最高裁令和8年4月7日令和6(あ)1479(各廃棄物の処理及び清掃に関する法律違反被告事件・公訴棄却の決定に関する刑訴法339条1項4号等)
本判例は、
① 破産手続開始の決定を受けた株式会社を被告人とする刑事事件が係属している場合における破産手続の終了と刑訴法339条1項4号にいう「被告人たる法人が存続しなくなつたとき」
② 破産手続開始の決定を受けた株式会社を被告人とする刑事事件に係る訴訟手続についての破産手続開始当時の取締役の代表権の有無
③ 破産手続開始の決定を受けた株式会社を被告人とする刑事事件が係属している場合における破産手続の終了と当該刑事事件に係る訴訟手続についての取締役の代表権の消長
④ 汚水を下水道に放流する行為が下水道法(令和3年法律第31号による改正前のもの)の罰則の対象となり得ることと廃棄物の処理及び清掃に関する法律(令和4年法律第68号による改正前のもの)16条違反の罪の成否
に関し、それぞれ判断したものです。
判例を引用します。
https://www.courts.go.jp/hanrei/95816/detail2/index.html
「1 被告人甲株式会社(以下「被告会社」という。)の弁護人大平雄介の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論に鑑み、職権で判断する。
⑴ 原判決が是認する第1審判決の認定及び記録によれば、次の事実が認められる。
被告会社は、令和2年5月21日、破産手続開始の決定を受け、破産管財人が選任されていたところ、同年9月29日及び同年12月8日、本件で起訴された。被告会社の破産手続は、令和3年4月21日、破産手続終結の決定により終了した。第1審裁判所は、前記破産手続終結の決定の前後を通じて、破産手続開始当時の代表取締役であったA(以下「A」という。)を被告会社の代表者として審理し、令和5年7月11日、有罪の判決をした。これに対し、被告会社が控訴を申し立てた。原審裁判所は、Aを被告会社の代表者として審理し、令和6年10月17日、控訴棄却の判決をした。
⑵ 所論は、被告会社は破産手続終結の決定により存続しなくなったのに、第1審裁判所が不法に公訴棄却の決定をしなかったのであるから、原審裁判所としては、公訴棄却の決定をすべきであったと主張する。
そこで検討すると、破産手続開始の決定を受けた株式会社(以下「破産会社」という。)を被告人とする刑事事件が係属している場合には、破産手続が終了したとしても、現務が結了していないから、当該会社は、当該刑事事件が終結するまでは、清算株式会社として存続するというべきである。そうすると、破産会社を被告人とする刑事事件が係属している場合には、破産手続が終了したとしても、刑訴法339条1項4号にいう「被告人たる法人が存続しなくなつたとき」に当たらないと解するのが相当である。したがって、本件は公訴棄却の決定をすべき場合に当たらず、所論は理由がない。
⑶ 所論は、破産手続開始当時に被告会社の代表取締役であったAは、破産手続開始により取締役の地位を当然に喪失し、清算人となることもないから、Aを被告会社の代表者として関与させた第1審の訴訟手続を是認した原判決及びAを被告会社の代表者として関与させた原審の訴訟手続に法令違反があると主張する。
しかしながら、破産手続開始当時の取締役は、破産手続開始によりその地位を当然には失わないというべきである(最高裁平成12年(受)第56号同16年6月10日第一小法廷判決・民集58巻5号1178頁、最高裁平成20年(受)第951号同21年4月17日第二小法廷判決・裁判集民事230号395頁参照)。そして、破産会社を被告人とする刑事事件に係る訴訟手続について破産会社を代表することは、破産管財人の権限に属するものとはいえない。そうすると、破産手続開始当時の会社を代表する権限を有する取締役は、破産手続開始によりその地位を当然には失わず、破産手続が終了するまでの間、破産会社を被告人とする刑事事件に係る訴訟手続について破産会社を代表すると解すべきである。また、破産会社を被告人とする刑事事件が係属している場合において、破産手続が終了したときは、前記⑵のとおり、当該会社は、当該刑事事件が終結するまで、清算株式会社として存続するところ、会社法478条1項1号において取締役が清算人となるとされていることに鑑みると、破産会社を被告人とする刑事事件に係る訴訟手続について破産会社を代表する取締役は、同項2号又は3号に掲げる者がある場合を除き、破産手続の終了後は、当該刑事事件に係る訴訟手続について清算人の立場で当該会社を代表すると解すべきである。
したがって、以上と同旨の解釈に基づき、本件において破産手続開始当時に被告会社の代表取締役であったAを被告会社の代表者として関与させた第1審の訴訟手続を是認した原判決及びAを被告会社の代表者として関与させた原審の訴訟手続に法令違反はない。
2 被告人乙(以下「被告人乙」という。)の弁護人小松圭介及び同彦坂幸伸の上告趣意は、憲法違反をいう点を含め、実質は単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論に鑑み、職権で判断する。
⑴ 第1審判決判示第1の犯罪事実の要旨は、「被告人乙は、被告会社の業務に関し、その従業員らと共謀の上、平成28年1月頃から令和元年8月頃までの間、被告会社の設置する産業廃棄物中間処理施設において、みだりに、同施設から公共下水道内に廃棄物である汚泥及び汚水合計約3万6800トンを放流させ、もってみだりに廃棄物を捨てた。」というものである。
⑵ 所論は、下水道法(令和3年法律第31号による改正前のもの。以下同じ。)の規定は、廃棄物の処理及び清掃に関する法律(令和4年法律第68号による改正前のもの。以下同じ。)の規定の特別規定であり、同法の適用を排除する趣旨のものであるから、下水道に汚水を放流する行為について、同法16条違反の罪(以下「不法投棄罪」という。)は成立しないと主張する。
⑶ 廃棄物の処理及び清掃に関する法律は、廃棄物の適正な処理をすること等により生活環境の保全及び公衆衛生の向上を図ることを目的とし(1条)、何人に対してもみだりに廃棄物を捨てることを禁止しており、廃棄物の種類や投棄場所による限定もしていない(16条)。その罰則は、生活環境に深刻な影響を及ぼす不法投棄が横行し、その解決が強く求められたことから、累次にわたり強化され、5年以下の懲役若しくは1000万円以下の罰金又はこれの併科(法人の場合は3億円以下の罰金)という重い法定刑が定められている(25条1項14号、32条1項1号)。そうすると、不法投棄罪は、みだりに廃棄物を捨てる行為全般を、社会的に許容されない行為として重く処罰する趣旨のものであると解される。
一方、下水道法は、下水道の整備を図り、もって都市の健全な発達及び公衆衛生の向上に寄与し、公共用水域の水質の保全に資する(1条)という見地から、下水の水質等について具体的な規制を定め、特定事業場から基準に適合しない下水を排除する行為を6月以下の懲役又は50万円以下の罰金に処すること(12条の2第1項、46条1項1号)、下水道管理者の命令に違反する行為を1年以下の懲役又は100万円以下の罰金に処すること(38条1項1号、45条)等の罰則を設けている。これらの罰則は、同法の規制の実効性を確保するため、必要な限度で定められているものといえる。
以上によれば、不法投棄罪と下水道法の罰則とでは、構成要件、法定刑等が大きく異なり、規定の趣旨、目的も異なると考えられ、下水道法の罰則は、不法投棄罪の特別規定ではなく、同罪の適用を排除する趣旨のものでもないと解される。そうすると、汚水を下水道に放流する行為が、下水道法によって基準に適合しない下水の排除として規制され、同法の罰則の対象となり得るとしても、同行為がみだりに廃棄物を捨てたものと認められる場合には、不法投棄罪が成立するというべきである。したがって、不法投棄罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判決は相当である。
3 よって、被告会社につき、刑訴法414条、386条1項3号、181条1項ただし書により、被告人乙につき、同法414条、386条1項3号により、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。」
本判例は①について、「破産手続開始の決定を受けた株式会社(以下「破産会社」という。)を被告人とする刑事事件が係属している場合には、破産手続が終了したとしても、現務が結了していないから、当該会社は、当該刑事事件が終結するまでは、清算株式会社として存続するというべきである。そうすると、破産会社を被告人とする刑事事件が係属している場合には、破産手続が終了したとしても、刑訴法339条1項4号にいう「被告人たる法人が存続しなくなつたとき」に当たらない」と判断しました。
②について、「破産手続開始当時の会社を代表する権限を有する取締役は、破産手続開始によりその地位を当然には失わず、破産手続が終了するまでの間、破産会社を被告人とする刑事事件に係る訴訟手続について破産会社を代表する」と判断しました。
③について、「破産会社を被告人とする刑事事件に係る訴訟手続について破産会社を代表する取締役は、同項2号又は3号に掲げる者がある場合を除き、破産手続の終了後は、当該刑事事件に係る訴訟手続について清算人の立場で当該会社を代表する」と判断しました。
④について、「汚水を下水道に放流する行為が、下水道法によって基準に適合しない下水の排除として規制され、同法の罰則の対象となり得るとしても、同行為がみだりに廃棄物を捨てたものと認められる場合には、不法投棄罪が成立する」と判断しました。
①に関して判断した先例として、最高裁昭和29年11月18日刑集8巻1号1850頁があります(以下「昭和29年判例」といいます。)。昭和29年判例は、「「被告人たる法人が存続しなくなつたとき」とは、法人が全ての関係において終局的に存続しなかったときをいうのであり、法人が解散して会社法645条により清算の目的の範囲内においてなお存続するものとみなされる場合にはこれに該当しない」(令和8年度版判例六法1995頁・刑訴法339条の6つ目の判例)としています。
本判例はこの判例に関するものとして先例的価値を有するかと思われます。

