最高裁令和8年3月27日令和7(行ヒ)25について(行政処分取消請求事件・「ヒグマハンターの猟銃を取り戻す」訴訟・効果裁量等)
近時、日本各地おいて、熊による被害が多発しています。熊の駆除にあたるハンターに対し、猟銃許可を取り消す処分をした事件について、最高裁が注目すべき判断を下しました。「ヒグマハンターの猟銃を取り戻す」訴訟と題される本訴訟(https://www.call4.jp/info.php?type=items&id=I0000165)については世間の注目が集まり、大きく報道されました。
判例を引用します。
https://www.courts.go.jp/hanrei/95768/detail2/index.html
「上告代理人中村憲昭、同伊藤正朗、同平裕介の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1 本件は、上告人が、その所持する第1審判決別紙銃砲目録記載のライフル銃(以下「本件ライフル銃」という。)をヒグマの駆除のために発射したところ、本件ライフル銃の所持についての許可(以下「本件許可」という。)を取り消す旨の処分(以下「本件処分」という。)を受けたため、被上告人を相手に、本件処分の取消しを求める事案である。
2 原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。
⑴ ア 銃砲刀剣類所持等取締法(令和3年法律第69号による改正前のもの。以下「銃刀法」という。)3条1項柱書きは、何人も、所定の場合を除いては、銃砲又は刀剣類を所持してはならない旨を規定する。そして、同法4条1項は、同項各号のいずれかに該当する者は、所持しようとする銃砲又は刀剣類ごとに、その所持について、住所地を管轄する都道府県公安委員会の許可を受けなければならない旨を規定し、同項1号は、狩猟又は有害鳥獣駆除の用途に供するため、猟銃を所持しようとする者を規定する。
イ 銃刀法10条2項柱書きは、同法4条の規定による許可を受けた者は、同項各号のいずれかに該当する場合を除いては、当該許可を受けた銃砲を発射してはならない旨を規定し、同項1号本文は、同条1項1号の規定により狩猟又は有害鳥獣駆除の用途に供するため猟銃の所持の許可を受けた者が、当該用途に供するため、鳥獣の保護及び管理並びに狩猟の適正化に関する法律(令和7年法律第28号による改正前のもの。以下「鳥獣保護管理法」という。)の規定により銃猟をする場合を規定する。そして、同法38条3項は、弾丸の到達するおそれのある人、建物等に向かって銃猟をしてはならない旨を規定する。銃刀法11条1項柱書きは、都道府県公安委員会は、同法4条の規定による許可を受けた者が同項各号のいずれかに該当する場合においては、その許可を取り消すことができる旨を規定し、同項1号は、同法の規定に違反した場合を規定する。
⑵ 上告人は、北海道砂川市(以下「市」という。)に居住し、北海道公安委員会から銃刀法4条の規定による本件許可を受けて本件ライフル銃を所持していた。上告人は、一般社団法人北海道猟友会砂川支部の支部長を務めるとともに、市が設置する鳥獣被害対策実施隊(鳥獣による農林水産業等に係る被害の防止のための特別措置に関する法律(令和3年法律第71号による改正前のもの。以下「特措法」という。)9条1項)の隊員(鳥獣被害対策実施隊員。同条2項)を務めていた。
⑶ 市の職員であるA(以下「A職員」という。)は、平成30年8月21日、市の甲地区においてヒグマを目撃したとの連絡を受け、市の鳥獣被害対策実施隊員である上告人に対して出動を要請した。これを受け、上告人は、同地区に赴き、A職員、北海道札幌方面砂川警察署の警察官であるB(以下「B警察官」という。)及び上告人と同じく市の鳥獣被害対策実施隊員であるC(以下「C隊員」という。)も、同地区に到着した。
⑷ 上告人らが赴いた甲地区周辺の道路、建物の位置関係等は、おおむね原判決別紙2のとおりであった。上告人が後記⑺アのとおり本件ライフル銃を発射した地点(以下「本件発射地点」という。)から北北東方向は、平坦な地面が続いた後、高低差8m程度の上り勾配の斜面(以下「本件斜面」という。)となっていた。本件斜面は、下方の高低差5m程度の急斜面の部分と上方の高低差3m程度の緩斜面の部分から成り、草木が繁茂し、背後の見通しは悪かった。本件斜面の更に北側には、北西から南東に走る市道(以下「本件市道」という。)があった。また、本件発射地点の南側には、東西に走る私道(以下「本件私道」という。)があり、本件発射地点の東側で本件市道と交差していた。そして、本件発射地点からみて約89m北には乙会館、約64m北東には建物(以下「本件建物」という。)、約43m北東(本件建物の東側)には一般住宅(以下「本件一般住宅」という。)、約57m北北西には空き家、約38m北北西には物置(以下「本件物置」という。)があった。
⑸ 上告人は、甲地区に到着後、A職員に対し、目撃されたヒグマは子熊であるとして、逃がすことを提案した。これに対し、A職員は、同地区では3日連続でヒグマが出没しており、今後も食べ物を当てにして繰り返し現れる可能性が高く、住民も生活上の不安を感じて駆除を強く要望しているとして、駆除を依頼した。これを受け、上告人は、ヒグマを駆除することとした。
⑹ 上告人らが本件市道と本件私道とが交差する付近にいたところ、ヒグマ(推定年齢0歳、体長80㎝、体重7.5㎏。以下「本件ヒグマ」という。)が現れ、本件私道を南から北へ横切った。上告人は、C隊員に対し、本件私道を通って本件斜面の北側の本件市道に移動するよう指示し、自身は本件ヒグマを追った。C隊員は、上告人の指示に従い、本件私道を通って本件斜面の北側の本件市道に向かった。また、A職員及びB警察官は、本件市道を進み、付近の住民に対し、本件ヒグマが現れており、ハンターがその駆除の実施中であることを告げて、家の中に避難するよう誘導した。
⑺ ア 上告人は、本件斜面の急斜面と緩斜面の境付近(上告人との高低差は5m程度、本件市道との高低差は3m程度)にいた本件ヒグマが立ち上がるのを待った上、本件発射地点において本件ライフル銃を上方に向け、弾丸1発を発射して(以下「本件発射行為」という。)本件ヒグマに命中させた。この時、上告人は、乙会館と本件建物の間の方角を狙い、本件ライフル銃を北北東方向に向けていた。本件発射地点から本件ヒグマまでの距離は、18m前後であった。
イ 本件発射行為の際の本件ライフル銃の位置と本件ヒグマの弾丸が命中した部分とを直線で結んだ延長線は、本件市道まで本件斜面の地面と交わらないか、交わるとしてもごく浅い角度であった。本件発射行為の当時、本件発射地点と本件建物、乙会館及び本件物置との間並びに本件ヒグマがいた位置と本件一般住宅との間には、弾丸を遮るに足りる構造物は存在しなかった。
ウ 本件発射行為の際、A職員及びB警察官は、本件建物又は本件一般住宅の前付近の本件市道上にいた。また、C隊員は、本件市道を進んだ上、本件建物の前付近において本件市道から外れ、本件斜面の上方に進入し、本件発射行為の際には本件ヒグマがいた位置より本件市道側(おおむね、原判決別紙3の「参○」付近)にいた。本件ライフル銃から発射された弾丸は、本件ヒグマを貫通し、C隊員が把持していた猟銃の銃床に当たって貫通した。
⑻ 北海道公安委員会は、平成31年4月24日、上告人に対し、弾丸の到達するおそれのある建物に向かって本件ライフル銃から弾丸1発を発射し、もって鳥獣保護管理法の規定によらない銃猟をして銃砲を発射したものであり、銃刀法10条2項に違反し、同法11条1項1号に該当するとして、本件許可を取り消す旨の処分をした(本件処分)。
⑼ 環境省自然環境局野生生物課鳥獣保護管理室の協力の下に一般社団法人大日本猟友会が発行した「狩猟読本」(平成29年4月発行、平成30年4月一部改訂)には、銃器の取扱上の厳守事項として、矢先の確認のため、やぶや森林の中で離れて共猟するときは、時々合図して位置を知らせ合う旨、及び、やぶや茂みの奥やそれを越えた先に人がいたり人家があったりする場合が少なくないので、見通しの悪い所やかん木越しでの発砲はしない旨の各記載、並びに、ライフル実包等を撃つときは、必要以上に遠くまで飛ばないように、前方に安土(バックストップ。山、崖、高い土手等)があることを確認する旨、及び、ライフル弾等の単体弾は、前方に安土のない限り発砲しない旨の各記載がある。
3 原審は、上記事実関係等の下において、上告人は銃刀法11条1項1号に該当するとした上で、要旨次のとおり判断し、上告人の請求を棄却した。
本件発射行為により発射された弾丸が周辺の建物5軒に到達する相応の危険性があったことに加え、上告人は、C隊員が本件ヒグマの背後である本件斜面の北側の本件市道付近に向かったことを認識しながら、草木が繁茂していて見通しが悪い本件斜面に向けて本件発射行為に及んでいるなど、銃器を扱う者として心得ているべき安全のための遵守事項に複数の点で違反している。また、本件斜面及び本件市道上にはC隊員、A職員及びB警察官がいたことに鑑みると、本件発射行為は同人らの生命及び身体も危険にさらしたというべきである。そうすると、本件発射行為が不当なものでなかったということはできないから、北海道公安委員会の判断が裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとはいえず、本件処分は違法でない。
4 しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次のとおりである。
⑴ 銃刀法の規定に違反した場合における銃砲の所持についての許可の取消処分について定める同法11条1項柱書きは、「都道府県公安委員会は…その許可を取り消すことができる」と規定しているところ、上記処分をするか否かの判断に際しては、違反の態様、程度やこれが社会に及ぼす影響といった諸事情を、銃砲の使用等に関する危害の予防(同法1条)等の観点から、銃砲に関する専門的知識も踏まえて総合的に勘案する必要がある。したがって、上記の判断は都道府県公安委員会の裁量に委ねられており、上記処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合に違法となるものというべきである。
⑵ 銃刀法は、銃砲等の所持、使用等に関する危害予防上必要な規制について定めるものとし(1条)、銃砲等の所持を原則として禁止するとともに(3条1項)、所定の目的のために銃砲等を所持しようとする者は都道府県公安委員会の許可を受けなければならないとして(4条1項各号)、同許可に係る不許可事由等についての詳細な規定を設けている(5条、5条の2)。また、同法10条2項は、鳥獣保護管理法の規定により銃猟をするなどの場合を除いては、銃砲を発射してはならないとしているところ、同法38条3項は、弾丸の到達するおそれのある人、建物等に向かって銃猟をすること自体を禁止している。これらの規定は、銃砲の使用等によって人の生命、身体又は財産に対する危害が生ずることの防止を重視する趣旨に出たものというべきであり、このことは本件発射行為を理由とする処分の適否を検討するに当たって十分に考慮されるべきである。
その一方で、人の生命、身体等に対する危害を防止するために銃砲の使用が求められる場合がある。特措法は、このような場合の一つについて規定するものである。具体的には、特措法は、鳥獣による農林水産業等に係る被害(農林水産業に従事する者等の生命又は身体に係る被害その他の生活環境に係る被害を含む。)の防止のための施策を総合的かつ効果的に推進することなどを目的とし(1条、2条2項)、農林水産大臣は、上記施策(被害防止施策)を総合的かつ効果的に実施するための基本的な指針を定めるものとし(3条1項)、国及び都道府県は、所定の被害防止施策が円滑に実施されるよう、当該被害防止施策の実施に要する費用に対する補助等の必要な財政上の措置を講ずるものとしている(8条)。また、同法は、市町村は、当該被害防止施策を適切に実施するため鳥獣被害対策実施隊を設けることができるとし(9条1項)、同隊に鳥獣被害対策実施隊員を置き(同条2項)、同隊員は、当該被害防止施策の実施に従事するほか、市町村長の指示を受け、農林水産業等に係る被害の原因となっている鳥獣の捕獲等(鳥獣保護管理法2条7項に規定する捕獲又は殺傷をいう。以下同じ。)で住民の生命、身体又は財産に係る被害を防止するため緊急に行う必要があるものに従事するものとし(同条4項)、同隊員のうち民間人から市町村長が任命する者を非常勤の公務員とすることとしている(同条3項2号、5項)。そして、同法は、同隊員については狩猟税の軽減の措置等が講ぜられるものとする(同条7項)とともに、国等に、同隊に関する措置について必要な支援に努めるなどの義務を課している(同条8項、16条)。以上に鑑みれば、同法は、各地の鳥獣被害対策実施隊員が公務員としてする鳥獣による被害の防止のための活動に財政的な支援をすることなどによって、同活動を通じて住民を始めとする農林水産業に従事する者等の生命、身体、財産又は生活環境に係る被害の防止を図る趣旨に出たものと解される。
そうすると、銃砲の使用等による人の生命、身体又は財産に対する危害を防止するとの観点からは、本件発射行為を理由とする処分として本件許可の取消しが相当であるといえたとしても、本件発射行為が市の鳥獣被害対策実施隊員であった上告人に対する出動の要請を契機として行われたものであることに照らし、上記取消しをすることが上記特措法の趣旨に沿わない事態を招くおそれを生じさせる場合には、そのことを上記取消しに係る判断において事情として考慮することができるものというべきである。
⑶ 以上を本件についてみるに、本件発射行為の際の周囲の状況や周辺の建物及び関係者の位置関係等によれば、本件ライフル銃から発射された弾丸は周辺の建物並びにC隊員、A職員及びB警察官に当たる危険性があったというべきである。実際、上記弾丸はC隊員が把持していた猟銃の銃床に当たって貫通したというのであり、本件発射行為は、C隊員の財産に具体的な被害を生じさせただけでなく、同人の生命及び身体にも危険を生じさせたものである。そして、本件発射行為の態様や上記2⑼に示された知見にも照らせば、上告人は、本件発射行為に際し、安土の確保等に関する基本的な判断を誤った可能性も否定できない。しかしながら、他方で、本件発射行為に至る経緯についてみるに、市の鳥獣被害対策実施隊員である上告人は、市から出動の要請を受けて甲地区に赴き、一旦はヒグマを逃がすことを提案したものの、A職員から住民が強く要望していることなどを理由として駆除を依頼され、A職員及びB警察官により付近の住民に対して避難誘導がされるなどする中で本件発射行為に及んだというのである。このような経緯に照らせば、本件発射行為は、非常勤の公務員によって、上記地区の周辺住民等の生命、身体、財産及び生活環境の保護に資するという重要な意義を有する活動の一環として行われたものということができ、もとより上記の経緯に不適切な点は見当たらない。
加えて、以上のとおり、上告人は、周辺住民等のために本件ヒグマを駆除することを期待され、付近の住民の安全確保のための措置がとられる一方で自らは本件ヒグマに18m前後という近距離で対じするという緊迫した状況において、本件発射行為に係る判断を求められ、ハンターとしての知見や経験を踏まえて短時間のうちに本件発射行為に至ったのである。そして、本件発射行為によってC隊員に具体的な死傷の結果が生じたことはうかがわれないことにも鑑みれば、上告人が個人として受けている本件許可を取り消すことは、上告人に酷な面があるのみならず、鳥獣被害対策実施隊員が有害鳥獣の捕獲等の活動を行うことや、さらには民間人が同隊員に任命されること自体をちゅうちょさせるなど、周辺住民等の利益の保護に資する同隊員の職務の遂行に萎縮的な影響を及ぼし、ひいては、上記特措法の趣旨に沿わない事態を招くおそれを生じさせるものと考えられる。
⑷ 以上によれば、本件発射行為を理由として本件許可を取り消すべきとした北海道公安委員会の判断は、重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、本件処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法というべきである。
5 以上と異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、本件処分の取消請求を認容した第1審判決は結論において正当であるから、被上告人の控訴を棄却すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。なお、裁判官林道晴、同平木正洋の各補足意見、裁判官渡辺惠理子の意見がある。
裁判官林道晴の補足意見は、次のとおりである。
私も、多数意見には賛同しているが、その法律的な判断枠組み等について補足して意見を述べることとする。
1 上告人の本件発射行為は鳥獣保護管理法38条3項に抵触し銃刀法10条2項に違反する銃砲の発射に当たり、上告人は本件許可の取消事由である同法11条1項1号に該当するものであったことに加え、本件発射行為がC隊員の生命及び身体に危険を生じさせたものであり、また、上告人が本件発射行為に際して安土の確保等に関する基本的な判断を誤った可能性は否定できない。そして、基本的な安全性の確認が重要であることはいうまでもない。しかし、銃刀法や鳥獣保護管理法の規定は、多くの場合、基本的には、個人的な用務による銃猟について、住居集合地域等(鳥獣保護管理法38条2項)以外での使用を想定して、銃砲の使用等によって人の生命、身体又は財産に対する危害が生ずることを防止する趣旨のものである。
これに対し、本件発射行為は、鳥獣被害対策実施隊員(非常勤の公務員)である上告人が、市からの出動要請を受けて現場に臨み実施されたものである。つまり、本件発射行為は、上告人の個人的な用務というよりは、臨場した地区の周辺住民等の生命、身体、財産及び生活環境の保護を図る活動という、いわば公務を実施する過程で行われたものといえる。ヒグマの動静は完全に予測することはできないものであり、上記の活動に当たる者は、自らがヒグマから襲われる危険性を抱えながら、現場での臨機の判断をしなければならない。現に、上告人は、本件ヒグマと近距離で対じするという緊迫した状況で判断を迫られている。しかも、本件では、上告人が本件ヒグマを逃がすことを提案したのに対し、市の職員から住民が強く要望していることなどを理由として駆除を依頼され、本件発射行為に至っており、上告人として完全に現場での判断を任された形で活動できていたわけではない。銃刀法や鳥獣保護管理法には上記のような事情の考慮を求める規定はないが、上記事情を考慮しない関係法令の解釈適用についての判断は、明らかに衡平を失し社会観念上著しく妥当を欠くものとなるといわざるを得ない。
2 上記の本件特有の事情をどのように考慮すべきであったかが問題となる。銃刀法や鳥獣保護管理法が銃砲の所持やその発射等について定める規定は、銃砲の使用等によって人の生命、身体又は財産に対する危害が生ずることを防止するためのものであることは、上記のとおりである。上告人は、本件発射行為によりC隊員の財産に被害を生じさせているが、そのほかに具体的な死傷の結果を生じさせたわけではない。一方、上告人は、本件発射行為により、住居が点在する地域に出てきた本件ヒグマを駆除して、周辺住民の生活上の不安を除去し住環境の安全確保を実現している。このように、上告人は、鳥獣被害対策実施隊員としての責務を果たし、市の職員からの出動要請・要望にもこたえている。上告人は、本件処分により、本件ライフル銃の使用をすることができなくなり、鳥獣被害対策実施隊員としての責務を十分には果たせない状況となっている。上告人が、公務員(同隊員)としてした本件発射行為を理由として、個人として受けている本件許可を取り消されることは、上告人にとって酷であるし、地域の鳥獣被害対策実施隊員の職務遂行に萎縮的な影響を及ぼすことも否定できない。このような事態は、特措法の趣旨に沿わないものとの評価が可能である。以上を総合すると、本件処分は、これにより確保される利益に比して、名宛人である上告人及び本件発射行為により実現しようとする利益に対して、均衡を失する事態をもたらしていることは明らかである。したがって、本件処分は、重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠くものと評価せざるを得ない(最高裁平成23年(行ツ)第263号、同年(行ヒ)第294号同24年1月16日第一小法廷判決・裁判集民事239号253頁参照)。
3 昨年来熊が市街地に出没し、時に死傷事故も発生して、少なからぬ地域で住民が不安を覚え日常生活や営業活動にも支障が生ずる事態となっており、この事態に対応し地域の住民の安全や居住環境の安全を確保するために、政府や地域の自治体のレベルで種々の方策が検討され実施されている。駆除等に当たる担い手についても、担い手の拡充やその負担を軽減するための方策が検討課題となっているが、担い手が発砲に伴い自らや他人の生命・身体に危険が及ぶことに対する不安を少なくするために、発砲のスキルの維持・向上を図るための措置(例えば、研修の企画・実施)や、担い手及び第三者の生命・身体に危害が生じた場合に対応するための措置(例えば、保険契約の締結)への援助なども含めて、充実した対策が実施されていくことが望まれるところである。
裁判官平木正洋は、裁判官林道晴の補足意見に同調する。
裁判官渡辺惠理子の意見は、次のとおりである。
私は、多数意見及び林裁判官の補足意見の結論及びその公益性に関する理由に賛同するものであるが、民間人が熊などの害獣駆除に当たる場合の判断に際し公益性を勘案することの必要性につき敷衍して意見を述べるとともに、本件のような場合には銃刀法における銃砲所持許可の規定等の在り方について、例えば、害獣駆除のため発砲行為をした者の過失の程度などそのときの置かれた状況も勘案するなどの今後の検討を期待することを付言しておきたい。
1 銃猟による駆除を行うに際し、跳弾による住民等他人の生命・身体に対する被害のおそれを軽視すべきではなく、危害を加える危険性の高い害獣に対して発砲する場合であっても、人の生命・身体の安全に十二分な注意が必要であることは論を待たない。
しかしながら、熊による人の生命・身体に対する現実の被害が看過し難い程度に達している中で、住民らの生命・身体を被害から守るという公益目的での銃猟による害獣の駆除はほとんどの場合地方自治体の嘱託などを受けた民間人に委ねられている。一方、銃猟による害獣の駆除は、傷を負った害獣の反撃等も予想されるなど、それ自体、銃猟に当たる者自らの生命・身体の危険の中で行われている。また、例えば、急な呼出しへの待機・対応を常時必要とすること、駆除に伴う精神的な負担、駆除の是非に関する応酬など、諸々のリスクにさらされながら行う実質的に無償に近い公益性のある活動であり、個別具体的な事案において、これらを考慮、評価しないことは、公平・公正を欠くものといわざるを得ない。まして、上告人ら民間人の銃砲所持許可は、本来、地方自治体の要請によって行う銃猟による害獣駆除目的で取得されたものではなく、各自の本来の目的のため取得されたものであるが、銃砲所持許可の取消しは、その「本来の目的」も不可能にするものであって、銃刀法や鳥獣保護管理法に明文の規定はないものの、地方自治体による要請に応じて公益のため協力したにもかかわらず、公益性について一切考慮することなく銃砲所持許可を取り消すことは、特に、狩猟を生業とする民間人の場合には生計手段を喪失させることを意味することになるなど、過酷というほかなく、また、これによる民間人による協力への萎縮効果を生むなど鳥獣保護管理法及び特措法の趣旨にも反することになる。
本件についてみれば、上告人は、これまでも要請に応じて銃猟による駆除等に協力してきたものであるが、本件駆除の対象とされたヒグマが子熊であることから、上告人は、当初逃がすことを主張したものの、住民らの不安や安全への懸念等を理由とする要請を受けて駆除することを決断したという経緯に鑑みると、刑事事件としては不起訴処分とされたものの、本件における銃砲所持許可取消しに至る一連の行政の対応・判断が爾後駆除への積極的な協力をちゅうちょさせる強い動機になることは想像に難くない。
2 また、原判決は、鳥獣保護管理法38条3項は一律に弾丸の到達するおそれのある人、建物等に向かってする銃猟行為を禁止しており、その行為の具体的状況の下における具体的危険の有無は問わないとした上で、本件発射行為による弾丸は周辺の建物に到達するおそれがあり、また、C隊員が本件ヒグマの背後である本件斜面の北側の本件市道付近に向かったことを認識しながら本件発射行為に及び、さらに、本件市道にいたA職員やB警察官にもその生命・身体に跳弾による危険があった旨判示する。しかしながら、緊急銃猟においては住民の避難等は地方自治体職員や警察官の役割とされているとおり、本件においてもA職員及びB警察官が住民らに対する避難指示を行っていたが、原判決の判示によれば、結局のところ、上告人自らが本件ヒグマに対峙しながら発砲の可否を決めるために草むらの状況や距離も離れた複数の周辺建物の状況を確認すべきであったのか、また、本件ヒグマが18メートルの至近距離におりながら、上告人はこれらが確認できない限り発砲せずに退避すべきであったのか(又は無事に退避することができたのか)、それによって生じ得る上告人の生命・身体の危険は考慮しなくてよかったのかなどについて疑問が残る。
なお、原判決によれば、C隊員は「本件市道の本件建物の前付近から本件斜面の上方に歩いて進入して本件ヒグマがいた位置より本件市道側にいたところ」(一件記録によれば、本件建物は本件市道を挟んで本件斜面の反対側に位置している。)、その銃床が本件ヒグマを貫通した銃弾により損傷したことが認定されており、原判決別紙3によれば、C隊員は本件射撃位置の射線方向にいたことが認められる。そうすると、C隊員の銃床被弾は直接にはC隊員が射線方向にいたことに起因することがうかがわれるが、一件記録によれば、上告人はC隊員に対し、本件市道に上がって本件ヒグマの動きを目視により確認する旨指示し、これを受けたC隊員は、当初、指示のとおり本件市道を進んだものの、途中で本件市道から外れ、本件斜面の上方に進入して射線方向に向かって被弾した位置に至っており、上告人もC隊員が射線方向にいたのであれば発砲しなかったとしている。確かに、原判決の認定するとおり、跳弾のおそれに鑑みると周辺の建物(の中にいるかもしれない住民等)及びA職員ら(特にC隊員)に対する危険性があったことは否めず、上告人の過失を否定することはできないが、一方で、一件記録によれば、C隊員が複数者による銃猟に際し誤射回避のために必須とされている発砲行為を行う者(本件では上告人)に対し、その指示から離れて本件斜面の上方に移動することを声掛けしたこともうかがわれないことに鑑みると、上告人の一方的過失により銃床被弾が生じたとはいい難い状況にあると思われる。
いうまでもなく、鳥獣保護管理法52条に定める狩猟免許の取消し等とは異なり、銃刀法11条の下では、銃砲所持許可については取消処分とするか不問に付すかの二者択一とせざるを得ないし、また、上告人の過失の程度その他の事情を勘案するという規定があるわけではない。しかしながら、原判決の判示するとおり、C隊員の銃床被弾の有無にかかわらず跳弾による危険性が生じたことは否定できないとしても、公益目的で、かつ、18メートルという至近距離から発砲し命中したにもかかわらず、熊を貫通したことによって被弾が生じた場合に、直ちに上告人に一方的な不利益となる銃砲所持許可取消しという処分が相当かについても疑問が残る。
3 緊急銃猟の場合の地方自治体による損害賠償も財産的損害に限られることなど、中長期的に制度設計の抜本的見直しの必要性があることは広く指摘されているとおりであるが、私は、以上のとおり、緊急銃猟の場合を含め、個別具体的な事件において、公益性とそれによって生じた危険を比例原則によって調整するなどの途を探らない限り、労多くして功少ない(それどころか多大なリスクにさらされる)銃猟による駆除の担い手が将来的には存在しなくなることを懸念する。さらに、これまで、銃刀法において、民間人による公益目的の発砲が想定されず、公益目的を勘案するための手掛かりとなる明文の規定はなく、また、その必要性が議論されることもなかったとしても、熊などからの住民等の生命・身体の保護という喫緊の課題に鑑みると、今後、緊急銃猟の場合も含め、公益目的の銃猟について、取消処分か不問に付すかという二者択一でよいのか、その過失の程度その他の事情を考慮しなくてよいのか、公益目的の発砲行為として相応に緊迫した中で行われたことをどのように判断するのか、どのような場合に取り消すのかなどについての議論が行われることを期待する。
いうまでもないが、緊急銃猟の場合を含め、害獣による被害とその駆除に伴う被害の回避のいずれも重要な課題であり、抽象的に一方を優先することは困難である一方で、人の生命・身体の安全を軽視すべきではなく、個別具体的な事案においては、それぞれの状況に即した判断が必要とされると考えることを付け加えておきたい。」
法廷意見は、「銃刀法の規定に違反した場合における銃砲の所持についての許可の取消処分について定める同法11条1項柱書きは、「都道府県公安委員会は…その許可を取り消すことができる」と規定しているところ、上記処分をするか否かの判断に際しては、違反の態様、程度やこれが社会に及ぼす影響といった諸事情を、銃砲の使用等に関する危害の予防(同法1条)等の観点から、銃砲に関する専門的知識も踏まえて総合的に勘案する必要がある。したがって、上記の判断は都道府県公安委員会の裁量に委ねられており、上記処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した場合に違法となるものというべきである。」としています。本件処分の根拠規定である銃刀法11条1項柱書きの文言と趣旨に着目して、猟銃所持許可の取消しに関する都道府県公安委員会の効果裁量を認定しています(林道晴補足意見参照)。
そして、裁量の逸脱濫用の判断をし、根拠法令である銃刀法の各種規定から同法11条1項の趣旨・目的を明らかにして、猟銃所持許可の取消しの判断における考慮事項に関して要考慮事項の設定とその重み付けをしています。
このような要考慮事項の設定と重みづけを前提として、処分庁である北海道公安委員会が、本件処分をするに当たり、判断に至る過程(判断過程審査といいます。)を問題とすることにより、北海道公安委員会の実際の判断過程に着目したあてはめを行いました。本件処分による弊害(上告人に対する不利益、周辺住民等の利益の保護に資する鳥獣被害対策実施隊員の職務の遂行に対する萎縮効果等)も考慮して、「本件発射行為を理由として本件許可を取り消すべきとした北海道公安委員会の判断は、重きに失するものとして社会観念上著しく妥当を欠き、本件処分は裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用したものとして違法というべきである。」と判断しました。比例原則の観点から裁量権の逸脱濫用を判断しました。
林道晴補足意見は、最高裁平成24年1月16日裁判集民事239号253頁(東京都職員国旗国歌訴訟:判例秘書L06710003。「基本行政法判例演習」〔第1版〕84頁以下。この判例について以下「平成24年判例」といいます。)を先例として引用しています。
平成24年判例は、「公務員に対する懲戒処分について,懲戒権者は,懲戒事由に該当すると認められる行為の原因,動機,性質,態様,結果,影響等のほか,当該公務員の上記行為の前後における態度,懲戒処分等の処分歴,選択する処分が他の公務員及び社会に与える影響等,諸般の事情を考慮して,懲戒処分をすべきかどうか,また,懲戒処分をする場合にいかなる処分を選択すべきかを決定する裁量権を有しており,その判断は,それが社会観念上著しく妥当を欠いて裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したと認められる場合に,違法となるものと解される(最高裁……昭和52年12月20日……民集31巻7号1101頁(※神戸税関事件。「基本行政法判例演習」〔第1版〕97頁以下。執筆者注。),最高裁……平成2年1月18日……民集44巻1号1頁(※行訴百選Ⅰ【8版】49事件。執筆者注。)参照)」とし、効果裁量に関する著名判例である神戸税関事件を引用しています。法廷意見は効果裁量の問題であることを明示はしていないところ、林道晴補足意見は神戸税関事件を引用した平成24年判例を引用することで本件が効果裁量の問題であることを明確にしているといえるでしょう。
渡辺惠理子補足意見は「緊急銃猟の場合の地方自治体による損害賠償も財産的損害に限られることなど、中長期的に制度設計の抜本的見直しの必要性があることは広く指摘されているとおりであるが、私は、以上のとおり、緊急銃猟の場合を含め、個別具体的な事件において、公益性とそれによって生じた危険を比例原則によって調整するなどの途を探らない限り、労多くして功少ない(それどころか多大なリスクにさらされる)銃猟による駆除の担い手が将来的には存在しなくなることを懸念する。」とも指摘し、熊の駆除の担い手に対する配慮が必要であることも指摘しています。
本判例をきっかけとして、害獣駆除に関する法令や制度の整備がなされることを期待します。絶望的な無理解としか言いようのない原判決(札幌高裁令和6年10月18日令和4年(行コ)第1号:判例秘書L07920384)に対し、果敢に挑み最高裁で見事な破棄自判の完全勝訴を獲得した弁護団の皆様には心から尊敬の念を抱きます。

