最高裁令和7年8月14日令和7(し)672について(接見等禁止の裁判に対する準抗告棄却決定に対する特別抗告事件)

 検察官が接見等禁止の請求を松山地裁の裁判官に求めたところ、同裁判官は接見等禁止決定をしました(刑訴法81条)。弁護人はそれを不服として準抗告を同地裁に申し立てました(刑訴法429条1項2号前段)。準抗告は棄却されました(刑訴法432条、426条1項)。弁護側は特別抗告(刑訴法433条1項)をしたところ、最高裁は原決定である準抗告審を破棄し(刑訴法411条、434条、426条2項)、本件を松山地裁に差し戻しました(刑訴法413条本文)。

 判例を引用します。

https://www.courts.go.jp/hanrei/94427/detail2/index.html

「本件抗告の趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反の主張であって、刑訴法433条の抗告理由に当たらない。

 所論に鑑み、職権で判断する。

 本件被疑事実の要旨は、「被疑者は、正当な理由がないのに、令和7年5月9日午後7時28分頃から同日午後7時33分頃までの間、ひそかに、愛媛県西予市内のアパートに居住する女性に対し、同アパートの浴室窓から携帯電話機を浴室内に向けて差し入れ、同人の性的な部位等を撮影しようとしたが、同人に気付かれたためその目的を遂げなかった」というものである。

 被疑者は、令和7年8月1日に勾留され、原々審は、同日、検察官の請求により、被疑者と弁護人又は弁護人となろうとする者等以外の者との接見等を禁止する旨の裁判をした。これに対し、弁護人が本件準抗告を申し立てた。

 原決定は、本件被疑事実の性質、内容、被疑者の供述状況及び供述内容からすれば、被疑者が、罪体や重要な情状事実について、関係者と通謀するなどして罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由があり、これを防止するためには、刑訴法39条1項に規定する者以外の者との接見等を禁止する必要があると認められるから、 被疑者の母を含めて接見等を禁止した原々裁判の判断は正当であるとして、本件準抗告を棄却した。

 しかしながら、本件は、事案の性質、内容をみる限り、被疑者が被疑事実を否認しているとしても、勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれがあるとはうかがわれない事案であるから、原審は、原々裁判が不合理でないかどうかを審査するに当たり、被疑者が接見等により実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがあることを基礎付ける具体的事情が一件記録上認められるかどうかを調査し、原々裁判を是認する場合には、そのような事情があることを指摘する必要があったというべきである。 そうすると、そのような事情があることを何ら指摘することなく原々裁判を是認した原決定には、刑訴法81条、426条の解釈適用を誤った違法があり、これが決定に影響を及ぼし、原決定を取り消さなければ著しく正義に反すると認められる。

 よって、刑訴法411条1号を準用して原決定を取り消した上、同法434条、426条2項により、本件を松山地方裁判所に差し戻すこととし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり決定する。」

 本決定は、接見等禁止決定(以下「接見禁止」といいます。)に関する事例判断です。「接見禁止の制度は、被告人又は被疑者が勾留されていることを前提とし、勾留だけでは賄いきれない逃亡又は罪証隠滅を防止するためのものであるから、本条(※刑訴法81条。執筆者注。)にいう逃亡又は罪証隠滅のおそれは、勾留だけでは賄いきれない逃亡又は罪証隠滅のおそれを指すもの」と解されています。実務上行われている接見禁止は、ほとんど罪証隠滅のおそれを理由とするものです。罪証隠滅のおそれのある場合としては、組織的犯罪に加わった場合などが典型例です(以上につき、「大コンメンタール刑事訴訟法〔第三版〕第2巻」125頁以下参照)。

 この点に関する裁判例として、大阪地裁昭和34年2月17日大阪地方裁判所決定昭和34年(む)第89号(判例秘書:L01450072)があります。同決定は、「同法(※刑訴法。執筆者注。)81条にいわゆる接見禁止の裁判は、被疑者を勾留していてもなお逃亡し又は罪証を隠滅すると疑うに足りる相当な理由がある場合に、同法第80条の例外的措置としてなされるものであり、しかもそれが被疑者に対する重大な心理的苦痛をももたらすものである点に鑑み、極めて慎重に、最小限度の運用にとどめるべきことはいうまでもない。従つて接見禁止の裁判の後において、具体的場合に応じその一部を解除し、弁護人等以外の特定人との接見を許可することを妨げないのはもとより、進んで当初から特定の者との間においては接見を許しても罪証隠滅等の虞れがないと認められる場合には、必ずしも弁護人等以外のすべての者について接見を禁止することなく、当該特定人については接見禁止からこれを除外し、或いは更に一歩進めて一部の者との接見のみを禁止するものであつても何ら同法第81条の趣旨に反することなく、むしろ適切妥当な措置」であると述べています。実務の運用の大勢はこうした考えで行われているとされています(「大コンメンタール刑事訴訟法〔第三版〕第2巻127頁」以下参照)。このように、接見禁止の裁判は厳格な要件のもと、慎重になされているとされています。

 本決定は、「本件は、事案の性質、内容をみる限り、被疑者が被疑事実を否認しているとしても、勾留に加えて接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれがあるとはうかがわれない事案であるから、原審は、原々裁判が不合理でないかどうかを審査するに当たり、被疑者が接見等により実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがあることを基礎付ける具体的事情が一件記録上認められるかどうかを調査し、原々裁判を是認する場合には、そのような事情があることを指摘する必要があったというべきである。」としています。原々裁判も原審である準抗告審も接見禁止は「極めて慎重に、最小限度の運用にとどめるべき」(前記大阪地裁決定)という実務の本来あるべき運用を忘れていたところ、最高裁は実務の本来あるべき運用を再確認し安直な接見禁止の裁判がなされている現状を戒めたものということができると思います。

 なお、接見禁止に関する近時の判例としては、最高裁平成31年3月13日判タ1462号33頁・重要判例解説令和元年刑訴3事件があります(以下「平成31年決定といいます。)。

https://www.courts.go.jp/hanrei/88525/detail2/index.html

 「親子間の傷害致死の事案について、第1回公判期日終了まで接見等を禁止する旨の裁判は、公判前整理手続の進行に伴い罪証隠滅の対象や具体的なおそれの有無・程度が変動し得るにもかかわらず接見等禁止を長期間継続させかねないから、その当否は同手続の経過等を考慮して判断すべきところ、主な争点が責任能力の有無・程度に絞られ、弁護人が責任能力の鑑定を依頼した医師については特段の事情のない限り被告人が接見等により実効的な罪証隠滅に及ぶ現実的なおそれがあるとはいえずかえって公判に向けた準備を行う必要性が高いこと、被告人以外の妹ら他の関係者についても接見等を禁止すべき程度の罪証隠滅のおそれの有無に関し原決定が具体的に検討した形跡が見当たらないことに照らすと、主位的に接見等禁止決定の取消しと請求却下を、予備的に……医師及び妹について禁止対象からの除外を求める弁護人の準抗告を棄却した原決定には、本条(※刑訴法81条。執筆者注。)の解釈を誤った違法がある。」(令和8年度版判例六法1880頁から1881頁まで。刑訴法81条に関する1つ目の判例。)」

 平成31年決定は安直な接見禁止の裁判は安直な接見禁止の裁判がなされている現状に対し、最高裁が警鐘を鳴らしたものとされますが、それから約7年経過した現在においても最高裁が安直な接見禁止の裁判の運用を戒めなければならない現状は非常に問題があります。

 弁護士としては安直な接見禁止の裁判に対しては断固として闘っていく必要があります。