁に差し戻す自判をしました。

 まず、「会社法785条1項、2項1号イは、吸収合併等をするための株主総会において議決権を行使することができる株主が反対株主として株式買取請求をするためには、上記株主総会に先立って当該株主が反対通知をすることを要する旨規定している。その趣旨は、消滅株式会社等に対し、吸収合併契約等の承認に係る議案に反対する株主の議決権の個数や株式買取請求がされる株式数の見込みを認識させ、当該議案を可決させるための対策を講じたり、当該議案の撤回を検討したりする機会を与えるところにある」とし、反対通知制度の趣旨を明確に示しました。そして、「本件のように、株主が上記株主総会に先立って吸収合併等に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を消滅株式会社等に送付した場合であっても、当該委任状が作成・送付された経緯やその記載内容等の事情を勘案して、吸収合併等に反対する旨の当該株主の意思が消滅株式会社等に対して表明されているということができるときには、消滅株式会社等において、上記見込みを認識するとともに、上記機会が与えられているといってよいから、上記委任状を消滅株式会社等に送付したことは、反対通知に当たると解するのが相当である」としました。その上で、下記のようにあてはめをしました。

 「吸収合併消滅株式会社の株主が吸収合併をするための株主総会に先立って当該吸収合併に反対する旨の議決権の代理行使を第三者に委任することを内容とする委任状を上記会社に送付した場合において、次の⑴及び⑵の事実関係の下では、上記株主が上記会社に対して上記委任状を送付したことは、会社法785条2項1号イにいう、吸収合併等をするための株主総会に先立って消滅株式会社等に対してされる当該吸収合併等に反対する旨の通知に当たる。
 ⑴ 上記吸収合併消滅株式会社は、上記株主に対し、宛先を自社とし、「賛」又は「否」のいずれかに〇印を付けて吸収合併契約の承認に係る議案に対する賛否を記載する欄を設けた委任状用紙を送付して、議決権の代理行使を勧誘した。
 ⑵ 上記株主は、上記勧誘に応じて、上記欄の「否」に〇印を付けて上記委任状を作成し、これを上記吸収合併消滅株式会社に対して返送した。」

 本決定の射程について、①委任状の返送の宛先が会社でない場合には本決定の射程は及ばないこと、②本件委任状では、株主が代理人欄に代表取締役の氏名を記載していたが、それと異なり、株主が空欄のままにした代理人欄に会社がその他の会社関係者を記載するといった場合も、委任状返送の宛先が会社である限り、会社は株主の反対意思を容易に知りうるため、本決定の射程は及ぶこと、③学説上は、会社の費用で全株主に委任状勧誘がされた場合につき、本決定と同様の解釈をする見解も有力であるが(竹内昭夫・会社法の理論⑶337頁)、必ずしも全株主に委任状勧誘がされた場合に限る必要はないこと、④吸収合併以外の場面における株式買取請求の場合にも及ぶとの指摘があります(久保田安彦・ジュリスト1592号3頁)。

 合併、会社分割、株式交換及び株式移転(組織再編)は、①既存の会社間で行われ、新会社の設立を伴わない吸収合併・吸収分割・株式交換と.②新会社が設立される新設合併・新設分割・株式移転とに分けることができます。そして,新会社の設立を伴うか否かで必要な手続に異なる部分が出てくるため、会社法は①と②の手続を分けて規定しています(会社法第5編第5章第2節と第3節)。会社計算規則は①の組織再編を「吸収型再編」、②の組織再編を「新設型再編」と呼んでいます(会社計算規則2条3項37号・45号)(以上のつき、「会社法」(高橋他)〔第4版〕」496頁参照。通称「紅白本」)。

 ①の吸収型再編について、会社法は以下のように規定しています。会社法は、吸収型再編について、吸収合併等と整理しています。「吸収合併等」の定義は会社法782条1項柱書にあります。「吸収合併、吸収分割又は株式交換」のことを吸収合併等といいます。本件で問題となったのは存続株式会社等のうち吸収合併消滅会社に対する株式買取請求権(会社法785条)でした。存続株式会社等について会社法782条柱書が同項各号で規定するものとし、1号で吸収分割消滅株式会社、2号で吸収分割株式会社、3号で株式交換完全子会社を指すものとしています。存続株式会社等については会社法794条1項柱書が「吸収合併存続株式会社、吸収分割承継株式会社又は株式交換完全親株式会社」と定義しています。存続株式会社等に対する株式買取請求は会社法797条に規定があります。

 ②の新設型再編について、会社法は、以下のように規定しています。会社法は、新設型再編について、新設合併等と整理しています。「新設合併等」の定義は会社法804条4項にあります。「新設合併、新設分割又は株式移転」のことを新設合併等といいます。新設合併等の消滅株式会社等について会社法803条1項柱書が同項各号で規定するものとし、1号で新設合併消滅株式会社、2号で新設分割株式会社、3号で株式移転完全子会社を指すものとしています。新設合併等の消滅株式会社等に対する株式買取請求は会社法806条に規定があります。なお、設立会社に対する株式買取請求の規定はありません。反対株主が観念できないからです。

 なお、新株予約権についても一部の組織再編行為については買取請求の制度があります。「会社法」(高橋他)〔第4版〕」(通称「紅白本」)517頁から518頁までには以下のような記載があるので引用します。

「吸収型再編において吸収する側(対価を交付する側)である吸収合併存続会社・吸収分割承継会社・株式交換完全親会社(※吸収合併等の存続株式会社等(会社法794条1項)。執筆者注。)の新株予約権の取扱いについて定める規定は特にない。組織再編は当然これらの会社の新株予約権の価値に影響を与えうるが.会社法は一般に,新株予約権の権利内容の変更でない限り,新株予約権の発行を受ける際の交渉を通じた新株予約権者による自衛や損害賠償に問題の解決を委ねている。これに対して,吸収合併消滅会社・新設合併消滅会社の新株予約権は合併の効力発生に伴い消滅してしまうので(750条4項・754条4項),組織再編の中でその取扱いを決める必要がある。また.吸収分割会社・新設分割会社・株式交換完全子会社・株式移転完全子会社(※株式交換完全子会社及び新設合併等の消滅株式会社等(会社法803条1項柱書)。執筆者注。)の新株予約権についても,当事会社としては組織再編により相手当事会社や新たに設立される会社の新株予約権としてそれらの会社に承継(正確には「新株予約権の消滅+それに代わる相手当事会社・設立会社の新株予約権の交付」)させたい場合もある。とりわけ,株新株予約権買取請求の手続はどのようなものか。新株予約権者に対する通知・公告や買取請求の手続,価格決定手続などにつき,株式買取請求の場合《→ 507頁(4)》と同様の規定が定められている(787条3項~10項・788条・808条3項~10項・809条)。なお,新株予約権付社債については,別段の定め(238条1項7号)がない限り,新株予約権者は新株予約権部分の買取請求に併せて社債部分の買取りも請求しなければならない(787条2項・808条2項)。」

 新株予約権については株式とは異なり、吸収型再編(吸収合併等)における存続株式会社等である吸収合併存続会社・吸収分割承継会社・株式交換完全親会社(会社法794条1項)については、消滅株式会社等に対する新株予約権買取請求に関する会社法787条に相当する規定はありません。

 本判例は、「事例判断であり、その直後の射程は吸収分割消滅株式会社(会社法782条1項1号)の株主が吸収分割契約の承認(会社法783条1項)に係る議案に反対する旨を通知する場合(会社法785条2項1号イ)に限定されるものの、通説とは異なる見解を採用したものである上、本件委任状と同様の形式の委任状は、上場会社を含めて広く用いられているものであって、吸収合併以外の場面における反対株主の株式買取請求に関する議論に影響を与えるもので、実務に与える影響は小さくない」(本判例の調査官解説である法曹時報77巻5号1267頁参照)との指摘があります。